第二巻     

　　幽鬼の訴状

　　河南祥符県はもっとも繁劇で、およそ各州県が院司[1]に報告する案件は、覆審[2]のものがあり、処理を委ねることが多かった。みずから訴訟を処理する場合は、かならず受け取るが、審理はいつになるか知れず[3]、かえって遅延を招いていた。

　　令尹[4]の鮑公は、裁判に務めていた。ある晩、訴状若干を受けとり、じっくり閲しないうちに、すぐ幕友に渡して処理するように指示した。翌日、幕友が公に尋ねて言った。「某所の人命事件を、調べにゆけましょうか。」公は言った。「報告を見ていない。そんなことがあるはずがない。」訴状を求めて見れば、実の夫を謀殺した訴状であった。中には姦夫の姓名を載せてあり、みずからを瞽某といい、某所で殺されたと称していたが、指折り数えると、十六年を隔てていた。公は愕然として言った。「十六年懸案となっているとは、たいへん怪しい。」そこでそれぞれの訴状にはすべて指示を書いてやったが、その訴状だけは抑えて処置しなかった[5]。

　　収呈の日[6]、ふたたびみずから点呼して当事者を法廷に呼んだが、盲目のものはいなかった。晚に査閲すると、前の盲目のものの訴状がまた中にあった。公は書吏に尋ねた。「おまえたちは劉順を知っているか。」ある人が答えた。「はい。その人は現在、臬司の料理人になっています。」公が臬司に赴いて下手人を捕らえることを請い、臬司が公にいっしょに訊問させたところ、供述して隠さなかった。

　　それより前のこと、劉順はもともと無頼で、城外の河口で人を担いで河を渡ることを生業としていた。おりしも盲目のものが夫妻でともに歩いていたが、かれの妻が美しいのを見、悪念を萌し、背負って渡るときにすぐ戯れて言った。「奥さんが盲目の人に嫁ぐのは、一生の長計ではございません。わたしをお嫌でなければ、ともに白髪頭となることを願います。」その妻は心が動き、ともに盲目のものを欺いて樹間に憩わせ、纏足布を解いて絞め殺し、穴を掘って埋め、夫婦となった。飢饉を逃れるものと偽り、外県にゆき、佃戸として豪族の家に雇われ、調理を学び、たくさん貯蓄した。そして妻を連れて汴城に入り、臬司の料理人となったのであった。

　　公は事実を調べ、すぐいって掘って検分すると、屍は朽ちておらず、傷痕はそのままであった。そこで、劉夫婦はいずれも誅に服した。

　　狐を祓う四字

　　周公世僎[7]が虞城[8]の知事であった時、耿家荘[9]の劉化民の家が狐に煩わされ、あれこれ祓ったが効果がなかったので、公に訴え、文書を城隍に転送してもらおうとした。公がその要請に従うと、狐は空中で怒鳴った。「おまえが城隍に求めても、城隍はわたしをどうしようもあるまい。」祟りはますます激しくなった。公が神さえ抑えられないのだから、力になるのはたいへん難しいというと、その友沈松涛[10]は言った。「わたしが息県[11]にいた時、豪族某の子は結婚したばかりだったが、父は厳しく、子が新婦を慕うことを恐れ、師に従って遠くで勉強するように促し、さらに督責して言った。『ゆえなく勝手に帰ってくるな。』その子は新婚ほやほやだったから、妄想することを免れなかった。ある日、ひとり書斎に坐していると、塀を隔てて美しい人が半身を現し、秋波を送り、挑むと、かすかに笑って下りてきた。几梯を移して接しようとすると、さらに塀の上に金の鎧の神が立ち、手に紅い旗二桿を持ち、一つは「右戸」と書き、一つは「右夜」と書き、女に向かって翻した。すると女は杳然として消えた。今、四字を紙に書いてみ、試したらどうだろう。」そこで黄色の紙二枚を裁ち、朱砂を研いで書き、劉に持ち帰らせて戸や窓に貼らせた。その夜、狐が来ると、ほんとうに後ずさりして言った。「戸夜神[12]がここにいるから、今はひとまずあなたに譲り、三年後、さらに来よう。」それから寂然とした。周はすぐ登ってゆき、その後どうなったか分からなかった。

　　その時に幕僚の蒋生はこの事情を知り、紹興の桂林庵に三人の尼がいてやはり妖(あやかし)に纏われていることを聞き、蒋は朱砂で決まりどおり「右戸」、「右夜」の四字を書くことを教え、その楼に貼らせた。窓は風がないのにひとりでに開き、楼上の狐は一晩這って隠れたが、音は鉄の鎧のようで、朝になるとはじめて収まり、狐はすべて逃れ去った。

　　按ずるに四字は平凡であり、何の典籍に出ているか、狐をこのように調伏できるのか分からないので、記した。

　　女の幽鬼が財を守って婿を待つこと

　　安陽県の楊某は、旅館を開き、娘が湯陰県の�ｹ某に嫁いでいたが、行商して家は貧しかった。楊の妻杜氏はつねに金品を援助していた。楊は銀数十両を貯えて、箱の中に閉ざしていたので、妻はすこしばかり盗んで婿に与え、旅費にさせることを考えていたが、隙がなかった。

　　ある日、隣人が楊を招いて酒を飲むことになったので、妻は夫が外出すると、箱を開き、つぎつぎに幾つかの鍵を試したところ、錠前はやっと開いた。金を取り出すとすぐ、楊がにわかに帰ってきたことが伝えられた。妻は倉卒に金を懐中に収め、箱を閉ざし、鍵を掛けて起きあがった。しかし金は手にあり、隠すところがなかったので、裏庭にいって土中に埋めた。楊が夜に箱を開けると、金が見えなかったので、妻に盗まれたことを悟り、間男に送ったかと疑い、さんざん罵った。妻はたいへん怒り、夫がよく眠るのを待って縊死した。死後、幽鬼はつねに祟った。楊はその家に安んじられなかったので、家を売って遠くへ移った。

　　これより前、妻が死ぬ前、�ｹはすでに妻を連れて湖北にゆき、その叔父に頼っていた。叔父は醤油屋を業とし、六旬(むそじ)あまりで子がいなかったが、おいに会うとたいへん喜び、自分の子と認め、それから�ｹ夫婦は身が楽土に登っていた。数年後、楊の娘はその父母を思い、夫に探しにゆくように願った。�ｹが旅装を整えてゆけば、旧宅は依然としてあり、主人が中にいた。日はすでに暮れており、�ｹは歩き疲れていたので、その家に泊まろうとした。主人は断って言った。「客室はすでにいっぱいで、泊まるところはございません。後堂の二間には、幽鬼がおり、旅人に祟れると言い伝えられており、今でも閉ざされ、泊まる人はいません。」�ｹは言った。「この家はもともとわたしの妻の実家[13]で、わたしがよく遊んだ所で、幽鬼はいません。たとい幽鬼がいても、一晩休むだけなら、障りないでしょう。」主人は従い、燈を移して戸を開き、牀を設けて塵を払い、�ｹは布団を敷き、屨を脱ぎ、服を着たまま休息した。

　　夜が半ばになろうとすると、堂の西の隅で嚶嚶[14]と泣く声が聞こえ、いそいで起きて見ると、一人の娘の幽鬼がざんばら髪に垢じみた顔で、身を傾けて突進してきた。�ｹは裸足でいそいで逃げ、さいわい堂内に一つの方几[15]が設けられており、それによって身を遮り、幽鬼が東なら人は西、幽鬼が南なら人は北、たいへん驚いて叫ぼうとしたが、口からは声を出せなかった。見ると庭に月は明るく、昼のようであったので、走って月光の中に立った。幽鬼は追ってきたが、手を出そうとせず、両目で耽眈と注視するだけであった。月が一寸移れば、人は一寸退いて立ち、幽鬼は一寸近づいた。月が一尺移れば、人は一尺退いて立ち、幽鬼は一尺近づいた。月が庭の塀に登ると、�ｹは塀を背にして立った。

　　まもなく、月が膝に移ってゆくと、幽鬼は蹲んでその足を引きにきた。�ｹは嘆いて言った。「わたしがここで死のうとは思わなかった。」幽鬼はその言葉を聞くとすぐに手を放して言った。「おまえは誰だ。」「わたしは湯陰の�ｹ某だ。」幽鬼は言った。「わたしの婿だ。どうしてはやく言わなかった。あやまっておまえを殺すところだった。」そこで、死んだ理由と金を埋めた場所を告げ、言った。「空が明けず、気づく人がいないうちに、はやく金を取って去れ。わたしが祟っていたのは、この財を守っておまえを待っていたからだ。今日、思いはすでに遂げたから、わたしもこれ以上祟らない。」ふたたび堂の西の隅に赴いて消えた。�ｹがいって地を掘ると、ほんとうに金が見つかった。持って帰り、ますます運用すると、家はやや豊かになった。

　　僵屍(キョンシ)が人の血を食らうこと

　　呉江の劉秀才某は、元和県[16]の蒋家で生徒を教え、清明の時、休暇で帰って墓参し、事が終わると、さらに勉強を教えようとし、妻に言った。「わたしは明日某所にいって友を訪ね、その後、船に乗って閶門[17]にゆくから、おまえははやく起きて飯を炊け。」婦は言われた通りにし、鶏が鳴くと起きて料理した。劉は城外に住み、その家は、山を背にし、河に面し、婦は米を川で洗い、菜を畑で摘み、あらゆるものをすべて調えたが、空が明るくなっても夫は起きなかった。部屋に入って促し、しきりに呼んだが返事しなかったので、帳を掲げて見ると、その夫は牀に横臥しており、頚の上には頭がなかったが、血の痕はなかった。たいへん驚き、隣人を呼んで見にこさせた。人々は妻に間男がいて夫を殺したかと疑い、お上に訴えた。お上はいって調べると、ひとまず納棺するように命じ、妻を捕らえて拷問したが、結局事実は分からず、妻を獄中に置き、月を重ねても決着しなかった。

　　後に隣人は山に登って柴刈りし、見ると荒れた塚の中に棺があって露出しており、棺はしっかりしており、棺蓋がかすかに開いていたので、人に盗掘されたかと疑った。人々を呼んで開かせてみると、屍は面色が生きているかのようで、全身は白い毛で、両手に人の首を一つ抱えていた。じっくり見ると、劉秀才であると知れたので、お上に訴えて屍を調べさせた。官は命じて首を取らせ、首は屍の手にしっかり捧げられ、数人の力では、引き離せなかった。官が斧で僵屍(キョンシ)の臂を切るように命じると、鮮血は淋漓としていたが、劉某の頭はむしろ血がなく、そもそもすべて僵屍(キョンシ)に吸われていたのであった。官はその屍を焼くように命じ、妻を獄から出し、事件は結着した。

　　鼠鬼

　　漢陽の崔某は、家がもともと豊かであったが、雲南知県に選ばれ、家族を連れて赴任することとなり、一人の老僕を留めて門番させ、広間の奥は、すべて封印して去った。数年後、官を辞めて帰郷し、住んでわずか数日で、家人は仏楼[18]の上で毎夜怪しいことがあると告げた。崔はもともと大胆で、牀を移して楼の下に泊まり、その怪異を窺おうと思った。

　　初更になり、燭を消して枕に就くと、すぐに楼上で案を打つ音、椅子を打つ音、楼を巡り歩く音、さらに官吏が門を出る時に�p隷が板子[19]を引く音のようであった。まもなく、だんだん楼を下りてきたが、梯一段を下れば、やはり椎で梯板を打つ音のようであった。崔がたいへん驚き、牀を打って大声で叫ぶと、人がふたたび椎を引いて楼に登ってゆく音のようであった。家人はすべて集まり、火を持って楼に登って照らすと、空しくて一物もなく、ますます妖怪でなければ幽鬼だと信じた。巫覡を招いて祈ったが霊力はなく、一県は崔家に幽鬼がいることを喧伝した。

　　崔は梨園の一団を養っていた。中に大胆なものが数人おり、幽鬼の様子を一見しようと思い、夜に入って顔を塗り、服を換え、一人は伏魔帝君[20]に扮して、一人は周将軍に扮して侍立し、燭を燃やして待っていた。すると突然、一匹の鼠が神龕の頂から走り降りてきたが、尾は大きさが木槌ほど、二人はいそいで降りると追って捕らえた。鼠は尾が大きかったので、身が重く、まもなく縛られた。じっくりその尾を見ると、灰塵が凝結し、重さは数斤ほどであったが、そのわけは分からなかった。崔ははっと悟って言った。「昔この鼠は燈油を盗んで食らっていたので、わたしはかれの後ろに隠れてかれの尾を捕らえると、鼠はむりに走って逃れ去り、尾の皮はすべて剥がれ、膏血で濡れて灰塵を包み、月日を重ね、このありさまとなり、地を引いて音をたてたのだ。数か月祈って紛紜とし、むなしく幽鬼を見ることを笑った。」

　　鱉精

　　呉県の孫香泉の娘は、同県の某生に嫁いだ。女はたまたま鱉を食らって奇病を得た。喜べば艶やかな服を着け、さんざん笑ったり舞ったりした。怒れば盆を抛ち、碗を抛ち、薄情ものと罵った。ある時は二三日食らわず、ある時は一食で数人の膳を兼ねられたが、日に日に痩せ衰えた。

　　娘は祖母に寵愛せられていたので、迎えられて帰り、養生したが、お祓いや医薬は験がなかった。数日たつと、病はかならず収まり、収まる時はまさに平時のようであった。家人が病状を尋ねると、女は言った。「はじめ一人の�p巾緑袍の人がわたしの顔に息を噴き、すぐに体が利かなくなりました。一切の言語挙動は、すべて緑袍の人がしたことです。」「食が数人を兼ねるのはどうしてか。」「わたしが食らっているのではありません。一人の紺衣の人と二人の黒衣の人が緑衣の人に食を求めますので、わたしの飲食を借りてもてなしているのです。緑衣の人は去るに臨み、かならずその頚をながく伸ばし、舌で三たび嘗め、足は三たび跳ねますが、どうしてか分かりません。」

　　時に香泉は河南の畢中丞[21]の幕中で客となり、家は飛脚を遣わし、女の病を告げた。孫はすぐ旅装を調えて帰り、女を連れて元妙観[22]の蓑衣真人殿[23]に避けたが、祟りは相変わらずであった。孫は女を船に載せて遠出すれば、避けられるかもしれないと思い、船を雇って揚州にゆこうとした。無錫の顧晴沙[24]観察[25]が孫と親しく、その事を聞くと、家に迎えていったが、あやかしもついていった。観察は威儀を正して厳しく論じ、正理で圧服することを願った。女は耳を掩って言った。「陳腐な迂儒の言葉で、わたしの耳を汚すな。」そこで口から一つの小さな銀錠、小さな真珠数粒を吐いて観察に示した。「これは緑袍の人からわたしへの結納品です。月望[26]にきて娶ることを約したのです。」孫は娘が怪(あやかし)に祟り殺されることを恐れ、いそいで娘とともに纜を解いてすぐに出発した。

　　鎮江に着こうとすると、女は突然言った。「かれは揚州にゆけば、わたしたちは江神の奇老爺を恐れ、江を渡れませんが、どうしましょうか。」徐は言った。「わたしは計略があり、どうしても望日を待つ必要はなく、今すぐに娶れよう。」女は帰るとすぐ仰臥して叫び、腹が痛んで死にそうになった。孫は女がすぐ死ぬことを恐れ、かれが棹を返して帰郷することを許し、女は腹の痛みがにわかに止んだ。望日になると、家人はびくびくし、娘に不測があることを恐れたが、娘はもとより恙なかった。

　　孫は手紙を畢中丞に致し、畢中丞は龍虎山[27]の張真人[28]にあやかしを除くことを代わりに要請してやった。真人は手紙を得ると、鄒法官をゆかせた。壇を設けて法術を施すこと三昼夜で女は病が癒えた。孫は尋ねた。「何のあやかしだ。」法官は言った。「緑袍は鱉、紺衣は蝦、黒衣は亀で、巣窟は石湖[29]の湖心亭の下にございます。あなたの婿どののお家はかれの子孫を殺すことがたいへん多うございましたので、その仲間を率いて復讐しにきたのでございます。たまたま六丁[30]を遣わしてすべてすでに捕らえてゆけば、あなたの娘に憂えはなかろう。」按ずるに江神は奇相[31]といい、『博物志』に見える[32]。

　　雷異

　　金壇[33]の瓜渚[34]に某というものがおり、その子は幼い時に某姓と婚約していた[35]。まもなく某は亡くなり、妻は誓いを立てて遺児を育てたが、しばしば飢饉に遭った。子は長ずると、婚礼を行えなかったので、媒妁に頼んで結婚を断り、ほかに婿を選ばせることにした。某夫婦が娘に尋ねると、娘は志が堅くて変わらなかったので、媒妁は復命し、母子はなすすべがなかった。

　　しばらくして、母はその子を呼んで言った。「わたしは十数年来、飢えと寒さに迫られ、他念を萌さなかったのは、おまえが家庭を持ち、お父さまのために血脈を延ばすことを望んでいたのだ。煢煢として二人きりになれば、百年でも何がよかろう。わたしは昨日すでに某姓に再婚し、お金を××得ておまえのために嫁を娶り、××で宿債を償うことを相談した。今、お金はともに枕元にあるから、診てごらん。」子は黙って一言も発せなかった。母は泣きながら言った。「はやく媒妁のところにいってお言い。わたしは坐しておまえたち夫婦が挨拶するのを待ってから去ろう。」子は泣いて答えなかったが、母が再三促したので、いった。時に近くの賭場では悪者たちがこっそり聴いており、某の子が夜に外出したのに乗じ、壁に穴を開けて金を盗み去った。母は朝起きると金がなかったので、自縊した。

　　夜が明けると、子は媒妁とともに来たが、戸を開けても母が見えなかったので、怪しみ、媒妁を客舎[36]に坐らせて自分は中に入ったが、母がすでに死んでいるのを見ると、たいへん悲しんでやはり縊れた。媒妁はかれがひさしく出てこないことを怪しみ、呼んだが答えるものはなく、その寝所を窺えば、母子ともに梁に懸かって死んでいたので、たいへん驚いて叫んだ。隣人たちはすべて集まったが、みなそのわけを解さなかった。媒妁が走って女の父母に告げると、娘はそれを聞いてやはり縊れた。おりしも厳冬であったが、天はたちまち暗くなり、雷電がつぎつぎに鳴り、博徒七人を撃ち殺し、某の子、某の娘はとも縄が切れて蘇ったが、某の母だけは救っても目ざめなかった。

　　すぐにその事を聞いたものたちが感嘆して言った。「貞烈節孝、三事[37]が一門に集まっており、一時にみなが死ぬことはその命(さだめ)ではなかったのだ。曲直を論じてやる人がいなかったので、雷が晴らしてやったのも、奇妙であった。男女二人を蘇らせ、結婚させたのに、節母[38]は悠悠として帰らないのに任せたことにいたっては[39]、みずからを損なって他人を全うするゆえんがこのようなのであり、誰が雷が知ることがなかったといおうか。」

　　曹孝廉の夢

　　孝廉の曹君履青[40]は、弱冠の時、冬に病に罹り、苦しみ臥すこと五六日であった。ある日、夢をみて県庁の西[41]の横街[42]にいたところ、後ろでかれの姓名を呼ぶものがいたので、見返ると、知らぬ者で、尋ねると、言った。「府君さまがお招きだ。」「何のご用でございましょう。」「ゆけばおのずと分かろう。」たまたま族伯[43]の用章が来、下役に向かってとりなして[44]言った。「わたしがおいといっしょにゆくのはいかがでしょう。」下役は頷いた。曹は途中で下役に尋ねて言った。「近頃、城隍は楊公でなくなったと聞きましたが、誰が代理してあげているのでしょう。」「東漢の袁公[45]だ。」そして別れて去った。用章は履青を連れてともにいったが、歩みは迅速で、街衢に月光はたいへん明るく、陰気が人をうつことだけを覚え、両脇の家は門戸がともに閉じられ、門楣[46]の上にはそれぞれ紙銭一二串を立てられ、数里の間、見えるものは同じであった。

　　にわかに曠野に達し、はるかに臨むと、高い塀があり、城のようで、真南に両の扉があった。用章が尋ねると、中に人がいて返事した。扉を開いて入り、東の回廊にゆくように命じた。すこし進むと、用章は所在が知れなくなっていた。疲れを覚え、すこし休もうとし、門口を徘徊したところ、部屋の前に十数人がおり、あるいは縄で足を縛り、あるいは縄で頚を縛り、坐したり立ったりさまざまであった。部屋の奥はすべて羊や豚であったので、やむをえず、檻の外に坐した。すると突然、囚人たちが片手を伸ばして戸を出て物を求めるかのようにし、羊や豚たちはともに来て衣を嗅ぎ、足を齧った。曹はたいへん苦しみ恐れたが、傍らで人が叫んだ。「無礼するな。求めるものはすぐ与えられよう。」

　　まもなく、下役が訊問に呼び出し、令状を出して示したので、はじめてはっと前身を悟り、さらに言った。「おんみは親子して人のために証人となったが[47]、その人が裏切ったので、今回は、証人となってもらいにきた。恐れるな。」官署の入り口にゆくと、吏が帳簿を捧げてき、辞色[48]の間に袖の下を求めているかのようであった。前の一人はさらに言った。「ございます。ございます。数日しましたらわたしの家でお取りください。」するとやんだ。突然、短衣跣足の人があらわれ、左右を望むさまは裁判を偵察するもののようであったので、官吏が手を振って怒鳴ると、すぐに避けた。壁の上では黒い煙のようなものが、縷縷として散じて去った。

　　にわかに中で座席について取り調べ、刑具で拷問するのが聞こえ、音はたいへん激しかった。まもなく、人が外に出てきて言った。「法廷にゆくことは必要ない。××は実情を白状した。」中から一人の囚人を引きだしてきた。髪はぼさぼさで額を掩い、片手を胸につけ、片手で背を撫で、みぞおちを縄が貫き、一本で前後の手を縛っていた。疲れてななめに歩いており、捕らえられていた囚人であると思われた。役所の前でそれぞれ散じ、寂として人跡がなく、首を突っ込んで中を窺えば、庁堂三楹、両廊の肩輿[49]牌棍[50]儀仗は、すべて人の世の役所のようであった。数歩進むと、母舅[51]の周子堅がすでにおり、言った。「おまえは証人となりにきたのか。」そして労をねぎらい、そもそも翁[52]はまさに宿世の債権者だったといった。時に翁の仲兄[53]が死んだばかりであったので、言及すると、翁は泫然として言った。「やはりこちらにいる。わたしは会うに忍びない[54]。」

　　話していると、前の吏が来て言った。「戻るようにお願いしてすでに久しいのに、なぜまだこちらに留まっている。」従って役所を出ると、前方に大きな池が見え、塀が四方を囲んでいた。池の中の径は、石ころが続いており、踏むと兀兀[55]と音がした。突然水に落ちると、水は渦巻きのようで、回転はたいへんはやく、心はたいへん慌てた。ふと見ると、岸に蓮燈[56]一万本が閃き輝き、往来して定まらなかった。その進むさまはたいへん速く、燈もだんだん遠くなり、にわかに浅瀬に乗り上げると[57]、一つも見えなくなっていた。見ると、県庁の後ろ[58]の玉帯河のほとりで、月光は西に落ち、譙楼[59]は五鼓[60]を告げていた。助けて岸に登らせ、周翁を送って北門を出させ、自分はふたたび西に向かって帰宅した。豁然として目ざめると、身は牀に臥し、月影を臨み、更鼓の音を聞いたが[61]、すべて夢のようであった。それから病は癒えた。

　　縊鬼が「魄」の字を恐れること

　　�P江[62]に親しい二人の士人がおり、甲は年長で性質は重厚で、乙の妻は甲を伯と呼び、会えば家族のようにしていた。まもなく乙の妻が死に、若く美しいものと再婚すると、甲は嫌疑を避けてゆかず、往来はひさしく疏遠になっていた。

　　ある日、暮雨のなか、避けて茶亭[63]に宿った。そこは乙の家から二里ばかりであったが、ふと見ると乙の前妻が来たので、甲は心が動揺し、顔色が変化した。乙の妻は言った。「伯は恐れないでください。伯にお願いすることがございます。夫が後に娶った者は家事に勤め、よくわたしの子女を育てていますが、今日すこし反目し、縊鬼がそれを知り、首を吊らせようとしました。あの人が死んだら、わたしの家は蕩然[64]とすることでしょう。いってわたしの夫を救ってください。」甲は言った。「わたしは師巫(かんなぎ)でないから、いってもどうして幽鬼を追い払えよう。あなたは冥土にいるのに、禁じられないのか。」乙の妻は言った。「凶悪の気でございますから、わたしはどうして敵しようとしましょう。伯がゆかれるべきでございます。」甲はやむをえずついていった。

　　門にゆくと、門はすでに閉ざされていた。乙の妻はすでに傍らの隙から入って戸を開き、いつのまにか燈を燃やし、一脚の椅子を中庭に移してくると、甲に告げて言った。「伯はこちらに坐していてください。麗人が来て道を借りようとしますが、かれこそが縊鬼です。かたく坐して動かなければ、かれはみずから進もうとしません。わたしは座の後ろで見ておりましょう。」まもなく、ほんとうに一人の娘が手に紅い帕を持ち、笑みを浮かべてやんわり言った。「用事があって進もうとしておりますのに、どうしてすこしも退いてくださりませぬ。」甲が答えないでいると、女は退いた。乙の妻は言った。「かれは去ってまた来ましょう。来るときは姿がたいへん醜くなりますが、伯は恐れないでください。」まもなく女は言った。「どうして避けない。」甲はなお相手にしなかった。女はたちまちざんばら髪で血を噴いてにわかに甲の前にゆき、甲が声を荒げて怒鳴ると、幽鬼も消えた。乙の妻は言った。「惜しいことです。伯は叫ばずに、ただ左手の両指で『魄』の字を書き、地に入るように指示すれば、かれは入ったきり、出られなかったことでしょう。今しばらく消えても、かれはかならずひそかにわたしの家にゆきましょうから、伯はいそいでわたしの夫の寝所の戸を叩いてください。」

　　甲が言われた通りにすると、乙は夢の中でかれの声を聞き分け、言った。「どうして夜にこちらに来た。」「わたしのことは尋ねるな。奥さんはどこにいるのだ。」乙は牀を巡って撫でたが見えなかったので、いそいで門を開いて甲を呼び入れた。照らすと、牀の後ろにぶらさがっていたので、いっしょにかれが縊れているのを解き、湯を注ぐと、ゆっくりと蘇った。乙の妻に尋ねた。「何を苦にして自殺しようとした。」妻は言った。「まったく分かりません。ぼんやりとして婦人がわたしを迎えて園内にゆき、しばらく遊覧していましたら、丸い窓のようなものがあり、わたしに首を伸ばさせて望ませました。頭を窓に入れますと、出せませんでした。」甲はそこでくわしく見たことを言って、乙の前妻は調べたが跡がなかった。江西の堪輿陸在田[65]は甲と親しく、その事を言った。

　　蔡唖子

　　常州に生まれながらにして話せないものがおり、蔡姓で、その名は伝わらず、代々州の北の青山荘に住み、家は貧しく乞食し、人々は「蔡唖子」と呼んでいた。唖子はほかに技能がなく、乞食たちには親しくするものはなく、許道士だけがかれを厚く待遇していた。しばらくすると、許道士が朱家村で死んだが、屍に重い傷があったので、挙子は朱某をお上に訴え、事件とし、死刑にしようとした。ある人は「朱某がほんとうに殺しているなら、罰するのがほんとうに適切だ。」と言い、ある人は「冤罪だろう。」と言ったが、確かなことは分からなかった。

　　ある日、蔡唖子が朱家村にゆくと、村人は言った。「唖子。来い。食べものをやろう。」蔡唖子は突然目を瞠って大言した。「わたしは朱氏のために冤罪を雪ぎにきたので、食事する暇はない。」村内の老若は驚いた。ときに朱氏は許道士の一件で家産は蕩然として、計略は出てこず、唖子に言った。「事は人命に関わっている。冗談を言うな。」唖子は言った。「役所にゆけば、わたしは自分で告げられましょう。」そこで、朱氏の一族は隣人数百人とともに唖子を引いて城に入らせた。

　　太守の李公はたまたま法廷に坐しており、唖子に尋ねると、唖子は言った。「人を殺したのは許雨公で、朱某とどうして関わりがございましょう。」つぎつぎに事実を語り、鑿鑿[66]としていたので、すぐに簽を出して許雨公を捕らえた[67]。雨公は仲間と暑さを避けて瓜棚で賭博しており、捕らえてき、尋ねると罪を認めたので、すぐに朱某を獄から出した。はじめ、雨公は朱某と客行を争って遂げなかったので[68]、計略を設けて許道士を人気のないところに引いていって殴り殺し、屍を車で朱某の家の入り口に運んだのであった。事はたいへん隠密であったが、蔡唖子だけを避けなかったのは、かれが生まれながらにして語れなかったからであった。朱某はかれに命を助けてもらった恩に感じ、乞食の群れにいって感謝しようとした。乞食たちは言った。「ああ。唖子は死にました。」それはまさに朱某が出獄した日であったという。

　　珠��[69]紀事

　　嘉興珠��の地は湖に臨んでいた。童子がおり、年は十三歲、牛の背に跨り、韁縄(きづな)を腰に縛り、湖で牛に水を飲ませていた。牛はだんだん深く水に入り、童子は足まで没した。しばらくすると、牛が突然驚いて走り、童子は水に転げ落ちた。岸の人は浪を押し分けて童子を呑むものがあるのをぼんやりと見た。牛は走って岸に登り、縄の端に一匹の鯰が引きあげられたが、形は小さい舟のようであった。人々は騒然とし、牛がはじめ魚に齧られ、痛みを負って走っていたことをはじめて悟った。走るのはたいへんはやく、童は落ちた。しかし童子は牛と縄で繋がっており、魚は童子を餌とし、縄は外れなかったので、牛に引き出され、漁師が釣しているかのようになったのであった。人々は刀を取って魚を斬り、童子がなお救われることを願った。童子が出てくると、すでに息絶えていたが、衣服髪膚はすこしも傷がなかった。魚の肉を切って測ると、三百八十余斤を得た。封君[70]朱緒三が呉門から帰ってその事を述べたが、乾隆五十四年[71]七月十一日のことであったという。

　　葉氏の姉

　　葉星槎[72]別駕[73]の姉は張氏に嫁ぎ、結婚して四十日足らずで寡婦となり、子がいず、実家に帰って節を守ったので、別駕は朝廷に表彰を請求してあげた。乾隆己酉[74]、姉は年が七十二であった。たまたま秋に園内に遊び、たちまち寒風が矢のように、まっすぐかれの心を射、牀に臥して医薬は効かず、食事量がにわかに増した。もともとは長斎[75]を持していたが、病後は、おおいに生臭ものを求め、さらに数人の食を兼ねられた。終日空に向かってくどくど語り、両手で防ぎ拒む動作をした。頤(おとがい)や頬の間にしばしば傷痕があり、夜を徹して叫び、侍婢はみな眠られず、別駕が座にいる時だけは、しばらく安眠した。このようにして数ヶ月たったが、医者はその病を療やせなかった。

　　別駕はかれの意識がややはっきりしている時に乗じ、終日喃喃として誰と語っているか、どこの痛みを患って叫んでやまないのかと尋ねた。姉ははじめ答えなかったが、しいて尋ねると、長嘆した。「前生の罪です。昔、わたしが庭園に遊んだ時、たちまち陰風が吹いてき、毛髪までぞっとし、いそいで部屋に帰りました。見ると一人の背の低い女がおり、顔は醜く、痘痕があり、白い布の単衣を着、つぎはぎだらけで、二人の男の子を連れていましたが、やはり醜悪で、藍褸(ぼろ)でついていました。女はわたしを夫と呼び、子はわたしを父と呼びました。わたしは前生は男子で、江西の人、姓を顧といい、財が豊かでした。女はわたしの妻で、二人の男子はいずれもわたしの子でした。わたしは妻が醜いのを嫌い、毒殺し、同時に二子を毒殺し、つづけて二人の美しい婦人と再婚し、天寿を全うしました。妻は怨みが晴れぬこと百年、わたしを探したが見つかりませんでした。去年、張得新に会い、得新は前生でかれと瓜葛[76]の縁がありましたので、わたしにここのことを告げ、園に引いてゆきました。さらに部屋に乩壇[77]があり、中に入れず、園内に隠れること半年でした。今はじめて会い、わたしに命を償うことを求めた。わたしもぼんやりと前生で妻を殺して子を殺すことが実際すべてあったことを思い出し、さらに、死後、閻羅王がわたしは生前調べるべき罪があるが、怨んでいるものが来ないので[78]、さらに罰して女の身としてはやく寡婦とならせたことを思い出した。すべて心目の間にはっきりとし、悔いても間に合わなかった。かれら母子三人は日々わたしの頬を打ち、わたしの喉を扼し、わたしは一息の平安も得られません。食べものはわたしが食らったのではなく、わたしは自分では満腹を知りません。呼んだのはわたしが呼んだのではなく、わたしは声を抑えられないのです。その苦しみは大きゅうございます。あなたが傍らにいる時だけは、三人の幽鬼は潜み隠れます。ほかの人でしたら、みな恐れません。我慢して言わなかったのは、事がたいへん怪しくてさらに醜かったからですが、今はほんとうに告げざるを得ません。あなたはわたしのために、世に伝え、因果霊験は、世を隔てても免れず、念仏斎僧[79]しても、すこしも益がないことを知らしめてください。」そう言うと、涙を数行垂らした。張得新とは、葉の老僕で、死んですでに多年となるものであった。

　　別駕はそれを聞いて愕然とし、空に向かって怒鳴った。「怨みによって怨みに報いるのは、理の当然だ。しかしおまえたちはもとより怨みを含み、どうして前生の死なない時に報いを求めないで、かれが天寿を全うすることを許したのだ。さらにどうして死んだ後に求めないで、かれがふたたび人の身に転じ、遅れること七十余年の久しきにいたることを許したのだ。たいへん愚かで筋が通っていないと感じる。さらに怨みは解くべきであり、結ぶべきでなく、わたしが高僧を招いてやり、三人を済度してはやく人に転生させるのはどうか。」姉は首を振った。「かれは願わず、二着の衣服を身に着けるだけでよいと言いました。」葉はすぐ大小の紙衣三襲を作った。

　　持って戸に入ると、姉は欣然と起きて牀の前に坐し、両手で力いっぱい引き裂き[80]、言った。「わたしの妻は白い布衫を着ていますが、ひどくぼろぼろで、すべて切れた糸[81]で縫ったり補ったりしており、脱ごうとしても離れません。わたしが力いっぱい引き裂いてやりましたら、はじめて体から離れました。今新しい衣に換えますとすぐ、容貌はだんだん見られるようになり、醜いとはいえ、人らしくなりました。」実際は、紙衣はまだ卓上にあり、焼かれていなかったが、三人の幽鬼がすでに身に着けたと言っていた。

　　別駕はさらに怒鳴った。「衣を換えたら、はやく去れ。」姉はしばらく呢喃[82]として言った。「かれはなお黄金数錠、白銀千両を求めています。」別駕が難色を示すと、姉は言った。「簡単です。仏草数茎、錫錁千両だけです。」仏草とは、麦草のことであった。そこで眷属たちは麦草をとり、仏号を朗誦しながらそれを折った。麦草の中から少量の顆粒が地に落ちると、姉は言った。「たいへんよい真珠です。どうして捨てられましょう。」すべて拾いあげさせた。まもなく、草数百茎を得ると、姉は呼んだ。「もう結構です。かれらは重くてたえられないことを嫌っています。さらに一つの包袱(ふろしき)を与えるべきです。」そこで紙を切って袱(ふろしき)にし、錫錁[83]千と併せて牀の前で焼くと、姉はすぐ瞑目して鼾をかいて眠り、別駕は出て客に会った。

　　数刻して、姉は目ざめたので、怨霊が去ったかと尋ねると、言った。「去りましたが、わたしがみずから大門を送り出すことを求めました。」幽鬼は服を得られて喜んだかと尋ねると、「喜ばず、謝しもしませんでした。ただ、この衣を着ければ出ていって官吏に会えると言っていました。わたしがかれを送って門に戻って入った時、あなたが鄭六爺を送りだしていましたので、わたしは門の傍らに避けていましたが、あなたはわたしを見ていなかったのですか。」鄭六爺とは、別駕が会った客であり、女たちの知らない者であったので、人々は驚いた。それから姉は安眠し、さらに飲食を求めなくなった。

　　三日足らずで、突然叫んだ。「二奶奶が来た。」さらに叫んだ。「三奶奶が来た。」寝言で時候の挨拶を述べ、あるいは笑い、あるいは泣き、剌剌[84]としてやまなかった。尋ねれば言った。「この二人の女はわたしが前生で再婚した二人の妻で、冥府は大奶奶[85]のことで取り調べを求めているので、二人の女たちをすでにながいこと捕らえ、転生できなくさせていました。今、大奶奶はわたしの衣服や財貨を得、各役所から許しを得、二人の女を出して訊問することになりましたので[86]、さきに会いにきたのです。」さらに言った。「明日、城隍のところに赴いて取り調べられますが、わたしはおしまいです。」嗚咽を抑えられなかった。

　　夜の三鼓になり、たいへん悲しく叫び、朝になると、右股がひどく痛むと称した。見ると、一面が赤く腫れ、杖を受けたかのようになっていた。翌日さらに左股が痛むと叫び、ついで踝が痛むと叫び、すべて赤く腫れて潰れて爛れ、淋漓と血を流し、疲労はとくに激しかった。ひそかに別駕に語って言った。「わたしは事はもともと弁ぜられず、法廷にゆくと[87]すぐにすべて承認したので、すでに二度杖を受け、さらに一度夾棍を受けましたが、事件は結局落着しません。どうしましょうか。」それから癒えず、さらに十余日して死んだ。これは乾隆庚戌年[88]二月の事で、別駕がみずから語った。

　　牟尼泥

　　進士湯聘[89]が諸生であった時、家はたいへん貧しく、母を世話して住んでいた。突然、病んで死にそうになり、鬼卒数人に捕らえられて東岳にいった。聘は悲嘆して言った。「老母が堂におり、世話する人がおりません。わたしが死ねば母はひとりで生きられませんし、勉強して親の名を揚げられてもおりませんから、どうしてすぐに死ねましょう。帝が憐れんで寿命をお貸しください。」東岳帝は言った。「おまえは禄命はただの秀才で、寿命もこれでおしまいだ。冥法は厳しく、おまえの思いに従って、功名寿命を増すことはできない。」聘は案に縋って哀号し、声は堂階[90]に通った。帝は言った。「儒家の弟子なのだから、孔聖人に送って裁かせよう。」鬼卒に命じて宣聖のところに押してゆかせた。宣聖は言った。「生死は東岳に属し、功名は文昌に属しており、わたしは関わりない。」

　　戻った時に路で普門大士に会い、哀願して命乞いすると、大士は言った。「これは孝心である。承知して世を励ましてはどうか。」鬼卒は言った。「かれは死んで数日で、屍は腐っていますが、どういたしましょうか。」大士は善才に命じて西天にいって牟尼泥を取ってその屍を補完させ、善才はいった。

　　三日後、牟尼泥を包みとってきたが、泥の色は栴檀[91]のようで、その香りは散じていなかった。そこで善才とともに家にゆくと、屍はほんとうに腐爛し、蝿や蚊は外を咬み、蛆虫がその中を蝕んでいた。見ると一燈は熒然とし、老母は涙を落としていた。その時は死んですでに七日で、なお納棺しようと思っていなかった。善才が泥で屍を三周囲むと、まもなく、腐臭はだんだん収まり、蝿や蚊は四散し、蛆虫も去り、腐爛した者は元通り完璧となり、精気があった。善才は聘の魂をその中に帰らせ、口から入らせ、言った。「わたしは大士に報告しにゆく。」屍はすぐ蠕動した。

　　聘は目を瞠って母が傍らで泣いているのを見、やはり嗚咽を抑えられなかった。母は驚いて狂って叫び、隣人たちはみな集まり、聘はすでに起きて坐し、言った。「母は恐れるな。わたしは蘇りました。」そこで大士に会って蘇られたわけをくわしく語り、言った。「男はもともと功名がなく、寿命はすでに尽き、つとめて父母の恩に報いることを求めます。大士は命じて貪淫葷酒の諸戒を持させ、わたしの功名寿命を与える。男は酒を断てないだけで、ほかはすべて戒めの通りにしました。大士はわたしが進士となることを許しましたが、命数のなかに官位がないので、仕えないように戒めただけです。」さらに母を顧みて言った。「恐れないでください。わたしはほんとうに蘇りました。」後に聘は戊戌[92]の進士に挙げられ、真定の県令に就き、在職中に亡くなった。

　　獺怪

　　郭生は、呉郡の名家の子、弱冠で娶っていなかった。ある晩、読書していると、美しい娘がかれの家に来、ともに親しんだ。それから昼を過ぎるとかならず来たが、生の妹に窺い見られ、その父に告げた。父は生が密通していることを疑ったので、結婚させることにした[93]。

　　新婦が部屋に入って帳を開くと[94]、美しい娘がいたので、たいへん驚いて走って避け、家を挙げて騒然とした。追うと、その娘はまったく恐れる色がなく、かえって毅然として生を責めた。「わたしはあなたと十年の夙姻があり、どうして新婦[95]を慕ってわたしを追いはらうのですか。」家人に求めて法師施亮生に祈らせ、醮壇[96]を設けて法術を施させ、王、朱二天君に命じ、剣を持って生を撃たせた。すぐ走り回って大声で叫び、しばらくして落ち着くと、目を瞠って言った。「妖は神将が下って撃つのを見、わたしの足元に臥し、神将に百余箇所切られ、頭を割られて逃れましたが、すぐ死にましょう。」怪しいことはほんとうに絶え、郭生も恙なかった。

　　まもなく、郭生の家族七人が同じ日に地に倒れて死んだ。その後、法術を施しにくることを法師に求めると、地に倒れた中の一人が突然立って罵った。「わたしの父はすでに千歲であったが、郭家がかれを殺したから、わたしはかならず郭家を滅ぼそう。」するとほかの一人が腕まくりして起きて言った。「おまえはわたしが上方君[97]であることを知っているか。あの娘は千年の水獺で、功行がたいへん豊かで、郭氏の子と縁があり、おまえに殺された。今その子孫がわたしに訴え、わたしは怨みを晴らしてやりにきたのだ。おまえの法術はわたしをどうしようもない。」

　　法師が慌てていると、たちまち死者はみな蘇った。人がそのわけを尋ねると、言った。「昨日、五人の幽鬼を見ましたが、たいへん凶暴で、わたしたちを引き、ある洞窟にゆきますと、あやかしたちが一匹の死んだ獺を担いでいました。獺は身に百の創(きず)を受け、頭は粉砕されていました。妖怪たちは喪服を着て葬儀を行っていましたが、弔っているものはすべて鱗介の仲間でした。聞けば、集まって談合しており、貴神を後ろ盾にすることを相談し、宝石を賂することは数えきれませんでした。貴神とは、まさに上方君でした。上方君はその賂を貪り、承諾し、悪者たちは貴神の助けを得ますと、一族を挙げて法師に抗おうとしました。すると突然、空中に万馬の駆ける音が聞こえ、金の鎧の神が空から下り、鉄鎖数十百本を引き、悪者たちを縛って去りましたので、わたしたちはふたたび生きられたのです。」それから郭氏は平穏であった。

　　天蓬尺

　　朱生某は、試験に臨む日、校士館[98]の門にゆくと、腹がたいへん痛んだので、広文[99]が調べ、主司[100]が帰らせた。家にゆくと、腹の中で隠隠と人の言葉を語っていた。「わたしは姚洙、金陵の人で、明初に偏将[101]となり、魏国公[102]の子の麾下に属していた。魏公子は、まさに朱生の三世の前身だ。主帥はわたしに千人を与え山賊を剿討させ、深入りして囲まれた。わたしの妻潘氏を慕い、援助を求めたが兵を出さなかった。わたしは千人とともに死傷して尽きそうになり、生還するものは数人もいなかった。そこでむりにわたしの妻を娶ろうとしたが、妻は従わず、自経して死んだ。報いようとしてすでに久しく、命をとりにきたのだ。」家人は質して言った。「その時、どうしてすぐに報いず、数百年遅れてはじめて報いたのか。」「かれは元戎[103]で、忠であり勇であり、宿根はたいへん厚かったので、報いられなかった。再世になれば高僧となり、三世になれば顕官となり、篤実な政治を行い[104]、やはり報いられなかった。今生でも、かれには科名[105]があり、なお報いられなかった。今かれは一言で三人の命を殺し、官位はすでに削られたので、はじめて報いられるのだ。」「三人の命を殺すとは何のことか。」「かれは某月日にあやまって某を訴えて盗人とし、かれの妻、弟もともに死に、三人の命を殺したではないか。」それより前、朱生は盗難に遭ったが、心のなかで隣人の張某が盗んだかと疑い、お上に告げて取り調べさせた。様子は疑わしく、贓物は見つからなかったが、張と妻とその弟が巻き添えを食って死んだという事がたしかにあった。

　　時に同県に周生というものがおり、法術を学び、鬼怪を懲らしめ、たいへん験があり、それを聞いていって様子を見にいった。朱生は恐れる色があり、腹の中からは音がたたなかった。周生が出てゆくと、ふたたび大言した。「わたしはどうして恐れよう。わたしはかれの天蓬尺を恐れるだけだ。」周生に尋ねると、ほんとうに袖の中に持っていた。

　　さらに行脚僧西蓮は朱を窺い、朱の苦痛のありさまを見たので、口でかれの呪を誦えたところ、腹の中で言った。「師は徳行のある人でございますのに、呪を誦えてわたしを抑えるのですか。」西蓮は言った。「わたしはおまえの怨みを解いてやるのだ。どうしておまえを抑えよう。」腹の中で言った。「怨みを解こうとすれば、『法華経』を誦えるべきだ。師が誦えている呪は『穢跡金剛呪』で、悪神に命じてむりにわたしを抑えさせても、わたしはどうして服しようか。」西蓮は言った。「わたしがすぐに法事を行い、『法華経』を誦え、仇を解けば、夙怨を許されましょうか。」腹の中は唯唯として、さらに紙銭若干錠と、証文を立て、保証を書くことを求め、言った。「わたしに従うなら、すぐに去ろう。ただわたしは貴人だから、口の中から出るべきだが、従者たちは尻の穴から出よう。」朱生はそして痰を一斗ばかり吐き、下痢すること数日で、声は収まった。

　　数日後、腹の中でふたたび言った。「わたしの仇はすでに解けたが、いかんせん決死の賊が囲むことはさらに多く、かれらは許すことを承知しないが、どうしようか。」そこで千百人が腹の中で騒ぐのを聞いた。朱生は病苦に堪えられずに死んだ。

　　土を撮んで賊を避けること

　　江州の医者万君謨[106]は、技術はたいへん優れ、遠近の、受診しにくるものは絡繹としていたが、君謨はすべて心を尽くして癒やし、けっして報酬の有無を計算に入れず、たいへん貧しいものがいれば家でもてなし、病が癒えると去らせた。

　　ある日、道人が門を叩いて治療を求め、万はかれを診て言った。「先生は痞膈[107]を病んでいられますが、薬数十剤を服すれば、平復できましょう。」道人は言った。「廬山から来たが、往き返りをどうしよう。」そこで留めて治療した。一月あまりしてほんとうに癒えた。崇禎末年の事であった。その頃、流寇は猖獗で、いたるところでかれらがにわかに来ることを心配していた。君謨が憂えていると、道人は言った。「おんみは避けられる力がおありか。」君謨は言った。「口を糊する外、すこしも暮らしの足しにする余裕のものがなく、住む別業もございませんが、どうしましょうか。」ゆくに臨み、道人は君謨に土一斗ばかりを取って呪させ、功徳堂[108]内に蔵し、朝晩香を焚くように命じた。にわかに賊が来、一升ばかりの土を取って前後の門に撒き、戸を閉ざして出ず、炒米だけを食らい、火を起こして食らわず、賊が退いた後に出たと思った。

　　賊が城に数回入ったが、官兵が来るまで、この法を用いたところ、まったく損害がなかった。隣人で回想するものは言った。「雲と霧が見えていただけでした。」土を用いつくすと、世はすでに太平になっていた。

　　小坊主が虎を思うこと

　　五台山の某禅師は一人の小坊主を引き取ったが、年はわずか三歲であった。五台山はもっとも高く、師は山頂で修行するだけで、一度も山を下らなかった。十余年後、禅師は弟子とともに山を下り、小坊主は牛馬鶏犬を見たが、まったく知らなかったので、師は指さして告げて言った。「これは牛で、田を耕せる。これは馬で、騎れる。これは鶏、犬で、夜明けを告げられ、門で番できる。」小坊主は唯唯としていた。まもなく、若い娘が走りすぎると、小坊主は驚いて尋ねた。「これは何でしょう。」師はかれが心を動かすことを心配し、色を正して告げて言った。「これは虎といい、人が近づけば、かならず噛み殺され、屍骸も残らない。」小坊主は唯唯としていた。

　　晩に山に登り、師は尋ねた。「おまえが今日山麓で見た物で、心に思うものがあるか。」「一切の物をわたしは思いませんが、人を食らう虎を思えば、心のなかでかれを棄てられないといつも感じます。」

　　子不語娘娘

　　固安[109]の郷人劉瑞は、鶏を売って生業とし、年は二十で、たいへん美貌であった。ある日、十余羽の鶏を駆って城内にいって売り、城門に近づこうとすると、容貌風姿が絶世の一人の娘が叫んだ。「劉郎が来られましたか。どうか石の上にお掛けください。お話しすることがございます。わたしは仙人で、あなたとご縁がございますので、こちらに坐してお待ちしていたのでございます。驚き恐れる必要はなく、けっしてあなたを害しませんし、あなたに利益もございますが、惜しいことには、前縁が三年あるだけでございます。これからいって鶏をお売りになれば、きっと一人の人がすべて買い、荷物はすべて空しくなり、銭八千四百文を得られましょう。」劉は唯唯として進んでゆき、心はずっと恐れていた。

　　城内にいって鶏を売ると、ほんとうに言っていた通りであった。心の中でますます驚き訝り、鬼魅と思い、避けようと思ったので、遠回りしてほかの路から帰宅したが、この娘はすでにその家に坐しており、笑って言った。「前縁はつとに定められていますから、どうしてあなたが避けられましょうか。」劉はやむをえず、なんと結婚したが、人さながらであった。

　　朝になると、劉に言った。「住居はたいへん小さく、わたしは住みなれていませんから、改めて数間を造りましょう。」劉は言った。「わたしは鶏を持っているだけですし、値は八千でございますから、どうして家を造れましょう。」女は言った。「そこまでご心配なさるにはおよびません。この家の主があなたでないことは分かっています[110]。叔父さまの劉癩子さんの土地でしょう。」「はい。」「今、癩子は賭場で二千五百文負けていますから、はやくゆきなさい。かれはかならずあなたに銀を借りますから、金額通り与えれば、土地は得られましょう。」劉が賭場にゆくと、ほんとうに叔は人に賭債を求められて樹上に縛られ、劉瑞を見ると、喜びに勝えず、言った。「わたしのために賭博の負けを返してくれれば、家屋土地を、証文を立てておまえに贈ろう。」劉は銭を与え、証文を立てて返した。女はその家の傍らに楼三間を増築したが、たいへん広く、まもなく家具がすべて揃ったが、それらがどこから来たか分からなかった。

　　隣人たちはそれを聞き、あらそって来て面会を請うた。劉は帰って女に尋ねた。「よろしいでしょうか。」女は言った。「会うのは構いませんが、隣人たちの中に王五というものがおり、もともと行いが正しくなく、わたしはその人を憎んでおりますので、かれを絶対来させてはなりません。」劉が王に告げると、王は承知せず、言った。「隣人たちにはみな会って、なぜわたしだけ外すのだ。」そして隣人たちといっしょに入った。隣人たちはともに揖し、嫂を呼んで安否を尋ね、女は答礼して安否を尋ねかえし、顔はたいへん温和であった。王五は笑って言った。「奥さんは昨晩お楽しみですか。」女は罵った。「わたしはかねてからおまえがさまざまな悪事を積んでいることを知り、もともとおまえが来ることを承知しなかったが、このように無礼しようとするか。」声を荒げて怒鳴った。「縛り上げろ。」王五は両手を後手に縛られて跪いた。さらに怒鳴った。「びんたしろ。」王五はみずから自分の頬を打ってやまなかった。そこで隣人たちともに跪き、代わって許しを請うてやった。女は言った。「ご近所さまの顔を立て、かれを追い出してゆけ[111]。」王五はよろよろ逆に這って出[112]、その後、遠く逃れ、ふたたび村内に住もうとしなかった。女は劉のために一子を産んだが、眉目清秀、重厚寡黙であった。劉は小金持ちとなり、ふたたび鶏を売らなかった。

　　ある日、女は突然置酒し、その子を抱いて劉の懐中に置き、痛哭してやまなかった。劉が驚いてわけを尋ねると、言った。「わたしが以前三年で縁が満ちると申したことをご記憶でないのでしょうか。今は三年です。天の定めは、すこしも違わず、多くできません。ただわたしが去った後、あなたは再婚して構わず、後妻に頼んでよくわたしの子を育てさせてください。わたしがしばしば来て子を見ることを覚えていてください。わたしは人を見られ、人はわたしを見られません。」劉はそれを聞いてたいへん嘆いた。

　　女は起きてすぐにゆき、劉はその衣を引いて言った。「わたしはそこであなたが来た後、家は小金持ちとなり、今あなたが去った後、わたしはどうして生計を立てよう。」女は言った。「ご心配なさるのもごもっともです。わたしもそのことを考えておりました。」そして袖の中から一つの木偶を出したが、長さは一寸あまり、劉に送って言った。「この人形は姓を子、名は不語といい、わたしを世話する下女で、過去未来の事を知れます。あなたは一つの楼を掃除して祀れば、諸々の商売事を教えを請うて行うことができます。」劉は驚いて言った。「子不語とは、もしや妖怪か。」「はい。」劉は言った。「妖怪は祀ることができるのか。」女は言った。「わたしも妖怪でございますが、あなたはどうしてわたしと夫婦となられましたか。万物は同じでなく、人でありながらあやかしより良いものがおり、あやかしでありながら人より賢いものがおり、一律に論ぜられないことを知るべきでございます。ただこの婢は貌がもっとも醜怪なので、わたしは『子不語』と名づけ、人と会うことを承知せず、楼の中で祀り、その声を聞くだけでよい。」

　　劉はそれに従い、木偶を楼の中に置き、香燭を供えた。「子不語娘娘」と呼び、声に応じるさまは響くかのようで、家を挙げてその声を聞いたが、その姿は見えなかった。酒食を楼上に送れば、大皿はすべて空しくなり、飲食する音だけが聞こえていた。梯を踏む脚跡は、弓鞋ほどの大きさであった。女は去るときに臨み、なお劉と抱きあって臥すこと三昼夜、はやく起きて撫でれば、渺然として見えず、窓や戸は開いておらず、どこから去ったか分からなかった。子不語を三年祀り、尋ねることがあればかならず答え、謀りごとがあればかならず利があった。

　　とある日、この娘は空から帰り、劉の手をとって言った。「家産は三千両ございますか。」「ある。」「あればあなたの福分[113]は足りていますから、わたしが去るばかりでなく、子不語娘娘も持ってゆきましょう。」その後楼に向かって叫んだが、答える人がいなかった。

　　かれの子は�ｻといい、固安県学に入り、華騰霄守備がみずから見た。

　　枯骨が自賛すること

　　蘇州の上方山[114]に僧寺があり、揚州の汪姓のものが寺に寓したところ、白日、階下で喃喃と人が語るのを聞いた。ほかの客を招いて聞かせると、みな聞こえた。幽鬼が怨みを訴えているかと疑い、僧たちを集めて農具で掘らせ、深さ五尺ばかりで、一つの朽ちた棺を得、中に枯骨一体を蔵し、この外には特段のものはなかったので、元通り埋葬した。

　　半刻足らずで、さらに地下の人が喃喃と語り、声が棺の中から出ているようであった。人々はともに耳を傾けたが、結局一字も弁じられなかったので、人々は驚き疑った。ある人は言った。「西の部屋に徳音禅師がおり、徳行はたいへん高く、幽鬼の言葉に通じられ、どうしてかれを招いて聞かせない。」汪はすぐ人々と禅師を招いてきた。禅師は地に伏し、しばらくすると罵って言った。「絶対にかれを相手にしないことを求めます。この幽鬼は前生は大官で、人がお世辞をいうことを好んでいましたが、死後、お世辞を言う人がいなくなりましたので、しばしば棺の中で自賛しているのです。」人々は大笑いして散じ、土中の声もだんだんかすかになった。

　　藤の花が死者を送ること

　　吏部の役所に藤花一本があったが、千年の物で、古い幹は龍のようであり、一人では抱きかかえられなかった。葉は三間の堂[115]を掩い、夏はきわめて涼しく、つねに牡丹とともに開いていた。乾隆六年[116]、冢宰[117]の甘公汝来[118]は、果毅公[119]納親[120]と堂上で官を選んでいた。点呼抽籤[121]するとすぐ、甘公は椅子の上で薨じたが、手はなお筆を持って落としていなかった。納公が奏聞し、上は銀千両を与え、属官に命じてその葬儀を営ませた。その晩、藤花は盛んに開き、蕊を結び、花を開き、さかんに香ること三日、暮春の時に比べるとさらに十倍盛んであったが、何の徵かは分からなかった。

最終更新日:2011年12月5日

続子不語

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