鐫新編全相楊家府世代忠勇通俗演義志伝三卷

●孟良が馬を連れて三関に戻ること

さて孟良は馬を走らせ、燕州へは行かず、三関にむかって進みました。邏卒は幽州総督に急報し、総督は蕭后に急いで上奏しました。后は大いに驚き、すぐに蕭天右を遣わし、軽騎五千を率いてこれを追わせました。天右は命を受け、軍を率いて孟良を追いました。孟良は途中まで走ってゆき、ふと振り返りますと、後ろには土埃が巻き起こっておりましたので、きっと太后が兵を出して追い掛けてきたのだと考え、馬に鞭打ち、三関の地にゆきました。斥候ははるかに孟良が馬を走らせてきたのを眺めますと、いそいで六郎に報せました。六郎はいそいで岳勝らに命じ、馬を出させ、様子を看させました。岳勝が命を受け、鎧を纏い、馬を出し、眺めますと、孟良は大声で叫びました。「遼人がぴったりと追ってきたから、はやく交戦しにきてください」岳勝は言いました。「そなたは関にゆき休むがよい。われらが遼の兵を迎えよう」孟良は寨に入ってゆきました。岳勝は隊伍を列ねました。するとたちまち蕭天右が刀を揮い、馬を走らせて到着し、声を荒げて罵りました。「賊どもめ。わしの驌[馬霜]良驥を盗むとは。きちんと還せば、おまえたちの残りの命を許してやろう。さもなくば、三関を踏んで平らにし、はじめて軍を戻すであろうぞ」岳勝は怒りました。「賊奴めが。さようなことを抜かすとは」刀を舞わせ、馬を躍らせ、天右を捕らえようとしました。交戦すること十数余合で、焦賛が脇から飛び出し、六郎も軍を駆り、後ろから襲い掛かりました。蕭天右はそれを見ますと、馬を走らせ、逃げ戻りました。岳勝らが勢いに乗って追撃しますと、北兵は大いに敗れましたので、澶州の境まで追ってゆき、軍を退いて戻りました。蕭天右方は十余騎が戻っただけでした。

さて六郎は寨の中にゆきますと、孟良に尋ねました。「どうして一人で幽州へいったのだ」孟良がそのわけをくわしく話しますと、六郎は言いました。「そなたには苦労を掛けたな」そして人に命じて骸骨を運ばせ、先祖の墓に埋葬し、驌[馬霜]良驥を朝廷に献上しました。人を汴京にゆかせますと、近臣が真宗に引奏[1]しました。真宗は馬を見ますと大いに悦び、軍臣に言いました。「この馬は本来朕に献上されるものだったのが、遼に奪ってゆかれたもの。今また奪い戻されてきたということは、わが国に人物があるということを示せよう。卿らは、何をもって楊郡馬を遇するべきであると思うか」八王は言いました。「酒帛の類を与えて、その軍を労わればよろしいでしょう」帝は上奏を受け入れ、人に緞子、羊、酒を持たせ、佳山寨の三軍を労おうとしますと、たちまち近臣が上奏しました。「澶州の守臣が遼軍の進攻がはなはだ急であることを上奏し、朝廷が兵を出し、防がれることを乞うております」真宗は上奏文を看ますと、群臣に尋ねました。「遼軍が澶州を侵しているが、こたびは誰が兵を率いてこれを討つのだ」八大王は言いました。「佳山寨は遼からは遠くないので、楊郡馬に兵を率いて伐つように命じましょう」帝は上奏を受け入れ、使臣に勅旨と労いの品物を持たせ、三関へ届けにゆかせました。

使臣は日ならずして寨に着き、六郎らが叩頭して勅旨を受けますと、朝廷の緞子を諸将に分け与えました。六郎は言いました。「今、遼は澶州を攻め、皇上はわたしに防ぐようにとお命じになった。おまえたちのうち、誰が兵を率いて先にいってくれるか」孟良は言いました。「禍はわたくしによって生じたものでございますから、先にいき、敵を迎えたく思います」六郎は言いました。「天右は遼の名将だから、兵を率いて先にいくなら、計略を用いて敵を迎えねばならないぞ」孟良は言いました。「すぐに捕らえてまいりましょう」六郎は言いました。「そなたもきちんと防備をし、軽率に動いてはならないぞ。わたしはすぐに軍を率いて後ろから押し寄せよう」孟良は兵五千を率いてゆきました。六郎はさらに岳勝を呼んで言いました。「そなたは兵三千を率いて、澶州に潜伏し、戦いが半ば酣になったら、出撃するのだ」岳勝は計略を授かりますと去ってゆきました。六郎はみずから歩兵三千を率い、後から援護することにしました。

遼の兵は天右に急報し、天右は耶律第に言いました。「太后さまの良驥を盗んだのは、こたび調べたところでは、三関の大盗の孟良であった。聞けばあのものは軍を率いてわれらと交戦しにきたとのこと。そなたらはわたしを助けて三関を平定し、馬を取り戻せば、かならずや太后さまに上奏し、手厚く褒美を加えていただくことにしよう」耶律第は言いました。「そのものは馬盗人で、手強いことはございますまい。われらはかならずそのものを捕まえて、元帥さまのお心を慰めてさしあげましょう」そう言いますと、天右は命令を下して陣を列ねさせました。すると宋の兵が風のように殺到しました。孟良は全身に鎧を纏い、斧を引っさげ、馬を出し、陣頭に立ちますと、言いました。「賊奴めが、退かぬとは、殺されにきたか」天右は大いに怒り、罵りました。「馬盗人さえも出てきて戦うとは、ほんとうに恥ずべきことだ」槍を擡げて孟良を捕らえにきました。孟良は迎え撃つこと数十合、勝負は着きませんでした。蛮将耶律が馬を走らせ、助太刀しますと、たちまち岳勝の軍が山の後ろから出撃し、耶律第と馬を交えました。遼、宋両軍がしばらく激しく戦いますと、天右は馬を引き、逃げる振りをしました。孟良は馬を走らせて追いつき、斧を揮って真正面から斬りかかりますと、金色の光が輝き、傷つけることができませんでした。孟良は斬っても斧が入らないので、大いに驚き、馬を退き、逃げました。遼兵が追いかけてきますと、宋の兵は四方に逃げました。天右は追いかけること一程[2]、前方で殺気が天に漲っているのを見ますと、伏兵があるのを恐れ、軍をひき、陣に戻りました。孟良は寨に戻り、六郎に会い、蕭天右を斬ったときのことを告げました。六郎は言いました。「この世にさように奇怪な人物がいるとは。明日出陣し、様子を看よう」次の日、六郎は陳林、柴敢に命じて寨を守らせ、岳勝に命じて劉超、張蓋を率いて先に戦わせ、さらに孟良、焦賛に命じて王�h、孟得、丘珍、郎千を率いて左右に分かれて出撃させました。諸将は命令を受けますと去ってゆきました。

さて蕭天右は部下に言いました。「孟良、岳勝は勇敢で手強く、部下は剛の者ばかりで、みな闘いに長けている。戦ってばかりでは、いたずらに労するばかりで功績は立てられぬ。策を設けて勝つ方がよいだろう」耶律第は言いました。「元帥さまにはどのような計略がございましょうか」天右は言いました。「南へいくと双龍という谷があり、その中に、細い路が一本だけあり、雁嶺に通じているのだ。まずは誰かが三千の騎兵を率い、谷の入り口に潜伏し、このわしが宋人を欺いて谷に入れたら、すぐ兵を出し、谷の入り口を遮るのだ。宋人が突破して出ようとしたら、たくさんの弓、弩を設けて射れば、半月足らずで、宋人はみな谷の中で餓死するだろう」耶律第はすぐに返事をしました。「わたくしが往きたいと思います」天右は言いました。「そなたが行けば一番よかろう」耶律第は計略を授かりますと、軍を率いて去ってゆきました。さらに黄威顕を呼んで言いました。「そなたは歩兵三千を率いて、雁嶺の上に駐屯し、わたしが軍を率いて出たら、そなたはすぐに石を落として、その下の路を遮断するのだ。さらに多くの旗幟を立てれば、敵は山に登ったり、嶺を越えたりしようとはせぬだろう」英威顕は軍を率いてゆきました。

天右が分担を決めますと、たちまち宋の将軍が寨の外で戦いを挑んでいるという報せがありました。天右は鎧を纏い、馬に乗り、陣を列ねました。岳勝は刀を舞わせながら先に出撃し、大声で罵りました。「斬っても死なぬ囚奴めが。まだ出てきて戦うつもりか」天右は大いに怒り、槍を突き出し、岳勝を捕らえようとしました。岳勝はともに戦うこと数合、孟良、焦賛が左右から出撃しました。天右は三人の将軍と力戦しました。六郎が傍らから槍を突き出して刺しますと、金色の光が迸り出て、刺しても入りませんでした。六郎は考えました。「このものは人間ではなく、妖物に違いないから、計略を設けて捕らえねばならぬ」見れば、岳勝らは天右を刺しまくり、天右は敗走し、三人は天右を追い、逃がそうとしませんでした。六郎は三人が失敗することを恐れましたので、みずからも後を追い、天右によって欺かれ、谷に入ってゆきました。六郎は山勢が険しく、樹木が茂っているのを見ますと、急いで銅鑼を鳴らして軍を退きました。すると谷の入り口で銅鑼と太鼓が一斉に鳴り、喊声が大いに響きました。孟良らは死に物狂いで突破して谷を出ますと、たくさんの弩が一斉に発射されました。宋の兵は射られて傷つく者がはなはだ多かったため、孟良らは退いて谷の中に入りました。六郎は言いました。「おまえたちは血気の勇を頼りにし、ひたすら追撃し、はからずも敵に欺かれ、谷に入って、出るすべがないが、どうしたらいいだろう」孟良は言いました。「あちらに細い路があり、雁嶺に行くことができます。かれらはここから入ってきましたから、きっとここから出てゆきましょう。かれらはわれらが路を知らぬと侮っていますから、われらもこれに乗じて追撃し、そこから出てゆくことにしましょう」六郎は言いました。「細い路があるなら、今すぐに出てゆこう」雁嶺に着きますと、遼の兵が紛紛として嶺の上におり、擂木[3]や滾石[4]でその路を遮断し、さらに山や嶺じゅうに旗幟を立てておりました。焦賛は言いました。「ここは出るのが難しいから、やはり谷の入り口から出てゆく方がよいだろう」六郎は言いました。「それは駄目だ。いたずらに命を損なうことだろう。遼賊は鋭気がまさに盛んだから、突破するのは難しかろう。この中にしばしとどまり、敵が疲れるのを待って、はじめて出撃することができるだろう」岳勝は言いました。「この中に長居をすれば、内には糧秣、外には救援がございませんから、遼の兵が隙に乗じて進撃をしてきた時は、人馬は疲れ、戦うことはできないでしょう。坐して死を待つとはまさにこのことにございます。やはり焦賛の言うことに従って、力を奮って出撃するのが宜しいでしょう」六郎は言いました。「援軍はいるのだが、呼びにゆく人がいないのだ」孟良は言いました。「どこにいるのでございましょう。わたくしが呼びにいきたいと思います」六郎は言いました。「ここは五台山から三十里離れているが、わが兄の楊五郎はかの地の寺で僧となっている。もし兄を呼んでくれば、この囲みはたちまち解けよう」孟良は言いました。「皆さまはこちらで耐えていてください。わたくしはこっそりと谷を出てゆき、ただちに五台山に行き、お兄さまをお呼びしてまいりましょう」六郎は言いました。「そなたが行こうとするのなら大いに結構。もしもわが兄に会ったら、ただちに救いにくるように言ってくれ」孟良は承諾し、蛮人と同じ装いをし、六郎に別れを告げて、夜、ひそかに雁嶺を出ました。するとたちまち蛮兵が夜巡りをしているのに遇いましたので、孟良はかれらを斬り、軍人の鈴を取り、陣の周りで揺らし、大声で叫びました。「しっかり守り、楊郡馬を逃がすでないぞ。しっかり守り、宋の蛮狗を逃がすでないぞ」その時、遼の陣では知る人はありませんでしたので、孟良はそのまま嶺を越えてゆきました。

孟良は嶺を過ぎますと、徹夜で五台山にゆきました。寺の門に入ろうとしますと、一人の行者がおりましたので、孟良は尋ねました。「楊五郎さまはお寺にいらっしゃいますか」行者は言いました。「どなたでしょうか。楊師父のことを尋ねてどうなさいます」孟良は言いました。「それがしはほかでもござらぬ、楊六郎将軍が遣わしてきた者ですので、お取り次ぎいただきたい」行者は五郎の家中の人であると聞きますと、すぐに方丈に招き入れ、五郎に報告しました。五郎は出てきて、会いました。五郎は尋ねました。「そなたは名前を何というのだ。ここにきたのはどうしてだ」孟良は言いました。「わたくしは孟良にございます。近ごろ楊将軍さまにより、幕下に招かれ、ともに三関を守っております。今、遼の兵は澶州を侵犯し、朝廷は楊将軍に命じてこれを討たせましたが、はからずも遼人に欺かれ、双龍谷の中に入られ、伏兵によって谷の中に閉じ込められて、出ることができぬのでございます。今、兵糧はすでになくなり、援軍もございませぬので、楊将軍は特にわたくしを遣わされ、師父にこの災厄を解くことをお願いしにこさせたのです」五郎は言いました。「朝廷に上奏し、兵を出し、救っていただいてはどうか」孟良は言いました。「救援するのは、火を消すことと同じこと、朝廷に上奏し、兵を出すのを待っていては、楊将軍らはこの谷の中で餓死してしまうでしょう。師父さまが近くにいらっしゃるために、お願いをしにまいったのです。師父さまどうか手足(しゅそく)の情[5]を念じられ、しばしおみ足を運ばれますよう。兵士らを救出されれば、黄泉路でも忘れることはございますまい」五郎はそれでも言いました。「わたしは出家した者で、殺生をせぬことを誓った。ふたたび出陣することはかなわぬことだ。それに、軍には馴染んでおらず、槍や乗馬もすぐには思い出せぬから、行っても役に立たぬであろう」孟良は哭きながら訴えました。「師父さまどうか慈悲の心を旨とされ、軍を救いにゆかれれば、大いなる陰徳となり、千回念佛するのに勝ることでしょう。断られませぬよう」五郎は言いました。「出家して多年にわたり、すでに乗馬もないというのに、どうして敵を迎えろともうすのだ」孟良は言いました。「師父が行くのを承知してくださるのなら、馬を得るのは簡単なこと。わたくしは今すぐ佳山寨に戻り、馬を得てまいりましょう」五郎は言いました。「わたしの体はすこぶる重く、並みの馬なら乗ることは難しいだろう。八大王の乘っている千里風、万里雲、二頭のうちの一頭を得れば、山を下り、おまえたちの危難を救いにいくことができるだろう」孟良は言いました。「二頭の馬を師父がどうしてもご所望ならば、仕方ありませぬ。徹夜で八大王さまのお屋敷に行き、借りてまいるといたしましょう」五郎は言いました。「馬が手に入ったら、すぐ山を下り、決して拒みはせぬからな」孟良は別れますと、汴京めざして進みました。

 

●孟良が計略により万里雲を騙しとること

一日足らずで、孟良は都に着き、八大王の屋敷に入り、八王に謁見し、馬を借りて囲みを解こうとしていることを逐一告げました。八王は言いました。「楊郡馬からの手紙はあるか」孟良は言いました。「郡馬さまは双龍谷の中で包囲されており、わたくしは今まで五台山におりましたので、手紙はございません」八大王は言いました。「郡馬の手紙がないのなら、馬をそなたに貸すことはできないな」孟良は哀願しました。「私事(わたくしごと)のためではなく、朝廷の禍のため、命を抛ち、力を尽くして戦って、この災いに遭ったのでございます。千歳さまには朝廷のことをご考慮あそばされ、わたくしにお貸しくださいますように」八王は言いました。「馬がほしいなら、すぐにゆき、郡馬の手紙をもらってまいれ」孟良は言いました。「ふたたび手紙をもらいにいけば、往復に多くの日数(ひかず)がかかりますから、楊将軍を餓死させてしまいましょう」八王は言いました。「この賊め。手紙をもらいにいくように言っても行こうとしないのは、ただでわしの馬を騙し取ろうとしているのだろう」孟良は言いました。「千歳さまのお馬を騙しとるような、大胆なことはしようと思いませぬ」八王は言いました。「ふだんそなたと面識がないというのに、そなたの申すことだけを根拠に馬を借すなど、決してありえぬことだ。はやく行け、はやく行け、これ以上、余計なことを申すでない。これ以上、頑として行こうとせぬなら、わしはそなたを賊として捕らえて司直へと送り、真っ先に罪に問うとしようぞ」

孟良は八王が怒ったのを見ますと、無佞府に退いてゆき、令婆に会うしかありませんでした。令婆に会いますと、孟良は告げました。「楊郡馬さまは双龍谷で包囲され、わたくしを五台山へと遣わして、五郎師父に救援を求めさせました。師父は八大王さまの馬が得られれば山を下りるとおっしゃいましたので、わたくしは上京し、八王さまから借りようとするしかございませんでした。しかし八王さまは郡馬さまの手紙がないため、頑として貸そうとはしませんでした。今、わたくしは仕方なく、ご隠居さまに会いにきて相談し、手を打つよりほかございませぬ」令婆はそれを聴きますと哭きながら言いました。「わたしの夫と子供らは宋に降って、みな戦場で亡くなって、あの子だけが残っているのだ。今、包囲され、もしも不測のことがあったら、老いぼれは誰を頼りにしたらよかろう」九妹が言いました。「お母さま、ご心配なく。お兄さまが包囲されても、わたくしと孟良がいっしょに救いにゆきましょう」令婆は言いました。「手足(きょうだい)を念い、救いにいくのは大変よいことではあるが、かの地に行ったらよく考えて行動し、間違いがないようにするのだよ」九妹は承諾しました。孟良は言いました。「いっしょに行くのをご承知していただけるなら、先に出られて、城外四十里の駅館で待っていてくださいまし。わたくしは今夜、八王さまの屋敷に往って、馬を盗んでまいりましたら、追いついて、いっしょに行くといたしましょう」九妹は部屋に戻りますと仕度をし、母に別れて、すぐに駅館に行き、待つことにしました。

さて孟良はひそかに八王の後花園に跳び込みますと、黄昏が近付いておりましたので、そこを脱け出し、朝書閣に火を放ちました。たちまち火焰は天に漲り、将校は八王に急報しました。八王は大いに驚き、急いで人に命じて火を消させました。厩を守る人々は火を消しにいき、孟良はその混乱の隙に乘じて、厩に入り、千里風を盗み取り、後花園まで牽いてゆき、角門を開け、城から走り出ました。火が消えますと、馬の世話をする者たちが千里風を繋ぎにきますと、千里風はいなくなっておりました。馬の世話をする者たちが八王に急報しますと、八王は怒りました。「賊どもにたばかられ、馬を盗んでいかれてしまった」人を呼び、すぐに万里雲を牽いてこさせました。八王はそれに跳び乗り、鞭を揮って追いかけました。時はすでに二更でしたが、孟良は馬を得て、城を出、心の中でとても喜んでおりました。道を進んでおりますと、たちまち後ろから馬鈴の響きが聴こえ、疾風のように、あっというまに追いつきました。八王が罵りました。「賊め。今すぐ馬をおいてゆけば、おまえの罪を許してやろう」孟良は大いに驚きました。「どうしてこんなにはやく来たのだろう」そこで一計を案じ、千里風を泥濘の中に推し、林の中に隠れて眺めました。八大王は追いつき、馬が泥濘に陥っているのを見ますと、笑いながら言いました。「あの賊はさまざまなからくりをめぐらせておる。馬が進まなかったので、泥濘に突き落とし、わたしがかれを追い掛けぬようにしたのだ。とりあえず将校が馬を引き上げにくるのを待とう」心の中では馬が傷ついていないか心配でしたので、万里雲から跳び下りて、進み出て、見てみました。孟良は八王が馬を下りたのを見ますと、いそいで林から走り出て、万里雲に跳び乗り、叫びました。「殿下にはお咎めになられませぬよう。この馬をお借りしてゆき、遼の兵を退けましたら、お返しにまいります」そう言いますと、鞭を振り上げ、手綱をとって行ってしまいました。八王は地団駄を踏んで悔しがりました。まもなく、将校が来ましたので、馬を引き上げさせ、人々に知らせました。「孟良にかくかくしかじかされ、万里雲を騙し取られてしまったが、どうしたらいいだろう」将校は言いました。「王さまにはご心配なさいませぬよう、あのものはほんとうに楊郡馬どのを救いにいったのでございましょう。そうでなければ、懸命にあの馬を盗みにきたりはいたしませぬ。あのものが郡馬どのを救い出せば、かならずや送り返してまいりましょう」八王は将校たちの取り成しを聴きますと、千里風に乗りながら屋敷に戻ってゆきました。

次の日の朝、孟良は九妹に会い、馬を盗んだ一部始終を話しました。九妹は言いました。「本当に機転が利きますね。よい馬です。すぐに五台山に往き、五哥に引き渡し、はやく救援しにきてもらうことにしましょう。わたくしは澶州の寨に往って待ちましょう」孟良は単騎で五台山に往き、五郎に見え、馬を借りた経緯と九妹がいっしょに救援しにくることを告げました。五郎は言いました。「そなたの心は忠実で主君に報いているということができよう」そこで頭陀五六百人を選び、楊家の旗を掲げ、澶州にゆきました。日ならずして寨に着き、九妹と会いました。九妹は言いました。「六哥は谷の中に囲まれ、針の蓆に坐っているかのようでしょう。今晩すぐに遼の陣に突入し、囲みを解くのはいかがでしょうか」五郎は言いました。「遼の軍勢は数多く、その鋒先をたやすく挫くことはできない。消息を探ってはじめて兵を出すことができるだろう」

さて大遼の軽騎は五郎の援軍が来たことを知りますと、蕭天右に急報しました。天右は諸将に言いました。「楊五郎は驍勇にして無敵だが、わたしには一計があり、かれを退け、かならずや六郎たちを谷の中で窮死させることができるぞ」耶律第は言いました。「元帥さまにはその妙計をお話しくださいますように」天右は言いました。「今、大宋の民で、顔が六郎に似た者を選んで捉え、梟その首級を、長い竿に懸け、兵士らに命令し、六郎たちが谷の中で餓え、動くことができなくなり、昨日わが軍に突入され、ことごとく誅戮されたと言わせるのだ。敵は首級を目にすれば、かならずや退くだろう」耶律第は言いました。「この計略は素晴しゅうございます」天右は捉えた民を呼び、顔が六郎に似た者を選び、その首を斬り、兵士に命じて竿に懸けさせ、六郎が捕らえられ、辺関で梟首されていると噂させました。斥候はそれを聴きますと、慌てて五郎に報せました。五郎は大いに驚いて言いました。「わが弟はながらく包囲されていたから、遼人が隙に乗じて突入し、捕まえたのは、理として信ずべきことだ」九妹に首級を観にゆかせました。九妹は鎧を纏い、馬を出し、人に命じて遼の元帥に通知させました。「首級を看にきて、六郎であれば、すぐさま兵を退くことにしよう」天右はこのことを聴きますと、すぐに人に命じて寨の外に担ぎ出させて、宋人に看せました。九妹は顔がよく似ているのを見ますと、泪を拭って罵りました。「生臭い瘟奴(うんど)[6]めが、わが兄を殺された怨みに報いることがなければ、誓って軍を退くまいぞ」そして陣に戻って五郎に知らせました。五郎は言いました。「楊家はなんと不幸なのだ。あの子も梟首されたなら、わたしが山を下りたのも今では無駄となってしまった」孟良だけは信じずに、言いました。「これは偽りにございます。楊将軍は谷の中に囲まれましたが、部下の岳勝、焦賛は猛将でございますから、かならずや力を尽くして守ったはずで、敵によって上官の首級だけが斬られるはずがございませぬ。それにかようにきれいさっぱり殺されて、一兵卒も逃げ戻ってらないということがございましょうか」五郎もその言葉に賛成しました。その夜、天気は清明で、星斗は輝いておりました。五郎が陣幕の外に出て仰ぎ見ますと将星が朗朗として、双龍谷の中を照らしておりましたので、言いました。「六郎は殺されておらぬぞ」次の日、九妹に言いました。「夜に星を観たが、六郎はきっとまだ生きている。ただ、便りを通じ、かれを中から出撃させることができない」孟良は言いました。「わたくしが往きたいと思います」五郎は言いました。「そなたがゆけば、安心だ」孟良は別れを告げて去ってゆきました。

九妹は言いました。「『兵は詭道』[7]にございます。敵がこのたびわれらを誑かしたのですから、様子を探りにゆき、敵の謀を破りたく思います」五郎は言いました。「行ってはならぬ。危険があれば、禍にみずから陥ることになる」九妹は言いました。「心配なさる必要はございませぬ。おのずから策略がございます」そう言いますと、五郎に別れを告げ、猟師の身なりをし、天馬山に行き、その中に深く入り、進む道が分からなくなりますと、山麓に沿って歩きました。ちょうど遼の兵数十名が来るのに遇いましたので、九妹は脱け出して山の北側を歩きました。すると小さな庵がありましたので、九妹はすぐにその庵に入りました。庵主は言いました。「おんみはどなたじゃ。この山中へ何をしにこられましたか」九妹は言いました。「楊令公の娘、九妹にございます。わが兄が遼人により双龍谷で囲まれておりますので、様子を探りにまいりましたが、路を知らず、たちまち遼の兵に遇い、追い掛けられて、隠れる場所がなかったために、わざわざ貴庵に身を寄せたのでございます。師父さまどうかわが一命をお救いくださいますように。さすればお礼をいたしましょう」庵主は言いました。「まことに大胆なおかたじゃ。なぜ単身でこの地に深入りしてこられた。お救いせねば、お命はなかったでしょう」そう言いますと、弓矢を卸させ、道衣を取り出して着せました。蛮兵が追いついて、九妹を捉えますと、庵主は言いました。「どうしてわたしの弟子を捕まえるのですか」蛮兵は言いました。「おまえの弟子であるならば、なぜ身に武器を帯びているのだ」庵主は笑いながら言いました。「この山には狼、虎がたいへん多く、外に出るときは必ず弓矢を帯びて、かれらに傷つけられるのを防いでいるのでございます。先ほどわたしは雁嶺庵に往って戻って、この弟子を山の北側の施主さまの家にゆかせて面会の約束をさせ、明日はいっしょに雁嶺庵に赴いて、法会をするのでございます。ですからかれに弓矢を帯びて身を守らせているのです」蛮兵はこの話を聴きますと、九妹を釈放して、言いました。「そなたの弟子は弓を射ることができるなら、拳棒[8]の心得があるだろう。わたしはかれと力比べをするとしよう。力比べをしようとせねば、きっと捕えて太后さまに見えさせよう」庵主は言いました。「弟子に昔の仇があるわけでもないのに、本日しつこく逼られるのは、どうしてでしょうか」蛮兵は言いました。「近ごろ遼と宋とが兵を交えているため、太后さまは命令を下されて、あちこちの関門に厳しく巡視を加えられ、宋人が消息を探るのを防ごうとされているのだ。それゆえにわれわれはこの者が間者ではないかと疑い、力比べをしようとするのだ」九妹は言いました。「師父さまはご心配なさるには及びませぬ。力比べをいたしましょう」そう言いますと、すぐさま庵の前に出て、拳棒を競いましたが、数十人の蛮兵たちは一人も敵いませんでした。兵たちはすべて戻ってゆきました。九妹も庵主に別れてゆこうとしますと、庵主は言いました。「おんみはこの地に大変な苦労をして来られたのですから、実情を探って戻ってゆかれれば、このたび危険な目に遇われたのも無駄ではなかったことになりましょう。とりあえず数日待って、ごいっしょに実情を探るのはいかがでしょうか」九妹が承諾し、庵にとどまったことは、お話しいたしません。

 

●張華が人を遣わして九妹を召すこと

さて張華の下男は九妹と力比べをして負けたため、道々溜息をつくのをやめませんでした。屋敷に戻りますと、張華丞相に見え、言上しました。「わたくしはたまたま天馬山へ狩りをしにいき、武芸が達者な修行の者に逢ったのですが、われら数十人のうち、敵う者は一人もおりませんでした」丞相は言いました。「そのような勇士がいるなら、今すぐに人に命じてそのものを召し、太后さまに見えさせ、官職に封じ、ともに宋を伐たせれば、ほんとうにすばらしいことであろう」そして人に命じて、勅書を持って、天馬庵へゆかせました。使いは庵に着きますと、庵主に会い、張丞相が召しにきたことを告げました。庵主は九妹に尋ねました。「張丞相は人に命じて御身を召そうとしておりますが、どうしたらよろしいでしょう」九妹は言いました。「丞相さまが召しにこられたのであれば、命令に従ってゆくべきにございましょう」庵主は愕然とし、頷いて、九妹を庵の後ろに招き、言いました。「御身は宋の人なのですから、もし人に知られたら、命はないのに、どうして招きに応じることを約束なさるのでしょうか」九妹は言いました。「かようなお持て成しを受け、ご厚意に十分感謝いたしております。ただ、こたびまいりますには、おのずから考えがございます。それに今なら、わが兄の消息を探ることもできましょう」庵主は言いました。「今はまことに危く、恐ろしいときにございます。後日、禍に遭われても、わたしを怨まれないでください」庵主がそう言いますと、九妹は庵主に別れ、使いとともに幽州へゆきました。

一日足らずで幽州に着きますと、蛮卒が張華の屋敷に招き入れました。謁見しますと、張華が尋ねました。「そなたは姓と名を何というのだ。生まれはどこだ」九妹は言いました。「わたくしは姓は胡、名は元といい、原籍は太原にございます。幼年で文芸を習いましたが、しばしば受験したものの及第はせず、その後にさらに武芸を習いましたが、これもまた成就せず、家を棄て、修行のために雲遊をしておりました。昨日お召しを承けましたので、従わぬわけにもゆかず、わざわざ謁見しにまいったのでございます」張華は九妹の声がよく通り、言葉が力強く、風采が立派で美しいのを見ますと、とても喜び、九妹に書斎にいるように命じました。九妹は礼を言いました。張華は後堂に入って夫人に見えますと、言いました。「月英は成長し、結婚をすべきだが、結婚相手がいなかった。昨日は天馬山から一人の壮士を招いたが、文武両道だったので、気に入って、月英をかれに娶わせようと思うが、そなたはどう思う」夫人は言いました。「殿さまがご承知なされたのならば、わたくしは拒みはしませぬ」張華は大いに喜びました。次の日、人に命じて、婿にすることを胡元に告げ知らせました。胡元は言いました。「このことをわたくしは心から願っております。ただ、宋の兵を撃退し、戻ってきてから結婚しましょう」使いが胡元の言葉を張華に報告しますと、張華は言いました。「そうしていただけるならば、老いぼれの家はますます輝きを添えることでしょう」すぐに胡元が宋を退ると言ったことを蕭后に上奏しました。后は大いに喜び、命を下して胡元を破宋驃騎大将軍に封じ、兵三千を率い、蕭天右の陣営にゆかせ、助太刀をさせました。胡元は勅旨を受けますと、聖恩に謝して退出し、張華に別れを告げ、兵を率いて澶州にゆき、西側に寨を築きました。まさに蕭天右に謁見しようとしますと、たちまち楊五郎が戦いを挑んできたという報せがありました。胡元は単騎で陣から走り出ますと、大声で叫びました。「宋の将軍ははやく退き、災いを受けるのを免れるがよい」五郎は九妹であるのを見ますと、大いに驚いて言いました。「妹よ、どうして遼の兵を率いて、出撃してきた」九妹は言いました。「無駄な話はなさらずに、どうか五哥には負けた振りをしていただきますよう」五郎はともに戦うこと数合、負けた振りをして、本陣に逃げ戻りました。九妹も追い掛けず、軍を退き、陣に戻りました。蛮卒が天右に報せますと、天右は大いに悦び、人に命じて帳の中に招き入れさせ、敵を退ける計略を相談しました。蛮営には九妹を知っている者がおり、天右にひそかに告げました。「先日楊六郎の首級を看にきましたのはまさにあのものにございますから、元帥さまはご用心なさるべきでしょう」天右は大いに驚き、将校たちに命じて胡元を捕えさせました。胡元は言いました。「元帥さまはわたしを捕えられましたが、わたしにどんな罪があるのでございましょう」天右は言いました。「先日そなたは六郎の首級を看にきたが、今日は投降する振りをして、このわしを欺くつもりか」言いますと、近習に命じて陷車[9]に乗せ、陣中の牢に入れました。次の日、将校に命じて幽州に護送し、蕭后に見えさせました。后は上奏を聞きますと、すぐに張華に尋ねました。「そなたが先日推薦したのは、楊家の将軍であったぞ。兵士が知っていなければ、わが事は台無しになるところであった。そなたはどうしてこのようにでたらめに人を用いる」張華は言いました。「わたくしはほんとうに知らなかったのでございます、太后さまには罪をお恕しくださいますよう」蕭后は九妹を天牢に下し、さらに宋人を捕えたら、牽きだしていっしょに梟首して人々に示すことにしました。証拠に詩がございます。

兄の失策して双龍に困(くる)しみし為、喬扮[10]修行して密かに訪踪[11]す。本(もと)は囲みを破り骨肉を全うせんと欲するも、誰か知らんや先に自ら牢籠を受けんとは。

さて五郎は九妹の消息を探りますと、すぐに陳林らと相談しました。「六郎は幸いに恙なくしているが、九妹は捕らえられ、幽州の獄中に囚われているとのことだ。わたしが先に、救いにいくべきだろう」陳林は言いました。「将軍さまはどのような策をもちいて破られましょうか」五郎は言いました。「西蛮の陀羅は、遼の友邦だ。わしが今から陀羅国の振りをして、兵を挙げ、遼を助ければ、蕭后はかならず信じることだろう。その時、軍を幽州に入れ、牢獄を攻め破り、九妹を救うのだ」陳林は言いました。「将軍さまにこのようなすぐれた策がございますなら、きっと成功することでしょう。わたくしも軍を率いて応援しましょう」五郎は軍を率いてひそかに澶州の外を回って幽州に入り、西蛮陀羅国の旗幟を掲げ、人に命じて蕭后に報せました。后は報せを得ますと、侍臣に命じて陀羅国の統軍元帥を召し入れて会見しました。楊五郎は命を受け、御前に進みました。挨拶[12]をしますと、蕭后は言いました。「旅路では、風と霜とで、元帥どのには大いに難儀されたであろう」五郎は言いました。「わが主君は太后さまが宋の兵と交戦されて、雌雄を決していらっしゃらないことを聞き、特にわたくしを遣わして、兵を率いて助太刀をさせたのでございます。これは君命によるものですから、労苦とはもうせませぬ」蕭后は大いに喜び、宴を設けて持て成し、みずから觴と酒を捧げ、手厚い褒美を賜わりました。五郎はほろ酔い加減になりますと、立ち上がって告げました。「太后さまの手厚い贈り物を頂きましたから、明日すぐに兵を出し、宋人を捕えましょう」蕭后は言いました。「兵士は長旅で疲れているから、とりあえず数日休んでからゆくがよい」五郎は礼を言いました。酒宴がおわりますと、五郎は太后に別れて退出し、城の南に兵を駐屯させました。そしてひそかに命令を兵士に伝えて準備をさせ、蛮人が気付いていないことをさいわい、その晩に牢獄へ突入し、九妹を救うことにしました。

さて、獄官の章奴は、九妹が楊家の子であることを知りますと、手厚くもてなし、つねに九妹を逃がそうとしておりましたが、機会がありませんでした。そのとき九妹は獄で占いをし、章奴に言いました。「先ほど占いましたが大吉でしたから、今晩はこの獄を離れるはずです。御身から甚だ厚い持て成しを受けましたので、隠そうとはいたしませぬ」章奴は言いました。「わたくしはずっとあなたを逃がそうとしておりました。しかしあなたが去られれば、わたくしは災いを受けましょう」九妹は言いました。「あなたがわたしに従われ、南朝に入られれば、すぐに朝廷に上奏し、高い位に封じていただき、お礼をしましょう」章奴は言いました。「わたしを連れていっしょに行ってくださるのなら、今晩すぐに獄を出られて、これ以上、ぐすぐずされてはなりませぬ」九妹が仕度を整え、黄昏が近付きますと、おもてでは天まで届く大砲の響きが聴こえ、五郎が五百の頭陀を率いて、城の南から獄のそばまで突入してきました。近臣は急いで蕭后に上奏しました。「陀羅国の軍が背きました」蕭后は上奏を聞きますと大いに驚き、いそいで午門をかたく閉ざすように命じました。五郎は単騎で先駆け、獄中に突入し、たちまち九妹が章奴とともに獄中から飛び出してくるのに遇いました。蛮人は敵を防ごうとしませんでした。五郎、九妹は城の中で左へ右へ突きまくり、数えきれないほどの蛮人を殺しました。さらにあちこちに火を放ち、一晩騒ぎ、その後、軍を率いて澶州に押し寄せました。天右は事情が分かりませんでした。兵が幽州から押し寄せますと、準備をしていなかったため、部下は大いに混乱しました。五郎、九妹は陣中に突入して斬りまくりました。耶律第が馬を出し、敵を迎えますと、五郎はこれと交戦し、二合目に、一太刀で斬って馬から落としました。陳林、柴敢は喊声を聴きますと、五郎の兵がきたのだと思い、軍を率いて出撃しました。蕭天右は宋の兵の勢いが盛んであるのを見ますと、馬に鞭打って逃げました。五郎は馬を走らせて追いました。天右が数十余合反撃しますと、五郎は刀を揮って真正面から斬りかかりました。すると金色の光が輝きましたので、五郎は考えました。「わが師父は遼に二人の将軍がおり、逆龍精[13]の降生で、刀や斧では傷つかないと仰っていた。この者であるとは知らなかったわい。そのむかし、師父はわたしに降龍呪一篇を授けられ、もし交戦して龍に遇っても、この呪文を誦えれば、かならず勝つとのことだった」五郎がすぐに呪文を誦えますと、狂風がはげしく吹き、沙(すな)は飛び石は走るというありさま、中空からはたちまち一人の金の甲(よろい)の神人が下りてきて、手に降魔杵一条を執り、大声で叫びました。「孽畜(げつちく)[14]め。きちんと戻れば、おまえの罪を許してやろうぞ」すると天右は馬から転がり落ちました。五郎は大斧をひっさげて、持てる力を用い尽くして斬りますと、たちまち一条の火の光が天を衝いてゆきました。五郎は武器を揮って双龍谷の中に突入しました。六郎は谷の入り口で喊声が絶えぬのを耳にしますと、援軍が来たことを知り、軍を駆り、出撃しました。孟良は単騎で先駆けますと、黄威顕に出くわしましたので、馬を交えること一合、斬って馬から落としました。六郎と五郎は軍を一箇所に集め、蛮軍を殺しましたので、屍は横たわり野に遍く、血は流れて河となるというありさま、奪った馬匹、武器は数知れませんでした。

六郎は軍を退き、佳山寨に戻り、五郎と会いますと、言いました。「兄上が救ってくださらなければ、われらはきっと谷の中で餓死していたことでしょう」五郎は言いました。「九妹はそなたの消息を探っていたため、蕭后によって獄中に囚われた。わしは昨日、西蛮の陀羅国の振りをして、援護の兵を挙げたのだが、敵は気付かなかったので、わしは獄中に突入し、九妹を救い出したのだ。そうしなければ、九妹も死んでいたろう。そののち、さらに機に乗じ、澶州に殺到したが、天右は事情が分かっていなかった。わが兵が急にきたとき、かれらは準備をしておらず、配下のものは大混乱した。わが軍は突入し、完勝し、そなたらを救い出したのだ」九妹は言いました。「妹は獄にいたとき、獄官で名前を章奴という者に、手厚く持て成されました。昨日は、わたくしを獄から逃がし、ともに戟を持ち、蛮兵を撃退したのですが、蛮兵に殺されてしまいました。この人の恩義には、悲しいことに報いるすべがございませぬ」六郎は囚われたときのことを尋ねました。九妹は庵主に持て成されたことと、幽州にゆき、張華の婿にとられた事の顛末を、すべて話しました。五郎は言いました。「そのものも賢人だから、礼物を送ってお礼をするべきだろう」六郎はその言葉に従い、人に命じて金銀それぞれ五十両を送らせて、御礼をすることにしました。六郎は宴を設けて諸将を労いました。酒が酣になりますと、五郎は言いました。「弟と皆さんは力を尽くして遼人を防ぎ、王室を守るべきでしょう。老母が家におわすから、九妹は戻って美食を奉るがよい。このわしは別れを告げて、また五台山へいくとしよう」そう言いますと、兄妹は別れを告げて去ってゆきました。六郎は寨の外まで送り出し、別れを告げました。証拠に詩がございます。

同枝(どうし)[15]深幸[16]災を脱けて帰り、首を聚(あつ)めて須臾(しゆゆ)にして又別離す。風急(かぜきふ)にして雁行[17] 軽(かるがる)しく拆散(たくさん)し、孤飛(こひ)の形影(けいえい)各(おのおの)東西。

さて六郎は寨に戻りますと、遼を退けるための上奏文を書き、人に命じて朝廷に上奏させ、万里雲を八王に送りかえしました。使いがゆきますと、さらに兵士に命じて軍伍を厳しく整えて、勇者を募り、大遼の侵入を防がせました。時に蕭后は楊家の兵に幽州を大いに乱され、さらに蕭天右らが陣没しておりましたので、心ははなはだ楽しみませんでした。そこで耶律休哥らに命じてかたく関門を守らせ、みだりに動いて、宋軍の侵入を招かぬようにさせました。それからは、辺境の禍はすこしくおさまり、三関の威は幽州を震撼させました。さて真宗は六郎が敵を破るために書いた表を看ますと、八王と相談しました。「楊郡馬には遼人を撃退した功績があるが、その職を昇進させるべきであろうか。その部下たちに褒美を与えるべきであろうか」八王は言いました。「陛下はひとまず金帛を賜わって、兵士らをねぎらわれ、その後さらに功績を立てましたら、楊郡馬どのの職を昇進させることになさいませ」帝は上奏を受け入れ、人に命じて金一千両、緞子十車を与えさせ、三関にゆき軍をねぎらわせました。使臣は勅旨を受けとりますと、品物を持ってゆきました。

この日、朝議が終わりますと、王欽は屋敷に戻って考えました。「楊家がかくも勇敢であるならば、わたしは老いて汴京で死に、志を遂げることができないだろう。想えば朝廷では、謝金吾のみが権勢があり、表と裏のあるものだから[18]、あのものを呼んできて相談し、計略を設け、楊六郎を謀殺すれば、行動しやすくなるだろう」すぐに人を遣わして謝金吾を招きました。王欽は屋敷から出て迎え入れました。腰掛けて茶を飲みますと、謝副使が尋ねました。「本日は、お招きを賜わりましたが、どのようなご用件にございましょう」王欽は言いました。「聖上がわたくしを寵愛されて、死んでもお礼をするのが難しいことは、大人もご存知のはず。いかんせん八王の嫉妬の念は、骨髄に徹しております。先日は公務のために外出し、天波滴水楼の前を通ったときに、馬から下りなかったのですが、楊家の奴隷に罵られ、ひどく恐ろしい思いをしました。聖上に上奏しようと思いましたが、また八王がやってきて反対するのが心配で、そのことを考えますと、どうすることもできませなんだ。辞職して山で樵をし、川で魚を釣り、門を閉ざして外に出ず、人に虐げられるのを免れて、辱められるのを絶つよりほかにございませぬ」謝金吾は言いました。「大人はどうしてみずから鋭気を損われるのでしょうか。今、聖上が寵愛されているものは、われわれ二人のみにございます。八王は権勢が盛んではありますが、朝政はかれのものではありませぬから、恐れることはございませぬ。楊府のごときは、六郎一人がいるだけで、そのほかはことごとく非業の死を遂げております。先帝さまは特別に無佞府天波楼を立てられましたが、かのものたちに命を棄てて敵を防がせたにすぎませぬ。今、聖上はかれらのことを気に掛けてらっしゃいませぬ。わたくしが明日いってみて、何も事件が起こらなければそれでよし。すこしでもわたしに何かがあったときには、すぐに手下に命じて取り壊させましょう」王欽はひそかに喜びました。「謝大人、禍を惹き起こされないでください。あの楼を壊せば、令婆はあなたをただではすまさずに、かならず上奏するでしょう。聖上がふたたび楊家の功を思われ、かれらのために味方されれば、かえって禍を受けるでしょう」金吾は言いました。「王大人、ご安心くださいまし。わたしは枝葉をつけて聖上に上奏し、かならずや取り壊すことにしましょう」王欽は再三なだめる振りをして、さらに引き留め、晩まで酒を飲みました。謝金吾が別れを告げますと、王欽は屋敷の外まで送り出して別れました。

 

●楊六郎がひそかに三関から下ること

さて謝金吾は、次の日、隊列を列ねて、無佞府の前へゆきました。天波楼に近付きますと、手下が言上しました。「上下の官員がこちらを通るときはかならず、馬を下りねばなりませぬから、旦那さまには馬から下りて、お通りになられませ」謝金吾は言いました。「ここは禁門ではないのだから、馬から下りることはない」そして、銅鑼、太鼓を鳴らして過ぎるように命じました。楊令婆は柴太郡と広間の前で閑談をしておりましたが、屋敷の外で銅鑼と太鼓がどよもすのを聞きますと、人に屋敷を出て見るように命じました。謝金吾が馬上に端座し、近習に命じて、鳴り物を大いに列ねて、通っているとの報告がありますと、令婆は怒りました。「極品[19]の公侯もこの場所を通るときには、馬から下りてうやうやしくし、ないがしろにしようとはせぬ。謝金吾は、職は極品ではないのだから、かように楼を軽んずるとはとんでもないこと」そう言いますと、小間使いを呼び、朝服を持ってこさせますと、仕度をし、参内し、上奏しました。侍臣は真宗に謁見させました。真宗は坐を脇に賜わりますと、尋ねました。「大人は本日みずから朝廷にこられたが、いかなるご用か」令婆は跪いて上奏しました。「先帝さまは、夫と子らが国事のために亡くなったことをご考慮あそばされ、特別に無佞府天波楼を建てて、表彰をされました。さらに官員らに命じ、通るときには、みな馬を下りねばならないことにされました。今日、謝金吾は近習のものに命じて、銅鑼や太鼓を鳴り響かせて、馬上に端座しながら通り過ぎました。このように権勢をひけらかしましたのは、わたくしを侮ることでないならば、朝廷を侮ることにございます」真宗はそれを聴きますと、何度も宥めました。令婆は屋敷に戻ってゆきました。真宗はすぐに謝金吾を召して昇殿させますと、かれを責めました。「先帝の遺命に、どうして背くのだ。令婆は先ほど、そなたが天波楼の前を通るとき、馬から下りなかったと告発していたが、これは聖旨に背くことで、斬罪になるべきことだぞ」金吾は上奏しました。「わたくしがどうして聖旨に逆らいましょう。先日は、勅命により、使臣が金帛をもたらして、楊郡馬どのをねぎらうことになり、使臣はその身に勅旨を帯びて、天波楼の前を通って馬から下りようとしました。わたくしはそれを見ますと、それはよくないと言いました。天波楼の前の路は、その実は、南北に往き来する幹線にございます。聖節[20]に陛下に朝賀するものが来るときも、ここから馬を下りるのならば、この楼が陛下よりさらに尊いことになります[21]。それにこれは前朝が楊家のものを愚直にし、貪欲にするための計略であったのですから[22]、重んじられることはございませぬ。わたくしは朝臣たちとともにこのことを上奏しようとしておりました。想うに令婆はわたくしが上奏しようとしているのを知り、先に朝廷を欺くために上奏し、わたくしの口を塞ごうとしたのでございましょう。ただ、わたくしは陛下から厚恩を受けておりますから、朝廷によくない事があるときは、刀斧をこの身に加えられてもかならず争論いたします。陛下には先にわたくしを誅戮し、その後で、勅旨を降して天波楼を壊し、南北の往来を便ならしめて、朝廷を尊ばせられますように」真宗は上奏を聞きますと、黙ってしまいました。王欽はその機に乗じて上奏しました。「謝金吾の上奏は、はなはだ時宜に適っております。陛下にはこれを受理されますように」真宗は言いました。「卿の言うことはもとより正しいが、それでもさらに調査をしてから、話しをしにくるべきだろう」謝金吾が退出しますと、王欽はひそかに諄諄と弁論しました。真宗は命令を下し、謝金吾に天波楼を壊すように命じました。

勅命が下りますと、楊府の郎党は消息を知り、令婆に急報しました。令婆は柴夫人に言いました。「こたび朝廷はやすやすと謝金吾と王欽の言うことをお信じになり、天波楼を壊そうとされています。もし壊されれば、わたしの夫を大いに辱しめることになりましょう」柴郡主は言いました。「この件は八王さまに哀願し、天廷[23]に転奏をしていただいて、はじめて止めることができましょう」令婆は言いました。「すぐに告げにゆくがよい」柴郡主はすぐに八王の屋敷にゆき、八王に会いました。柴郡主は言いました。「謝金吾はみだりに事件を引き起こし、わけもなく聖上に上奏し、天波楼を壊そうといたしましたが、聖上はそれを受理されました。わたくしはこたびわざわざ殿下に哀願するためにまいったのです。聖上に転奏し、壊さぬようにしていただければ、楊家の生きている者が恩に感じるばかりでなく、死んだ者も徳に感じることでしょう」八王は言いました。「郡主さまがお話しにこられなくても、わたしは上奏しようと思っていたのです。ただ、王欽が例の事件をでっちあげたと奏聞しても、今、聖上が信じていらっしゃるものはかれら二人の賊子です。あのものが楼が天下の往来を妨げているといったため、聖上はその通りだと思われたのです。今、情勢を推し測りますに、上奏しても、形勢を挽回するのは難しいことでしょう。謝金吾は小人にございますから、郡主どのは急いで帰られ、令婆どのと相談し、謝金吾に金品を賂(まいない)し、買収されて、しばらく猶予を得られてください。しかる後、わたくしが折をみて上奏すれば、壊さずにすむかもしれませぬ」郡主は命を受けますと、戻って令婆に告げました。令婆は言いました。「この楼を保てば、栄誉は限りのうございますから、貯えを使い果たしても構いませぬ。ただ謝金吾が買収されぬことだけが心配にございます」郡主は言いました。「聞けば金吾と劉憲はもっとも親しい間柄とか。人を遣わし、礼物を送らせて、渡すように劉憲にお願いすれば、金吾はきっと受け取りましょう」令婆はすぐさまこっそりと人に命じて、劉憲にお願いをさせ、謝金吾に玉帯一条、黄金百両を送らせました。劉憲は礼物を受け取りますと、謝府に送りました。金吾は楊府が礼物を送ってきたのを見ますと、自慢しました。「楊家では功を恃んで驕り高ぶり、満朝の文武の官はかれらと張り合おうとはしない。わしがこのたび、計略を設けなければ、このわしを知るものはなかっただろう」劉憲は言いました。「楊家は今や従いましたから、大人はかれらの便宜をはかられるべきでしょう。それにこの件は大したことではなく、朝廷もきっと咎めませぬから、ゆるゆると引き伸ばし、壊さないようにさせれば、楊府から尊敬されることでしょう」金吾は劉憲の言葉を聴きますと、礼物を受けとり、来たものに命じて壊さないことを令婆に報告させました。令婆は大いに喜び、人を遣わして八王に知らせました。

ところが金吾が賄賂(まいない)の品を受けたことを、王欽はすでに知っておりました。王欽はふたたび真宗にすみやかに壊すよう密奏しました。真宗は上奏を聞きますと、金吾にただちに壊すように命じました。金吾はやむを得ず、将校を率いて壊しにゆきました。八王はそれを聴きますと、人に命じて令婆に報せました。「聖意を変えるのは難しいことです。人を遣わし、徹夜で三関へと往かせ、六郎どのを呼び戻し、計略を相談なさるべきでしょう」令婆はそれを聞きますと、悶々として悦ばず、寝食をすっかり廃してしまいました。八娘は言いました。「この件は、人に命じて六哥を呼び戻させれば、はじめてとめられましょう。そうしなければ、後日また計略を設けて、無佞府を取り壊しにくることでしょう」令婆は言いました。「詔がないならば、六郎は三関をみだりに離れようとはしまい」八娘は言いました。「六郎が兵印をとりあえず部下に渡して、幾日か代理をさせ、ひそかに戻り、事件にけりがついてからすぐゆけば、よくないことはございますまい」令婆は言いました。「この件はすべて秘密を守れる人に行わせねばならないが、誰を遣わしたものだろう」九妹は言いました。「わたくしは三関に行ったことがございますから、行きたいと思います」令婆は言いました。「そなたが行くのはとてもよいが、はやく戻ってくるのだよ」九妹は母に別れて、三関へ進みました。一日足らずで到着し、寨に入って六郎に見えますと、言いました。「謝金吾は聖上に僭越に上奏し、天波楼を壊そうとしております。母上はわたくしを遣わされ、兄じゃを呼びにこさせ、徹夜で汴京に戻って相談をいたしましょう」六郎は言いました。「満朝の群臣たちはわれらを救わず、八王さまも無慈悲にも救われないのか」九妹は言いました。「八王さまは、諫言が聞き入れられませんでしたので、他人に命じて話しをさせて、兄上を呼び、はやく戻らせ、相談をしようとされているのです」六郎は憤激し、近習を遠ざけて、小声で九妹と話しました。「今、朝廷の詔命がないのだから、みだりにこの地を離れるわけにはゆかないな」九妹は言いました。「母上もこのことを心配されてらっしゃいましたが、八姊は構わないと言いました。兄上には印璽を部下に掌らせて、事件にけりがついてからこちらに戻られますように」六郎はそれを聴きますと、すぐに岳勝を呼び、言い含めました。「母上は緊急の用事があって、妹に命じてわたしを召しにこさせた。家に戻って様子を看たら、すぐに戻ってくるとしよう。そなたは孟良たちといっしょに、つつしんで北遼の間者を防ぎ、わが号令に遵うのだ。焦賛が戻ってきたとき、わたしのことを尋ねたら、狩りに行ったとかれに言い、事実を知らせてはならぬ」そして印を岳勝に渡しました。岳勝はそれを受け取り、退出しました。六郎は九妹とともにこっそり佳山寨を離れ、汴京へ戻りました。証拠に詩がございます。

権臣平地に[24]奸謀を起こし、奏して天波滴水楼を毀つ。郡馬星を帯び[25]帰り去ること急にして、怕れ来たる慈母の愁へを禁ぜざるを。

六郎と九妹が徹夜で戻る途の半ばで、焦賛が林の中から跳び出して、叫びました。「将軍さまは、わたくしに知らせぬようにと、どうして命じられたのでしょう。わたくしはこちらでずっとお待ちしておりました」六郎は驚いて言いました。「厄介者がやってきたわい」そしてかれを責めました。「そなたはどうして勝手に逃げてここに来たのだ。いかなる罪になることか」焦賛は笑いながら言いました。「将軍さまも勝手に関を離れてここに来られましたから、これもまたいかなる罪になられることか。わたくしは都がもっとも繁華な場所で、ふだん見たことのない場所であることを聞き、本日は将軍さまといっしょに看にいき、わたしの願いを叶えようとしているのです」六郎は言いました。「ほんとうに腹立たしいわい。わたしは来るとき、他人に気付かれることを恐れていたのだ。それにそなたは性格がとても凶暴だから、京師に行けばかならずや禍を引き起こすだろう。そなたはわたしの言うことを聴き、三関に戻るがよいぞ。わたしが戻ればそなたには手厚い褒美をとらせよう」焦賛は言いました。「わたくしは褒美はほしくありませぬ。景色を看にいきたいだけにございます。往くのを許されないならば、わたくしは先に都に行って、将軍さまがこっそりと三関を離れたことを言いふらしましょう」六郎は怒りました。「この畜生がかように無礼であったとは。おまえが行けばいかなる悪事をしでかすことか」九妹は言いました。「このもの一人だけならば、兄じゃが連れていかれても差障りございますまい。事件を起こさないように言い含めさえすればよろしいのです」六郎はその言葉に従い、焦賛を連れていっしょに汴京へゆきました。

無佞府に戻りますと、令婆に会い、拝礼をしました。令婆は六郎に会いますと、両の泪をうるうるとさせながら、言いました。「そなたら父子八人はすべて亡くなり、そなた一人がいるだけだ。わたしは本日そなたに会ったが、たちまち胸が痛くなり、頬の泪を堪えきれない。おまえを戻ってこさせたのはほかでもない。そのむかし、先帝さまは、そなたら父子に聖駕を守った功績があったため、勅旨で天波楼を建て、表彰してくださったのだ。今、謝金吾は寵を恃んで、われら楊家を虐げて、この楼が天下の往来の邪魔をしていると僭越に上奏し、聖上はそれを信じられ、命を下して壊そうとされているのだ。もし止めることができないならば、やがて無佞府も保てなくなるだろう」六郎は跪いて言いました。「母上さまにはご心配なさいませぬよう。わたくしと八王さまが、われら父子がみな国難のために死んだと申しあげれば、聖上はきっと憐れと思し召されて、取り壊されないことでしょう」柴太郡は言いました。「八王さまが力を尽くされ、楼を維持することができれば、小輩の金吾らは恐れるにたりませぬ」六郎はすぐに家族たちと会い、焦賛を奥の書斎で休ませ、将校に命じて世話と監視をさせ、屋敷を出て事件を起こさせないようにしました。

時に、焦賛は旅路で疲れておりましたので、役所に着いて二日は、何も感じることはなかったのですが、幾日かじっとしておりますと、ひどく退屈し、将校に言いました。「わたくしは上官とともに上京し、街じゅうの景色を賞でることだけを望んでいました。このように監視されるのを知っていれば、初めから来ない方がよかった。あなたたちがわたしを連れて入城し、物見をさせてくれるなら、たくさんの酒食を買ってお礼をしましょう」将校は言いました。「そなたが外に出てゆけば、おそらく事件を起こすだろう。その時は累がわれらに及ぶから、大変なことになる」焦賛は言いました。「兄じゃ、わたしを連れて出てゆかれれば、三生(さんしょう)忘れはいたしませぬ。それにわたしが事件を起こさなければよいのでございましょう」そこで将校はこっそり裏門をあけ、六郎には内緒で、焦賛を連れて城に入って遊覧しましたが、はたして素晴らしい街でした。証拠に詩がございます。

虎踞龍蟠地に霊有り、長安は古(いにしへ)自(よ)り帝王の城。紅雲日(ひび)擁す黄金の才、紫気春に融(と)く白玉の京。孔雀は徐(おもむ)ろに金扇を開きて廻り、麒麟は高く御香を噴きて清し。皇図鞏固にして天地に斉しく、四海の黎元[26]太平を楽しむ。

また後人が汴梁に感嘆し、詩一首を作っております。

三百余年宋祚(そうそ)遐(はる)かに、平原千里嵩華(すうくわ)[27]に挹(いふ)す[28]。黄袍(くわうはう)は昔照らす陳橋の柳、翠袖は今埋(うづ)む故苑の花。南渡(なんと)の一龍能(よ)く国を立て、北行の双馬家に還らず。傷心し漫(そぞ)ろに写す興亡の恨み、汴水東流し日夜斜めなり。

 

●焦賛が夜に謝金吾を殺すこと

焦賛と将校が仁和門に入りますと、人々は蟻のように聚まり、品物は山のように積まれていました。焦賛は言いました。「兄じゃが出してくださらなければ、このように賑やかな所は見られませんでした」将校は驚いて言いました。「そなたはまことに大胆だな。もし人が聴きつけて、問いただし、三関の脱走兵であることを調べ上げ、捕まえて罪に問うたら、上官に累が及ぶぞ」賛は笑いながら言いました。「この一言を申すだけなら、差障りございますまい」酒屋の前にゆきますと、楽が奏でられ、歌が唱われ、酒肴が香っておりましたので、褒め称えました。「中に入って三杯飲むといたしましょう」将校は言いました。「この場所はやかましく、われらはゆっくり飲むことができぬから、城東の望高楼の人気がない場所にいき、飲めばよい」焦賛はかれの話を聞きますと、将校を連れてすぐに望高楼へ酒を飲みにゆきました。日が暮れようとするまで飲みますと、将校は役所に戻るように促しました。賛は言いました。「この地にはまたくることはできませぬから、兄じゃにはもう二杯飲まれませ。今夜はこちらの店に泊まって、明日戻ってもよろしいでしょう」将校は言いました。「明日、上官に咎められたら、われわれはどう釈明するのだ」賛は言いました。「大丈夫です。わたくしがもちろん弁解いたしますから、あなたがたには罪は加えられますまい」将校はかれが短気であることを知っており、かれが騒いで人々に気付かれることを恐れておりましたので、しかたなくかれに従い、夜が更けるまで酒を飲みました。焦賛は休もうとせず、将校は月の光に乗じて東へ西へ歩き回りました。

謝副使の家の前までゆきますと、中でどんちゃん騒ぎをし、楽を奏でて酒を飲んでいるのが聴こえましたので、焦賛は言いました。「この家はとても楽しげですね」将校は笑いながら言いました。「さようなことを申すでない。ここはまさしく謝金吾の家で、そなたの上官の敵なのだ。かれは当朝第一の寵臣で、最も権勢があり、このたびは勅旨を受けて滴水天波楼を壊しにきている。そなたの上官が戻ってきたのは、このことのためなのだ」焦賛は謝金吾の家であることを知らねばよかったのですが、この時事情を知りますと、たちまちに殺意を生じ、将校に言いました。「お二人はこちらで待っていてください。わたしは中に入ってゆき、その賊どもを殺してきましょう」将校は驚いてぶるぶる震え、全身を痺れさせ、言いました。「そなたが事件を起こしたら、累がわれらに及んでしまう。すぐ宿に戻って泊まり、明朝になったら戻るのだ。そうすれば、上官に気付かれることはあるまい。そうせぬのなら、このわしは先に戻って、上官に報せよう。きっときびしく責められようぞ」焦賛は怒りました。「お二人は去りたいのなら去られませ。わたくしは今、どうしてもこのようにしたいのです」二人が焦賛を引っぱって、裏手の塀の隅にゆきますと、焦賛は「御免」と言い、身を躍らせて、その塀を跳び越えました。その中は後花園でした。こっそりと厨房に入ってゆきますと、しもべはみな堂上で酒を飲むものたちに侍り、一人の小間使いが厨房で酒肴を整えているだけでした。焦賛は短刀を引き抜きますと、進み出て小間使いを殺し、首を引っさげて堂から出ました。見れば金吾は真ん中に腰掛け、楽士歌童は両脇に並んでおりましたので、焦賛はその首を金吾の顔めがけて投げつけました。金吾は大いに驚き、満面を血だらけにして、大声で叫びました。「賊がいるぞ。はやく捕まえろ」焦賛は進み出ますと罵りました。「奸賊め。焦さまを知っているのか」そう言いますと、金吾の項めがけて一太刀浴びせ、その首を斬りおとしました。人々はそれを見ますと、みな逃げました。焦賛は怒りが収まりませんでしたので、一門の老若を分かつことなく、みな殺し、一人も逃がしませんでした。証拠に詩がございます。

静中に天道を察するに[29]、天道は好(よろ)しく循環す。妄意(まうい)もて人を将(もつ)て害すれば、全家一剣に飡(くら)はる。

時に夜三更でしたが、焦賛は宴席の美酒佳肴をたらふく食べ、去るにあたって考えました。「謝金吾一家はわたしによって殺されたが、かれは朝廷の寵臣だから、ただでは済むまい。仕方ない、きっと近所に累を及ぼし、禍を受けさせてしまうから、数句を残して人々に下手人を推測させれば、他人に害を及ぼすことはないだろう」すぐに血で四句を壁に大書しました。その詩にいわく。

四(し)水星連(すいせいれん)して家下に流れ、二仙並立す背峯(はいほう)の頭[30]。明明として真名姓を写出すれば、仔細に参詳[31]し浪(みだ)りに求むる莫かれ。

詩を題しますと、ふたたび裏庭から跳び出して、将校を探しにゆきましたが、姿が見えませんでしたので、城のくぼみ[32]に隠れて一晩を過ごし、次の日の朝、楊府へ逃げもどってゆきました。

さて夜回りの兵卒は、夜、謝副使の屋敷が泥棒に入られたことを聞きますと、すぐに王枢密に報せました。王欽はすぐに謝府に行き、観てみますと、老若十三人がことごとく殺されており、壁には血の文字の四句が大書され、それが下手人の姓名でありましたので、人に命じて書き写させ、真宗に上奏しました。真宗は大いに驚き、王枢密に命を下してこの事を調べさせました。王欽は上奏しました。「わたくしの調べでは、謝金吾を殺した者は、楊六郎が新たに招いた賊徒の焦賛にございます」真宗は言いました。「楊郡馬は三関の地を鎮守しているのだから、部将がここまで人を殺しにくるはずがない」王欽は言いました。「先日ひそかに三関を離れ、焦賛を引き連れていっしょに来たのでございます。陛下が兵を遣わされ、楊府を包囲し、捕捉されれば、詳しいことが知れましょう」真宗は上奏を受理し、禁軍に楊景と下手人焦賛を捕えるように命じました。命令が下りますと、禁軍百十余人は勅旨を受けて出発しました。

時に六郎は令婆と天波楼のことを相談していましたが、たちまちに近習が、夜に焦賛が入城し、塀を越え、謝金吾の屋敷に入り、老若十三人を殺し、今、朝廷は禁軍を遣わして、屋敷を囲み、捕えようとしていることを報せました。六郎は言いました。「あの狂徒(しれもの)はわたしの家を滅ぼしたわい」そう言いますと、禁軍がいっせいに押し入って六郎を捉えました。焦賛はこの報せを聴きますと、手に鋭い刀を執ってまっすぐに突入しました。禁軍はその凶悪なさまを見ますと、六郎を放し、進み出て捕らえようとしませんでした。六郎は怒鳴りました。「そなたはかように大いなる禍を引き起こし、なおご公儀の捕縛を拒もうとするつもりか。きちんと自縛し、朝廷にゆき、死を請うがよい」焦賛は言いました。「人を殺すのはわたくしの天職で、今までどれだけ殺したか知れませぬ。十三人を斬っただけでは大したこととは思いませぬ。わたくしはこたびこの狗畜生どもを殺しましたが、将軍さまと佳山寨へと戻ってしまえば、人はわたしをどうすることもできないでしょう」六郎は怒りました。「天に逆らう大罪を犯したくせに、なおもかように不法なことを申すとは、今、もしもわたしの言葉を聴かなければ、先にそなたの首を斬り、献じるとしよう」焦賛は鋭い刀を置き、唯唯として退きました。禁軍はふたたび捉えにこようとしました。六郎は言いました。「おまえたちが手を触れる必要はない。わたしは自縛して天子さまに見えよう」

六郎、焦賛はともに自縛し、禁軍に隨って真宗に謁見しました。真宗は尋ねました。「朕はそなたを召さなかったのに、なにゆえにこっそりと三関を離れ、部将を率いて謝金吾一家を殺したのだ、いかなる罪を得ることか」六郎は上奏しました。「臣は万死に値しますが、陛下には一時(いっとき)臣を許されて、不満を訴えさせてください。臣ら父子は朝廷の厚恩を受け、このことは黄泉路でも忘れることはございませぬ。ところが近ごろ、勅命により天波楼が壊されそうになったため、わが母は心配し、たちまちに病となり、明日をも知れぬありさまとなりました。臣はわが母の死に目に会うことができず、終天の根み[33]を抱くことだけが心配でした。三関も今はやや平穏ですので、暇を盗んで家に来て様子を見てからすぐに去ることといたしました。焦賛とともにまいりましたが、家で監視しておりました。謝金吾一家が殺されたときは闇夜でしたから、焦賛であったとは限りませぬ。陛下には再び調査を行なわれますように。もし焦賛であったならば、臣らを藁街(こうがい)[34]で誅して、朝廷の憲典を正してください[35]。臣は命を求めようとはいたしませぬ」真宗は上奏を聞きますと、しばらく考えました。王欽は上奏しました。「謝金吾を殺しましたのは、あきらかに焦賛で、かれがみずから血で書いた姓名を、証拠にすることができます。陛下には楊景、焦賛を司直に護送し、後人を戒めて、勝手なことをせぬようになさいますよう」真宗はぐずぐずとして態度を決めませんでした。八王は上奏しました。「事実も疑わしゅうございます。人を殺して、みずからの姓名を書くものがございましょうか。ただ、六郎と焦賛がこっそりと三関を離れましたのは、よくないことで、その罪ははなはだ重うございます。三関を鎮守した功績を特別に考慮して、その死を免じ、特別に沙汰することといたしましょう」真宗は上奏を受理しますと、司直に命じて楊景らの罪を決めさせました。

六郎が退出しますと、王欽はすぐさま人を司直のもとへ遣わして話しをさせ、六郎らを辺境の危険な地方へ流罪にするよう命じました。時に掌法司正堂の黄玉は、王欽ともっとも親しかったため、その命令に従って、楊景を汝州へと流罪にし、官酒を監造[36]させ、毎年三百甕を献上し、三年の期間が満ちたら、ほかの仕事を待たせることにさせました。焦賛は�ｹ州に流罪にし、充軍[37]にすることとしました。黄玉は擬律して、真宗に上奏しました。真宗は擬律に従い、楊景、焦賛に即日出発するように命じ、さらに王欽に謝金吾一家の亡骸を埋葬するように命じました。王欽は命を受けますと去ってゆきました。

さて六郎はこの消息を聞きますと、とても悲しみ、帰って令婆に別れを告げました。令婆は哭きながら言いました。「わが家は何と不幸なのだ。このようなことになるとは。わたしにもしものことがあったら、誰が骸を葬ってくれるのだろう。六郎は言いました。「わたくしは三年したら戻りますから、母上はご心配なさいませぬよう。それに天波楼の一件は、八王さまとすでにきちんと相談いたしましたから、かならずや楼を守られ、壊されぬようにしてくださることでしょう。焦賛が金吾を殺しましたのも、朝廷のため、害を除いたのでございます。かたじけなくも八王さまが救ってくださったのですが、そうでなければ命は保てなかったでしょう。これもまた、不幸の中の幸いにございます」そう言いますと、焦賛が入ってきて六郎に会い、言いました。「聞けば朝廷は将軍さまを汝州へと流罪にし、さらにわたくしを�ｹ州の軍に入れるとのこと。こたびわざわざまいりましたは、将軍さまをお招きし、三関寨に戻らせるためにございます。汝州へゆかれる必要はございませぬ。わたしはずっと人を殺すことを好み、このたびは謝金吾を殺しましたが、あのものに不当な仕打ちをしたのではございませぬ。あのような奸佞の徒を、わたくしが朝廷のために除いてさしあげたのに、感謝せず、かえってわたしを充軍になさるとは。わたくしが知っているのは、出陣し、将軍を斬ったり擒にすることだけで、軍のことなど存じませぬ」六郎は言いました。「聖旨に逆らうものはおらぬぞ。そなたはひとまずおとなしく�ｹ州へ行き、かの地に着いて、赦免状で罪を赦されるのを待てば、三関にすぐ戻れよう。また法を侮って、罪を得れば、生きて三関に還ろうと望んでも、決してできないことであろうぞ」そう言いますと、王欽は四十余人を遣わし、六郎らを急きたてて、出発させました。六郎は先に焦賛と護送官を出発させ、令婆に別れを告げますと、汝州めざして進みました。八娘、九妹は十里の長亭まで送ってゆき、別れました。焦賛は途中で六郎の世話をしました。六郎が着きますと、賛は言いました。「わたくしはここを去り、一日足らずですぐに三関へと戻り、岳勝兄じゃたちに報せ、兵を興して将軍さまをすぐさま迎えにまいりましょう」六郎は言いました。「勝手なことを考えるな。わたしはこのたび死なないですんだのだから、そのようにする必要はない。そなたは二年か三年耐えれば、すぐに会うことができよう。これ以上、みだりに事を起こすな。わたしの言うことをよく聴き、しっかりと覚えておくのだ」焦賛は笑いながら言いました。「将軍さまの前途に累を及ぼしましたが、怨まれないでくださいまし。わたくしは、死をもって将軍さまに報いるよりほかございませぬ」そう言いますと六郎に別れ、護送官とともに�ｹ州へゆきました。

六郎は付き添いの軍人とともに汝州めざして進みました。折しも三秋の頃でありました。六郎は途中八句を口ずさみました。

浅水(せんすい)の芙蓉[38]は花枝に満ち、園林は木落(ぼくらく)し葉初めて稀なり。何人ぞ疏懶(そらん)にして侶(りよ)と為るに堪へん[39]、到る処の風塵に化衣(くわい)[40]を解く。傍晩笛声江上に起こり、天気を寒からしめんと欲して雁南に帰る。秋来尽きず愁へを生ずる処、孤雲を翹望(げうばう)すれば片片として飛ぶ。

六郎は吟じますと、宿に泊まりました。次の日、はやくも汝州に着きますと、下役は解文[41]を役所に届け、太守の張済に提出して看せました。張済はそれを看ますと、回文[42]を書き、軍人を帰らせ、すぐに六郎を迎え、後堂に入れますと、尋ねました。「聞けば、将軍さまは三関を鎮守され、威は遼の邦を震わせているとのこと。わたくしたちは、将軍さまが国公[43]に封じられなければ、かならずや侯爵を授かるものと思っていましたが、このたびはなぜまた流罪になられたのでしょう」六郎は焦賛が謝金吾を殺したことを告げました。張済は大いに嘆息し、言いました。「将軍さま、我慢なされてくださいまし。ここから城西の万安駅にゆかれれば、官酒を監造し、都へと送るにはとても都合がようございます。多ければ一年、少なければ半年で、朝廷はかならず御身を召し戻されることでしょう」六郎は礼を言い、張済に別れを告げて、万安駅へ酒を造りにゆきました。

さて王欽は人に命じて、六郎がすでに汝州に着いたことを探らせますと、黄玉を屋敷に招きました。腰掛けますと、王欽は言いました。「先日は楊景を汝州に流罪にしましたが、よかったですな」黄玉は言いました。「よかったとはいかなることにございましょう」欽は言いました。「あのものの罪なら死んで当然ですが、聖上ははっきりと罰を加えようとはなされず、こっそりとあのものを死地に置こうとなされたのです」黄玉は言いました。「汝州はもっとも危険な地であり、官酒を監造することは責任が最も重く、朝廷が用いる物に、すこしでもまちがいがあったときには、死罪は逃れられないでしょう。明日、大人は上奏をされ、あのものが官酒を密売していると告発されれば、聖上はかならずやお怒りになり、すぐに死を賜われますから、もう生きる路はございますまい」王欽は大いに喜んで言いました。「すばらしい考えだ。すばらしい考えだ。大人が仰らなければ、わたくしは気付きませなんだ」そこで黄玉は別れを告げましたが、そのことはお話しいたしません。

 

●朝臣たちが計略を設けて六郎を救うこと

さて王欽は次の日参内し、弾劾の上奏をしました。「楊景は汝州で官酒を監造しておりましたが、一月を経ぬうちに、酒を密売し、金銀を貯えて、逃げて背こうとしております。陛下にはその首級を晒されて、後患を絶たれますよう」真宗は上奏を聞きますと、大いに怒りました。「あのものは、焦賛を放って金吾一家を殺したことだけでも、死罪となるべきであったが、朕はその功績を考慮して、ひとまず汝州に配流にしたのだ。こたびまた官酒を密売しているのは、朕を欺くことであるから、もう許すことはできない」すぐに団練使胡延賛に命を下し、勅旨を持って汝州に行かせ、六郎の首級を取り、戻らせることにしました。勅旨がにわかに下りますと、廷臣は愕然としました。八王は上奏しました。「楊景は忠貞であり、かようなことは絶対にしておりませぬ。陛下は狂夫の言葉を聴かれず、忠良の将を損なわれませぬように」真宗は言いました。「楊景が悪事をすると、卿はしばしばあのものを取り成している。それゆえに、あのものはいい気になって国法を軽んじて、横暴で忌憚がないのだ。先日は、朕の寵臣謝金吾一家を殺したが、その罪は誅されたとて許されぬほどであるのに、まして今日また官酒を密売していることにおいてをやだ。これ以上よけいなことを申すでないぞ」八王は言葉に詰まって退きました。この日、朝議が終わりますと、寇準、柴駙馬らはみな宮門に集まって、その事について相談しました。八王は言いました。「朝廷が六郎を誅したら、後日、遼人の侵入をどうすることもできなくなるぞ。われらは力を尽くして救うべきだろう」そう言いますと、人々に計略を求めました。寇準は言いました。「わたくしには一計がございますが、殿下はよいと思われましょうか」八王は言いました。「先生はどのような計略をお持ちなのでしょう」寇準は近習を遠ざけて言いました。「聖勅を受けたのはさいわいに延賛でした。あのものに言い含め、汝州太守に会ってひそかに相談をさせ、獄中の罪人で顔が郡馬に似ている者を選び、首級を斬り、聖上に献上し、六郎をよその場所へ逃げさせ、後日、国難があったとき、われわれが推薦の上奏をして、出征をさせ、功(いさお)で罪を埋め合わさせることにしましょう。この計略でよろしいでしょうか」八王は言いました。「この計略はすばらしい」ひそかに計略を延賛に告げました。延賛は言いました。「わたくしはもとよりよしなに行動をいたしますから、殿下がお命じになるまでもございませぬ」そう言いますと、すぐに諸官に別れ、勅旨を持って、汝州に赴き、太守の張済に見え、六郎を斬ったと告げました。張済は驚いて言いました。「冤罪で人を陥れれば、その罪業は山のようなもの。楊将軍はこちらに来られて、幾日もたっていないのですから、さようなことはございませぬ。聖上はなぜこのことをお察しになられぬのでしょう」延賛は言いました。「賊徒王欽が計略を設けて劾奏したために、聖上はたいへんにお怒りになり、八王さまが懸命に取り成されても、受け入れられなかったのでございます」そう言いますと、済の耳元で小声で言いました。「こたび、廷臣は相談し、太守さまにはかくかくしかじか行動をしていただくことにいたしました」張済は喜んで言いました。「この計略はわたくしの考えにぴったりだ。今は国家が多難の秋(とき)、もしもあの方が斬られて、北蛮が隙に乘じて来寇すれば、どうすることもできませぬ」そう言いますと、人に命じて楊将軍を招かせ、屋敷に来させ、話しをさせることにしました。まもなく、六郎が屋敷に来ました。挨拶をしますと、張済は朝廷が首級を取りにくることを告げました。六郎は言いました。「わたくしが赤心を持ち、国に報いていることは、天のみがご存知のこと。このたびは事実がないにもかかわらず、君王が讒言をお信じになり、命を下して死を賜わるなら、わたくしは逃れようとは思いませぬ。わたくしの首級を斬り、朝廷に報告なさればよろしいでしょう」証拠に詩がございます。

関塞の功労数十秋、非災[44]頓(には)かに起こり実(まこと)に憂ふるに堪ふ。風雷は地を逐ひて乾坤暗く、霜雪は空に漫(みなぎ)り草木愁ふ。自ら許す忠は天子の胆を寒からしめ、誰か刀を将(もつ)て佞臣の頭を断たん。当年脱(も)し英雄をして死せしめば、魏府何人(なんぴと)か虜酋を破らん。

張済は言いました。「将軍どの、ご心配なく。先ほどはかくかくしかじかと相談し、御身を救うことにしました」六郎は言いました。「大人がこのように救ってくださるのであれば、後日犬馬となって報いることにしましょう」張済は言いました。「将軍どの、何をおっしゃる。禍がないことだけが、朝廷の福(さいわい)にございます」そして六郎を奥の間に隠しました。この日、張済はすぐさま獄官伍栄を呼んで相談しました。栄は言いました。「獄中に蔡権という者がおり、死刑になると決まっております。その者の顔は楊将軍にそっくりですから、首を斬り、献上すれば、信じぬ者はいないでしょう」済は引き出させ、それを見ますと、はたして六郎と同じでした。そこで伍栄に言い含め、たくさんの酒食を与えて酔いつぶれさせ、その晩、かれの首級を斬り、密封し、後衙[45]に送らせることにしました。伍栄は計略に従い、夜に権の首を斬り、済に見えました。済は人に命じて胡延賛を呼び、首級を受け取らせ、徹夜で汴京に戻ってゆかせました。張済は六郎を呼びますと、言いました。「将軍どのは衣装を換えて遠方に逃れられ、他年の赦しを待たれればよろしいでしょう」六郎は拜謝しました、時に五鼓になんなんとしておりましたが、張済は裏庭の角門を開き、六郎は通常人の衣帽を着けて、張済に別れ、無佞府に戻ってゆきました。

さて胡延賛が汴京に戻りますと、真宗はまさに朝議を行なっておりましたので、延賛は六郎の首級を献上しました。帝はそれを見ますと、疑われませんでした。群臣はみな悲しみました。八王が上奏しました。「こたび楊景は誅されましたが、その首級を無佞府に送り、埋葬されれば、陛下の厚く功臣を遇されるお気持ちを示されることになりましょう」八王は人に気付かれるのを恐れておりましたので、その形迹を隠すため、このような上奏をしたのでした。帝は上奏を受け入れ、禁軍に命じて、首級を楊府に送り、埋葬させました。令婆は家を挙げて哀号し、首級を埋葬しました。

さて佳山寨の岳勝らは六郎が誅されたことを知りますと、寨を挙げて大哭きし、声は原野を震わせました。孟良は言いました。「こたび上官は禍に遇い、われらはここを守っていても益はないから、解散をした方がよかろう」岳勝は言いました。「そなたの申していることは尤もだ」すぐに劉超、張蓋に命じて廟を山に建てさせ、真ん中に六郎の塑像、脇に十八人の指揮使の塑像を置き、毎年春と秋に祀らせることにしました。することが決まりますと、寨の中に貯えてある物をすべて均分し、三関の寨を壊しました。この日、人々は別れを告げて解散しました。陳林、柴敢は本部の人馬を率いて、また勝山寨へゆきました。岳勝は孟良を唆し、太行山に上らせ、草頭天子と称させました。部将は丞相などの職に封じられ、ふたたび掠奪を生業としました。この頃、焦賛は�ｹ州で六郎が誅されたことを聴きましたが、やはり逃げました。

さて王欽は六郎がすでに斬られたのを見ますと、とても喜んで言いました。「三関をあのものが鎮守していないなら、遼の兵は長駆して進むことができるだろう。わたしもむなしくこの地でじっとしているわけにはゆかぬわい」そして手紙を一通書き、密かに人を遣わして、徹夜で幽州へ送ってゆかせました。使いが幽州に着きますと、侍臣は蕭后に引奏しました。蕭后が手紙を開いて見てみますと

臣違(はな)るること数年、生成の�ｺ[46]に報いんと欲するも、毎(つね)に由(よし)無きを恨む。宋に入り庇(かげ)を荷(う)け、職は枢密に居り、宋君の寵任は、廷臣に両(ふた)つと無く、言は順(したが)はれざる無く、謀(はかりごと)は従はれざる無し。略(ほぼ)一計を施せば、楊景は誅せ成(ら)れたり。此の将は已に死すれば、中原の士卒は倶に木偶なるのみ。娘娘[47]師を興して南下せば、宋の社稷を取るは猶(なほ)掌を反(かへ)すがごとし。逆寄[48]の孤臣敬(つつし)んで此(ここ)に申奏し、後に機有るを伺ひ、書を馳せて再び報ぜん。

蕭后はそれを看ますと大いに悦び、群臣に示しました。蕭天左は言いました。「楊景はすでに誅され、他の将軍はほんとうに木偶の坊です。さきに土金秀らは河東で会戦しましたが、楊景がいなければ、北兵が中原を直撃し、誰も防げなかったでしょう。太后さまには兵を興され、宋をお伐ちになられますよう」師蓋が上奏しました。「この機はもとより逃がすべきではございませぬが、宋に勝つことができるとは限りませぬ」太后は尋ねました。「卿はどうして勝つことができないと分かるのだ」師蓋は言いました。「宋は中原を統べ、城池は千百座、生歯[49]は数千万と多く、勇力智能を兼備した、楊景のような人物はかならずやいることでしょう。一人の楊景が死んでも、さらに一人の楊景が出てくるでしょう。十室の邑さえも英雄を産みますが[50]、中原の戸籍のかように多きにおいてはなおさらのこと。愚見では、計略を用いてこれを欺くべきでございます」太后は言いました。「卿にはいかなる計略がある」師蓋は言いました。「魏府の銅台、佳山の勝景は、天下第一にございます。太后さまは人に命じて大量の美酒を造らせ、夜にかの地の池へとそそぎ込ませるのです。また人に命じて、八宝冰糖[51]を、十日に一度、かの地の樹の葉の上に塗りつけさせるのです。さらにわが国の軍人、民間人らに命じ、あちこちで、天が瓊漿を樹に、甘露を池に降したという噂を広めさせるのです。噂はきっと汴梁に届きましょう。今、この計を王欽に通知し、かれに命じて、宋の君主を誑かし、誘いよせ、景色を賞でさせ、その後で兵を出し、捕らえれば、大宋の天下はたやすく得ることができるでしょう」蕭后は上奏を聞きますと大いに喜び、すぐに手紙を書き、やってきた使いに与え、王欽に通知させました。王欽は師蓋に命を下し、軍三千を率い、ひそかに酒と飴を造らせ[52]ました。さらに蕭天左に命じ、軍兵を整えて、征戦を待つようにさせました。

数十日もしないうちに、消息が汴京に伝わりますと、王欽はひそかに僚属に言いました。「わたくしは魏府の空から瓊漿と甘露が降ったと耳にしましたが、皆さまは聞かれましたか」僚属は言いました。「人の噂をすでに久しく耳にしておりますが、本当であるかどうかは存じませぬ」王欽は言いました。「本当にございますとも。聖君が帝位におわしますために、このようなめでたいことがあるのです、皆さまは上奏をされ、祝賀されればよろしいでしょう」そこで、次の日、賀表が紛紛と奉られました。「池水醪(さけ)と成り、樹に瓊漿を貯ふ。若(も)し之を飲食せば、則ち能く白日飛昇せん」真宗は上奏文を看ますと、群臣に尋ねました。「今、魏府の地にこのような奇瑞があるなら、卿らははたしてまことであるかどうかを探り、ふたたび話しにくるがよい」寇準、柴駙馬だけは、八割方信じませんでした。寇準は上奏しました。「魏府の銅台は遼へは近うございますから、わたくしは遼の奇計であろうかと存じます。天が瑞祥を降すのならば、この地だけにはとどまらぬことでしょう。陛下は深くお信じになられてはなりませぬ」帝が話をしないうちに、王欽が上奏しました。「かようなことが天下の到るところで起これば、瑞祥ともうすには足りませぬ。聖君の至�ｺが天を感動させて、始めてかような瑞祥が起こったのでしょう。愚見では、千載の奇遇ですから、陛下は六師[53]を整えて、みずから見にゆかれるべきにございます。一つには辺境の民を巡撫するため、二つには、武威を揚げ、北蛮を震えさせ、かれらが中原を正視しようとせぬようにさせるためです」真宗は大いに悦び、言いました。「卿の見識は尋常よりも高きこと万万じゃ」すぐさま詔を下し、魏府に巡狩することにしました。八王が諌めました｡「陛下の龍駕がゆかれたことを、蕭后が知り、兵を興して包囲して、さらに将軍を遣わして、澶州を攻撃すれば、陛下の江山(てんか)を危険なく保つことができましょうや。どうかなにとぞ社稷のことをお考えあそばされ、このようなでたらめをお信じになられませぬよう」真宗は言いました｡「朕は柴駙馬、寇丞相に命令し、禁軍を率いて汴京を守らせるから、危険はあるまい」八王は諫言をしたものの従われませんでしたので、怏怏として退出しました。明くる朝、勅旨が降され、胡延賛を保駕大将軍とし、光州節度使王全節、鄭州節度使李明がそれぞれ部下を率いて前後に付き従うように命じました。延賛らは勅旨を得ますと、出発の準備をしました。数日後、真宗の車駕は汴京を離れ、八王以下、文武の上下の官員たちが随行しました。証拠に詩がございます。

鳳輦飄颻として禁城を出で、旌旗曙を拂ひて行程に壮んなり。尋常の山岳倶に揺動し、鼎沸奔騰す万馬の声。

時に冬十一月で、朔風は凛烈として、天は寒く、地は凍えておりました。大軍が遊遊蕩蕩[54]として、数日足らずで魏府に着きますと、車駕は中に入って休息しました。翌日、真宗は群臣とともに遊覧しますと、林の中の樹の葉の上に白い糸の結び目状のもの[55]があるのを見ましたので、取って食べますと、それは八宝冰糖でした。池の水は、みな米酒[56]でした。八王は上奏しました｡「陛下には狂夫の言葉をやすやすとお信じになり、ここに来られて、瑞祥をご覧になられ、車を馳せてらっしゃいますが、民草はお世話をし、その労苦には堪えられますまい。このたびは当地に来られ、景物をあまねくご覧になられても、何の瑞祥がございましょう。これはかならずや蛮人の計略で、陛下を欺き、こちらに来させて、謀殺しようとしているのでしょう。はやく戻られなければ、きっとかれらの罠に落ちましょう」真宗も疑わしく思いましたので、汴京に戻るようにと命令を下しました。北蛮はすでにその消息を知り、蕭天左、土金秀は歩兵騎兵十五万を率いて、たちまちに魏府をぐるりと取り囲みました。侍臣がいそいで真宗に上奏しますと、真宗は大いに驚きました｡「八王の言葉を聴かなかったため、今日の禍を招いてしまった。かくなるうえはどのような計略でこの災難を逃れればよいだろう」八王は言いました｡「蛮兵は蟻や蜂のように集まり、かれらの気焰は烈烈として、今すぐに闘うことは難しゅうございます。号令し、各城門を守らせて、人を遣わし徹夜で汴京に戻らせ、援軍を得れば、はじめて囲みを破ることができましょう」真宗は上奏を受理し、命を下して各城門をしっかり守らせ、みだりに動かないようにさせました。そこで胡延賛らは手分けして城門を守りました。

時に宋軍は敵楼[57]の上におりましたが、蛮兵が水も漏らさぬほどに包囲し、勢いは天を揺るがしているのを見ますと、みな心配しました。延賛は剣を按じながら言いました。「軍隊の闘いというものは、謀略の善し悪しにかかっており、兵士の多い寡いは関係ない。今、蛮兵は多いものの、速戦すれば利があるであろう。明日、わたしが計略を設け、かならずや賊奴を撃退するとしよう。そなたらは畏れて退いてはならぬ」軍は命令を受けますと、次の日、勅旨を得、出てきて戦い、計略を定め、光州節度使王全節には一隊を率いて左に、鄭州節度使李明には一隊を率いて右にいるように命じました。「わたしが馬を交えて、戦が半ば酣になったときに、おまえたちがいっせいに出撃すれば、かならずや完勝を得られよう」指示をしますと、城を出て陣を列ねました。すると遼の将軍土金秀が陣の前に走り出て、顔を指差しながら言いました。「おまえたちは浅墓で、もう罠に落ちておる。すみやかに降伏すれば、死を免れることができるが、そうでなければ、みな首のない幽鬼となろうぞ」延賛は言いました。「臊狗(そうく)め[58]、すぐに逃げれば残りの息を留めようが、もし頑迷凶悪に聖駕を待ち伏せするのなら、幽州を攻め破り、寸草も残さぬぞ」そう言いますと、刀を揮い、馬に鞭打ち、金秀を捕らえにきました。金秀は槍を挙げ、切っ先を交えること数合で、力が萎え、馬を転じて逃げましたので、延賛は追ってゆきました。金秀は弓を取り、矢を番え、その馬に中て、延賛を地面に振り落とさせ、蛮兵によって生け捕りにさせました。王全節、李明は延賛が捕らえてゆかれたのを見ますと、追い掛けようとせず、退いて城に入りました。宋兵は混乱し、蛮兵によって殺されるものは、数知れませんでした。全節は参内して真宗に見え、延賛が捉えてゆかれたことを知らせました、「蛮兵は強盛で敵し難いため、こたび、臣らは敗れて本陣に戻りました」真宗は上奏を聞きますと大いに驚き、手足をあたふたさせました。八王は言いました。「陛下には、悲しまれ、玉体を傷われませぬよう。すみやかに詔を書き、人に命じて、近辺の各節鎮[59]に届けにゆかせ、すみやかに兵を発して救ってもらうことにしましょう」帝は上奏を受理し、すぐに手勅を書きますと、使臣を遣わし、持ってゆかせました。