第一齣 開宗

【満庭芳】(末が登場)文墨[1]の周生、糟糠の郭氏、家道(くらし)は蕭然。差役[2]のために、使ふ金なかりしかば、妻を遣はし張カに借金を申し込ましむ。張カは容色を見て、本物の証文に虚偽を記入し、(しもべ)の奸謀をば信じ、人の生命をば殺め、不当にも周生を辺境に陥れたり。単身(ひとりみ)(つま)は、財のため迫られて、その際はげに憐れなり。節婦は貞潔、遺腹子を守らんとして、剛刀[3]をもて志を立て、花の(おもて)を損なひて、詩書をもて子を教へたり。さいはひに青銭に中たりたれども[4]、官を棄て、父を捜せり。旅館にて相逢ひて昔を語り、帰りくる日に、怨みはすでに報いられ、夫妻と母子はまた団円す。

張員外は富めども不仁、周維翰は妻のため身を陥れられたりき。
背生児(わすれがたみ)は官を棄て父を捜して、守節の(つま)は子を教へ親を捜さしむ。

 

最終更新日:2007年11月2日

尋親記

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[1] 文章を書く人。

[2] 徭役。

[3] 未詳。「鋼刀」の誤りか。ただ、後ろにも出てくる。

[4]原文「喜中青銭」。 中青銭」は優れた文章で科挙に合格したことをいうのであろう。試験のたびに合格する文章を「青銭万選」という。青銅の銭は質がよいので、一万回選び取っても、他の粗悪な銭と取り間違えたりしないことから。『唐書』巻一百七十四「員外郎員半千数為公卿称、鷟文辞猶青銅銭、万選万中、時号鷟青銭学士。」。

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