呉僧慧貞[1]が言った。ある浙江の僧が志を立てて精進し、誓願[2]刻苦していたが、脅すものは席に来なかった[3]。ある晩、美女が戸を窺っていたので、魔物が来たと悟り、見たり聞いたりしないようであった。女は蠱惑万状であったが、結局、禅榻に近づけなかった。後に夜な夜なかならず来たが、結局一念を起こさせることはできなかった。女は技が窮まり、はるかに語った。「師は定力[4]がこのようでございますので、わたしはもとより妄想を断つべきでございます。そうはもうしましても、師は忉利天[5]中の人で、わたしに近づけばかならず修行が台無しになること[6]を知っていますので、わたしを虎狼のように恐れているのでございます。努力して非非想天に達しても、柔肌が体についているに過ぎず、氷雪を抱いているかのようで、美しい姿が眼に入っても、塵埃を見るかのようで、色相[7]を離れられません。心が四禅天[8]に到れば、花はもとより鏡に映っていますが、鏡は花を知らず、月はもとより水に映っていますが、水は月を知らず、色相を離れています。ふたたび諸菩薩天[9]に到れば、花も花ではなく、鏡も鏡ではなく、月も月ではなく、水も水ではなく、色もなく相もなく、離れるも離れないもなく、自在神通不可思議である。師がわたしの近づくことを許そうとし、真空[10]が汚されなければ、それは摩登伽[11]が一心に帰依しても、二度と阿難[12]を乱さないのと同じでございます。」。僧は道力[13]によって魔に勝てると思い、坦然としてそれを許した。寄りそって撫でさすり、戒体[14]を毀ったのである。がっかりし、失意[15]のうちに終わった。そもそも「磨して磷(うすろ)がず、涅して緇(くろ)まず[16]。」とは、聖人だけができ、大賢以下はできないことである。この僧は心が激し、門を開いて盗賊に揖したのである[17]。天下でみずからを有為であると恃み、人がしようとしないことをし、結局、失敗[18]破滅する者は、いずれもこの僧か。

　　
　　徳眘斎[19]が扶乩したところ、乩仙は祭壇に下ったが、詩を作らず、みずから劉仲甫[20]と署名した。人々は誰だか分からなかった。一人の国手が側で言った。「南宋の国手で、著に『棋訣』[21]四篇がある者だ。」そこで、むりに招いて対局させようとした。乩仙は判じた。「碁はわたしがかならず負けよう。」。むりに招くと、承諾した。乩仙はほんとうに半子負けた。人々は言った。「大仙は謙遜し、後進の名を成させることを勧めようとなさっているのでございましょうか。」。乩は判じた。「そうではない。後人は万事古に及ばないが、占いと碁だけは、古人に勝つ。あるひとは、古人の到達したところから、さらに精思したので、すでに竿頭[22]に到っていても、さらに進歩できたのだといっているが、これは占いについて言っているのであって、囲碁について言っているのではない。そもそも風俗は日々薄情となり、人情は日々巧妙になり、その攻撃奪取の術は、双方の機略がぶつかりあい、変幻は万端、偽計は奇抜で、余地を留めない。古人がしようとしない事を、しばしばしようとし、古人が冒そうとしなかった危険を、しばしば冒そうとし、古人が出すに忍びなかった策を、しばしば忍んで出す。そのため一切の社交心計は、すべて古人の上に出ている。碁も心計の一つで、宋元の国手は、明になるとすでに一路の差が開き、今は一路半の差が開いている。しかし、古の国手は、どんなに敗れても一路に過ぎなかったが、今の国手は、二路三路敗れる。これは実を踏むか虚を踏むかの違いだ[23]。」「碁をしてつねに勝つ方法はないか。」。さらに判じた。「つねに勝つ方法はないが、つねに負けない方法はある。碁をしなければ、つねに負けない。わたしは夙慧[24]によって、みだりに鬼仙となれたが、世外の閑身[25]で、功名心はすべて尽きている。たまたま[26]戯れたが、勝敗は関わりはない。対局する者なら、得失を争う時は、やはり注意せねばならない[27]。」。四座に世故を経験したものがいたが、多くは喟然として太息した。

　　
　　季滄洲[28]がいった。狐がおり、某氏の書楼にいること数十年であった。巻軸を整理し、虫や鼠を駆除してやり、よく収蔵する者も及ばなかった。人と話せたが、結局、その姿は見えなかった。賓客が宴に集まり、人がむなしく一席を置くと、やはり出てきて応対した。語気は恬雅[29]で、談言は機微に触れており、しばしばその座の人を引きつけた。ある日、酒糾[30]が觴政[31]を述べ、それぞれが恐れているものを語り、理に適っていない者は罰し、かれひとりが恐れているのでない場合も罰することにした。講学する者を恐れるというものがおり、名士を恐れるという者がおり、金持ちを恐れるという者がおり、貴官を恐れるという者がおり、よく阿諛する者を恐れるという者がおり、ひどく謙遜する者を恐れるという者がおり、礼法の周密である者を恐れるという者がおり、緘黙して慎重で、言おうとして言わない者を恐れるというものがいた。最後に狐に尋ねると、言った。「わたしは狐を恐れます。」。人々は騒いで笑った。「人は狐を恐れられるが、君は同類なのだから、恐れまい。罰杯を飲め。」。狐は笑った。「天下では同類だけが恐ろしいのです。そもそも甌、越[32]の人は、奚、霫[33]と地を争わず、江海の人は、車馬と路を争いません。種類が異なっているからです。財産を争う者は、かならず父をともにする子であり、寵を争う者は、かならず夫をともにする妻であり、権力を争う者は、かならず官職をともにする士であり、利を争う者は、かならず市場をともにする商人です。勢いが近ければ妨げ、妨げれば退けます。それに雉を射る者は媒を雉とし、鶏や鶩(あひる)を媒とせず、鹿を捕らえる者は鹿により、羊や豚によりません。およそ反間内応も、かならず同類を用います。同類でなければその好みに合わせて入り、その隙を伺って撃つことができないからです。こうして考えますと、狐が狐を恐れないことはできません。」。座中に苦難を経験した者がおり、その理に叶っていることをおおいに称えた。すると一人の客が狐の前で酒を酌んで言った。「君の言っていることは確かだが、これは天下がともに恐れていることで、君ひとりが恐れていることではない。だから罰杯を飲むべきだ。」。そこで一笑して散じた。思うに狐の罰杯はその半分を減らすべきである。そもそも妨げたり退けたりすることは、天下はみな知っているが、肘腋[34]の間に伏し、心腹の大患であるもの、水乳[35]の契に託し、鉤距[36]の深謀を蔵するものに関しては、知らない者は多いかもしれないからである。

　　
　　滄州の李媼は、わたしの乳母であった。その息子は柱児というが、語るには、昔、海上にいって放青した時（海浜の広々とした場所には、茂草が叢生しており、土人は牛馬を駆っていって放牧するが、これを「放青」という。）、竈丁（海上で塩を煮る人を、竈丁という。）で夜寝ていると、室内で窸窣(がさごそ)[37]と音がした。時に月明かりが窓を穿ち、じっくり見ると人がいなかったので、虫か鼠の類かと思った。するとにわかに人語が騒がしく、遠くから来、人が何度も「この家に逃げ込んだぞ。」と叫ぶのが聞こえた。訝っているとすでに窓の外に来、窓を叩いて尋ねた。「某はこちらにいるか。」。室内で泣いて答えた。「はい。」。さらに尋ねた。「泊めたか。」。泣いて答えた。「泊めました。」。さらに尋ねた。「牀をともにしたか。別々に寝たか。」。しばらく泣くと、答えた。「牀を別にしますなら。誰が泊めてくれましょう。」。窓の外で足踏みして言った。「しまった。」。すると突然、一人の女が大声で笑って言った。「あれが家を出てよそに身を寄せれば、きっとただではおかれないだろうと思っていました。あなたは必ずしもそうではないと思われましたが、結局いかがでしたか。まだ連れ帰る面目がございますか。」。この言葉の後は、索索(そろそろ)[38]と人が歩く音がするばかりで、もはや言葉は聞こえなかった。その後、妻はさらに大声で笑った。「こうなってもまだご決心なさらないとは、あなたは何ものですか。」。窓を叩いて竈丁[39]を呼んだ。「わたしの家から逃れた下女があなたの家に身を寄せていますが、留めて寝られたのでしたら、義として連れ帰る理はございません。これはあなたが誘拐したのではございませんので、老いぼれ[40]はあなたを仇と言いようがなく、たといあなたを仇としても、わたしがおりますので、老いぼれは何もできません。ひとまずお休みください。わたしは去りましょう。」。紙に穴を開けてひそかに窺うと、闃然として影がなく、枕辺を振り返れば、一人の美女が横になっていた。喜んだり驚いたりし、どこから来たかと尋ねると、言った。「わたしはもともと女狐で、この塚の狐に買われて妾にされました。正室はたいへん妬み、毎日鞭を加えました。住めないと思い、逃げ出して活路を求めました。さきにお告げしなかったのは、恐れられて留めていただけず、かならず捕まってしまうことを心配したからでございます。ですから、牀の角に隠れていたのでございます。かれらが追いつくのを待ち、はじめて死を冒して、すでに操を失いましたと言い、棄てられることを願いました。今、さいわい逃げられましたので、死んでもあなたに従うことを願います。」竈丁はゆえなく妻を得たが、人に捜索されたら、別の心配を招くことを慮った。女は言った。「みずからの姿を隠すことができますので、人に見られることはございません。さきほど身を縮めて数寸になりましたのを、もうお忘れになりましたか。」。そこで留めて夫婦になった。みずから井臼[41]を操り、貧しい家に驚かず、竈丁は小金持ちとなった。柱児にとって竈丁は外兄[42]であったので、その詳細を知っていたのであった。李媼はこの事を説いた時、女はまだいると言っていたが、今では四十余年たっているので、どうなったかは分からない。この下女が患難に遭い、嘘を言ってみずからを汚すことを辞さなかったのは、「鋌して険に走る」[43]ものであったといえる。しかし、みずからを汚せば、その夫がかれを留めるのは理に適っていないし、正室がかれを追いだすのは筋が通る。この危険を冒す計は、ほんとうに決勝の計で、下女も賢いものであった。その夫が、初めは後のことを顧みず、後には味方してやらなかったので、この下女は、助けは絶たれ、路は窮まり、決潰して溢れるに到ったのである[44]。徳と力を測り、あらかじめこの一事を省いたほうがよかった。

　　
　　老儒の周懋官（口で南方語を操っていたが、どこの人か記憶していない。）は、久しく名場[45]に苦しみ、流離窮迫[46]し、かつて周西�ﾌ[47]、何華峰[48]の家に往来していた。華峰ももともと姓を周といい、二君[49]の一族かもしれない。乾隆初年、わたしはなお会うことができた。迂愚[50]遅鈍[51]で、古樸な君子であった。受験するたびに、筆画の小さな誤りで受験停止となったり[52]、合格した後で、一二字のために落とされたことがあった[53]。また、過ちがあってあらさがしをされた。たとえば題目で「曰」の字をたまたまやや狭く書いたところ、「日」の字と誤ったとして受験停止となったり、「己」の字を書くときに末筆の先をたまたま上に突き出したところ、「已」の字と誤ったとして受験停止となるといったことであった。そこで、きわめて鬱鬱として不平であった。ある日、文昌祠[54]で牒を焚き、平生罪をなしていないことを訴え、ほしいままに不平を示した。数日後、夢みたところ、朱衣の吏(したやく)がおり、殿上に引いていった。そこでは神が案(つくえ)に拠ってこう語った。「おまえは功名を得難いのに、神を瀆し、いたずらに怨みを抱き、因果を弁えない。おまえの前身はもともと部院[55]の吏(したやく)で、おまえが狡猾で法文を弄んだので、おまえを罰して今生は書痴としたのだが、すこしも事情を解していない。おまえは文書を論うことを好み、誤っていないことをはっきりと知りながら、巧みな言葉で苛め、脅しによって財を取っていたので、おまえを罰し、今生のいたるところで、筆画によって退けられるようにしたのだ。」。そして帳簿を指し示して言った。「おまえは『曰』の字で受験停止となったが、あの役人[56]は、前世は福建駐防[57]音徳布[58]の妻で、老いた節婦であった。咨文[59]は『音』を『殷』と書き、訳語は諧声[60]なので、もともと定まった字はなかったのに、おまえはくりかえし詰問し、往来すること再三で、困窮した寡婦が得た、牌坊を建てる金[61]は、路銀を供するに足りなくなった。おまえは『已』の字で受験停止となったが、あの役人は前世で知県の時に起服し[62]、もともと三年一か月俸給をもらっていた、おまえは賄賂を求めて果せなかったので、かれの文の『三』の字を『五』、『一』の字を『十』に改め、五年十か月として計算し、別件で処分を受けるようにした。弁明したときは、原文の誤りによって、一年あまりの任期を失っていた[63]。業報が纏い、今生で遇ったのだから、おまえはどうして怨みを鳴らせようか。その他の種種のことは、すべて夙因[64]があるが、くわしく述べてやることはできないし、あらかじめ漏らしてもやれない。おまえはそれに従うべきで、これ以上騒いではならない。信じないなら、緇袍黄冠が、おまえに害をなすことがあろうから、はっきりと悟られよう。」。そう言うと揮(さしまね)いて出させたので、突然目ざめたが、「緇袍黄冠」という言葉がことに解せなかった。時に仏寺に寓していたので、移って避けた。乙卯[65]の郷試になると、試験場[66]ではすでに第十三位にしようとしていた。しかし二場[67]の「僧道が父母を拝す」の判[68]の中に、「君親[69]に長揖[70]す」の字があった。これは傅弈の表[71]の「不忠不孝、削髪して君親に揖す」の語を用いていた[72]。試験官は疵累[73]だと思い[74]、落第させた。まさに神の言葉が嘘ではなかったことを知った。これはかれが歩丈陳謨の家（名を登廷といい、棗強[75]の人で、官は製造庫郎中[76]となった。）で家庭教師をしており、みずから詳しく歩丈に述べたことであった。その後、どこで死んだか分からないが、困窮して歿したのであろう。

　　
　　虞倚帆[77]待詔[78]がいった。選人[79]の張某は、一妻一婢を連れて京師に着き、海豊寺街[80]に仮住まいしていた。一年あまりして、妻は病歿した。さらに一年あまりして、下女もにわかに亡くなった。棺に納めると、たちまち呼吸しているかのようになり、その後、目は動き、甦ると、選人を呼び、手を執って泣いた。「一別して一年あまり、また会おうとは思いませんでした。」。選人が驚くと、言った。「でたらめだと疑われますな。わたしはあなたの妻で、下女の屍を借りて生き返ったのでございます。この下女はまた、あなたの巾櫛に侍していましたが、つねに鬱鬱としてわたしの下に居ようとはしませんでした。そこで、妖尼に相談し、術でわたしに悪夢を見させました。わたしは発病して死に、魂は術者[81]の瓶に収められ、符呪で鎮められ、尼寺の塀の下に埋められました。狭く、暗く、苦しみは言いがたいものでした。たまたま尼寺の塀が崩れ、地を掘ってふたたび築いたのですが、職人が土を掘り、瓶を壊しましたので、出ることができました。茫茫昧昧として、行き場はありませんでした。伽藍神[82]はわたしに指示して城隍に訴えさせました。悪夢を見させる法を行う者は、すべて邪神が後ろ盾となり、次々に支えますので、裁判できませんでした。そこで、東岳に知らせ、術者を捕らえ、尋問して自供を得、下女を捕らえて泥犁[83]に渡しました。わたしは寿命は尽きていないのに、屍は久しく朽ちていましたので、下女の屍を借りて生き返るようにと判決されました。」。家中が悲しんだり喜んだりし、女主人として仕えた。指摘された、悪夢を見させた尼は、選人が下女を妻にしようとし、しばらく死んだと偽り、この話を作り、人を重刑に陥れるのを顧みていないと言い、洶洶[84]として訴えようとした。しかし確かな証拠はなかったし、妖妄[85]の罪を犯すことを恐れたので、結局憚って言おうとしなかった。しかし倚帆がかつてひそかにその童僕に尋ねたところ、つぶさに言うには、妻は生きかえった後、旧事を述べてすこしも間違いがなく、その言動も、妻とすこしも異ならなかった。さらに、下女は刺繍が下手、妻は刺繍が上手であったが、以前の作りかけの履(くつ)の半分を補わせたところ、同じ手さながらであったので、偽りでないようであった。これは雍正末年の事であった。

　　
　　范衡洲（山陰の人、名は家相といい、甲戌[86]の進士で、官は柳州府知府であった。）の姪は、未婚の時に節に殉じたが[87]、金環[88]を呑んでも死ななかったので、河に身投げした。曽太守（嘉祥[89]の人、曽子の末裔で、たまたまその名を忘れた。）の娘は母を救おうとしてともに焼け死んだ。その事跡顛末は、そのかみはすべてはっきり知っていた。今は四十余年がたち、その詳細を挙げられなくなった。奇聞は記され易いが、庸行[90]は忘れられ易いのは、もとより事理の常であるので、姓氏を留め、幽光[91]の滅びないことを願う。『孔子家語』[92]は弟子七十二人を載せているが、もとよりかならずしも行状を逐一くわしく載せているわけではない[93]。

　　
　　蘅洲が言った。かれの郷里の某甲は、たいへん純朴で、分に外れた行いをしたことがなかった。ある日、昼寝していたところ、夢みたが、数人の下役が牒を持ってきてかれを連れ去った。とある公署に着くと、冥王が堂上に坐しており、財産目当てに某乙を殺したことについて取り調べた。某乙が来ると、やはりたいへんきびしく取り調べた。そもそも某乙は外から借金を取り立てて帰り、夜が明けず、涼しいうちに早だちしたのであった。そして数人の男に遇ったが、かれらは腰巾着が累然[94]としているのを見、ともに撃ち殺し、資金を持って逃れ、屍を岸の傍に棄てたのであった。某甲はたまたま小船に棹さして過ぎ、屍を見るとたいへん驚いた。見て某乙だと悟ったが、なおかすかに息をしていたので、隣近所に頼んで抱いて舟の上に置かせ、送り返そうとした。某乙は臨終の時、突然すこし正気づき、目を瞠って某甲を見、人々が財を奪って去り、某甲がひとり屍を載せて江に棄てたと思った。だから魂は冥府にゆき、ひとり某甲を訴えた。冥王は帳簿を調べ、盗賊は某某で、某甲ではないと言った。某乙はみずから見たのでつよく争ったが、冥吏も冥籍が誤っているはずはないので、某乙とつよく争った。冥王は言った。「冥籍に誤りがないのは、その通常の状態を論じている。しかし千百万年誤っていなかったからといって、たまたまこの一つの誤りがないのかは分からない。わたしが断ずるよりも、人が質すほうがよい。下役が言うよりも、囚人が証すほうがよい。」。そこで、某甲を捕えたのであった。某甲はつぶさに載せて運んだ趣意を述べ、業鏡で照らすと、言った通りであった。某乙は悟った。某甲ははじめ誤って捕らえられたことをひそかに怪しんでいたが、冥王が事情を告げると、某甲も悟った。そこであらためて某乙の事件を処理し、某甲を送りかえした。そもそも断獄の明快であることは、冥府に止めを刺し、案牘の詳細さも、冥府に止めを刺す。しかし冥王はみずからを信じていないようであったし、労を憚らないようでもあった。これが冥王の冥王たるゆえんか。

　　
　　「仲尼は已甚(はなはだしき)を為さず[95]。」とは、弊を正そうとして度を過ぎることを防いでいるだけではない。聖人の考えは深いのである。老子は言った。「民は死を恐れないのに、どうして死で恐れさせよう[96]。」。そもそも民は死を恐れないわけではないが、かならず死ぬと知ると恐れず、死を恐れなくなればできないことはないのである。幼い時に聞いたが、某豪族が盗人に奪い、懸賞を設けて捕らえさせた。半年あまりして、すべて捕らえられたが、みな罪を認めた。豪族は盗賊をたいへん恨んでいたので、大金を獄卒に賄し、あれこれ苦しめさせた。足の踏み場がなくなるに到り、胸は席に着かず[97]、束縛して厠へゆかせず、褲の中に蛆虫は蠕蠕として股や髀を咬み、飲食だけは断たず、はやく死なせないだけであった。盗賊たちは豪族をたいへん恨み、ひそかに謀った。「むりに奪い、財を得れば、法律では主犯従犯に関わりなく斬罪だ、婦女を輪姦すれば、法律ではやはり主犯従犯に関わりなく斬罪だ、二つの罪は同じように判決され、ともに斬罪に帰し、けっして磔裂[98]を加えられる理はない。」そこで、法廷で尋問された時、あまねくその妻女を汚したと自供し、官はそれに従って供述を記録することはなかったが、衆口は頑強に主張し、衆耳はともに聞き、結局その言葉は消せなかった。豪族を善しとしない者はも同調し、言った。「盗人はすでに死刑判決を受けたので、罪を蔽うに足りる。それなのに大金を惜しまず、さらにあれこれ苦しめた。盗賊が恨み骨髄に徹したのはまさにこのためだ。」。人の言葉は籍籍[99]としていたが、この疑いを弁じるすべはなく、おおいに家の玷(きず)となり、悔やんだがすでに間に合わなかった。そもそも強盗はともに殺されても、主人を怨めず、拷問で追究せられ、桎梏で拘禁せられても、主人を怨めない。法によって受けるべきことだからである。しかし法外のことで虐げれば、かれらの心は甘んじない。石を擲って人を撃つとき、力が強すぎれば、かならず激怒して反抗される。一時の快さを取り、百世の辱めを受けたのは、どうして過分にしたゆえでなかろうか。だとすれば聖人の考えは深い。

　　
　　霍養仲[100]がいった。雍正初年、東光[101]に農家があり、人並み[102]の財産を貯えていた。ある晩、強盗が入ったが、さほど財物を物色せず、衾の中からその女を引きだし、介添えして裏庭に入らせ、仰向けに曲がった老樹に縛った[103]。そもそもかれの考えはもともと強盗することにはなかった。女は哭いた。客作の高斗は圃(はたけ)の中で眠っていたが、聞くと跳ね起き、刃を挺して出て闘い、盗人はすべて退き。女はそのために免れた。しかし女は怒って泣き、語らず、食らわなかった。父母が慰めたが、まったく理解できなかった。再三質すと、はじめて一言を発した。「わたしの裸を、高斗に見させてよかったのでしょうか。」。父母は意を悟り、斗に娶わせた。これは楚の鍾建の事とたまたま似ている[104]。しかし、斗の当初の願いはここに及んでいなかった[105]。ただ、かれの父が病んでいたとき、主人が治療してやり、死ぬと納棺してやり、空き地に葬り、かれの母を招いて炊事を司らせたので、感激して死力を尽くしたのであった。羅大経[106]の『鶴林玉露』[107]に載せる、朱亥[108]を詠じた詩に言った。「唐(たう)虞(ぐ)を高論(かうろん)するは儒者(じゆしや)の事(こと)、君(きみ)に負(そむ)き友(とも)を売(う)るはあに言(い)ふに勝(た)へん。憑(たと)ひ君(きみ)金(きん)椎(つい)[109]の陋(ろう)なるを笑(わら)ふなきも、卻(かへ)つてこれ屠沽(とこ)[110]の恩(おん)に報(むく)ゆるを解(かい)するなり[111]。」。すぐれた言葉である。

　　
　　太白の詩[112]にいう。「徘徊(はいくわい)して歌(か)扇(せん)を映(おほ)ふは、月(つき)が雲中(うんちゆう)に見(み)ゆるに似(に)る。相見(あいまみ)ゆるも親(した)しまざれば、相(あひ)見(まみ)えざるにしかず。」。これは遊蕩に関していっているのである。ある家の夫婦に、離散隔絶しながら、毎日会っていた者がいるが[113]、これは何の因果か分からない。郭石洲[114]はいった。中州に李生という者がおり、妻を娶って十日あまりで母が病み、夫婦は交代で看病し、衣の結(ぼたん)を解かぬこと七八か月であった。母が歿した後は、謹んで礼法を守り、三年奥で寝なかった。後にたいへん貧しくなり、ともに妻の実家に頼った。妻の実家も暖衣飽食できるだけで、建物は多くなかったので、一室を掃除して留まらせた。一月足らずで、外姑(しゅうとめ)の弟がはるばる身を寄せ、母を送ってきて姉に頼った。容れられる部屋がなかったので、母と娘をともに一室にし、李生は書斎で榻を別にし、朝晩案(つくえ)をともにして食らうばかりであった。二年後、李生は入京して功名を求め、舅も家族を連れて江西で幕客となった。後に手紙を得たところ、妻はすでに亡くなったとあった。李生は意気沮喪し、ますます困窮して自活できず、舟について南下して舅を捜した。舅はすでに別に主人を易え、他の所についていっていた。身を寄せる場所[115]がなく、しばらく字を売って口を糊していた[116]。ある日、市中で雄偉[117]な男に遇ったが、男は李生の字を取って見ると言った。「君は書がたいへんうまいから、一年三四十両で、書記となってくれるか。」。李生は望外の喜びで、ともに舟に乗った。煙水は渺茫として、どこだか分からなかった。家に着くと、供張[118]もたいへん盛んで、頼まれた文章を見ると、緑林の強盗であった。どうすることもできず、しばらく身を寄せた。後患があることを慮り、偽って本籍姓名を易えた。主人は性格が豪侈で、声伎[119]は前に満ち、あまり客を避けなかった。つねに楽を奏でてかならず李生を召した。たまたま見ると、一人の妾がたいへんかれの妻に似ていたので、幽鬼かと疑った。妾もしばしば李生を見たが、旧知のようであった。しかしたがいに一言も通じようとしなかった。そもそもかれの舅は江を旅していて、たまたまこの盗人に奪われた。盗人は妻の器量がよいのを見ると、ともに攫って去った。舅は大いに辱められたと思い、急いで薄い棺を買い、いつわって女が負傷して死んだと言い、哭する振りをして納棺し、載せて帰ったのであった。妻は死を恐れて操を失い、すでに盗人の妾となっていたので、ここで遇ったのであった。しかし、李生は妻がすでに死んだと信じており、妻も李生が姓名を改めたことを知らず、貌が似ているのかと疑い、二人とも見過ごしていた。おおむね三五日にかならず一見し、見慣れて目を合わせもしなかった[120]。このようにして六七年たった。ある日、主人は李生を呼んだ。「わたしは事が敗れようとしているが、君は文士だから、かならずしもこの難をともにすることはない。これは黄金五十両だから、持ってゆき、某処の荻の茂み間に隠れろ。兵が退いたら、すぐに漁舟を捜して帰れ。この地の人はみな君を知っているから、かれらが送らぬ心配はない。」。そう言うと、手を揮って急いで去って隠れさせた。まもなく、哄然と格闘する音が聞こえた。その後、呼ぶのが聞こえた。「盗賊はすでに全隊が帆を揚げて去っていたが、金帛と婦女を没収した。」。時にすでに暗く、火光の中を窺い見ると楽伎[121]たちはみな披髪肉袒し、後ろ手に縛られ、頚を繋がれ、鞭と杖で駆られていった。この姫も中にいたので、驚き恐れて戦慄し、心が悲しくなった。翌日、島には誰もいなかったので、波止場にぼんやりと立っていた。しばらくすると、突然一人が小舟に棹さしてきて叫んだ。「某先生でしょうか。大王はもとより恙ないので、先生を送り返しましょう。」。ゆくこと一昼夜で、岸に着いた。捜索に遭うことを恐れ、金を懐にして北に帰り、着けば舅はすでに先に帰っていたので、もとどおりその家に住んだ。持っていた物を売り、だんだん裕福になった。思えば夫婦はきわめて愛しあっていたのに、結婚して十年間、一月も枕席を共にしなかった。今はやや財産を持っていたので、薄い棺で葬るに忍びなかった。良い棺に易えようとし、その遺骨を一見しようとするのも、夙昔の情であった。舅はつとめて阻んだが止められず、言葉に窮して事実を吐いた。急いで豫章[122]にゆき、楽昌の鏡[123]を合わせることを願った。捕らえた楽伎は、分け与えられてすでに久しく、どこを流落しているか分からなかった。つねに思いかえせば、六七年間、咫尺千里で、惘然として失ったかのようであった。さらに、捕らわれた時の縲紲鞭笞のありさまを思いかえし、その後の苦難も、いかばかりであったか知れなかったので、つねに断腸の思いであった。それからは娶らなかった。後に僧になったことを聞いた。戈芥舟[124]先輩が言った。「この事は伝奇を作れるが、惜しむらくは結末がなく、『桃花扇』と等しいことだ。曲が終わっても、江上に峰が青いのを見ず[125]、緜邈[126]として情を含むのは、まさに煙波が尽きず、結局人の怊悵(かなしみ)を増すことを免れないことにある。」。

　　
　　金可亭がいった（浙江の金孝廉で、名は嘉炎[127]である。金大司農と同姓同号であるが、別人である。）、趙公という者がおり、官は監司[128]であった。晩年、家に居り、紫桃という下女を得たが、寵を専らにし、他の妾は夜伽することがなかった。紫桃も従順によく仕え、呼べばかならず傍らにおり、百に一つの失敗もなかった。趙公はもとより聡明で、異常があると疑い、枕辺でつよく詰した。紫桃はみずから狐であることを認めたが、宿縁は公に侍するべきで、公に害がなかった。親しむことは久しかったが、言わなかった。家に園亭があり、ある日、二つの部屋の間に立って紫桃を呼ぶと、二つの部屋からそれぞれ一人の紫桃が出てきたので、たいへん驚いた。紫桃は謝して言った。「わたしは分形[129]でございます。」。たまたま春に郊外に杖をつき、道士に逢えばともに語ったが、たいへん筋が通っており、心はすこぶるうちとけた。来たわけを尋ねると、言った。「公のために参りました。公はもともと謫仙で、期限が満ちましたら三島[130]に帰られるはずでしたが、今、金丹はすでに狐に盗まれていますので、また帰られず、ふたたび修行しなければ、寿命も減る心配がございます。わたしは公のもとの侶(つれあい)ですので、公にお会いしにきたのでございます。」。趙公は紫桃の事に気付き、迎えてともに帰った。道士は広間に踞坐[131]し、筆を求めて護符を書き、声を伸ばして長嘯した。邸内は紛紛擾擾[132]として、数十の紫桃がおり、容色衣飾は、すこしも差がなく、庭に跪いていっぱいになった。道士は呼んだ。「本物の紫桃は出てこい。」。人々は顧みて言った。「本物はおりません。」。さらに呼んだ。「もっとも先の紫桃が出てこい。」。一人の女が額づいて言った。「わたくしでございます。」。道士は叱った。「趙公の丹を盗んだことからしてよくないのに、さらに仲間を招き、どうしてもその修行を邪魔しようとするのは、どうしてか。」。女は答えた。「二つのわけがございます。趙公は前生で、煉精[133]すること四五百年、元関[134]は堅固で、交代でつぎつぎに取るのでなければ得られません。しかし趙公は碌碌とした者ではなく、美人たちが大勢で入ってくるのを見ますと、かならず蠱惑を覚え、断じて納めようとしなかったのでございます。そのため終始同じ姿に化し、その跡を隠したのでございます。今、事はすでに露顕しましたので、散じて去ることを願います。」。道士は手を揮って出させ、趙公を顧みて太息した。「小人が媚を売るとき、並んで進めば、君子はそれを受けいれません[135]。しかし、一人の小人が君子の隙を伺い、君子の好みに合わせ、多くの小人たちが従って一人の小人をかげで助ければ、君子は気づきません。『易・姤卦[136]』の初六は、一陰がはじめて生じ、その象は『金柅[137]に繋ぐ[138]』です。『柅』とは車を止めるもので、止めるべきことを示しています。止めなければ、初めは霜を履んでいても、だんだん堅い氷となり[139]、だんだんと『剥卦[140]』六五になります。今日の事は、このことか。しかし、隙がなければ、小人も伺えず、好むものがなければ、小人も合わせられません。千金の堤も、蟻の穴によって潰れるのは、罅があるからでございます。公はさきに誤って傍門[141]に関わり、容成[142]の術を講じようとし、その後、艶冶を貪り、その初心を失い、嗜欲は日に日に深くなりました。そのため、妖物はそれに乗じて群れ集まったのでございます。禍の原因は自分から起こったのであり、かれに何の咎めがございましょう。「ここで始まってここで終わる[143]」のも、もとよりその理でございます。駆って責めないのは、そもそもこのためでございます。わたしは来るのがやや遅く、公事にすでに益がないが、それから気を引き締めて清静[144]にすれば、なお九十翁になれましょう。」。再三言い含め、瞥然として去った。趙公は後にほんとうに寿命が八十余となった。

　　
　　哈密(ハミ)の屯軍[145]は、馬を西北の深山で牧することが多かった。屯弁[146]がいって考牧[147]する時、途中つねに一軒の民家で休んだ。主人は果物を整え、様子はたいへん恭しかった。しばらくするとだんだんうちとけた。しかしかれは隣人もなく、農耕もせず、空山で寂しくし、どうして生計を立てているのだろうかとひそかに怪しんだ。ある日、たまたまそのわけを詰すと、翁は弁明する言葉がなく、言った。「ほんとうは蛻形[148]の狐なのでございます。」「狐は人に近づくことを好むのに、なぜ人里から離れて住む。狐は一族を集めることが多いのに、なぜ一人でいる。」「道を修めるには、かならず世外に隠棲し、はじめて精神が堅く定まるのでございます。街に往来すれば、嗜欲が日々生じ、煉形服気[149]するのは難しく、人を惑わして採補[150]し、外丹を採ることを免れません。害がひどく多ければ、結局、天律を犯しましょう。墓地に往来するにいたっては、仲間がたいへん多く、蹤跡は明らかで、狩猟を招き易く、もっとも害から遠ざかる方法ではございませんので、どちらもしなかったのでございます。」。屯弁はその素朴さを喜び、疑い恐れることもなく、約して兄弟となった。翁も欣然としていた。出るとすぐ戻り、塀を巡って環視した。翁は笑った。「姿を変えた狐でしたら、その家はすべて幻ですが、蛻形の狐でしたら、その家はすべて真です。老いぼれは屍解してから、久しく人の世に帰り、これらはすべて茅を葺き、木を伐り、手ずから造営したものです。海市のようだと疑われないでください。」。他日ふたたびゆくと、屯軍が告げるには、月の明るい晩、人の姿は見えないのに、石壁にしばしば二人の影が現れるが、身長はともに一丈あまりなので、鬼物かと疑い、牧廠[151]に改めようとした。屯弁が尋ねると、この翁は言った。「これはいわゆる木石の怪、夔魍魎でございます。山川の精気が、翕合して生じ、はじめは泡か露のよう、しばらくするとだんだん煙か霧のようになり、しばらくすると凝集して形をなしますが、なおも空虚で中味がなく、月下にその影が見えるばかりなのでございます。さらに百余年すれば、気が足りて中味を持ちましょう。二物はわたしも見たことがございますが、人に害をなしませんので、避ける必要はございません。」。後に屯弁がその事を漏らすと、狐は移って去った。二つの影だけは今もなお残っている。これは哈密(ハミ)の徐守備が語ったことである。徐が言うには、久しく屯弁とともに見にゆこうとしているが、往復するのに数日掛かるので、まだ暇がないということであった。

　　
　　烏魯木斉(ウルムチ)の牧廠で、ある晩、大風雨があり、馬で驚いて逃れたものが数十頭あった。追いかけたが姿はなかった。七八日後、哈密(ハミ)の山中から出てきた。烏魯木斉(ウルムチ)の馬だと分かったのは、馬に烙印があったからである。その地は哈密(ハミ)から二十余程で、どうして十日足らずですぐに着けよう。穹谷幽岩、人跡の到らぬところに、ほかに捷径があることを知った。大学士温公が台軍[152]数人を遣わし、かれらは食糧を包んで探りにいったが、食糧が尽きてみな空しく返り、結局、路は分からなかった。ある人は言った。「台軍は路が遠いのを憚り、近くの山で逗留すること十日、偽ってすでにいったと言ったのだ。」。ある人は言った。「台軍は山を伐って路を開く労を憚り、さらに台を移す運送の費用を恐れ[153]、隠して言わなかったのだ。」。ある人は言った。「哈密(ハミ)から、辟展迪化[154]（烏魯木斉(ウルムチ)の城名で、今はそれにちなんで州名となっている。）まで、人煙は接し、村落市廛、郵伝[155]館舎[156]は内地のようで、さらに沙漠は平らかで掌のようである。改めて山を行けば、路は険阻で、地も荒涼として、万事快適でないので、望まない。」。ある人は言った。「途の大半を減らせば、台軍の数、駅馬の数、及び一切の運輸の費用は、みな大半を減らせ、官吏にすこぶる損があるので、ひそかに掣肘しているのだ。」。これらはいずれも知ることができない。しかし、七八日で馬が見つかった事は、不可解である。ある人はさらに説いた。「馬を失うと罪が重いので、司牧[157]が牢(いけにえ)と醴(うまざけ)で山神に祈ったため、神が駆り、馬がはやく出たのだ。ほかに路があったのではない。」。しかし、神は駆ってゆかせることができるのだから、駆って返してはどうか。

　　
　　しもべの王廷佑の母がいった。幼い時に家が衛河[158]の側にあったが、ある日、朝起きると、両岸で騒ぐ声が聞こえた。時に水がにわかに漲っていたので、河が決潰したかと疑い、よろよろと出て見ると、河の中に一頭の羊がおり、頭を挙げて水上に出しており、大きさは五斗の栲栳[159]のよう、急ぐこと激箭[160]のよう、流れに従い、北に向かって去った。みな言った。「羊神[161]が通った。」。わたしはこれは蛟螭[162]の類だから、首が羊のようであったのだと思った。『埤雅』[163]に龍の九似を載せているが、やはり「首は牛のようである」と称している[164]。

　　
　　衛河の側に住む者が言うには、河が決潰しようとするとき、流れの中央の水はかならず盛り上がり、両岸より高くなるが、それがどこになるのかは分からない。棒椎魚[165]が一箇所に集まれば、集まった処は、一二日以内に決潰する。父老の言い伝えでは、調べると百に一つの外れもないそうである。棒椎魚とは、その形を象って名づけたものだが、平時はどこにいるか分からず、網釣[166]にもこれを捕らえたことがあるものを見たことがないが、河がにわかに漲ると群れてくる。堤を護っていた者が見たのだが、その首で岸に触れ、万本の杵がともに築(つ)いているかのようであれば、決潰するのはまもなくであった。これはどうして数(さだめ)でなかろうか。しかし、唐尭[167]の洪水は、天命であり、神禹が山ごとに木を伐ったのは[168]、人事である。聖人だけは天を知られ、聖人だけは天に過失を推しつけず、事に先んじて備え[169]、事に後れて救い[170]、収拾することができなくても、かならず挽回することがある。

　　
　　亡き曽祖母王太夫人が八旬になった時、賓客が堂に満ちていた。しもべの李栄が茶と酒を管理していたが、滄酒[171]半罌を盗み、部屋に隠した。夜に帰って寝ようとすると、罌の中から鼾がしたので、怪しんで揺らした。すると罌の中でたちまちこう語った。「酔って寝ようとしているのだから、邪魔するな。」。狐魅であると知り、怒ってひどく揺らした。鼾はますます激しくなった。手を入れて引けば、男の首が罌の口に出てきたが、だんだんと斗(とます)ほどの大きさになり、だんだんと栲栳ほどの大きさになった。栄がかれの頬を打てば、首を振って一揺らしし、罌とともに転がり、砰然[172]と音をたて、甕に触れて砕けたが、すでに涓滴も残っていなかった。栄が足踏みして大声で罵ると、梁の上で語るのが聞こえた。「長孫は無礼だ（長孫とは、栄の幼名である。）。おまえが盗むのを許したのに、わたしが盗むのを許さないのか。おまえが酒を惜しむなら、わたしも酒にたえないから、今からおまえに還そう。」。かれの項に近づいて吐いたところ、頂から踵まで、ほとんどすべてびしょびしょになった。これはわたしが記した西城の狐の事と似ているが[173]、さらにひどいいたずらである。しかし小人は貪欲で、一つとして悪事をしないことはないから、やや懲らしめるのは、過ちではない。

　　
　　安州[174]の陳大宗伯[175]は、邸宅が孫公園（その後、廃墟となった、孫退谷[176]の別業である。）にあった。裏に楼があって雑物を貯えており、狐がいると言われていたが、あまり姿や声を現さなかった。ある日、罵っているかのような声がし、たちまち乱雑に牙牌[177]が楼下に擲たれ、琤琤[178]として電のよう、数えると三十一枚で、二四(ろく)の一枚だけが欠けていた。二四(ろく)と么二(さん)を、牌家[179]は至尊（合わせると九の数になるからである[180]。）といい、得る者は大勝なのであった。この二扇を争ったか、怒って棄てたかと疑った。わたしは子供の時かつてみずから見た。杜工部は大声で五白と叫び[181]、韓昌黎は博塞(かけごと)[182]で財を争い、李習之[183]は『五木経』[184]を作り、楊大年[185]は葉子戯[186]を好み、たまたま興を寄せ、これを借りて気晴らしすることは、風流の名士も、しばしば免れないことである。そこで「元邱校尉(きつね)」[187]さえもまた流れに従っているのである。わたしは性来迂腐なので、所詮雅戯でないと思う。

　　
　　蒋心余[188]が言った。ある賓客が他人の湖遊覧の約に赴いたところ、画船[189]に簫鼓[190]、紅い裙でお酌する者がいたが、じっくり見ればかれの妻であった。家から二千里であるのに、どうして流落してこちらに来たのか分からず、辱められるのを恐れ、黙って言おうとしなかった。妻は知らないかのよう、恐れる気配はなく、恥じる気配もなかった。琴を弾き、曲を作り、袖を引き、觴を飛ばし、恬然としていたが、声だけは似ていなかった。さらに妻は笑う時、口を掩うのを好んでいたが、この妓女はそうでないところも、似ていなかった。しかし右腕の紅い痣が栗の実のようであるのは、そっくりであった。おおいに惑って理解できず、草草に宴を終え、旅装を整えて帰ろうとした。するとにわかに家書が来たが、妻が半年前に死んだということであった。幽霊を見たかと疑ったが、深く考えなかった。親しいものはかれの様子が普段と違っているのを見ると、こっそりと再三質し、はじめてそのわけを知ったが、やはり貌がたまたま同じだったのだと思った。後に聞けば、一人の遊士[191]が呉越の間に往来していたが、面会を求めず[192]、交遊を通じず、経営貿易することもなく、姫媵(めかけ)数人だけを連れて門を閉ざしていた。時折一二人を出し、媒婆に頼んで売らせていた。婦女を売る者だと思い、関わりを持たず、訪ねなかった。ある日、たいへん慌てた様子で、急いで舟を雇い、天目山[193]に赴こうとし、高徳の僧に法事することを求めた。僧はかれが疏語[194]掩抑[195]支離[196]であったので、何事か分からなかったが、さらに「もともとは仏伝でございますから、仏佑を求めるべきでございます。慈雲[197]の庇護にお頼りし、雷部の刑を�ｪ大にすることを願います。」と言ったので、ほかに事情があろうかと疑い、布施を還し、謝して去らせた。途中、雷で死んだ。後に、従者がすこし事情を漏らし、言った。「この人は、紅衣の蛮僧に従って異術を授かり、呪文を唱え、あらたに納棺された娘の屍を取ることができました。さらに妖狐淫鬼を捕らえ、その屍に附いて生きさせ、すぐみずからに侍させました。さらに新らしい者が来れば、旧い者を人に転売し、利を得ることは数えきれませんでした。神を夢みたところ、年貢の納め時で、天誅に服するべきだと責められましたので、懺悔して免れることを求めましたが、できなかったのでございます。」。この客の妻は、この人に捕らえられたかと疑われた。理藩院[198]尚書の留公[199]も言った。紅教喇嘛[200]には婦女を召す術があるが、黄教[201]は斥けて魔道としている。

　　
　　外祖安公は、前母安太夫人の父であった。歿した時、家はなお盛んであったので、諸舅は多くの金宝を殉葬した。「璠璵」の戒めを述べる人がいたが[202]、顧みなかった。さらに室を墓地の塀の外に築き、数人の壮夫[203]で巡邏し、柝(ひょうしぎ)と鈴の音が、徹夜で響きあっていた。ある人は、「『幟を立てて盗(ぬすびと)を招く』とはこのことだ。」と言ったが、顧みなかった。その後、ほんとうに発かれた。そもそも盗人は見張りが昼寝しているのに乗じ、青い蓑を着け、垣を越えて草叢に伏し、その入ったことに気づかなかった。夜になり、椎と鑿で棺を破り、柝(ひょうしぎ)を二度撃てばやはり二度椎で打ち、柝(ひょうしぎ)を三度撃てばやはり三度椎で打ったので、かえって鈴や柝(ひょうしぎ)のせいで音が聞こえないのであった。伏して夜が明けようとする頃になると、鈴と柝(ひょうしぎ)はすっかりやんだので、垣を越えて逃れた。そのため、かれが出たことに気づかなかった。大きさが龍眼[204]の核のような含珠[205]も、頦(おとがい)を裂いて取りさった。先に聞き、お上に告げた。大捜索して間もなく、諸舅[206]はともに外祖を夢みた。「わたしは前生でこの三人の財を借り、今回は償いを得たので、捕まえようとしても捕まらない。しかしわたしはかれを殺していないのに、ほしいままに残虐さを示し、刃でわたしの頤(おとがい)を切断したのだから、報いを受けるべきだ。そうすればわたしは冥府ですっきりしよう。」。一月あまり後、一人の盗賊を捕らえたが、珠を取った者であった。珠は屍の気に蝕まれ、すでに黒ずんで一銭にも値しなかった。その二人の盗賊は、姓名をよく知られていたが、千金の懸賞を掛けて捕らえようとしても捕らえられなかったので、夢の言葉は嘘ではなかった。

　　
　　表叔の王月阡[207]がいった。近くの村の某甲が一人の妾を買ったが、二か月あまりで、逃げてしまった。ところが、その父は、妬まれ、殺され、屍を焼かれたと訴えた。たまたま県官は都で需次[208]していた時、妾が逃げたので訴訟したが、事情はこれと似ていた。昔の憤りを起こし、徹底調査したところ、誣告したとの自供を得た。計略は逞しくすることができなかったが、転売したことはかたく認めなかった。そもそも誘拐逃走の実証がなかったので、追究するのは難しく、妾は結局行方が知れなかった。某甲の妻の弟は隔たった県に住んでいた。妻は帰寧したとき、弟があらたに妾を娶ったことを聞き、会おうとしたが、妾は戸を閉ざして出ようとしなかった。その弟はみずから引いて来たが、一見すると、妾は地に倒れ、額づいて死罪と称した。かれはまさにいなくなった妾であった。妻の弟は某甲の元妾だったので、納めようとせず、某甲はかつて妻の弟に侍していたので、やはり納めようとせず、百回鞭うち、老いた奴隷に娶わせ、爨下[209]の女で終わった。そもそも富豪が訴訟し、話が帷薄[210]に関わると、一朝一夕には結着することができないが、たまたまこの県官にあたり、女が転売され、深く閨房に隠されると、探し求めることは難しいが、たまたまその妻の弟にあたったのである。謀略はさまざまで、巧みだといえるが、造物はさらに巧みなのである。

　　
　　門人の葛観察[211]正華[212]は、吉州[213]の人であった。語るには、その郷里に数人の商人がおり、騾綱[214]を駆り、山間を進んでいた。見ると樵径(そまみち)に一人の道士が立っていたが、青袍[215]棕笠[216]をつけており、麈尾[217]でその中の一人を招いて言った。「姓名は何という。」。くわしく答えた。さらに本籍は何県かと尋ねると、言った。「おまえだったのか。おまえはもともと謫仙[218]で、今は期限が満ちたので紫府[219]に帰るべきなのだ。わたしはおまえの本師[220]で、おまえを導きにきたので、おまえはわたしについてくるべきだ。」。この人はひそかに思うに、平生一字も知ることができず、このように魯鈍ならば、仙人の転生であるはずがなく、父母もすでに高齢で、かれらを棄てて仙人になろうとする理はなかったので、堅く謝してゆかなかった。道士は太息し、さらに人々を招いて言った。「かれは堕落しているから、一人がその位を補うべきだ。皆さんに遇ったのは、縁があるということだが、わたしに従ってゆける者がいるか。千載一遇の機を、失ってはならない。」。人々も疑い、驚き、応じる者はいなかった。道士は咈然[221]として去った。人々は逆旅にゆき、この事を人に告げた。ある人は言った。「仙人が導いていたのに、ゆかなかったのは惜しい。」。ある人は言った。「妖物かも知れないから、ゆかなかったのはよい。」。物好きがおり、翌日、樵径(そまみち)を巡って探り、ようやくある嶺に登ったところ、草叢に残骸が散乱しているのを見たが、あらたに虎に食らわれた者であったので、慌てて帰った。この道士は虎倀[222]だろうか。もとよりゆえなくして常ならぬ福を致すことは、貪欲な者が喜ぶことだが、明哲な者が恐れることである。ゆえなくして非分の思いをしても、僥倖は偶然であり、死亡は[223]必定である。この人の魯鈍さは、まさにこの人の聡明さであるといってよい。

　　
　　宋人が蟹を詠んだ詩にいう。「水清ければ詎(なん)ぞ免れん双螯の黒きを、秋老いて逃れ難し一背の紅きを[224]。」これは朱勔[225]を借りて貪婪がかならず敗れることを寓している。しかし、他の動物は庖厨に供せられる時、死んでいるのに、蟹だけは生きながら釜や甑に投ぜられ、ゆっくりと蒸され、煮られる。沸いてから熟するまで、どんなにはやくても数刻を越え、その苦痛は死を求めても叶わないものである。宿業が深く重くなければ、その中に堕ちないと思われる。言い伝えでは、趙公宏燮[226]が直隷巡撫の官にあった時（時に直隷にはなお総督が設けられていなかった。）、ある晩、家中ですでに死んだ童僕媼婢数十人を夢みたが、階下にぐるりと跪き、みな額づいて命乞いし、言った。「わたしたちは生きていた時、養育の恩を受けながら、たがいに朋党を結び、ご主人さまを欺き、しばらくすると枝が蔓り絡み、根は固くなり、堅く破れない状態となりました[227]。やや露顕することがあっても、異口同音にし、たくみに怒りを解き[228]、気づいていてもどうすることもできないようにさせました。さらにしばらくしますとひそかに掣肘し、人々の意の通りにしなければ、一事も行えなくなりました。この罪悪により、堕ちて水族に入り、代々湯鑊[229]の苦しみを受けているのでございます。翌日、主人が蟹の膳を供しますが、わたしたちの後身でございますから、どうかお許しになりますように。」。公はもともと仁慈であったので、夜が明けると、夢を料理人に告げ、蟹をすべて水に投じるように命じ、礼懺[230]し、功徳をなさせることにした。時に霜蟹は肥美であったので、邸宅に仕えるものたちに、もっともうまいものを精選させていた。奴隷たちはみなひそかに笑って言った。「旦那さまは狡猾で、この言葉を造って人を恐れさせたのだ。わたしたちはどうしてあなたに騙されようか。」。校人の烹[231]に倣い、すでに放ったと告げ、さらにその功徳銭[232]を横領し、仏事をすでにすべて告げた。趙公は結局それを知らなかった。このように悪事をするのは、もとよりかれらの常態で、要は数十の童僕や婆やたちも、この陋習を留め、たまたまみずからをそこなったのだ。「君を招いて甕に入れしむ[233]」とは、このことか。

　　
　　魂が魄と交わって夢となるが[234]、結局、その理由を明らかにすることはできない。亡兄晴湖は、かつて高唐の神女[235]の事を詠み、「他人夢に我を見るも、我もとより知るを得ず。我夢に他人を見るも、人またいづくんぞこれを知らん。孱王[236]おのづから幻想、神女寧ぞ幽期[237]せん。いかんぞ巫山の上、雲雨今なほ疑ふ。」といったが、瑶姫[238]のために謗りを雪ぐに足りる[239]。しかし、ほんとうに他人の夢を見る者がいる。しもべの李星は、かつて月夜に村外で涼んでいた。見ると、とおくで隣家の若い女が、棗の林の間に隠れ、畑を番していたので、盗賊を防いでいるのかと思った。その舅姑および夫がともにいることを恐れ、呼んでともに語ろうとしなかった。すると、女はにわかに塍(あぜ)を巡って西へ半里ばかりゆき、秫(もちきび)の茂みに入った。密会しているのかと疑い、ますます近づこうとせず、遠くから眺めるばかりであった。すると、女はにわかに秫(もちきび)の茂みを穿って出、数歩ゆくと、水に阻まれて返った。そして、しばらくぼんやり立つと、さらに水を巡って北に百余歩ゆき、泥濘に阻まれてまた返り、折れて東北にゆき、豆畑に入り、きざぎざと[240]進み、何度も転び躓いていた。路に迷っていることが知れたので、はるかに叫んだ。「×嫂[241]、深夜にどちらへゆかれます。北一帯にはもう路がございませんから、泥濘に陥りましょう。」。女は振り返って答えた。「わたしは出られませんから、×郎[242]、わたしを導いて還してください。」。急いでいったが、すでに見えなくなった。幽鬼に遇ったことを知り、心は驚き、骨は震え、狂奔して家に帰った。そして、妻とその母が門外の塀の下に坐しているのを見ると、言った。「たまたま糸紡ぎに疲れて眠り、夢みると、林野の中を歩いており、迷って出られませんでした。聞くと、×郎が後ろでわたしを呼んでいましたので、突然目ざめたのでございます。」。星が見たことと逐一合っていた。そもそも疲れが極まり、神(こころ)が不安定になると、真陽[243]が飛び、離魂するに到るのである。魄が体と離れるのは、鬼類であり、神識[244]が隠れたり現れたりしてみずから幻想を生ずる者と異なる。そのため見られる人がいることがあるのである。独孤生の夢遊[245]は、まさにこの類である。

　　
　　ある州牧が貪婪のかどで誅戮に服した。死んだ後、州民はかれの種種の冥報を喧伝し、書ききれないまでになった。わたしは、これは怨恨不平によって、訛言(でたらめ)が作られているのだと言った。亡兄晴湖は言った。「天地は無心で、見たり聴いたりするのは民だ[246]。民がこのようにいうのだから、やはり危惧すべきであったのだ。」。

　　
　　田舎の媼は食事して痞えた者に遇うと、その物を焼いて灰にして存性[247]し、水を混ぜて服させる。わたしははじめはそれをでたらめであるとして退けたが、しばしば効化があった。くわしくそのわけを考えると、これらはすべて油脂の痞えたものであった。そもそも油脂がさきに凝っているとき、物がやや多過ぎれば、遇ってかならず滞るのである。薬物が胃に入れば、かならずその同じ気のものに合わさるのである。そのためある物の灰は、おのずからある物の痞えた処にゆくことができるのである。油脂は灰を得るとすぐ解け、灰がそこに到れば、滞っていた者はおのずから動き、灰で垢を洗うようなものである。脾弱[248]の痞え、胃満[249]の痞え、気鬱[250]の痞え、血瘀[251]痰結[252]の痞えならば、灰で除けるものではない。

　　
　　烏魯木斉(ウルムチ)の軍校王福がいった。以前西寧で、同じ隊の数人と山に入って狩りをした。はるかに見ると、山腹を蛮人の女が一人で歩いており、四匹の狼がその後に従っていたので、狼が襲って齧ろうとしており、蛮人の女にはそれが見えていないと思い、ともに叫び騒いだが、蛮人の女は聞いていないかのようであった。一人が弓を引き絞って狼を射ようとし、誤って蛮人の女に中てたところ、もんどりうって山の下に落ちた。人々がまさに驚き悔やみ、見たところ、一匹の狼であった。四匹の狼はすでに逃れさっていた。妖獣は姿を変え、人を誘って食らうが、不幸にして殺されたのであった。悪業がすでに満ちていたので、そうさせたのではあるまいか。