第五巻

李尚書�w[1]は密州[2]城東の都曹[3]の古い庁舎にいたが、そこはもともと怪(あやかし)が多いと伝えられており、人々は住もうとしなかった。李は住んだ当初、居所を移さなかった。ある日、装身具を売る者がその裏門を通ったところ、数人の女たちがそれぞれ装身具を買って入っていった。売る者は李の妾だと思い、かれらが代金を取ってくるのを待ち、ながいこと門の脇に立っていたが、闃として出てこなかった。表門に回って尋ねると、たいへん厳重に閉ざされており、官舎を守る隷卒に会って事情を告げると、隷卒は「空き家だ。」と言った。そこでともに閂を開いて入って見ると、装身具の類が竈の上に列ねられたり、壁に掛けられたりしていた。

李は入居した後、ある晩、ひとりで書斎に坐し、燈火を掲げて書物を読んでいた。膏油はたっぷりと注がれており、はしためとしもべはそれぞれ寝ていた。夜半、燈�ｽ(ランプ)が突然ゆえなくひとりでに落ち、書物の上に被さった。李がすぐに燭台を持ってこさせて見たところ、�ｽ(ランプ)は几の上に置かれており、油はもとのままで、一滴の汚れもなかった。

乳母が子供を連れて戯れ、階の側に坐していた。竹の篅(かご)[4]があり、たっぷりと石灰が貯えられていた。子供は篅(かご)のところにゆくと、おおいに驚いて叫び、乳母が走ってゆくと、一人の子供が灰の中に立っていた、顔はたいへん醜怪だったと言った。後日、土地祠の木偶を見たところ、子供が指さして言った。「これがこの前、灰の中で見たものだよ。」

李はのちに建物を修理し、覆いを取り去り、屋根瓦を取り払い、改築し、瓦溝[5]ごとにこまかく書いた『天童神呪』の軸を置いて鎮めたところ、怪(あやかし)はふたたび現れなかった。

李通判[6]は、その名は伝わっていない。一人の娘がすでに年頃だったので、良い婿を選ぼうとしていたが、ひさしく意中の者を得られなかった。ある日、陳察推[7]という者が面会を求めてきた。かれは李と旧交があり、談話しておおいにうちとけると、近ごろ連れあいを失ったので、結婚しようとしていると言い[8]、言及すると歔欷流涕した。そして言うには、家に二人の娘がおり、いずれもすでに婚期を迎えているが、亡くなった者を思い、たいへん悲しんでいるということであった。李の娘は青瑣[9]の間から窺い、ひそかに侍婢に言った。「あのかたは情義に篤く、けっして薄情なかたではないから、連れあいになれれば、幸いだ。」そこで再三その姓氏を尋ね、話すたびにかならず言及した。陳はときに年齢が四十を越え、瘠せて色黒、髯が多く、顔は垢じみていたが、もともと学問を好み、詩を善くし、書に優れていた。李は喜び、また、つねに嘆いた。「あの人の年齢と容貌がすこしでも娘に釣りあっていれば、婿とするに申し分ないのだが。」娘はそれを聞くと、ひそかに乳母に言った。「女は身を託するときは、落ち着けるところだけを選びます。年齢の上下、容貌の美醜は、問題にいたしません。」それから家人はすこぶる女の心を理解した。媒酌が他の縁談を持ちかけると、黙然として楽しまなかった。父母は怪しみ、言った。「もしや宿縁ではあるまいか。」そこで媒酌を遣わして交渉させた。陳ははじめ、年長で釣り合わないことを理由にかたく拒み、話はしばしばもつれた[10]。女はかならず憂え、憤り、あるいは怒って食らわなかった。父母は憂え、つよく招いたので、陳はやむをえず結納を納めた。女はたいへん喜び、結婚すると、夫婦は睦みあい、自分が生んだ子のように、陳の二人の娘を育てた。そして、陳に言った。「娘さんはすでに成長されているのですから、結婚は急ぐべきでございます。ぐずぐずするべきではございません。」朝晩しばしば話し、ひろく媒酌を探し、半年たらずでその長女を嫁がせ、資金を傾けて世話した。陳が「末娘はまだ二三年大丈夫だろう。」と言うと、妻は言った。「さようなことはございません。」ますます熱心に促した。陳は断った。「婿を得ても、今、嫁入り道具を準備するすべがない。」妻は言った。「とにかく婿を探しましょう。わたしが準備してあげましょう。」さらに数ヶ月すると、結納を準備し、すぐに縁談を持ちかけた。陳が「どうするのだ。」と言うと、妻は突然陳に言った。「あなたは昔金五十星を小さい罌(もたい)に貯え、牀の下に埋められたのですから、取って使われてはいかがでしょう。ご自身の娘さんのことでけちけちなさることはございますまい。」陳はおおいに驚いて「どうして知っているのだ。」と言ったが、ただただ笑って語らなかった。そもそも陳は本当に金を埋めていたが、他人で知っているものはいなかったのであった。そこで取って使った。一年足らずで二人の娘がいずれも嫁ぐと、妻は陳に言った。「わたしは責めをすでに塞ぎ、今は残りの仕事はございませんから、酒盛りしてお祝いしましょう。」そこで陳とさしで飲み、心ゆくまで飲んでおおいに楽しみ、それぞれ酔って寝た。翌日目ざめると、妻は突然驚き慌て、大声で叫んだ。「これはどういうことでしょう。」陳を顧みて言った。「おまえは何ものだ。」陳はおおいに驚き、精神病になったかと疑い、妾と下女たちは囲んで見守った。妻は驚き、恐れ、慌て、惑って尋ねた。「わたしはどうしてここにいるのですか[11]。」妾と侍女は言った。「奥さまは一年結婚なさっていたのに、どうして思い出せないのですか。」妻はまったくそのことを記憶していなかった。まもなく父母が来て、慰め、くわしく顛末を語った。妻はおおいに嘆いた。「お父さま、お母さまはわたしをお生みになったのに、連れ合いを選んでくださらないのでしょうか。この男は醜く老いて憎らしいのに、わたしを与えるおつもりでしょうか。」留まろうとしなかったので、その家に送った。恍然として夢から目ざめたかのようだとみずから言い、前のことはまったく覚えていなかった。陳も金を埋めたことは、亡妻だけが知っていたと気づき、亡妻が二人の娘を心配し、魂が李の娘に憑いて結婚を遂げたのかと疑った。後に離別して再婚したが、珍しいことであった。（王教授伯広師徳談）

李允升は字を子猷といい、毗陵[12]の人であった。紹興甲戌の年に及第し、任官して建康府上元県を治め、待闕[13]していた。ある日、家にいて書斎に閑坐していると、突然黄衣のものが庭で声喏[14]し、言った。「勅牒を持ってまいりました。」李は驚いた。「わたしは新任で、勅牒はもうもらっている。そのようなことがあるはずがない。」黄衣の男はすぐに懐を探り、黄牒[15]を取って授けると、そこにはこう大署してあった。「李某を荊陽坊[16]の土地[17]に任ずる」。李は新任であることを理由に争論したが、すでに従者は庭に並んでいた。黄衣の男は言った。「どうしても赴こうとしないなら、城隍さまに申告せねばなりません。」そして介添えして馬に乗せた。すぐに城隍祠に着いたので、ふたたび新任であることを理由にみずからのために弁論した。神は言った。「天符[18]には逆らえぬ。みずから書状に署名し、新任が満了した日に赴任することをお願いするのだ。」従うと、神は送りかえすように命じた。出ようとすると、同郷の張某が軒下で刑具を担っていた。李はかれがすでに死んでいることを知っていたので、進み出てその安否を問うた[19]。張は言った。「帰ったら倅に仰ってください。わたしはかつて某年月日に発心して醮事[20]をし、手疏[21]を釘うって梁と栱(ますがた)の間に置きましたが、知る人はおりませんので、わたしのためにこの心願を叶えてください。」生が家に着くと、従者は声喏し、辞して去った。はっとすると、身は胡牀[22]の上に坐していた。記憶ははっきりしており、夢に似て夢ではなかった。家人が見たのは、かれが咄咄とひとりで語り、さらに手を挙げ、筆を握り、字を書いているかのようにしていたことだけであった。そして張家にゆき、見たことを語った。その家が言われた通りに探したところ、本当に張の手疏を得たが、すべて話の通りであった。李はのちに着任し、罪に坐して嶺南に流されたが、荊陽の話は何のことだったのか分からなかった。

蜀の人孫思文は、風姿が美しく、つねにその美しさを自慢していた。麗しい妻を娶り、夫婦の仲はたいへん良かった。ある日、ともに神祠にいって遊覧したが、思文は神像を指して妻に言った。「かれとわたしとどちらが美しい。」妻は言った。「あなたがまさっていらっしゃるようです。」夜に帰り、思文が夢みたところ、神が召して責め、その顔を換えるように命じた。すぐに数人の幽霊がかれを掴んで、とある場所にゆかせたが、仮面のようなものが数十あった。幽霊は、その中から、尖った顎[23]、皺んだ鼻[24]の、大きくて醜いものを取り、顔を切りとって換えた。驚いて叫んで目ざめ、手で顔を摩ると、おかしいと思い、燭を持ってこさせて見たところ、本当にそうなっていたので、妻はすぐに恐れて死んだ。孫は大いに悔やみ、恨むばかりであった。

臨川[25]の肉屋張某は、晚年すこぶるその生業を悔やみ、動物の命を奪うことがいたって多かったので、かならず悪報を受けるだろうと思っていた。さらにその体はいたって肥満していたので、日々仏号をとなえること数百回、仏像を描いて礼拝し、死ぬ日が暑くならないことを祈っていた。人々はみな笑っていた。このようにして十数年を重ね、突然盛夏に死んだ。その家はもともと貧しく、納棺するすべがなかったので、人々はかならず腐敗して臭気を発するだろうと思っていた。するとにわかに大雨となった。屍はぼろやに置かれており、雨漏りは注ぐかのよう、すっかりその体を湿したが、夜を経るとすべて氷となった。都合三日置いてあったが、すこしも変化がなかったので、隣人は葬儀を営んでやった。（魏良佐通判が二事を語った）

いとこの魏良佐[26]はかつて長沙から妻の折氏を迎えて三衢[27]に帰ろうとしていたが、家まで十里のところで、夜になり、進めなくなったので、舟を溪(たにがわ)の岸に泊めた。真夜中だったが月の光は昼のようであった。船員はみな寝ていたが、船尾に泳ぐ音が聞こえた。盗賊かと疑い、起きて見ると、男が舵を掴んで上ろうとしていたので、篙(さお)で撃つと、その男は舵を放して罵った。話す声は嘲唽[28]として理解できなかったので、はじめてそれが怪物であることを恐れ、すぐに舟を動かして避けた。男は舟についてきて罵り、声はますます激しくなった。流れはきわめて深かったが、その人はつねに半身を水面から出し、歩きながら罵った。三二里ゆくと、舟からますます遠く去り、黙して声を出さなくなった。じっくり見ると、流れている屍であった。家に着いてまもなくして、折氏は病んで亡くなった。

福州の州庁は、王審知[29]の故宮である。便坐[30]はきわめて壮麗であったが、州知事は上がろうとしなかった。すこしでも階を踏むと、すぐに文身(いれずみ)のものが梁に現れるのであった[31]。州の人の言い伝えでは、昔、州知事（その姓名は伝わっていない）がおり、そのことを信じず、来るとすぐに便坐で政務を執ったが、まもなく怒鳴り声が屏(ついたて)の間から発せられた。知事は言った。「わたしは朝命により、この地を治めているのだから、便坐にはわたしがいるべきだ。怪物がどうして人を騒がすのだ。」すると返事があった。「わたしはひさしくこちらにおり、歴代の知事はみなお避けになったのに、公だけはどうして逐おうとなさるのですか。」知事が怒鳴ると、幽霊は言った。「わたしはあなたを咎めませんが、あなたに抗う者がいましょう。」知事は意に介さず、それから連日便坐に上がった。十日あまりして、知事が案(つくえ)に倚っていると、隷卒が酒に酔い、刃を抜き、門を衝いて入り、知事を刺し殺した。左右のものも隷卒を殺した。ああ、これは本当に審知の霊験なのだろうか。隷卒が酒によって狂ったことが、たまたま神の言葉と合っていたのだろうか。それとも知事の命運がもともとそこまでだったので、神はそのことを利用して霊力を示したのだろうか。そもそも調度に精気が多ければ魂魄が強くなり、魂魄があれば霊験があるかもしれない。しかし州知事が便坐で政務を執るのは正しいことで、幽霊が人の住居を乱すのは、正しくないことである。正しくないものが正しいものを害するのは、みだりに誅しているということではないか。昭昭として天にあるものも[32]、それを聞いて咎めないのだろうか。あるいは審知の旧領なので、天はその霊に寛容にし、身の置き所があるようにさせたのだろうか。廟食[33]が足りているのに、なぜ人にこのように悪事をするに至ったのだろうか。昔、呉興郡[34]では広間に神坐[35]を作って項羽を祀り、憤王[36]と呼んでいたが、たいへん霊験があった。前後の二千石[37]はみな広間で拝し、軛に繋がれた牛を祭って他の部屋に避けていた[38]。蕭彦喻[39]が太守になり、靴を履いて広間に上がると、本当に室内で怒鳴る声が聞こえた。彦喻は顔色を厳しくして言った。「生きているときは漢の高祖と中原を争えなかったのに、死んでこの広間を占拠しているのは、どうしてだ。」そこで廟に移して、槌牛[40]の祭祀を廃したが、特段のことはなかった。羽と審知を比べると、もとより同日の談ではないが、幽霊となっても、羽が正義に従うのに及ばないのである。

紹興年間、ある郎官[41]（その姓字は言いたくない。）は、放埓で身を慎まず、一人の朝臣だけがかれと親しくしていた。朝臣の家には数人の妓女がおり、客が来るとかならず出てきてお酌していた。郎官はある妓女にひそかに懸想したが、隙がなかった。ある日、郎官は手紙を書いて妓女に寄せ、ともに密会しようとした。朝臣がたまたまそれを見ると、妓女は隠そうとせず、くわしくその事情を語った。朝臣は言った。「それならば、おまえの過ちではないから、おまえたちの笑いの種にしてやろう。ひとまず手紙に答え、明晩西廂で密会することを約し、主人はちょうどわけあって城外にゆき、翌日帰ります、この機を逸してはなりませんと言え。」郎官は手紙を得ると、喜びにたえなかった。約束通りに赴いたところ、妓女はすでに約束の場所で待っていた。屏(ついたて)の後ろの密室に引きいれると、妓女はさきに榻に登り、幔を垂らし、郎官に衣を脱いで登るように命じた。進んで幔を掲げると、妓女はすでに榻の後ろからこっそりと去っており、朝臣が榻の上に仰向けに臥し、目を瞠って見ていた。郎官は裸だったので、慌てて逃げようとしたが、門はすでに閉ざされていた。朝臣はみだりに丁寧な言葉でからかった[42]。「あなたとは情誼が厚うございますのに、なにゆえかようになさるのでございましょう。妓女は醜く、君子の楽しみに供するに足りませんので、もう帰らせましたが、どうかお咎めにならないでください。」やおら起きるとさらに言った。「わたしの家は使用人がやや多うございますので、すこしも懲らしませんと、かれらはそれを見、恐れ憚らないようになりましょう。」そこでしもべたちを呼んで柱に縛り[43]、巨きな竹の梃で二十たび打った。血が流れ、髁(くるぶし)に及んだ。郎官は号哭謝罪すると、さらに言った。「公とはもともと親しかったので、お上に告げようとはいたしません。家の決まりをいささか示し、他人に漏らしもいたしません。」そして追い出し、衣も与えなかった。その人は狼狽して逃げかえった。翌日朝廷でふたたび会ったが、態度は昔のままであった。（慮徳広[44]談）

無為[45]の陳氏は、巨万の家産を蓄えていたが、主人は貌がたいへん醜く、当時「陳獼猴[46]」と言われていた。邸宅を州庁の西南に建てたが、すこぶる華麗広壮で怪(あやかし)が多かった。紹興元年、大盗に放火劫掠された後で、目に触れるものは荊棘ばかり、賈知丞和伯[47]がその宅を借りて住んでいた。堂の後ろの地形は隆起しており、夏の夜に納涼していると、突然、とてもかすかな絲竹の音が聞こえ、清迥として好もしかった。しばらく耳を傾けると、地中から聞こえていたので、古い塚かと疑われた。

平江[48]の陸大郎は、家がすこぶる豊かで、別荘が平山[49]にあった。一人の庵僧がかれと親しくしており、僧が買った財産はすべて陸の家に預けていた。しばらくすると、陸は横領しようとする心を萌し、僧に求められても与えなかったので、僧はお上に訴えた。陸はおおくの金銭を胥吏たちに賂したため[50]、僧は不平を晴らせず、かえって誣告罪に問われてしまった。僧は怒りと怨みに堪えず、日々香を焚き、陸の家の門に向かって拝し、祈り、陸の子になって、負債を取りたてることを願った。しばらくすると、僧は死んだ。年を越すと陸の子が生まれたが、老年ではじめて跡取りができたため、かわいがり、「小大郎」といった。やや成長すると、遊蕩して身を慎まず、家産を費消したが、陸はそれを禁じなかった。陸が死ぬと、小大郎はたいへん手厚く葬った。その後、浪費はますます激しくなり、数年足らずで、財産を蕩尽してしまった。生計を立てるすべがなかったので、墓の木を切ってわずかな食糧に換え、その山を丸坊主にすると、さらに風水が不吉だと嘘をつき、その棺および甃(れんが)、甓(しきがわら)の類を発掘してすべて売り、その骨を焼き、骨灰を湖に棄てた。人はみな小大郎は僧の後身だ、墓の木を伐り、屍を焼くような酷いことは、最大の敵でなければするに忍びないことだと言った。今の世の不肖の子には、貧しいために、小大郎のようなことをする者が多い。これは子孫とはいえ、宿世の冤恨、願力が強いため、身を託することによってその怒りを埋めあわせているのである。ただ業縁[51]に引かれ、一たび歌羅邏[52]の位を経ると、みずからがわからなくなるのである。（鄭光錫都承談）

游学士酵[53]が亡くなると、棺の縁に舎利が湧き出、霊座[54]にもそれがあった。その県では香を焚いて祈った[55]。「性相[56]は空しいもので、この幻の身はなおさらです。本来無有[57]なのですから、事ここに至ったからには、野狐精魅になられてはなりません。」にわかに舎利はすべて見えなくなった。（表兄魏守高佐談）

閩人の鄭鑑虚中[58]は、玉泉僧舎[59]を借りて生徒を教えていた。しばらくすると、日に日に痩せ衰えてきた。友人はかれを訪ね、かれが腕を露わにしているのを見たが、皮膚は張りがなく、茶色く、蝉の蛻のよう、怪しんで尋ねると、虚中は恍惚としながら、うわごとを言う者のように言った。「妻の家にいるのもなかなか楽しいものだ。たまたま痩せただけだ。」虚中にはまったく妻がいなかったので、友人はかれが妖魅に惑わされていることを疑い、驚いて言った。「結婚していないのに、『妻の家』とはどういうことだ。妄想しているのではないか。」虚中はすぐに正気づいたかのようになり、唯唯として恥じ、謝るばかりであった。その夜すぐに病になり、ついで亡くなった。寺僧は言った、かれの泊まっている部屋の下には数代前の武官の嫁の棺が埋めてあったが、鄭はまったく知らなかった。後日、兵官の家が仮墓を発掘したところ、棺が壊われていたので取りかえたが、その屍を見るとまったく朽ちておらず、腰や腹から下の肌や肉は生きているかのようであった。人々ははじめて虚中が屍と交わっていたことを悟った。（何庇県尉談）

朱藻は字は元章といい、徽州[60]の人であった。某年に南宮[61]で名を奏せられ[62]、廷試を待っていたが、ある士人がともに旅館に泊まっていた。士人は普段着で毎日盛り場にゆき、俳優を見ていたが、隣に坐している者がおり、語るとすこぶるうちとけたので、姓名郷里を尋ねたところ、みな元章と同じであった。士人は訝った。そのものはさらにこう言った。「わたしはさいわい省試に合格しましたが及第できず、今、部中[63]が仕事を授けることを望んでいます。」士人はますます怪しみ、くわしく問いたださないでいるうちに、ちょうど俳優が退場し、見物人たちは哄然として外に出た。士人と隣に坐していた者も立って門を出たので、士人は男を茶店に招いてともに語ろうとしたが、人ごみではぐれてしまった。士人は旅館に帰ると、朱に話し、ともに手を叩いて男が人を欺いたことを笑い、朱が合格したのでその名を騙っていたのだと考えた。まもなく庭対[64]があったが、朱は諱を犯したために、学究[65]出身[66]に降され、官職の空きを待っていた[67]。そこで、以前士人が遭ったのは、幽霊であったのだと思い返し、科名[68]が前もって定められていたことをますます悟った。（司農及寺丞躬明談）

秦奎[69]は鄂州[70]の都統司[71]の幹官[72]で、臨安で妾を買って帰ったところ、数年で、男子を生んだ。その妻はかつてある事に関して妾をひどく怒ったところ、妾はひどく怒り、声を荒げて言った。「わたしは人でないのに、どうしてひどく苛められるのですか。」妻は怒鳴った。「人でないなら、何なのだ。」妾はすぐに答えた。「わたしは幽霊です。」突然、その姿を変えて大きくなったが、容貌姿態は異ならないで、額は棟木に届いていた。家中が驚くと、すでにまたもとのままになっていた。問いただしたが、けっしてその事情を語らなかった。その家ではその子が慕っていたため、追いはらわなかったので、今なおその家にいる。（周師禹左蔵談）

曹滋字は仲益[73]は、かつて仕事で衢州[74]の江山県[75]にいった。県には江郎廟[76]があり、滋はその霊験を聞き、参拝しにいった。廟に二人の娘の像があり、たいへん美しく、俗に江郎[77]の娘と伝えられていた。滋は心のなかで喜び慕い、たいへんながく注視していた。像を見ると目を動かして眺めているかのようだったので、驚き恐れて帰った。夜に夢みたところ、その女が来てかれと交わった。しばらくするとますます親しくなり、夜になると夢みなくてもしばしばやってくるようになった。時折、滋と文を論じたが、啓発されることが多かった。まもなく滋は羸病に苦しんだので、その家では道士に命じて法術を行わせ、お祓いさせた。女は怒って言った。「慕ってやってきたのですから、あなたにとって不吉ではございませんのに、どうして追いはらわれるのでしょう。わたしはもうこちらには留まれません。」たまたま曹も旅立とうとしていたので、州境まで送り、泣いて別れて去った。（七舎鄭林談）

靳瑶は、丹陽[78]の牙校[79]であったが、かつて譴責を受け、維揚[80]に難を避けていた。その妻とともに后地祠[81]に参拝したときのこと、礼拝していると、妻はすぐに胸痛を起こしたが、だんだん劇しくなり、人事不省となり、ともに帰るとすぐに死んだ。州の人々は、普段から、五通神[82]が后地祠を拠りどころとして祟りをなしていると伝えていた。瑶は悲憤に堪えず、納棺火葬し、それが終わるとすぐに羊と酒を調え、城隍祠にいって祈り訴えた。翌日の晩に帰るとき、后地祠の東の広々とした場所をふたたび通ると、女がひとりで歩いていた。だんだんと近づくと、かれの妻であったので、抱きあって悲しみ嘆いた。妻は言った。「ご心配してくださったご恩に感謝しておりますが、憾みもございます。あなたはすでに神に訴え、神はわたしを帰らせることにしました。ところがすでに焼かれてしまいましたので、拠りどころがございません。普段の夫婦の情を忘れていられないのでしたら、わたしのために懇願せねばなりません[83]。そうすれば蘇るかもしれません[84]。」瑶がそのわけを問うと、妻は言った。「城の南十五里外に茅君という者がおり、道術を弁えていますから、頼みにおゆきなさい。」そう言うと隠れた。瑶が早朝城南にゆき、茅君を訪ねたところ、本当に村里で見つかった。茅君は茅の簷(のき)、荊の扉で、村童十数人を教えていた。瑶が進みでて拝礼すると、茅は起って何度も謙るのをやめなかった。茅が来意を問うと、瑶はくわしく事情を述べた。茅ははじめは笑って言った。「さようなことをどうしてわたしにお告げになるのでございましょう。」たいへんつよく拒み、さらには怒ったが、瑶はますます熱心に頼んだ。茅はしばらく黙然として言った。「あなたは本当に夫婦仲が良いのですね。ひとまず事実を書状になさい[85]。」瑶はすでに準備していたので、すぐに懐を探って書状を出した。茅はそれを見ると、書几(ふづくえ)に着いて筆を執り、つづけて数十字を書いたが、隸書、草書に似ており、薄墨でめちゃくちゃに書いてあり、ぼんやりとして読めなかったので、瑶に語った。「これを持って十里北の所にゆくと、林木神祠[86]があり、扉を叩けば答える者があるから、すぐにこれを授けろ。」瑶がその言葉通りにゆくと、林は鬱蒼とし、廟はきわめて幽邃で、森然として恐ろしかった。むりにその扉を叩くと、青衣の童が出てきて、手紙を受けて入った。まもなくまた出てきて、竹一本を切り、瑶に頼んだ。「これに騎ってひたすら目を閉じて東へゆけば、見るものがあることだろう。」瑶は竹に跨って去ったが、奔馬のようであり、時折、ひそかに目を開けば、竹は止まって進まず、向かう所はすべて荊棘で、また目を閉じるとさらにはやく馳せるのであった。しばらくすると、突然みずからが止まったと感ぜられたので、目を開くと白い壁の華やかな家があり、王侯の邸宅のようであった。男が瑶を引いて中に入れ、東の棟の小さい門を指し、瑶を入らせて見させた。迴廊は四方を囲んでおり、中には婦女がおり、あるものは笄をし、あるものは丱(あげまき)で[87]、百人を数えていたが、そこに妻がおり、近づいてきて瑶に語った。「あなたの力に感応し、今、冥官から体を借りて生き返ることを許されました。城東に朱氏がおり、年は十八九、某日に死ぬことになっています。わたしの精魄はすぐにその体に投じ、蘇りますが、体は朱氏の娘でございます。あなたは求婚しにゆかれてください。運命はこのようなものでございますから、かならずやふたたびいっしょになれましょう。」さらにすぐに言った。「こちらにながくいらっしゃってはなりません。」瑶を入り口まで送った。瑶が出ると、入り口もすぐに閉じ、殿堂を振り向くと、すべて神の塑像であった[88]。すぐに走って門を出ると、乗っていた竹がそこにあったので、いそいでふたたび跨り、目を閉じると、進むのがますます早く感ぜられた。三里ほどいった所で、突然、馬が躓いて地に落ちたかのようになったので、驚いて振り返ると、城の濠の側におり、すでに暗く厳鼓[89]の後であった。衣を掲げて水を渡り[90]、塀を攀じて入った。言われた日になり、城東の朱氏を訪ねると、その娘がひどく病んでいることを聞いた。瑶はもともと疑っていたので、近隣を徘徊していた。午後になると、その家でたいへん悲しい泣き声が聞こえたが、しばらくすると、にわかに止んだ。尋ねると、女が蘇ったと言っていた。瑶は事態が言われた通りであることを怪しみ、ふたたび茅君を訪ねると、部屋はすでに空になっていた。それからは、暇な日に城東にゆけば、ひそかに朱の隣家を訪ねたが、みなが言うには、朱家の娘は蘇ってからは、意識は元通りではなく、その父母兄弟が分からなくなり、口を開けば靳瑶がどこにいるかを問うということであった[91]。瑶はそこで媒酌に頼んで思いを通じた。父母は瑶の姓名を聞くとひどく驚き、すぐに入って娘に言った。「靳瑶さんがおまえに縁談を持ちかけにこられたよ。」女は言った。「それはわたしの夫です。」それからは口では靳瑶のことを言わなくなった。その家は娘を嫁がせた。後日、瑶は朱の娘と亡妻の過去のことをゆるゆると尋ねたが、まったくぼんやりとして思い出せなかった。（新広州李司理箎談）

毗陵[92]の薛季成元功[93]は、紹興乙卯年に合格し、県令をしたが、脱選[94]できなかった。当時、役人生活に倦怠を感じていたので、朝廷に請願して帰郷することにした。命が下ると、通直郎[95]で致仕し、まもなく病死した。子がなかったので、おいが葬儀を仕切り、致仕の告身[96]を記録して棺に置いたが、急いでいたので誤って「左」の字を「右」と書き[97]、おいも気がつかなかった。まもなく、夢みたところ、人に捕らえられて役所にいったが、季成が案に倚って坐しており、色をなして責めた。「わたしは平生読書し、わずかに官を得、勉強も無駄ではなかったと思っていたが[98]、今回、進非科第だと嘘を言われたので[99]、わたしは同輩に会うのが恥ずかしい。どうしてくれる。」左右に命じて数十たび打たせた。おいは惘然[100]として夢の中で昨日の誤りを悟り、悪うございましたと再三言うと。季成は顔色をいささか晴らし、怒鳴って改めさせ、許して去らせた。おいが目ざめて、あらためて告げ文を書いて焼いたところ[101]、その後、ふたたび夢みなかった。人々はかれが神だったのかと疑った。（費兗承務[102]が三事を語った）

晋陵[103]の丁端叔連[104]は、乾道元年に郷試に赴いた。試験の数日前、人から勅牒[105]を授かる夢を見、その文を見たところ、「郷貢進士丁可留」とあった。端叔は目ざめると、ひそかに喜び、名を可留と変えようとしたが、言葉が雅馴でないと思い、やめた。試験が終わると、考官[106]の丁可というものが、答案を見て、絶愛し、病でさきに貢院を出るとき[107]、仲間の考官に、かならず上位合格させるように頼んだ[108]。封を開くと、端叔であった[109]。そこではじめて「丁可留」が本当であったことを悟った。その試験で合格した。

錫山[110]の許宗美�j[111]は、紹興己卯に礼部の試験に赴いたが[112]、同学とともに太一宮[113]で祈り、黙っていて見えたものを吉凶の兆しと考えることにした。目に触れた牌には「竺落ちて黄茄[114]天宗美し[115]」とあり、「落」の字を犯していたので、たいへん嫌に思った。その年は本当に不合格であった。のちに太学に入って諸生になり、寿皇[116]登極の恩典により上京受験し、ふたたび宮中にゆき、前のように祈った。祈ると、廊廡[117]の間を歩きまわったが、すこし歩くと二つの神の位牌があり、「河魁[118]、従魁[119]」とあったので、宗美はたいへん喜んで外に出た。南宮[120]の合格発表になると、何自然[121]が省元[122]となり、宗美は詩賦で首席となっていた[123]。以前のことはそもそも二人の首席合格者の姓と名を予言していたのであった[124]。

最終更新日:2009年4月22日

睽車志

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