第十巻     

 

 

　　淫乱阿諛の二罪は冥罰がたいへん軽いこと

　　老僕の朱明は一日死んで蘇り、人に告げていった。

　　「わたしは冥土に呼ばれてゆき、前生で人のために借金の証人となっていたため、双方がたがいに非難した時、かならずわたしがゆくと、はじめてはっきりした。わたしは閻羅王に会った後、事実に基づいて陳述し、その事件は決着し、わたしを釈放して人の世に帰らせた。わたしは殿門を出ると、柱の上に「是是非非の地、明明白白の天」という対聯があった。わたしは嘆賞し、神明の口ぶりに恥じないと思った。

　　徘徊していると、一群の転生する幽鬼が堂から下りてき、大半は知らないものが多かったが、一人の娘、一人の老叟だけは、いずれもわたしの隣人であった。娘は淫行があり、叟は富豪に諂っていたので、この二人は、かならず阿鼻地獄に堕ちようと思った。判官は走りすぎると、手に托生簿[1]を持っていたので、そのことを尋ねた。判官は言った。「某婦はたいへん孝行なので、山西の貴人の家に転生して公子となる。叟はたいへん仁慈なので、山東に転生して富豪の女となる。」

　　朱はおおいに納得せず、言った。「わたしはもともと某婦が正しくなく、某叟は品性がないことを知っております、ともによいところに転生できますなら、閻羅の役所は、どうして是是非非、明明白白でありましょうか。」判官は嘆いて言った。「これが是是非非、明明白白というゆえんなのだ。なぜかというに、男女が淫らなことをするのは、すべて闇夜の間のうやむやの事なので、人の世の律文は『奸通を捕らえるにはかならず二人を捕らえよ。』と記載しているのだ。さらに『親族でなければみだりに捕らえるな。』という。まさにはっきりしない地で、容易に人を誣告することを恐れるからだ。閻羅王は厳粛正直な神で、どうして人の牀の下に臥して人の秘め事を窺おうとしようか。それに古来周公は礼を作り、その後はじめて『婦人一に従ひて終はる』[2]の言葉があった。お尋ねするが、周公が現れる前、黄農虞夏[3]千余年の史冊の中、女で節を失ったものは誰か。貧賎の人にいたっては、生計を立てられず、権門に迎合したり、富豪に阿諛したりして、人に嘲笑せられるのも、やむを得ないことである。いわゆる『天に順ふは昌んなり』[4]であり、どんな罪過があってかれらがよい場所に転生することを許さないのか。まして古人、たとえば陳太丘[5]は、張譲[6]を弔って党禍[7]を解き、康海[8]は劉瑾に会って李崆峒[9]を救い、その身を貶めてその仁を行い、功徳はもっとも大きいので、上帝は録して菩薩の一門に入れ、さらに善報があろう。淫乱によって人命事件を醸成したり、阿諛によって罪のない人を陥れることなどは、罪の大きなもので、冥土に照悪鏡を掛け、罪悪は明らかで、仇敵が告発しただけではないのだ。」朱はそれを聞くと大いに悟って言った。判官もかれの族叔[10]で、名を啓宏といい、黄岡州の吏目で、生前謹厳で聞こえていた。

　　人の寿命は定めがあって冥土で増減できないこと

　　六合[11]の程某は、平素鬼神のことを信じていなかった。年は六十余で、病を患って起きられなくなり、穀を摂らないこと四十余日であった。とある日、その妻に言った。「わたしは病んで助からないが、二人の孫は結婚に期日があり、わたしが孫の妻を一見できなければ、人はかならずわたしに福がないことを笑おう。はやく計らい、わたしの心を慰めてはどうか。」かれの妻子はかれの言葉通りにし、二人の新婦を引いて牀の前にゆかせ、目通りさせた。程は喜びの色を浮かべ、言った。「わたしは明日去れる。明朝わたしを扶け起こせば、すぐ納棺の衣を着よう。」

　　家人が蟒服[12]を進めると、棄て去るように命じ、言った。「役人になっていないのにこの服を着れば、かならず幽鬼たちに笑われるから、やはり常服を着るのがよい。」服しおわると、しばらくして言った。「二人が外で待っているから、紙銭を焼き、酒肴を供えて祭るとよい。」妻は尋ねた。「誰ですか。」「兪龍、江辛だ。二人は、すでに死んだもので、かつて身を捨てて城隍の役卒になったものだ。」そう言うと、沈沈と眠ること一日近く、突然目ざめた。「わたしを扶け起こし、納棺の衣をしばらく脱がし、城隍夫人の誕生日、賓客が往来してたいへん忙しく、点呼する暇がないので、兪、江の両人はふたたびわたしを放して戻ってこさせた。後日いって沙汰を待とう。」あいかわらず梨汁清茶[13]を飲んでいた。

　　さらに二日眠って目ざめると、衣を取って着るように命じて、言った。「わたしは今回はほんとうに去り、ふたたび帰らない。ただ家中の子女が城隍にたくさん香を焚いてわたしに寿命を与え[14]、あるものは五年を減ずることを願い、あるものは十年を減ずることを願い、かれらの孝心ではあるが、まったくおかしい。人の寿命は、それぞれ定めがあり、融通できるほかのものとは違う。ただ一つ奇妙なことがあった。わたしが城隍に謁見した時、もともと知らない女がわたしのために泣いて許しを求め、わたしを釈放して人の世に帰らせようとしたが、城隍は首を振って承知しなかった。わたしは大いに疑心を起こし、二人の�p隸に尋ねた。『あれはどこの家の女ですか。』『唐李氏だ。あなたは三十六年前の事を憶えていないか。李氏は唐某に嫁いで夫は亡くなり、この女は堂上の姑に仕え、その最期を看取り、さらにその夫のために一子を跡継ぎにし、事が終わると、霊前で再拝し、みずから縊死した。あなたはかれの節を思い、人に頼んで唐氏の義弟に教え、上申書を提出して表彰を請わせ、一切の費用は、すべてあなたが受け取って去ったのに、どうして記憶していないのか。』」程はそれを聞き、はっとして昨日のことのように思い、さらに城隍が首を振ったのも人の寿命に定めがあり、城隍が増減できることではないことによっていたことを悟った。話が終わると、さらに梨汁数杯を飲んで死んだ。程君の子は石泉といい、みずからわたしに語った。

　　関帝の血食を秀才が代わって受けること

　　某生員が仙を招き、ある日、関帝が壇に臨んだので、某が『春秋』の一段を尋ねると、乩の批答[15]は明晰で誤りがなく、それが終わると去った。某は帰宅した後、心の中でひそかに訝り、言った。「関帝は、忠は日月を貫き、位は極尊[16]にいたり、どうして一枚の符で、すぐに招いてゆけよう。」心は大いに不服で、表文[17]を書き、焼いて上天に訴えて告げようとした。

　　表文を作っていると、突然門を叩く音が聞こえた。某は戸を開けて見たが、誰も見えなかった。某はますます怒り、筆を執ってさらに書いた。すると突然、案頭に人が現れて、言った。「相公はお待ちください。」某は尋ねた。「あなたはだれか。」「わたしはまさに壇に臨んでいる人で、実は唐朝の秀士[18]です。乱軍に殺されたために、魂魄は廟内の殿下に落ち、朝晩殿宇を掃除していました。聖帝はわたしが勤労刻苦していることを憐れみ、わたしに廟内の血食を享受させましたので、関帝ではないのでございます。」某は大笑いし、すぐ表文を焼こうとすると、案頭の人はさらに言った。「焼くのをお待ちください。」某はさらに尋ねた。「どうしてだ。」「表文を焼けば、やはりわたしを訴えることになります。いずれにしても相公にお願いします、表文を水中に入れ、字が摩滅すれば、わたしに障りがなくなります。」

　　某はさらに尋ねた。「関帝は結局壇に臨む時があるのか。」「関帝は一人だけで、およそ天下の各廟内の血食は、すべてわたしたちが享け、天子が祭る時だけ、はじめて壇に臨むのでございます。」某は尋ねた。「どうしてそれが分かる。」「以前、数千年修練した狐がおり、天子が祭りを行うことを聞き、一月前から斎戒沐浴し、いって窺いました。すると七か月前、周将軍が壇に臨んで壇舎[19]を掃除し、紅い光が部屋に満ち、妖魔がすべて焼き殺されましたので、天子が祭りを行う日、関帝がまさに壇に臨んでいたことを知ったということでございます。」

　　悪人が転生して鱉となること

　　揚州に胡姓の子がおり、たいへん聡く、年は二十近かった。娶る数ヶ月前、突然狂疾に罹り、飲食起臥は不規則になり、意識がはっきりしたりぼんやりしたりしているようにし、ひとりで喋り、ひとりで笑っていた。

　　ある日、牀に坐してその父母に語った。「わたしは昨夜岳神の命を奉って本県の城隍の事務を代行し、本県はむかし懸案十件が結着せず、わたしに命じて公正に処理させました。わたしは誤りを恐れ、幕友を求めましたが、よく考えますと学業を授かった某師だけが平素から学問が信じられると称えられていますから、はやく礼物を調えて招いてください。」時に某師はすでに亡くなって多年であった。まもなく、突然起立して言った。「師がいらっしゃいました。師がいらっしゃいました。」喃喃剌剌としてやまなかった。家人が傍らで聞くと、なんと二人で問答しており、声や笑うさまは、まったく平素の通りで、「十の事件のうち七つの事件はやはり前の案に従い、そのほかの三つの事件は、一人は首を斬るべく、一人は手を斬るべく、一人は充軍するべきである。」と言っていた。

　　その時、医者がその病は滋養をつける[20]べきだと言ったので、一匹の鱉を買い、竈の下でその首を引いて斬った。鱉は頭が地に落ちると、目を怒らして獰猛で恐ろしかった。寝室からたいへん遠かったが、その子はたちまち牀で大声で怒鳴った。「この悪人は斬罪になるべきなのに、まだ何の不服があり、斬ってもまだ怒ってわたしを見ようとするのか。」家人は城隍廟で祈祷して戻っていなかったが、その子はさらに牀の上で言った。「太爺はどうして判官の面前で香を焚かれるのです。かれはどうして太爺が一拝なさるのに値しましょう。」

　　十の事件はすべて姓名があり[21]、くわしく調べると、いずれもすでに死んだ、域内での積悪が人の耳目に昭昭としているものであった。

　　姦夫が死後復讐すること

　　儀徵県の下役何二は、ある女と姦通していたことがあった。その女には古馴染みの胡四がおり、長年往来していたが、妻はかれの財産を狙っていた。後にだんだん困窮すると、女はだんだんかれを疏んじ、何もかれを虐げたので、鬱鬱として死んだ。女の夫も死ぬと、女は何に嫁ぎ、なんと夫婦となり、数年で大いに貯蓄した。

　　何にはもともと妻があってすでに亡くなっており、かつて一子を産み、たちまち狂疾に罹り、刀を持ち、斧を弄び、この女が来たのを見ると、すぐ手ずから斬ろうとし、言った。「わたしは胡四で、おまえの家はわたしの数千両をもちい、財が尽きれば心は離れ、さらに何姓に従い、このように快適にしている。わたしは死んでも甘んじず、すでに神に訴え、復讐することを許された。」治療しても効かず、僧道を招き、法事して祈り、一つも霊験がなかった。このようにすること数ヶ月、その子は骨が痩せて柴のようになった。とある日、劇団を呼んで演唱させ、さらに突然駅館[22]の馬に跨って市街を狂奔し、さらに突然家の中の物を打ち砕き、銀銭を探しだして他人に散じ、「神はわたしがおまえの家財を蕩尽し、さらにおまえの命をとることを許された」云々と言った。今でもかれの子は存命しているが、家産はすでに空しくなっている。

　　董刺史が冤罪を雪ぐこと

　　董公溶[23]は海寧州で任官した時、城外にいって実地調査したところ、旋風が輿の正面から来、左に避ければ左につき、右に避ければ右についた。公は驚き、祈った。「大きな怨みがあれば、輿の前で三たび旋回して退くがよい。わたしは下役に命じておまえの指示に従わせよう。」祈りおわると、ほんとうに公が諭したとおりにしたので、幹役[24]に命じて風に従って調査させた。人気のないところにゆくと、墓に入って消えたが、某解元の令嬢の墓であることをよく知っていたので、報告したところ、公はすぐに関係者を呼んでやった[25]。話によればその娘はにわかに病んで夭折したそうであったが、公は信じず、すぐ墓を発掘して検分した。某は公に「ゆえなく棺を開」いたことの証文を求め、はじめて墓を暴くことを許した。公はやむをえず、それを与えた。発掘して検分すると、ほんとうに病死であったので、公はおおいにみずからを悔いたが、告訴を待ち、弾劾に従うばかりであった[26]。

　　輿に乗って帰り、数歩もゆかないうちに、旋風がふたたび来たので、公はますます驚き、輿を止めてじっくり考え、墓の中の棺を置いてあった石板の下にわけがあるはずだと思い、ふたたび墓に戻っていった。石を掲げて調べると、さらに一つの棺が見つかり、開いて調べると、やはり一人の娘の屍で、貌は生きているかのよう、傾国の姿で、全身が鱗のように傷ついていた。尋ねると解元が脅迫し、強姦しようとしたが従わず、傷を受けて死んだものであった。公は法律に従って詳革[27]の判決をし、その怨みを雪いで顕彰した。

　　劉老虎

　　劉は名を捷といい、江右の人で、渾名を老虎といい、強くて力があり、一郷の無頼であった。

　　夜に飲んで酔い、帰ってくる途中、酒が湧きあがってくるのを覚え、壁を摩っていった。門があるとすぐ入り、自分の家と思った。足は疲れ、地に倒れて臥した。五更が終わって目ざめるとすぐ、人が尋ねるのを聞いた。「××はどこにいった。」「××洞にいる。」さらに尋ねた。「今回は誰だ。」「××、××、…全部で××名だ。」劉の姓名が中にあった。犯したのはどんな事件なのかしら、どんな役所が捕らえて尋ねるのかとひそかに思った。そこでみずから仰ぎみると、天もだんだん明るくなってきた。確認すると土地廟内であることが分かり、あまねく探したが杳として人跡はなく、たいへん奇異であった。そこで某洞はここから遠くないから、偵察しにいって構うまいと思い、早足でその洞にゆくと、ほんとうに大男がいて鼾をかいて熟睡していた。大男が剛力で、おだやかに話ができないと思ったので、佩刀を抜いて大男を掴み上げ、刀をその喉にあてがった。

　　大男は驚いて尋ねた。「何をする。」劉は言った。「悪人なのに、わたしに尋ねるか。」大男は言った。「わたしは通りがかりの旅人なのに、なぜ悪人ときめつける。」劉は言った。「旅人なら、どうして旅籠に投宿せず、行動が怪しいのだ。ほんとうのことを言わなければ、さきにおまえを殺そう。」大男はいそいで言った。「実はお上の命を奉じて犯人を捕らえようとしているのだ。」令状を求めて見ると、第一名がまさに劉であったので、何を犯したか尋ね、許しを求めた。大男は言った。「運命は定まっており、上帝が命じたことだから、どうして勝手なことができよう。」劉は言った。「それなら、おまえを殺しても死に、おまえを許しても死ぬのだな。いずれにしても死ぬのなら、おまえとともに死ぬほうがよい。」さらに刺そうとした。大男は手を振って止めて言った。「あなたを救おう。みずから手の指を咬みきり、血でわたしの令状を染め、姓名を変え、とおく他郷に移れば、数年だけのばせるかもしれない。」劉はその言葉通りにし、見ると大男は洞窟を出て地に転がり、虎に化し、咆哮して山に入って去った。

　　劉はよろよろとして帰った。家に着くと、空もたいへん明るくなっていた。そして姓名を改め、外府に移り住んだ。それからは悔い改め、無頼とならず、生業を治め、妻を娶って子を生み、寿命は七旬にいたった。親戚友人の家で北斗を拝し[28]、病人のために干保[29]となったが、劉は北斗を拝することは大事で、どうして偽名を記入できようと思ったので、以前のことを告げ、実名を記入して帰った。大門を出てわずか数歩で、虎に銜えられて去った。

　　乞食の屈

　　蘇州の楓橋鎮は、客商糧艘の集まるところであった。村はずれに古廟があり、乞食の屈の住むところであった。両足は不随で、朝に出て晩に帰り、楓橋の左右を離れなかった。

　　ある日朝起き、見ると厠の傍らに忘れ物の袋があり、拾って閲すると、中に銀数百を蔵していたので、旅人が残したものと思い、わたしは不運な人間で、どうしてこれを享受できよう。さらにそれがどういうことか知らず、一朝にして失い、命に関わることがあるかも知れなかった。そこでふたたび廟に帰って坐して待っていた。

　　昼、ほんとうに人が早足で来、地団太を踏み、胸を打ち、様子はたいへん慌てていたので、尋ねて言った。「物をなくされたかたではございませんか。」客は言った。「はい。あなたが拾われましたか。」屈は言った。「はい。ただ仰ることに誤りがなけば、お返ししましょう。」旅人はたいへん喜び、幾封か、幾らか、どんな銀質か、どんな包みかを述べると、ほんとうに合っていたので、屈は取り出して渡した。旅人はもとの銀を見てたいへん喜び、半分を分けて送ることを願った。屈は笑って言った。「あなたは馬鹿ですか。わたしはすべての恵みを受けませんでしたのに、半分を貪りましょうか。それにあなたは半分を損なえば、大事を終えることができません。どうかはやく去り、わたしが乞食するのを邪魔しないでください。」旅人はやむをえず、錠を摘んで与えて別れた。

　　乞食は街の入り口にゆくと、突然一人の垂髫[30]の娘を見たが、容貌はきわめて美しく、父に従って泣いており、見物人は垣のようであったので、人々に尋ねた。ある人が告げて言った。「曹家の借金を取り立てるものがこの娘を奪って償いにしようとしたので、悲しんでいるのです。」「どのくらい借りているのか。」人々は言った。「十両です。」屈はそれを聞くと怒って言った。「私債で搾取する時も、このように凶悪なら、官項[31]を借りたものならば、さらにどうなろう。さらに十両も小さい事で、富んで不仁であることが、ここまでのものだとは。」ところが債権者が傍らにおり、言葉を聞いて怒り、屈を指して尋ねた。「おまえのような溝壑を填めるものも、仁義を語るか。大言するなら、かれのために償ってやれるか。」屈は慨然とし、すぐに前の客から贈られたもので代わりに償ってやり、某の借金の証文を取り返して去った。

　　曹の本意は、もともと女にあって金になく、屈がその奸計を破ったことを怨んでいたので、捕り手に賂し、屈を責めて賊とし、屈を縛って役所に送った。呉県の陳公は冤罪であることをふかく疑い、金を忘れた旅人はそれを聞き、すぐに県庁に駆けつけ、代わって冤罪を晴らした。陳公はそれを聞くと、喜んだ。「これは義丐[32]だ。」反坐[33]の例に照らしてきびしく捕り手を懲らし、楓橋の各米屋に伝えて来させ、諭して言った。「日々受けとる米の様(サンプル)は[34]、すべて褒美として乞食の屈に与えさせ、かれが朝晩家々に物乞いする苦しみを免れさせよう。」さらに紅い絹を掛けて[35]やり、肩輿で送り返させた。

　　そこで、この乞食は日々一石の米の利を受けた。そしてだんだん名医を招くようになった。道士に遇うと干した荷瓣、茅朮[36]などの薬を与えて煎じたり洗ったりし、数日足らずで、足の病はなんと癒え、常人と等しくなった。十年たらずで、なんと豪邸を買い、妻を娶り、富豪となった。

　　僵屍(キョンシ)

　　紹興に徐姓のものがおり、あらたに豪邸を質入れし、書斎は三間、台榭[37]はすべて備わり、館師の章生が生徒を教える[38]ところであった。章が夜に読書して二更過ぎになると、たちまち東の部屋で窓を開ける音が聞こえ、強盗かと疑い、すぐに窓の隙間から窺った。見ると一人の若い女が月見し、築山に登り、樹杪を攀じ、隣の塀を越えて去っていた。私奔の行いかと疑い、書を置き、燭を消して寝た。鶏が鳴き、夜が明けない時に、樹頭で簌簌[39]と音がしたが、陽台に赴いて帰ってきたもののようであった。

　　早朝、書童が湯沐[40]を送ってきたので、尋ねて言った。「東の部屋には誰が住んでいる。奥の間に通じているか。」童は言った。「通じていません、前の所有者が封鎖した空き部屋でございます。」章はそれを聞いて大いに怪しみ、いって見れば、門は封鎖され、窓は元通り閉ざされていた。窺うと、中に霊柩が留めれていた。夜になって注意して観察すると、やはりこのようであった。章はそこで燭を取って窓を開いて入って見れば、棺蓋がななめに起こされ、中は空で何もなかった。章生はそこで棺蓋を代わって支えて起こしてやり[41]、『易経』を取ってばらばらにし、びっしりと棺に敷き、その後に帰り、楼に登って待っていた。五更の時になると、女が窓から入り、『易経』を見て後ずさりし、棺をめぐって一周し、彷徨して四顧した。頭を挙げて章を見、かれがしたことを知り、拝礼哀願した。章生は笑って承知しなかった。幽鬼は言った。「あなたが楼を下らなければ、わたしはすぐに登りましょう。」章はなお従わなかった。鬼物はそこで青面獠牙の姿に変わり、跳びあがってただちに登った。章は目が眩んで楼から落ち、人事不省となった。

　　書童が茶湯[42]を書斎に運んでゆくと、くまなく章生を探したが見つからず、主人と楼に登ってみた。見ると楼の下の東の部屋に人がいるようであったので、閂を開いて見れば、章生と女の屍が並んで地に伏していた。撫でると、章は体がまだ温かったので、ともに担ぎ出して薬を飲ませて救うと、しばらくしてはじめて蘇り、かれが見たことを述べた。官に上申し、遺族を調べて呼んで引きとり埋めさせることにしたが、遺族はすでに一家で遠出しており、家に見守る人がいなかったので、抵当に出されていたのであった。徐まですでに三たびその主人を換えていたのも僵屍(キョンシ)が祟っていたからであった。そこでその棺を焼き、隣家の子で奇病を患うものは、それから来なくなった。

　　申氏がみずから拶子に掛かること

　　張某はその子申氏の女を娶るのが、結婚して一年あまり、夫婦はたいへん睦まじかった。ある日、女はぼんやりとして語らず、両手はまっすぐ下に垂れ、突然手を挙げて合掌し、八本の指を交叉して拶子に掛かるありさまにしたが、苦痛は異常で、叫んで絶命しそうになった。みずからは開けず、左右が開いてやろうとしても、動かせず、力があるのものともに開かせても、すこしも動かせなかった。すぐにそのわけを尋ねると、女は言った。「一人の女がわたしの背後におり、わたしをこちらに来させたのです。」話していると、さらに大声で叫び、両頬は真っ赤になり、打たれているもののようであった。女は言おうとせず、言えば拶子に掛けられてさらに苦しみ、呻くばかりであった。一時して自然に開いたが、八本の指は皮肉が赤く腫れ、さらに半時して平復した。女は言動は普段どおりであったが、そのわけをはっきり言うことは承知しなかった。それから、日にかならず一二度、あるいは三四度あり、その苦しみは言うかたなく、医薬符籙もまったく治せず、今なおそうだが、そのわけは分からない。

　　ある人はいった。その娘は生まれつき偏屈で、実家にいた時、家はもともと富裕で、女は食事のたびに水牌[43]に食事を繕書し、選んで食らった。すこしでも口に合わないと、すぐ罵って器皿もろとも砕いた。下女が茶を勧める時、指で杯を持てば、すぐその杯を砕いてきびしくその下女を鞭うち、手が不潔だとし、茶に近づけなかった。着ている服は、一度洗濯を経れば、二度と服さなかった。ある人はいった。今、拶子を受けているのは、暴殄の報いで、それはほんとうにそうである。

　　雁宕の仙女

　　六合の戴某には、子がいて十八歲で、容貌は清秀であった。戸を閉ざして読書し、突然見えなくなり、その家はあちこち探し求めたが見つからなかった。

　　ある日、突然園内の香櫞[44]の樹の上から飛び降り、言った。「××の晩に月光の下で園内を散歩しておりますと、一人の美女が空から飛んでき、わたしを持って昇りましたので、わたしは言いました。『わたしは凡人でございますのに、どうして天に上るのでしょう。』女はかすかに笑い、香櫞の葉一枚を取り、踏んで登らせますと、すぐ空に騰がりました。ある高い山の頂上にゆきますと、石の門数十間[45]があり、門内に亭台花草があり、備わっていないものはなかった。わたしは尋ねた。『こちらはどちらでございましょう。』『温州の雁宕山です。天台は小さい山だが、劉、阮の事[46]があり、ましてわが雁宕は天台より千余丈高いので、佳話が人の世に流伝しないことができようか。』わたしと夫婦となりました。諸々の石の門の中には、いずれも仙女が往来し、老若は一様でありませんでした。語っている言葉は、いずれも玄経[47]の奥義で、思い出せませんが、服食起居が華麗で愛らしいと感じ、楽しくて帰ることを忘れました。すると突然、昨日わたしに言いました。『お父さまは明日八十の誕生日で、郎が帰って祈るべきのみならず、わたしもいっしょにゆきましょう。』さらに香櫞の葉一枚を取ってわたしに踏んで登らせますと、ふたたび雲に乗ってあがり、家に来たのです。」

　　その家人と隣人はこの知らせを聞き、見物しにくる人は麻のようであった[48]。すると突然くすしき香りが鼻を撲ち、空中で簫鼓の音が聞こえ、ほんとうに一人の絶色の娘がおり、珠冠玉帯、雲の中で叩頭する動作をしていた。跪いて起きるたび、霞光[49]は四方に閃めき、百鳥はみな鳴いた。家人は引きとめようと思っていたが、清風が一たび起こると、その娘とその子はすでに冉冉と手を持ってさらに去った。その父は子を思い、泣いてやまなかった。ある人はいった。この怪(あやかし)は礼を知っているから、翁が九十歲になったら、令息とまた来るにちがいないと。

　　生魂[50]が胎に入って妊婦がはじめてお産すること

　　金山県に老いた農民某がおり、月朔に夢みると、一人の青衣の人が下役のように牒を持ってき、語った。「あなたは本月十七日に、命数が尽きて死ぬので、一生つつしんで大過がなく、死後すぐに転生して某家の子となるが、やはり人並みで、寿命は心配ない。わたしはだからさきに来て知らせ、すぐに家事[51]を処理し、期日になったらわたしは来て子とともにいって投胎できる。」その人は目ざめると、あまねく家人に告げ、家産をすべて子に渡し、数日足らずで処置しおわり、死ぬ期日を待つだけであった[52]。

　　十二日夜になり、突然ふたたび夢みると、前の青衣が来てゆくことを促した。農民は期日になっていないといって断ると、言った。「もとより知っているが、あちらの妻は初十の晚にたまたま足を滑らして倒れ、胎気[53]を損ない、十七日まで待つことはできず、まさに今晩出産する。子はすでに産まれており、生魂が穴に入れば、飲食できるはずだ。今はすでに三日で、あなたがゆかなければ、かれは生きられない。」農民は目ざめると、その事を家人に述べ、ふたたび枕について亡くなった。

　　女が男に化すること

　　乾隆四十六年[54]、長沙西城の長安坊は、地名を青石井といった。把総[55]に安姓のものがおり、一人娘は五歲で、張守備の家の養媳となり、その姑は厳しく待遇し、すこしでも仲たがいすれば、かならず鞭がつぎつぎに下り、その苦しみに耐えなかった。十三歲で、逃れて父の家に帰った。張は安に向かって娘を求め、安は娘が年頃でなかったので、婚家に売って養わせることを願わず、さらに家に留め、結婚の日[56]を待ち、礼物を備えて嫁がせることにした。張はどうしようもなく、従った。

　　女は年が十七になると、婿も生長したので、張は期日を選んで告げ、安も嫁入道具を調えて女を嫁がせようとした。女は期日が近づいていることを知り、姑が厳しいのを恐れ、夜通し泣き、天に向かって叩頭して祈り、はやく死ぬことを求め、閨閣を出ることを願わなかった。母は女がこのようであるのを見ると、たいへん憐れみ、言った。「おまえはいたずらに泣いて死を求めても益はなく、天に怨みを訴えて[57]男の身に変われれば、嫁ぐことを免れられよう。」その晩、女が夢みると一人の老人が手に三つの丸薬を持っていたが、弾丸ほどの大きさで、二つは紅く、一つは白く、かれの口に納めて去った。目ざめると、臍の下がたいへん熱く、喉が異常に痛むのを覚えた。一炊の時も経ないうちに、陽(へのこ)が戸(ほと)に出、なんと立派な男となり、項の下に喉仏がにわかに突き出た。驚き訝って母に告げ、調べると誤りなかった。安夫婦には子がいず、この娘だけであったが、一朝にして男となったので、たいへん喜び、いって張に告げた。事は怪誕に属していたので、安が偽って結婚を断っていると疑い、県に訴えた。

　　ときに県令で山西の党公兆熊[58]は女を捕らえて公案[59]にいって調べると、容貌はまだ女であったが、亀頭は鮮やかに紅く、たしかに男子であったので、いきおい嫁いでゆき難かった。安に命じて婚資を張に補助させ、代わって一人娘を招いてやり、その子に与えた。法廷で安の娘に纏足を解き[60]髪を剃り、珥を外し、靴を着け、男裝に改めて去らせた。

　　人が鼠に変わって盗みをすること

　　観察[61]の王某が、俸給を受けるために長沙にゆくと、県令の陳公は公館を設けてやり、俸給を寝室に置いた。ある晩、枕に就くとすぐ、気がのぼせて寝られず、輾転反側して三更になった。突然梁の上で天井の中にものがあって木を齧る音がたいへん激しく、帳を掛けて窺うと、頂板[62]が裂け、大きさは碗ほどの物が上から地に落ちた。見ると、鼠で、長さは二尺ばかり、人立して歩いていた。王はたいへん驚き、あまねく牀と枕の間を探し、一物を得て撃とうと思ったが、にわかには得られなかった。枕辺に印匣[63]があったので、挙げて抛ちと、匣が破れ、印が出、鼠を打った。鼠は地に倒れて皮が剥けたが、裸の人であった。王はたいへん驚き、叫び、下役はみな来、その後県令の陳某も来た。見ると、かれの旧知の郷紳某で、家はたいへん資産が多いのに、どうしてこんなことをしたか分からなかった。尋ねると、ぐずぐずして答えられなかったので、王はすぐ公館に坐して拷問しようとした。

　　その人はみずからいった。「幼い時からもともと貧しく、自活し難く、河に沈みにゆこうとしました。すると一人の男に会いましたが、かれはそのわけを尋ねますと、死なないように勧め、言いました。『おまえの衣食を豊かにさせよう。』家に引いてゆき、一つの嚢を出し、わたしに手を入れて探らせましたが、すべて皮を束ねて巻き、重ねたもので、何気なく一枚の皮を取って出しますと、鼠の皮でした。その人は符呪を教え、皮を頂いて歩罡[64]し、北斗に向かって叩頭し、呪を誦えること二十四たび、地に向かって転がりますと、身はすぐ鼠となりました。さらに小さな嚢を渡して身辺に帯びさせました。資金を盗んで中に収めますと、嚢は大きくありませんが、満ちて重くなることもありませんでした。家にいって呪文を誦えますと、皮はすぐ剥がれ、さらに人の形となりました。」かれが積年盗んだものをすべて自供したが、数十余万を下らなかった。

　　王はそこで尋ねた。「おまえは今日失敗する前に露顕したことがあるか。」「この術はいたって優れており、失敗するはずがございません。思えば十年前、わたしは一つの木牌の上客にたいへん資産が多いのを見、盗人をしようと思いました[65]。鼠に変わってゆき、木牌に沿って登りました。すると突然一匹の猫が出てきてわたしの項を齧りましたので、わたしはいそいで呪文を誦えて皮を剥がし、抜け出して逃れようとしましたが、砉然[66]と音がし、猫の皮が剥がれますと、かれも人で、捕らえられました。受けた教えを尋ねますと、その人はわたしと師をともにしており、術はさらに精妙で、ある動物に化そうとしますと、思いのままになり、かならずしも皮を借りてなる必要はありませんでした。そして同学であることを思い、わたしを許して帰らせ、二度とこのことをしないように戒めました。すでに行いを改めて三年。五子を生み、二子はすでに官途に登り、一子は抜貢で、なお二子がおり、それぞれに知県を買い与えようと思いました。家中の銀を集めましたが額に足りず、公の俸給がたいへん多いことを探知しましたので、半分を盗んで数を足らそうとしましたが、印に遭って失敗してしまいました。」王はそこで皮を取ってさらに呪文を誦えて試すように命じ、皮は人と合わなかったので、その人を県に渡してさらに訊問させ、判決してはじめて去った。

　　歌を唱う犬

　　長沙の市中で二人の男が一匹の犬を引き、通常の犬よりやや大きく、両前足は、犬の趾(あし)の爪より長く、後足は熊のようであった。尾があって小さく、耳と鼻はすべて人のようで、まったく犬に似ていず、全身は犬の毛であった。人の言葉を話せ、各種の小曲を誦え、かならず節に合わせていた。見物人は垣のようで、あらそって銭を施して一曲を求め、四方に喧伝せられていた。

　　県令の荊公は道でそれを見ると、下役に命じて引いて帰らせ、太夫人が見ようとしていると嘘を言い、手厚く贈りものしようとした。来ると、先に犬を内衙[67]に入らせて尋ねさせた。犬を顧みていった。「おまえは人か。犬か。」「自分でも人か犬か分かりません。」「どうしていっしょにいる[68]。」「自分でも分かりません。」そこで二人が平素習っていることを質すと、言った。「わたしは昼は引きだされて市にゆき、晚に帰りますとすぐに桶に収められていましたので、かれらのすることはよくわかりません。ある日、雨で外出しなかった時、かれはわたしに船上で食事を与えましたので、桶から出られました。二人が箱を開くのを見ますと、箱の中に木偶数十体があり、眼目手足はすべてひとりでに動くことができました。その船板の下では一人の老人が中に臥しており、生きているか死んでいるか[69]、わたしも分かりませんでした。」

　　荊公が二人を捕らえて質したところ、はじめは罪を認めなかったので、すぐに鉄の針を焼いて鬼哭穴に挿し込み、厳しく拷問するように命じると、はじめて言った。この犬は三歲の子供で作った。さきに薬でその体の皮を爛れさせ、すべて剥がれさせる。次に狗の毛を焼いて灰にし、薬に混ぜて塗る。薬を内服し、瘡を平復させ、体に犬の毛を生じ、尾が出ると、犬さながらになる。この法は十人に一人も生きられず、一匹の犬になれば、利を終生得られる。限りなく子供を殺しても、この犬になるかは分からないとのことであった。そこで尋ねた。「木偶は何に用いる。」「子を攫い、みずから木偶を選ばせ、跛のもの、瞎のもの、肢を断たれたものを取れば、すべてその形の通りにし、乞食して銭を求めさせ、その懐を肥やすのです。」すぐに下役を率いてその船を捜索すると、船の下で老人の皮が見つかったが、背から裂かれ、中には草が満たされていた。尋ねた。「何に使う。」「これは九十以上の老人の皮で、もっとも得がとうございます。手に入れて乾かして屑にし、薬に混ぜて人の身を弾けば[70]、その人の魂がすぐきて仕事するのです。探すこと数十年、近頃はじめて手に入れました。さらに皮が湿っていて屑にできていませんでしたので、すぐ露顕しましたが、これは天であり、命でございます。ただはやく死ぬことを求めます。」荊公はそこで市に引いてゆき、その罪を暴いて打ち殺し、犬も飢えて死んだ。

　　韓鉄棍

　　韓舎龍は、山西汾陽の人、貧しくて住む場所がなく、県内の荒寺に住み、傭工を生業としていたが、勇敢強健で力が強かった。ある日、帰宅する時、寺の門の外に一人の道士が臥しており、尋ねると病のために歩けないことが分かったので、養ってやり、徳色がなかった。

　　このようにして三か月あまり、道士は病が癒え、韓に言った。「ご厚誼に感じていますが、報いるすべがございません。今から去るが、平生一物を貯えており、食らえば力は賁、育[71]を越え、富も致せるから、お贈りしよう。七十二年後、わたしに返せ。ただ、あなたは富んだ後、けっして納粟して官位を得てはならない。寿命を損なうだけだ。」そう言うと、口の中から一頭の羊を吐き出し、小さくて拳のようで、掌に置いてみると、粉でできたものであったので、韓の口の中に納めた。まさに飲んで齧ろうとすると、羊は喉からまっすぐに下に赴き、道士は掌で韓の後頭部を一打ちし、韓はすぐ地に昏倒した。目ざめると、道士はすでに所在が分からなくなっていたが、試しに耰(つちならし)や鋤の類を挙げると、すべて軽くて草のようであった。翌日、主人に会いにゆき、その家に住んで長作[72]となることを願い、鉄を買い、あらためて農具を鋳、地を鋤かせてやった。かれが耕す地は、人に十倍し、日々米を食らうことかならず三斗で、ほかのものもそれに対応していた。主人はかれの力が強かったので、たいへん気に入っていた。

　　ある日、炭五千斤を載せてよそから帰らせたが、車が坂を経て下ろうとしていたところ、騾馬が躓いて車が傾き、韓は後ろにいて手で引き、ゆっくり下り、面色は変わらなかった。主人はそのことを知りと、訝り、かれが神勇である[73]ことに驚き、鏢行にしたがって[74]布を運んで都にゆくように命じた。途中、盗賊に遭い、保鏢[75]二人はともに闘い、いずれも傷つけられて死んだ。韓は手に武器がなかったので、路傍の棗の樹を抜いて払ったところ、盗人は総崩れになり、捕らえられた。主人はその後、鏢客を護送して布を売らせ、利益を分けることを許し、傭作させなかった。韓はそこで鋼鉄を鋳て棍棒にしたが、長さは一丈二尺あり、重さは八百斤であった。かれが棍棒を用いるのには常法がなく、伝授ごともなく、勇を恃んで力いっぱい乱暴に撃てば、防げるものはなく、世間はみな「韓鉄棍」と呼んでいた。盗賊はかれと闘おうとしなかった。その棍棒は車の後ろに載せ、八人でなければ挙げられなかったが、韓が片手でそれを取れば、軽くて草のようであった。

　　ある日、京師にゆき、寓居に投じると、突然人が尋ねて来、みずから姓名を通じて「山東の白二」だといった。韓はもともと知らず、その唐突さを訝り、来意を尋ねると、言った。「わたしはあなたが鉄の棍棒が得意であることを聞きましたが、お見せになってはいかがでしょうか。」韓が車の後ろを指して客にみずから取らせたところ、客は片手で軽々と取って下ろし、韓に言った。「あなたはこの棍棒で、どのくらい人を傷つけたか分かりません。わたしは顔を上げますから、あなたがためしにわたしを打ち、わたしを傷つけられれば、ほんとうに神勇です。」韓は承知せず、言った。「わたしはあなたに仇がございませんから、どうして武器で戯れましょう。わたしと力を競われますなら、わたしが一本指を曲げ、あなたがそれを伸ばせれば、わたしはすぐ隠居帰田し、道路を奔走することを望みません。」そこでその食指を環にした。白は手を韓の指に引っかけたが、韓はかれの指が入ると、勢いをつけて持ち上げて地に抛った。白は起きて言った。「わたしは山東の大盗で、今まで敵がなかったが、今はあなたに負けてしまった。」その後、韓は山東、北直一帯にゆき、家の中を往来するかのようであった。このようにすること二十年、韓は分け前も豊かになったので、主人に辞し、もはや鏢客とならず、主人はなおその棍棒を載せてゆくこと二十余年であった。

　　韓は帰郷して地産を買い、二子を生み、農業を学んで生業とした。年が七十を越えた時、ひとり脱穀場で麦を見ていた。すると突然一頭の山羊が脱穀場から出てきた。人々はみな晋の地に産するものはすべて胡羊[76]だと思っており、これがどこから来たかを知らなかったので、あらそって追いかけた。羊は枯れ井戸の中に入り、人々が入ろうとすると、韓は先を争って飛び降りた。見ると羊は井戸の底にいた。手で挙げ、上へ向かって抛つと、しらぬまに体が羊とともに上っていた。人々は井戸の外にいたが、見ると一縷の白い気が井戸から飛び出した。羊は雲の中に入り、韓は地上に坐し、気力はいずれもなく、ともに担ぎ出した。その後も恙なかったが、それから手に鶏を捕らえる力もなくなり、はじめて道士が羊を返せといっていた話と、神通力がすでに去ったことを悟った。

　　さらに二十余年生き、九十歳になって亡くなった。使っていた棍棒はまだ韓荘にあり、今まで六十余年になるが、挙げられる者はいない。

　　幽鬼を妹と認めること

　　浙江藩司[77]の夜回り陳某は、酒を好み、もっとも豪胆であった。ある晩、塀の外を巡回していたところ、時に三鼓で、月はたいへん明るかったが、見ると一人の女がおり、年は十八九、容貌はたいへん麗しかった。陳は役所は禁地[78]で、密会するものはいまいと思い、心のなかで人でないと悟り、ひとまずかれに戯れることにし、いってかれの腕を握った。「夜歩きし、よい連れ合いを求めていらっしゃるのではございませんか。わたしがあなたの婿になるのはいかがでしょう。」婦は言った。「わたしは人でなく、縊鬼でございます。」その貌を変えたが、たいへん獰猛であった。陳は言った。「幽鬼はみな貌を改められると聞いております、あなたが醜悪でも、わたしは嫌いません。」幽鬼はどうしようもなかったので、言った。「とりあえずわたしを放してくだされば、銭十五千を差しあげますがいかがでしょう。」陳は尋ねた。「銭はどこから手に入れるのです。」幽鬼は言った。「薦橋[79]の某銭荘[80]に女がいますが、わたしは明日祟りにゆきます。あなたはわたしを妹とし、わたしはあなたに銭十五千を与えれば、その病はすぐ癒えると教えましょう。ただ、あなたが銭を得られた後、わたしはこちらで一二の事を処理いたしますが、これからは二度とわたしを邪魔しないでください。」陳が諾うと、幽鬼は去った。

　　翌日の午後、ほんとうに人が陳を訪ねてき、さらに言った。「妹さんはたいへんよくない幽霊です。昨日、主人の娘が外出して芝居を見、帰って妹さんに祟られ、あれこれ許しを求めますと、お兄さんを探してくれば去ると仰いましたので、あなたを招きにまいったのです。」陳はそこでともにいった。門に入ると、幽鬼はすぐ中で言った。「兄さんが来た。」大いに嘆いて走り出た。陳もいつわって泣き、抱きあって嘆いた。その後、幽鬼は言った。「わたしの兄は貧しく、生計を立てるすべがありません。あなたの家は富んでいますから、わたしの兄に銭十五千を与えて生計を立てさせれば、去りましょう。」店主人はやむをえず、金額通り渡し、女の病はほんとうに癒えた。

　　陳は銭を得て帰った。三日足らずで、聞けば司廨の中でほんとうに縊死した女がいた。そもそも幽鬼が代わりを求め、陳に阻まれることを恐れて、賂したのであった。

　　蟒(うわばみ)が嶺を過ぎること

　　湖広武岡州は、水路があってゆくことができた。武岡の任地に赴いたものがおり、家族を連れて水路を進んだが、一路はすべて急流で、二つの山が壁立し、茂った樹は鬱蒼とし、正午に日が見えるだけであった。

　　ある日、舟でゆき、聞けば上流の急流の畔に人がおり,銅鑼を叩いて人々に鳴らしていたので[81]、尋ねると、言った。「今日、蟒(うわばみ)が嶺を過ぎ、舟を留めるべきでいってはならず、ゆけば失うものがあろう。」「どうしてそれがわかる。」「わたしのところで山を焼くには、慣例で定まった期日があり、蟒(うわばみ)はそれを知り、期日の半月前、連れだって南から北へゆき、北側が山を焼くのを待ち、さらに北から南へゆくのです。今は十月で、南側は期日を初冬に定め、北側は期日を初春に定めているからです。かれが来る日は、朝にかならず大風がゆく舟を阻み、まもなくかれが溪を横ぎって渡るのです。今は、疾風が激しいので、分かります。」「どこにいる。」「離れること一里ばかりで、望み見られます。」

　　まもなく風はますます激しくなり、二つの山の樹梢と枝葉はすべて垂れ、一匹の蛇が首を現したが、大きさは十石の甕ほど、ゆっくり山麓から溪を横ぎって過ぎた。その頭は北の山に入っていたが、尾はなお南の山にあって尽きなかった。二つの山は溪を隔てること三五百丈ばかりであったが、このようにすること一食頃ではじめて尽きた。一匹の蟒(うわばみ)が過ぎ尽くすと、さらに一匹の蟒(うわばみ)が来たが、長さはいずれも大差なく、つぎつぎに連なってゆき、その体もだんだん小さく、一昼夜して尽きた。土人は言った。「この黒い蟒(うわばみ)は、性質がみな純良で、人を傷つけたことがありません。」

　　サルを食らう怪物を石掬ということ

　　湖南から道州までの道中に一つの山があり、高さは数百丈で、千の峰が巡って列なり、中に濂溪[82]の講堂があった。山中にはもっともサルが多く、しばしば出てきて人を煩わしていた。山麓の住民数十軒は、すべて漆戸[83]であった。山には漆の樹を産し、紅い芽が出はじめると香椿[84]のようであったが、食らう者はおおく死に、お上は石碑を立てて禁じた。漆林に沿って入り、周囲五六里、一つの澗を隔てていた。澗を過ぎるとすぐ山径に入り、樵(そま)路(みち)は雲を穿ち、高さは天を挿せた。

　　わが郷里の愛堂居士[85]がいって遊び、はるかに崖の側を望みみると、枯れた松があるようで、その毛はあまねく数里を掩い、蠕蠕然とし、近づいて見ると、すべてサルで、息を潜めて過ぎた。その上を通り、俯いてサルたちを見ると、約六七万匹がおり、老若雌雄がぐるりと集まり、呦呦としてみな啼き声をあげていたが、どうしてか分からなかった。まもなく、ふと見ると二匹のサルが上の崖から来、サルたちに向かって手を振り、鳴かないように禁じているかのようであった。その後全員が起きあがったが、老いたものを扶けるものがおり、子供を抱いているものがおり、みな崖の東に沿って登った。経香台[86]の畔にゆくと、俯いて伏し、息を潜め、上下にほとんど隙地がなかった。

　　にわかに大風が簌簌と林の木を動かし、台の後ろに一匹の獣が出てきたが、きわめてサルに似ていたが小さく、身の丈は一尺ばかり、サルたちはそれを見ると、みな俯いて臥した。この獣は濂溪の講座に跳びあがり、膝を伸ばして坐し、その身を推すと、たちまち一丈ばかり伸びた[87]。人々は下で仰ぎみたが、その頭頂は見えなかった。しばらくすると、一匹のサルが来てその座の傍らに跪き、みずから両手で後頭部からその皮を剥ぎ、食事を供して食らわせるもののようにした。

　　愛堂はさらにその異変を窺おうとしたが、しもべはすぐに怒り、大いに爆竹を燃やして響かせた。響きが一たび発すると、サルたちはみな驚き、山麓に落ち、死ぬ者は数えきれなかった。その獣は声を聞くと一躍し、ただちに屋根を穿って出、所在を知らなかった。按ずるに『異物志』[88]に、石掬はサルのようでサルを食らうとあるが、あるいはこれか。

　　鉄牛法

　　湖南の地方の囚人が死刑判決を受けた。処刑の後、慣例では、屍を三日晒し、その後で埋めることが多かった。夜に入ると、屍はしばしば見えなくなったので、官吏は驚き、追捕のために四方に出た。はじめは囚人の親族がひそかに盗んで葬ったと思い、訊問したが認めなかった。

　　武生の某が用事で県庁に赴き、ある村鎮[89]にゆき、馬を引き、溪の橋の下で水を飲ませた。水中に人影が映っており、俯いて窺うと、橋洞[90]の中の水が乾き、一人の男が目を閉ざして中で趺坐していた。踏みこんで近づくと、かれの襟や褶[91]の間にはすべて血痕が飛散していた。誰だと尋ねても、答えなかったので、いそいで走り出た。たまたま鎮に駐屯している汛弁[92]がおり、守備の殷某に告げた。殷はさきに橋の下に入ったが、その男は殷が近づくのを見ると、すぐ左足を飛ばして殷を蹴って地に倒れさせた。後から入ったものが来、殷を救いあげ、その人を探したがすでに見えなかったので、たがいに訝って帰った。

　　その晩、雷雨があり、一人の男を橋柱の側で撃ち殺したが、人々がいってみると、まさに昨日橋の下にいた人であった。ある人はいった。これは鉄牛法[93]を学んだもので、姿を変えられて、結局天罰を得たのだと。

　　妖術二則

　　江陰[94]に士人がおり、法術を茅山[95]で学び、術で女を招けた。亀の甲羅一個をもちい、符を上に書き、夜に抱いて臥すと、まもなく、一台の輿が一人の若い女を担いでくるのであった。昔親しんでいたものも、みな招かれてきた。その女は語らなかったが、まぐわうと生きている人間と異ならず、天が明けようとすると去った。かれらが去る時、かならずその裙を後ろで縛って出たが[96]、どうしてか分からなかった。話によれば、これは招いた生魂であるということであった。

　　婁県に道士がおり、天女を招くのが得意であった。かれの術を求めるものがいると、かならずその人に衣裙釵釧の類を備えさせたが、たいへん華麗珍貴であって、天女の服飾にすることができ、天宮の衣を着ていて俗世を踏めないからだと言った。かれが来るのはかならず初更で、さきに部屋をきれいに掃除し、人を遠ざけねばならなかった。道人は入り、符を書き、歩いて呪すると、天女ははじめて来たが、容色はほんとうにたいへん麗しく、くすしき香りは体に触れた。人がかれと交合すれば、世人と異ならなかったが、談笑しなかった。天は明けず、道士が来、さらに人を遠ざけて符を描いて天女を送って去らせると、衣装はすべて持ってゆき、一つも残すことがなかった。天女と交わるものはみな後患がないので、その術はたいへん富豪に重んぜられ、その資産を費やしても惜しまなかった。

　　後にかれがつねに妓女と通じてそれをしていたことが分かった。道士はもともと長身で、女を裸にして縛って抱き、袍を被せていたのであった。暗くて人は見わけられず、人を遠ざけて懐から出し、その衣装を着け、天女と偽って客を欺いた。明るくなろうとすると、ふたたび束ねて去り、こうしてその衣装を分け合っていたのであった。そもそも死後かれの弟子が人に語ったのであった。

　　蟹を養殖すること

　　盛京将軍の某は、関東地方に駐在していたが、かねてから鱉や蟹がいないのに、将軍の官署だけはこの物がたいへん豊かであった。それに驚いたものが、将軍に尋ねると、将軍は笑って言った。「これは土地の産物でないので、わたしは人工的にこれを繁殖させている。法は赤莧[97]を搗いて糊状にし、生きた鱉を甲羅ごと切ってこまかく砕き、青泥に和えて包んで団子にし、日なたに置いて晒して乾かし、流れる水の溪の畔に投じる。七日後、小さい鱉が出るのを待ち、捕らえて池の中に置いて養う。螃蟹(かに)もこのように作る。」按ずるにこの法は『養魚経』に載せているが[98]、螃蟹(かに)を繁殖できるとはいっていない。将軍の言葉によれば、およそ甲羅のあるものはみなこの法で養殖することができ、赤莧はもとより蛤介の中の返魂丹であるという。

　　鶏の嗉嚢を引いて溺れ死んだ人を救う法

　　およそ人が水に落ちて溺れ死んだときは、一日以内ならばなお生きられる。『洗冤録』に載せる「騎牛法」[99]はもっとも妙だが、さらに「鶏嗉を引く法」があり、水に入って三日しても生きられることは知られていない。揚州の各幇(ギルド)の排手[100]をしている黄一謙は、沛県の人で、単身で商品を持ってゆけば、かならず利を得、貯蓄すること百あまりにいたると[101]、すべてを用いて貧民を救った。康熙五十九年[102]六月、北通州の堤の上から水に落ち、すでに三日であったが、掬い上げ、長い眉、白い髯の老翁が言った。「筆で鶏の嗉嚢に被せ、さきに一つの孔を開け、肛門に挿し込み、鶏の嗉嚢を引き出して吹け。」三人目の人が吹くと、胸元がかすかに動いたので、老人は言った。「助かった。」人々が赴いて見ると、突然老人の所在を失い、人を換えて吹かせると、ほんとうに息を吐いて蘇った。

　　鳥獣は群れをともにできないこと

　　荊州の寺の僧某は、たいへん禅誦[103]に優れていた。ある日、猟師が一匹の虎の子を捕らえて帰り、途中寺の門で休んだ。僧は殺さないように勧め、人々はすぐ虎を寺に施捨した。僧が飲食を与えると、たいへん馴れ、僧とともに起居した。課誦[104]のたび、虎も人々の後にしたがって頂礼の動作をし、課業が終わると退いた。日に日に生長し、客が方丈にゆくと、虎は座下に伏していた。はじめはたいへん驚き恐れたが、その後その様子に悪意がないのを知ると、やはりあまり恐れず、からかっても、虎は怒らなかった。

　　ある日、客が僧を訪ねて方丈に入ると、僧は足で虎を蹴って去らせ、言った。「わたしのお客さまを驚かすな。」虎は伸びの動作をし、目を瞠って見、しばらくしてはじめて出た。その後、さらに来て足元に臥し、気は粗くて喘ぎ声があり、客はますます恐れ、僧は手で虎を打ち、さらに目を瞠ってしばらく見て、考えるかのような様子をし、僧は足で蹴って去らせた。まもなくまた入ってきたが、怒りの表情をしており、まっすぐ進むと、僧の頭を銜えて去ったが、僧はなお坐して倒れていなかった。寺の人が見ると虎の口に血があり、山門を走り出たので、ともに追ったが、深山に入って去り、結局捕らえられなかった。

　　蛇を捕らえること

　　江陰の章燕橋が言った。南方の旅人が京師に泊まり、みずから蛇を捕らえられると言った。主人はその法を見ようとしたが、承知せず、再三しいると、はじめて諾った。先に竹工に命じて竹片百本を削らせたが、長さは三尺ばかり、その両端を切って矢か錐のようにした。期日になると、主人や外客[105]と約し、麻縄で竹片を束ね、縛らせてゆき、ともに西山の石仏廟[106]内に赴いた。鋸石台[107]の上で、歩罡して符を書き、口で喃喃[108]と語った。

　　まもなく微風が起き、草の中で索索と音がし、蛇はほんとうにたくさん来た。先に小さいものが、後に大きいものが、ぐるぐる回ったが、錦のようなものがおり、花のようなものがおり、諸々の色はすべて備わっていた。人々はみな見たことがないものだと訝った。最後に一匹の蛇が来たが、あまり大きくなく、全身は光って黒漆のようで、その首を挙げ、進み出て客を見た。旅人は色がすぐに変わり、憮然として言った。「まずい。」いそいで符を書いて退けた。蛇たちはみな散じたが、黒いものだけは去らず、舌を触れ、口を開き、怒る様子があるようであった。客は披髪跣足で呪文を誦え、舌を齧り、血が噴き、黒い蛇ははじめて去った。人々を顧みて言った。「あなたたちは帰られますが、この蛇はわたしと術を比べにきましたので、わたしは去れません。去れば禍を主人にもたらしましょう。」そこで人々に命じて縄でその身を縛らせ、石仏の背に括りつけさせ、持っている竹片を手の傍らに置き、人々を促して去らせた。

　　翌日、旅人が帰り、人々が事情を尋ねると、言うには、その夜、風雨は烈しかったが、その蛇は隙をついて来、口を開き、気を吸い、呑もうとするかのようであった。旅人はその気が来るのを望み、竹片一本を投げると、串は息によってその腹の中に取り込まれた。このようにすること数十回、気もだんだん衰え、竹片も尽きようとした。にわかに廟の門外で崩れ揺らぐ音が聞こえ、蛇が地に倒れており、風雨も収まった。

　　金香[109]一本

　　富豪某は、某寺の老僧の徳行がたいへん高いことを聞き、家に招き、部屋の中に祀り、朝晩頂礼し、香柱、香炉の中も、かならず金で作った[110]。

　　ある日、僧は静かな部屋の中で瞑想していたが、ふと見ると、彩雲は飄渺とし、くすしき香りは部屋に満ち、二人の仙女が一つの蓮花座を持ってきて言った。「わたしは西方の仏祖の命を奉ってお迎えにまいりました。」僧はみずからを顧みたが、功徳はたいへん浅かったので、恐れてゆこうとしなかった。仙女は再三促し、さらに言った。「去らなければ、わたしは復命できません。」僧が瓶の中の香桂[111]一本を取って与えると、はじめて冉冉として去った。翌日、主人の家で一頭の驢馬が生まれ、地に落ちると死んだ。奴僕たちが割いて食らうと、腸の中から金香一本が見つかった。驚いて主人に告げたが、僧は知らず[112]、主人も金香桂が和尚に献じた物であることを知らなかった。

　　後にたまたま和尚に会った時、主人がこの事に言及すると、和尚はたいへん驚いて色を失い、はじめて前の晩に蓮花座で迎えられたことを主人に告げ、すぐに瓶の中を見ると、すでに一本の香桂がなくなっていた。そもそも功がないのに禄を食むのは、天意の忌むことなので、驢馬に変わって報いさせたのであった。

　　小童が女の幽鬼に遇うこと

　　鎮江の梅甫[113]族弟の家は、小童で孔姓のものを雇い、その子岸夫に伴わせ、書楼の上に宿らせた。乙巳[114]冬の望日の三更過ぎに、楼下から物を取らせようとしたが、一更を過ぎても来なかったので、すぐにその家の西席王松坪先生[115]とともに楼を下りていってみた。あまねく探しても見つからなかったので、いそいで家の人々を呼んで探し求めさせた。探して第三進の小部屋にゆくと、かれが卓の下に臥しており、頭は椅子の脚に嵌まっていた。家人が引き出したが、人事不省で、生姜湯を飲ませると目ざめ、その事情を尋ねると、言った。「楼を下って階段の中にゆきますと、一人のおばあさんがわたしを扶けて堂の前にゆき、わたしが人を呼ぼうとしますと、手でわたしの頚と項を抑えましたので、すぐ語れなくなりました。その後、どう門を閉ざし、どうこちらに来たかは、わたしはまったく分かりません。」そこで安眠させると、翌日も恙なかった。

　　翌年五月の望日の前になると、かれは書楼の下の廂房の中に臥していたが、時に二更ほど、明月は昼のようであったが、突然大声で叫び、岸夫がいそいで起きていって見ると、奴は言った。「昨冬わたしを扶けた女がまた来ました。わたしは驚き恐れ、帳門[116]をしっかり引きますと、かれはわたしと引っ張りあいし、開かないと去りました。わたしがすぐに人を呼びますと、かれはまた戻ってきましたので、わたしが叫ぼうとしないでいますと、かれはふたたび去りました。わたしは大声で叫び、かれは人が来たを見ますと、見えなくなりました。」この女の様子を尋ねると、言った。「身に藍の衣を着、顔はたいへん美しく、その白さは雪のようでした。」家ではかれがまた事を起こすことを恐れ、小童を去らせたところ、その後は平穏で、見えたり聞こえたりするものはなかった。岸夫のおいがみずからわたしに語った。

　　懐慶の水災で扁額を投じて水が収まったこと

　　わたしの同年沈永之[117]が懐慶府太守となった時のこと、長雨で、黄河の水が溢れ、まっすぐ城内に注いだ。公は属官や人民らとともに城外の高い丘に登って水を見たが、水は高さ数丈で、結局帰れず、飢えること三日、天に祈ることの外、一籌も施せなかった。

　　ふと見ると、一人の黄衣のものが笠を帯びて舟に乗ってき、尋ねた。「水を退かせようとするなら、わたしに尋ねるべきだ。」公がすぐに尋ねると、言った。「懐慶府の大堂の扁額を取って水に身を投じられれば、水はすぐに退こう。」かれの姓を尋ねると、答えた。「わたしは姓を黄という。」そう言うと去り、水はその舟についてだんだん流れ下った。高い丘は役所から数十余里で、公の父母はともに役所におり、ゆける人がいず、彷徨していると、家人で陳姓のものが言った。「わたしは泳ぎを知っておりますので、ゆくことを願います。」公は欣然としてかれを遣わすことにし、その人に命じて頭に葫蘆を頂かせ、手紙をその中に入れた。水を泳いで官署にゆき、二人の老人が楼に登って泣いているのを見た。その知らせを得ると、たいへん喜び、すぐ扁額を取って水に投じると、まもなく水は退いた。

　　同郷人に尋ねると、言った。「某所に黄将軍廟があるが、思うに懐慶府は、この災に遭ったのだろう。その扁額を水に投じたから、すでにこの災には対応したことになろう。」公はすぐいって焼香し、その像を見たところ、ほんとうに見た人と合っていたという。

　　三王神が医者を呼んで腕を治すこと

　　帰安[118]の名医湯姓は、字を労光といい、門の外に「治療を求めるなら、さきに十両を送るのでなければ治療しない。」という扁額を掛けていた。ある日、外で銅鑼の音がし、出て見ると、一隻の大きな沙飛船[119]が門外に泊まっていた。まもなく一人の男が岸に登り、従者は手に一つの大きな元宝を捧げ、王姓で、家は菱山[120]の下にあり、左腕が傷つけられたので、おりいって治療を求めにきたとみずから語った。医者がすぐに膏薬を与えて貼らせると、拱手して去った。医者が送って舟に乗らせると、ふたたび銅鑼を鳴らして舟を出したが、旗の上には「三王府」の三字が書かれており、まもなく見えなくなった。医者が帰宅し、見ると卓上の元宝は紙の元宝であったので、たいへん驚いて言った。「これは東菱山[121]の神だ。」翌日、すぐ冠袍を着けて拝しにゆくと、神の左腕に膏薬がなおあり、傍らに一匹の死んだ蠍が残っていた。

最終更新日:2012年2月15日

続子不語

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