第八巻     

　　屍変

　　鄞県の湯阿達[1]は都にいたが、かれの兄が来ても挨拶しなかった。ある人がわけを尋ねると、言うには、二十年前、兄と一人の隣家の娘の屍を番したことがあったが、兄が楼を下って茶を取りにゆくと、阿達は屍の美しいのを慕い、邪心を抱いた。しばらく見ていると、屍が突然立ち上がり、部屋を巡って追いかけた。阿達は門にいって逃げようと思ったが、門にはすでに外から鍵が掛けられていた。そもそもかれの兄は楼に上った時、屍が追っているのを見たので、恐れて門に鍵を掛けていたのであった。阿達は窓を跳びこえて逃げ、屍は跳べなかった。阿達は瓦の上で気絶し、屍も直立して動かなくなった。翌朝、家人が楼に登って見ると、屍はなお直立していたので、米の篩をとって屍を降ろして納棺した。三日後、阿達は市から帰る時、白日この娘がかれを良くないと罵るのを見た。阿達は城に入り、さらに都に入り、今でも帰ろうとしない。

　　幽鬼が頭目を買収すること

　　杭州の糸屋の施三聘は、死後、子がいなかったので、妻はかれの家産を持って某と再婚した。三聘は冥府にいって訴えたが、冥王は受理しなかった。施は判官の書吏に相談して言った。「婦人が再婚する時、夫の財を取らなければ、わたしたちは弁じられない。おまえの妻は財を取って嫁いだから、おまえがわたしたちに与える銭があれば、わたしたちはおまえの妻を捕らえてこよう。老爺(ラオイエ)[2]に知られても大罪がない。おまえが銀子を持ってきて冥府の頭目を買収すれば、はじめて後夫を脅しにゆき、おまえの妻の魂も取れよう。」施はその言葉通りにし、江を渡ってもとの家にいって冥資[3]四百を借りて付け届けにした。後夫の家は爆竹が放たれるのを聞けば幽鬼が叫び、溺死する者、縊死する者がいたが、すべて頭目がしたことであった。

　　十か月騒いだ後、あらたに死んだ大工の幽鬼が来ると、胥吏は言った。「このものの力でおまえの妻の魂を取れる。」大工はほんとうにその牀を切り、その足を斬り、妻はほんとうに叫ぶこと三日で亡くなった。後夫の使用した資金、医薬棺槨祈祷の費用は、かれが持ってきた金額とぴったり合っていた。

　　韓六の三事

　　両替屋の葉姓のものは、十九歲の時、病むこと二十余日で、突然起きて跪くこと数日、みずから言った。「わたしは山陰の活無常[4]韓六で、今は冥土の使いとなっている。生前おまえの叔父さんと親しかった。おまえは寿命が尽きていないが、幼い時に背後で若い寡婦を罵ったので冥罰を受けた。しかしまだ挽回できる。おまえの叔父さんがゆき、わたしの上官が後日外に出て客を拝する時に、岳廟の前の東側の第一位の判神[5]の前にいって紙銭を焼き、つつしんで叩頭すれば、幕僚に頼んで挽回してくれよう。ただ、廟に入ったら何ごとに対しても声を出してはならず、とにかくたくさん紙銭を焼け。」翌日、韓はまた来て言った。「おまえの叔父さんは客を集めて保証書を作り、すぐに焼くとよい。わたしは持ってゆき、口利きしてやろう。おまえの叔父さんは明日の午の刻に来、わたしの主人の帰りを待つな。」

　　期日になり、葉の叔父が廟にいって祈ると、韓はすでにさきに家にきて音信を通じ、葉を起こし、跪かせて言った。「訴状はすでに受け入れられ、大いに曲折[6]を経て、幕僚がすでに指示を書き、八百[7]を費やすことだけを求めた。おまえの叔父さんはおのずと体験していることがあるから[8]、『雀がどこかから来ましたか。』と尋ねてみろ。」葉の叔父は帰ると、ほんとうに拝した時に雀が帽を払って過ぎたと言い、たいへん珍しいことであった。葉の病は癒えた。

　　清涼橋[9]の炙糕[10]を売る女の倅某は県の下役であった。庚戌[11]の夏、着ていた青衣を持って帰り、同僚の徐がその青衣をなくし、某を見ると、かれの衣がそれかと尋ねた。某は徐が自分が盗んだと誣いていることを怒り、罵った。翌日、その母の炙糕媽媽というものとともに府の城隍廟にゆき、香炉を置いて呪い、さらに神に霊力がないと罵った。時にほかの下役葉、李、孫三人がおり、見てやめるように勧め、事はすでに収まった。九月、同僚の程姓のものが死んだ。

　　辛亥年[12]正月十四日の晩、某は看燈して帰ると、突然倒れた。夜が明けると、顔は青くなっており、冥官にびんたされたと言い、捕らえられて冥土にいった時のことを逐一述べた。「冥王は程姓のものが衣を盗んだと判断し、すでに寿命を奪い、今、枷に掛けられている[13]。徐某はたまたま尋ねただけで、もとより罪はない。葉、李、孫の三人は自分にかかわる事でないのに、勇躍して先を争い、紛争を除き、他人に神明を汚さないように戒めようとしたので、それぞれ口福[14]を三年増した。わたしは些細な嫌隙によって神を冒涜したので、びんたされ、さらに陽官[15]に送って四十板責められる。」さらに言うには、すべて韓六がかれの釈放を世話してやったということであった。職務を始めた後[16]、某はほんとうに訴訟によって規定の数どおり責められた[17]。葉は老年、李、孫は中年の人であるが、現在いずれも恙ない。

　　戴七も山陰の下役で、女郎買いと賭博を好み、かならず一月あまり帰らなかった。かれの妻某氏は、その隣人王三に頼んで伝言を届けさせ、生活するための銭や米がほしいと言った。王三は探して戴七が女郎買いしているのを見ると、戯れて言った。「あなたはこちらで花(おんな)を貪ってらっしゃいますが、奥さまは報せを得ました。あなたが届けるお金がなければ、奥さまも間男を求めましょう。」戴七は本当だと信じ、言った。「あれは女なのに、王三にこうしたことを言うとは。あれにはきっと馴染みがいよう。」

　　その夜、二更に帰り、いそいで門を叩くと、妻は衣をはおって起きて門を開き、かれがひさしく外出していたことを怒っていたので、色をなして語らず、部屋に入って臥した。戴は間男が部屋にいると思い、提燈であまねく照らしたがいなかったので、坐して訝った。たまたま呉某というものがおり、やはり同僚で、その巷を通り、たまたま煙管の灰をその塀で三たび叩きおとした[18]。その夫は疑っていたので、きっと約束があって来たのだと思い、門を開いて追いかけた。呉はそれを怪しんでいそいで逃げたが、戴は一里余り追いかけて呉に追いつき、たがいに見あって散じた。戴は帰ると、妻が呉と密通していたと言い、殴ったところ、妻は孕んで一月あまりであったので、死んでしまった。その年の冬、王三は病んで死んだ。

　　辛亥正月の初旬、呉は晚飯が終わると黙り、気絶し、昏昏として眠り、朝になって起きると言った。「わたしは韓六に感謝しにゆこう。わたしは戴七に告げにゆこう。」そもそも黙っていた時に二人の冥土の使いを見たが、その一人は韓六で、捕らえて冥府にいった。主人に会うと、暖帽[19]をかぶっており、顕官の服のようで、判決した「王某は口舌の戯れで人命事件を醸した、寿命はすでに尽きているが、杖四十、枷三年にするべきで、あらためて立件してさらに判決するべきだ[20]。呉は違法に飲食した灰を[21]、夜深けに人家の門や壁で叩きおとすべきでなかった。戴が門を開いて出てきた時は、逃げるべきでもなかった。戴が一里余り追って見あった時も、そのわけを説明して疑いを解くべきであった。呉は寿命を半紀奪い、百二十回びんたするべきだ。戴は遊蕩して帰らず、疑いによって妻を殺したから、跡取りを絶ち、飢餓困窮させよう。冥籍を調べると、戴にはすでに子がおり、七歲で、五人の幽鬼に命じてその魂を取らせよう。」、さらに言った。「韓六は判決文[22]を読んでかれに聞かせ、費用八百を求めろ。」そこで韓家にいって紙銭を焼いて謝した。

　　戴はそれを聞いて驚き、子を連れて叩頭して神に祈った。三日目、子は病むことなくにわかに死んだ。呉の顔の掌の痕は四か月して青色が褪せた。

　　幽鬼が缺[23]を買うこと

　　山陰の戸書[24]徐某が病むと、かれの亡兄が来て言った。「わたしはすでに缺を冥府で買った。死んでも冥判[25]の書吏となれるから、苦しむことはない。」その後、県の下役ですでに死んだ祝という姓のものが、やはり来て言った。「あなたは死なないでよい。大金をわたしに渡せば、世話してあげられよう。」某は承諾した。去ると、かれの兄がまた来て言った。「先ほど、祝はおまえの缺を買い、おまえの金を騙しとることを謀っていたのだ。おまえは寿命に定めがあり、死なないことを求めても益はないから、みずからこの缺を棄てるしかない。」徐某は言った。「わたしはすでに祝と約束しましたが、どうしましょうか。」かれの兄は言った。「冥府の事は人の世と同じで、この缺はなお年月を隔てており、今はあらかじめ期日を定めて約したにすぎない。祝はなお断ることができ、遅くない。」徐は言った。「それならどこで祝を探して返事しましょう。」その兄は言った。「わたしがゆけよう。」

　　翌日になると、かれの兄が祝とともに来、集まって相談したが、祝はほんとうに缺を買うことを謀っており、徐の兄と先を争った。さらに死んだ幽鬼の某某がともに来、その争論を収めてやり、五年後にこの缺が出たら徐某に譲ってさきに就任させ、徐某が五年の吏満[26]を待ち、祝に交代させることにしたところ、祝は諾った。その後、祝はまた来て言った。「わたしは待つ時間がないから、改めてほかの缺を求めにゆこう。」徐某の病もだんだん癒えた。

　　これは乾隆辛亥年のことで、今、徐某は恙ない。この事は山陰の書吏はみな語れ、たいへん確かである。

　　温将軍

　　民間で温将軍を祭っているが、道家では天篷神[27]といい、釈家では薬叉神[28]といい、霊威はおおいに験がある。

　　丙戌[29]の初秋、山陰安昌里[30]の婁象甫は山西の巡検[31]から休暇をとって帰り、たまたま外出して友人を尋ねようとしたが、道で会ったので立ち話していた。ふと見るとかれの亡兄敬甫が来、道の隅に引いていってひそかに頼んだ。「わたしの家の宗祠[32]を修理した時の事が告発された[33]。土地を売ったものの祖先の幽鬼で、周家のものがたいへん強く、はじめ土地城隍の各神に訴えたが、わたしはすでに冤罪を雪いでやった。今回、温将軍が上帝の命を奉り、乍浦にいって海の災の一件を処理し、みずから海のほとりに来たが、周は馬を引きとめて訴状を投じた。将軍は承諾すると、副使神を宗祠にゆかせ、城隍土地神とともに地を調べて訊問した。祭祀はもともとわれら兄弟が取りしきったが、墓を移すことはおまえが実際に司ったから、おまえはいっしょに訊問を受けるべきだ。おまえははやく帰って沐浴して衣を換え、部屋を選んで臥し、訊問を受けてくれ。家の人には騒がないように頼み、もっとも泣く声を戒めろ。泣けば魂は散じてふたたび帰られない。この件でおまえが恐れることはない。城隍土地も助けるはずで、きっと決定を翻すことを承知しまい。わたしはあの世で助けてやろう。たくさん紙銭を焼き、周家の地を売った証文を抄写してそれを焼くのがよかろう。」象甫は路の隅で切切とひそかに語ったが、向かいあっている人がいなかったので、かれの友人は訝った。

　　象甫は語りおわると、すぐに帰って沐浴して衣を換え、書室に入って鍵を閉ざして臥した。かれの家人は窓の外から集まって見、しずかに聞いた。一更あまりで声がしたが、すべて対質の言葉であった。さらに家人に命じて多く茶器をととのえて客に献じさせたが、百余盞にいたってもなお満足せず、五更になると客は去った。

　　象甫は朝にみずから鍵を開けて出てき、尋ねられた事を話したが、地を買って祠を建てた時、棺を十余り移したことがあったということであった。象甫は資金を傭工に与えたが、傭工は不注意で、周家の祖父の一本の骨を落としてしまった。移った後、はじめて地を見て骨を見つけ、主人が責めることを恐れ、ひそかに骨を河に捨てたのであった。周はそこで冥土に訴えてやまず、さらに槨を移された幽鬼たちを招いてともに温神に訴えにいった。神が城隍に命じて骨の行方を調べさせると、水中にそのままあった。神は「周の子孫は銭を受け、地を売って棺を移すことを願い、婁はさらに工賃を与え、宗祠を建て、さらに帳簿と証文があり、もともと罪がなかった。周の末裔が零落し、その子孫が祖先の墓を売ったのは、もとよりよくないが、すでに貧しいことは、議論の余地もないことであった。王傭工が金を受けて骨を移していたのに、ひそかに水中に抛ち、過失はほんとうに言いがたい。かれの禄はすでに尽き、�歯�[34]に渡してかれを拘束する」と言い、周は泣いて去った。

　　周はもともと同県の人で、生前軍功があったので、婁はその名を言おうとしなかった。その年、乍浦で潮(うしお)の害があり、溺死したものは数千人であった。温将軍が命を奉じて使いに出るという言葉には験があった。婁は素朴温厚の人で、今年八十三だが、なお健やかに歩き、杖を持っていない。

　　幽鬼が喫煙を求めること

　　談竹蒼は、名を震といい、徳清の人であった。乾隆乙巳[35]の夏、蘇州に寓して館を求め、たまたま傷寒に罹り、発熱すること数日、たいへん衰弱した。ぼんやりした中で夢みると青衣の人が手に一巻を持って前に来て言った。「おまえを呼んでゆこう。」談は言った。「誰がわたしを呼んでいるのです。」「閻王さまが呼んでいるのだ。」談は言葉を聞いて心がどきどきし、ともにゆくことを承知しなかった。青衣の人が巻物を開くと、中は黒い紙と白い字で、今の法帖のようであり、談は思わずついていった。

　　あるところにゆくと、役人が案上に坐し、傍らに書吏一人が立ち、案件を論じていたがいに争っているもののようであった。談が案の前にゆくと、吏は言った。「談師爺でしょうか。」「はい。」「話していることはまさにあなたの事です。」談は心のなかで恐れ、身を翻して走って避けた。さらにあるところにゆくと、月形の洞門が見え[36]、はるかに望めば門の中の堂屋はたいへん広く、几案十余張を連ね、ともに冠帯の人が登って坐し、案件を合同審理しているもののようであった。中に坐している一人の役人は金面で、姿は恐ろしかった。談は進もうとしなかった。青衣の人は背後から推した。

　　案の前にゆくと、金面の官は尋ねた。「厳姓のものがわたしの役所でおまえを訴えた。」談は言った。「わたしの何を訴えたのでございましょう。」「おまえが姦夫となって婦人に淫したことを訴えたのだ。」談は言った。「そんな事はございません。」金面の官はすぐ鬼卒に命じて証人を連れてこさせ、囚車[37]十余輛が押して階下に来、先に男の犯人一名を呼ぶと、談を見て言った。「この人ではございません。」その後、女の犯人がはるかに確認して言った。「人は違いますが、容貌はやや似ています。」金面の官はさらに談に尋ねて言った。「おまえは倉米巷の仏婆を知っているか。」談は言った。「存じません。」金面の官はすぐ青衣の人を遣わして人の世に送り返し、車中の女の犯人はなお手招きして談に言った。「わたしのところに茶を飲みにこられてはいかがでしょうか。」談は答えないで外に出た。

　　途中までゆくと、青衣の人は襪桶[38]の中から煙管一本を取り出した。長さはわずか五寸で、談に喫煙するように求めた。談は心のなかで幽鬼であることを知っていたので、取って喫しようとしなかった。夢が醒めると、汗はしとどに衾に透り、その病は癒えた。

　　李生が狐に遇うこと

　　歙[39]に李生聖修というものがおり、風采が美しく、十四歲で、二十里離れた岩鎮別院[40]で読書していた。ある晩、時間が二下となり、生が眠りから醒め、ふと見ると、麗人が榻のそばに坐しており、嫣然として、年は十五六ばかりであった。生は心が動き、手でかれを突っついても拒まなかったので、近づいて睦みあった。毎晩飄然としてひとりで来、つねに生に作詩填詞を教え、添削してやった。時折ともに時文を論じたが、愀然として楽しまず、言った。「この事は学問に関わりがございませんし、あなたは科名[41]に縁がございませんから、この辛苦に耐える必要はございません。」それから二人は詩詞を応酬し、寂しくなかった。数年間ずっと気づく者はいなかった。

　　たまたま楊生という者がおり、生の中表[42]の親戚で、やはり中庭で苦学していたが、生の書斎とわずか一つの壁を隔て、つねに生が暗くなるとすぐに戸を閉ざすことを怪しんでいた。ある晩、月の下、楊生が壁の隙に潜んで窺うと、生は麗人を擁して坐していたので、いそいで扉を叩いて入り、くまなく照らしたが寂然としていた。尋ねるとはじめは隠していた。次の夜、さらに窺うと、前のありさまのようで、談笑する声も聞こえたので、心のなかで狐だと悟り、走って生の父に告げた。生を促して帰らせると、狐はかれの家についてゆき、ほかの人は見えず、生だけが見、家を挙げて生が害されることを心配した。

　　ある日、生の嫂は生の部屋にいって大声で責めて言った。「妖狐にも恥があろう。むりに人の婿を奪おうとするとは。それにわたしの家のおとうと[43]は幼くしてすでに某家と婚約しており、後日、家に入れば、誰が正妻側室となるのか。」その夜、狐は泣きながら生に言った。「おねえさまはお責めになり、お言葉はたいへん正しく、去らないことをお許しになりませんので、今は永のお別れでございます。」生はそのために涙を落としたが、留められず、二人は枕辺で啜り泣いた。鶏が鳴くのを聞くと、榻を下りて消えた。

　　李生は詞律に巧みで、拳棒をよくしたが、いずれも狐が教えたことであった。聞けば狐が贈った詩詞はたいへん清麗であったが、惜しむらくは伝えたものはそれを記録しなかった。これは新安[44]の洪介亭[45]が言ったことで、李もみずから語って隠さなかった。

　　仙童が雨を降らせること

　　粵東が大旱魃の時、制軍[46]の孫公が雨乞いしても験がなかった。潮郡[47]を巡視したとき、途次、民衆千余人が前の山の上に集まっていた。人を遣わして尋ねさせると、「仙童を見ているのです。」と言った。これより前、潮州の村民孫姓のものの子は、年が十二で、村内の子供たちと犢を牧し、山で遊んでいたが、一人の子が戯れに拳で孫家の子を打った。まさに打ちかかっていると、たちまち孫の子の両脚が地から数尺離れた。さらに一人の子が石で打つと、打つほどに高くなり、すべて体に達しなかった。そこで子供たちは走って告げ、隣人たちを騒がし、十数里以上離れたものもともに来て騒いで見た。かれの父母は泣きながら仰ぎみて叫んだが、童はただ俯いて笑って語らなかった。

　　制軍はそれを聞き、驚き、司道の役人たちと徒歩でいってみた。仰ぎ見ると一人の童子が背に青笠を掛け、牛の鞭を腰に挿し、空中に立っていた。制軍はまさに日照りに苦しんでいたので、すぐ祈った。「あなたはほんとうに仙人か。三日で雨をもたらして禾稼[48]を救えれば、あなたを祭ろう。」童は笑って頷いた。まもなく、浮雲一朶が、ぼんやりとして見えなくなった。制軍も輿に乗っていった。

　　にわかに大雨が滂沱とし、数日風が吹き、粵の地で、雨があまねく溝や沢に満ちたことがしばしば報告された。制軍はそこでかれの像を造るように命じ、絵師をその家に赴かせ、思いだして描かせた。童の父母はそもそも愚かな農民で、遺憾なことにその容貌を形容し難く、しばしば画幅を換えたが似ていなかった[49]。なすすべもなくしていると、突然、童子が空から下り、笑って言った。「特別に来てわたしの顔を描いてください。」そこで描いて完成した。父母は引きとめようとしたが、たちまち所在を失ったので、その像を五羊城[50]内の三玄宮[51]に作り、題して「羽仙孫真人」と言い、信仰はたいへん盛んであった。

　　これは乾隆五十二年[52]五月の事であった。歙県の洪介亭が粵東に遊び、孫童子像を迎えるのをみずから見たので、その顛末を尋ねたが、缺疑[53]があるかもしれないので、後日補山相公[54]にあって証言してもらうべきである。

　　金が幽鬼を退けられること

　　乾隆己酉[55]の年、常熟県知事は敬公であった。庶民某が二更に帰宅したところ、突然、紅い褲と黒い靴を着けたものが火を持って街に立ち、腰から上は見えなかった。某が親戚の家に逃げ込むと、物(もののけ)はすぐ追ってきたので、銅の盆を取って打った。すると、化して五人となったので、たいへん恐れ、門を閉ざして入った。

　　その後、汛兵[56]の巡船[57]が来、船上で見ると、坐している人々はみな紅い褲、黒い靴を着けていたので、それが妖(あやかし)であることを悟った。銃で撃つと、人はみな五人に化し、まもなく、河の中がすべてそうなった。晩にはにわかに民家に入り、町全体が不安であった。敬公は人を遣わして顧公諱は徳懋[58]というものを招いてき、その所在を尋ねると、顧はいった。「太鼓を撃ってみよう。」あやかしはますます激しくなった。銅鑼を打つように命じると、あやかしは退き、言った。「これは陰兵[59]の象で、兵は鼓で進み、金で退きます。」言い伝えでは、全県が銅鑼を打つと、三日してはじめて静まったという。

　　秀結宜男[60]

　　杭州の富豪の子金挺之は、若く美しく、某女を慕ったが得られなかったので、妖(あやかし)がこの娘になりかわって惑わしにきた。夜はかならずしっかり抱くと、金はすぐ遺精すること注ぐかのようになり、癆咳の病となろうとしたので、ほかの家に避けた。妖(あやかし)は来、探しても見つけられないと、すぐに人のない楼上で棕薦[61]を束ねて人形にし、瓦鉢[62]を頭にし、山花を挿し、紅い錦の衣を着せ、その家人を恐れ、同時に喃喃と語る声を発した。

　　ある日、一つの斗(ざる)で大きな饅頭を持ってきたところ、上に「秀結宜男」の四字が書かれていた。書は秀麗であったので、その家は顧安伯、万近蓬を招き、いってみさせた。万は言った。「これは蛇妖で、千余年修練している。わたしはすでに菩薩戒を受けているので、殺すに忍びない。駆って去れるだけだ。」顧はそこで先天八卦図[63]を描いて貼ったが、万は「楞厳呪心」の四字だけを書いて鎮めた。すると妖ははじめて泣きながら下女に語って言った。「わたしはもともと揚州の人で、妹を訪ねてきましたが、鼓楼は毀たれ、妹には会えず、たまたま金さまのお顔が美しいのを見、こちらに愛情を注いだのでございます[64]。今、追われましたので、みずから期限を設けて去り、これからは金さまにお会いできません。郎がお気に入りの歌童に求めてわたしのために『陽関』一曲を唱わせれば十分です。」その家は期日になると、ほんとうに鼓吹清歌で送ったので、線繍[65]の瓶袋[66]一つ、銀六銭を歌童に与えて去らせた。これは壬子[67]二月のことであった。

　　黒眚[68]が塩を恐れること

　　丁憲栄[69]は、諸城[70]の人で、語るには、その地の殷家村は城外にあり、古の墓穴が多かった。古い言い伝えでは、墓穴の中に怪物がおり、形は人面のようで、質(なかみ)がなく、黒い気一団にすぎず、高さは一丈ばかり、毎夜出て昼は隠れていた。かれが出る時は、途で人に会うと、一矢の地[71]を隔て、かならず嘯く声を出した。霹靂のようで、人は心が震え、胆を潰したが、見るものだけが聞き、ほかは気づかなかった。嘯きおわると、黒い気で人を遮り、悪臭は、鼻に触れて気絶するにいたった。里人は用心し、危険と見なし、晩に歩くものはいなかった。

　　塩商某が塩をよそで買い、酒を貪り、酔って用心することを忘れ、あやまってその地を踏んだ。時に月が昇り、すでに二鼓で、前のあやかしがにわかに出、道を遮って大声で嘯いた。某は天秤棒でかれと闘ったが、傷ついていないかのようであったので、たいへん驚き、なすすべを知らず、いそいで塩をとって撒くと、物はだんだん逡巡後退して地に入ったので、籮[72]の中の塩をすべてその場に傾けて去った。夜が明けて跡を辿ってゆくと、捨てた塩が地上に積もっており、すべて紅い色となり、悪臭は嗅ぎがたく、傍らに血痕が飛び散っており、その後、あやかしは絶えた。

　　僵屍(キョンシ)が人を掴んだ時は棗の核で治せること

　　尤明府佩蓮[73]が栄達する前、河南に旅したことがあり、言うには、その地は棺が野に置かれていることが多く、つねに僵屍(キョンシ)が人を掴む災があったが、土人は治める方法があり、驚きもしなかった。およそ屍に掴まれたものは、きわめてかたく握られ、両手が断裂していても、爪は人の膚に入り、結局離れられないが、棗の核七個を用い、釘で屍の背の穴[74]に打ち込めば、手がすぐに緩んで抜け、しばしば試せばかならず効いた。あらたに死んだ屍が走るのは、「走影」といい、これは陽気が刺激するのに感じてそうなるのだが、掴まれる人がいれば、やはりこの方法で治せる。

　　量童子[75]

　　『褚氏遺書』[76]にいう。男子は二八で精通し、女に近づけ、八八六十四で精は衰える。しかし近頃は賦性[77]の厚薄が同じでなく、十三四で妻を娶って子を生むものがおり、定まった数に拘るのも難しいようだ。俗に量童子法があり、かれが女に近づいているか否かが知られる。その方法は、太い糸一本を、その項から頚を囲んで一巡りさせ、その長さを調べ、糸を二つに折り、その鼻から横に耳まではかるのである。長さが耳を過ぎるものは、まぐわうことができる。さもなければまだ童子で、女に近づけない。

　　霊符

　　万近蓬[78]はいった。聞けば胡中丞宝瑔[79]は病が激しかった時、突然家人に語って言った。「明日きちんとうちの戸を閉ざし、呼ばなければ入るな。」その指示の通りにしたところ、翌日、日が暮れようとしても、鍵を開けと叫ばなかった。夫人は訝り、みずからいって穴の隙間から窺うと、室内に二つの卓が列なり、南北に向きあっていた。南向きの卓に、一つの人の首があり、大きさは十石の甕ほど、金の目に巨きな口で、灼灼として開閉し、北向きの卓に、中丞が坐して相対し、卓上には紙と筆が列なり、まさに筆を握り、ともに問答して書状を作ろうとしているようであったが、口が動くのだけが見え、声は聞こえなかった。そこでたいへん驚き、闥を排して入った。中丞は筆を擲って起きて言った。「おまえはわたしの事を台無しにした。そうでなければ、なお歲月を延ばせたものを。しかしこれも定めだから、はやくわたしの葬儀を準備しろ。三日以内に死ぬから。」その後、本当にそうなったが、結局この大きな頭は何のあやかしか分からなかった。

　　時に張六乾[80]が座におり、言った。「それは『霊符』といい、文昌宮宿だ。およそ文名才徳があるものがいれば、喜んでいって従ったり捕らえたりする[81]。昔、朱紫陽[82]が『四書』に注した時、つねにそれを見て文才が進み、後に招いてきたり、指示して去らせられたりするようになり、疑義に遇うとかならずともに分析した。中丞はそもそも招いてきて禄命[83]について祈願しようとしたが、婦女に破れられたのだ。」わたしはそこでそれが何の書から出ているか尋ねると、言った。「朱子の集の中の序にその事を載せている。」そこでそれを記し、暇な日になお集を調べてその顛末を究めるべきだ。

　　呑舟の魚

　　およそ海に出る商人は、かならず字紙の灰の包みを買って載せてゆく。海には怪風と一切の水怪、あるいは呑舟の魚が多いが、灰を投じるとすぐ去るという。ある塩商が海運を業とし、塩を舟に満載していった。ある日、突然、呑舟の大魚が浪を過ぎて来るのに遭ったが、舟の中に字紙の灰がなかったので、すぐ塩を包んで投じると、数十を呑んで去った。数日後、大魚が水辺で死んでおり、腹の中の残りの包みはなお消化されていなかったことを聞き、はじめて塩を食らって死んだことを知った。

　　鶏の羽の煙が蛇を殺すこと

　　李金什[84]がいった。鶏の羽を焼いて煙を出すと、一切の毒蛇はその臭いを嗅いですぐに死ぬ。およそ蛟蜃[85]の仲間はすべてそうで、免れられるのものはないが、結局、相手を抑制する性質がどうしてそうなのか分からなかった。ある人はいった。「これは分かりやすい。およそ蛟蜃と蛇の類はいずれも陰に属している。鶏はもともと南方の積陽の象で、性は火に属し、至陽であるので、至陰の類は、至陽の気に触れれば、かならずすぐに死ぬ。」これはまさに『陰符経』[86]注にいう「小大の制、気にありて形になし[87]」である。

　　蛇箝

　　浙江衢州常山県に山があって石硿山[88]といい、山麓に寺があり、石硿寺[89]といい、山麓に溪水が灌ぎ込み、民田はみな山に枕して畦道を開いていた。土中に一物を産し、松球(まつかさ)のよう、荔支のようで、大きさも等しく、外皮も松の皮の色のようであった。打ち砕けば、中は瀝青のありさまのようであった。火に入れて焼けば、気に化して走り、かの地の土人の言葉で「蛇箝」といった。その意味を尋ねると、言った。「これは蛇が冬眠に入る時に含んだ土で、啓蟄の後に吐いて地に捨てたものなので、こういうのです。」按ずるにこれは鉛汞[90]の鉱脈が結ぼれたもので、火を見るとすぐ飛び、蛇が銜えた土でないが、土人はそもそもそれを知らないのである。

　　番僧が鶴に化すること

　　宮中丞が滇藩であった時、チベットの僧二人が滇に来た。一人は老人で、見たところ八九十ばかり、すでに三百余歲だといっていた。一人はやや若く、見たところ五六十ばかりだが、すでに百二十歲を経ていると言っていた。宮はかれらを省の城隍廟の傍舎[91]の東の回廊の中に住まわせたが、飲まず食わずであった。人が食を与えるとやはり食らったが、食事は他人の分も兼ねられた。朔望になると、宮はかならず僧を招いて役所に入らせ、食事を設けてともに食らわせた。僧は諸々の肴をすべて一つの器に傾け、飯を混ぜて手で丸めて食らったが、すべて一二斛で、帰るとまったく飲食せず、月に二度食事するだけであった。暇な時はかならず民間の小さい鉄器を買い、転売して利を求め、銭を得ればかならず磚を買って廊下に積んだ。人が怪しんで尋ねても答えなかった。

　　ある日、若い者がよそへ出ると、老僧は突然磚を門戸にくまなく重ね、かたくその部屋を閉ざした。するとにわかに火が中から起こり、人々が消火しにゆくと[92]、入れず、煙と炎は空を掩い、白鶴一隻が煙を破って出てきた。止んだ後、その蛻(ぬけがら)を収め、塔院[93]に葬り、若者は結局帰らず、さらにどこへいったか分からなかった。

　　謝珍の格物

　　謝珍は、字を紫瑋といい、武進の人で、幕僚をして杭州に来た。性格は倜儻で、賓客を好み、奇才があり、平素たいへん芸事にくわしく、格致の学を究めた。ある日、人に語って言ったことがあった。「古人の物作りは考えが深く、日用の小物にも、至理が寓している。たとえば箕(み)や帚(ほうき)などの穢れを除く器具を、人は軽視することが多いが、箕は彩花[94]を角に挿し、紫姑を下せる帚で鶏の雛の背を払えば、すぐ反りかえった羽毛となる[95]。疫病で糞箕を焼けば、煙は幽鬼を退けられる。冬瓜は箒の煽りを受ければ腐りやすいことを知らない。これらにはすべて感応類従[96]の理がある。」わたしはそこでその座右の火打ち金と石器を取って指して言った。「これにも理がございますか。」「金石の類は、いずれも土火の気に感じて凝結しており、もともと同類に属し、賦性はいずれも強い。鉄が石を撃つと、火を出して応じ、その恐れるものを施すのである[97]。だから火打ち金は火を出すことを忌み、火を出せば石を撃っても利がない。火打ち石が火を出すことがすこしであれば、水中に納めること一二日、これに当てると、火を得ることはかならず多い。そのわけはなぜか。そもそも金は水の母で、火を出せば枯れ、性が枯れれば質は鈍くなる[98]。火打ち石の火は、分かれて四体をめぐっており[99]、外が剥がれることが甚だしいと、火は石の中に蔵せられ、出てきにくくなる。水で激すれば、中に蔵せられている火はすべて外に出るので、打てば火が多いのである。」試すとほんとうにそうであった。

　　煙龍

　　張寧人が言った。その隣家の老人は喫煙を好み、一本の竹の管を手にし、長さは五尺ばかり、すでに三十余年であった。突然道士が家を訪ねてき、張が持っている煙管を顧みて言った。「あなたのこの物は人の精気を得、とうに煙龍となっており、怯[100]を癒やせば効果があり、後日求めるものがいても、軽々しく与えるな。」ある日、ほんとうに質屋が来、言うには、その子が怯症[101]を患っているが、「あなたが旧い竹の煙管を持っていることを知りましたので、買って癒やさせてください」ということであった。そして七十千の代金で半尺ばかりを切って去った。その子がそれを服すると、瘵虫はすべて紫の水に化して下った。後日、ふたたび前の道士に門で遇い、残りの管を出して示すと、言った。「龍は傷ついているが、なお生きられ、さらに十年食らえば、還丹薬になれよう。」その法を求めると、ただ笑って言わず、すぐに去った。その竹管は今でもなお残り、張は見たことがあり、ほんとうに光沢があり、鬚髪はすべて輝いていた。夜、壁に掛ければ、一切の毒虫はみな近づこうとしなかった。

　　形交気交

　　諸城[102]の劉上舎怡軒[103]が言った。「およそ鳥は外に八つの穴があり、中にも大腸がなく、小腸があるだけで、糞尿をともに後ろから出す。九つの穴のものは大小腸がいずれも揃っているので、獣も前後の陰を分けて出したり入れたりする。」趙衣吉は言った。「鳥の腸は一つで、どうしてそれが小腸であって大腸でないことが分かる。」「およそ人の大腸は後ろに通じ、肛門に終わり、前陰は小腸の先で、小便を通じ、獣もそうである。鳥だけは小腸が後ろにあるので、鵝や鴨が交わるのを見ると、前陰が後ろに突き出していが、小腸でなければ何であろう。およそ鳥の平たい嘴ものは形で交わり、性器があって交わる。尖った嘴のものはいずれも気で交わり、性器がない[104]。」これは『禽経』[105]の不備を補っているといえる。

　　蜜虎[106]

　　蜜虎は、蜂に似、形は蚕蛾のようで、首に斑点があり、鼻の上に二つの短い鬚があり、口に黒い絲があって鉄線のようで、つねに巻いて縮んでいる。ある人は言った。「これは鼻である。」と。花叢に入って花をとり、かならず黒い絲を伸ばして蕊に入れてひっかけてとるが、象が鼻を用いているかのようである。蜂は花を採るのに足を用いるが、蜜虎は鼻を用いるのも、それぞれ異なっている。

　　諸城の王氏の僕は王三といい、田地を数十年管理していたことがあり、言った。「この虫は山東にもっとも多く、大いに農業の害となりますので、土地の人は『古路哥子』と呼んでおります。身に五彩があり、細かい毛をそなえ、蚕蛾のようで、尾は鵝鳥の尾を広げたかのようでございます。雄は身が狭く小さく、薬に入れられます。雌は肥えて大きく、薬に入れられません。秋、腹の中に卵があり、卵を散じて虫を生み、数種がございます。その子は豆莢の上に生みますと、豆虫となり、青蠖[107]の姿のようでございます。打てば、体の細毛はすべて落ちます。油塩葱椒で炒めて食らえば、味は蚕の蛹に勝っています。かれらが蜂を食らう時は、その巣の中に入り、鼻の絲で蜂を刺し、蜂は絲の毒に中たるとかならず死に、その後、ゆっくり食らうのです。そもそも蜂の針は尾にあり、これは首にあります。尾にあるものは陰に属し、首にあるものは陽に属します。陽で陰を制するので、蜂は敵わないのです。」

　　滇南の霊草

　　胡吏目什が滇から帰り、言うには、かの地は多く霊草を産するが、近頃一種の草があり、安駱駝といい、四方の買うものは雲のようで、銅を鍛えて銀にでき、さらに病を治せた。かの地の夷の婦人はよく媚薬を作って男を喜ばせ、その薬ができると、かならず試験して用いる。試す方法は、二つの巨石をそれぞれ部屋の東西両側に置き、尋丈[108]を隔て、薬を塗ると、夜になればおのずから合えるのである。その薬もそれぞれの草を合成し、だとすれば遐荒[109]僻壤[110]に産するもので、『本草』に載せていないものにはどうして限りがあろう。さらに、鶏血藤膠[111]だけが近頃貴ばれているものではない。

　　羊乳鹿

　　臨安の山中では鹿を産し、清明前後に子を産む。その子はかならず雨降りを待って走れるようになり、雨が降らなければ、歩けない。土人は探して得ると家に帰り、羊で乳を与える。生長するとすぐ羊について走り、野性はやや従順になり、園林の飾りにすることができ、「羊乳鹿」といった。

　　多角獣

　　僧志定[112]は、天目に住み、言うには、その山の深いところは長さが一二十里に亘り、榛莽[113]が森然と列なり、路がなかった。沙木[114]を産し、角柱を作れ、豪猪[115]が巣を樹の隙に構えることが多く、大工の患いとなっていた。突然、ある年に来なくなり、行方が知れなくなったので、山の民は喜び、大いに伐採[116]をほしいままにした。大工某がある荒れた谷に入り、見ると動物が藤によって樹上に掛かって死んでいた。見ると、姿は牛のようであったが、体は大きく倍を越えていた。全身はすべて短い角で、長さは二三寸、灰黒色、羊角のようで、数は千を数えた。頭頂の一角は、紅い血のようで、長さは二三尺であった。そもそも巨藤は大木に蔓ることが多く、この獣はたまたま崖の上からあやまって跳び込み、角が藤に絡み、四足は宙ぶらりんになり、さらに藤の性質はしなやかなので、力を加えるところがなく、結局飢え死にすることになったのであった。豪猪がすべてそれに食らわれたことをはじめて知ったが、結局この獣が何というか分からなかった。

　　江中の黄の風呂敷

　　張寿荘がいった。旅人が長江を進んでいたが、ある日　ふと見ると江の水面に物が浮かんでおり、黄の布の風呂敷のようで[117]、波のまにまに漂い、急でじっくり弁じられなかった。船頭を呼んで見せると、中に舵取りがおり、たいへん驚いて色を失い、言った。「この物が出ますと、かならず舟が転覆する禍がございますが、どうしましょうか。」いそいで船上の篷と帆柱をすべて去り、船底だけ残し、客を安座して待たせた。措置が終わるとすぐ、ほんとうににわかに風が起こり、危険な涛の中に出入りしたが、結局さいわい恙なく、ほかの舟で備えをしなかったものは、ともに沈没に遭った。そのわけを尋ねると、そもそもかれの父も昔この物を見て難に遭ったので、知っていたのだが、それが何かは分からなかった。思えば賈文�jは商船で老い、江を進んでいて大風がある時は、かならずさきに風があって旗が水面に出ると言ったことがあるが、あるいはこれか。

　　水乩

　　和州[118]の含山に程姓のものがおり、幼くして失明し、路で異人に会い、占乩法[119]を授けられ、人のために事を決し、奇すしくあたることが多かった。その半分ははるかにほかと異なっていた。水一盂を用い、符訣を水面に書き、案頭に置き、傾ければ、水面に泡沫が浮かびあがり、結ぼれて字となり、字が書きあがると、さらにほかの字が浮かんだ。知らないものがいると、また前のように浮かんだ。このようにすること数十回、ある時は詩歌を作り、ある時は隠語で応答したが、かならず人の秘め事に通じていた。

　　九尾蛇

　　茅八は、若くして紙を売って江西に入ったことがあったが、その地の深山には紙工房が多く、工房の人々は日が落ちようとするとすぐに戸に鍵を掛け、よそへ出ないように戒め、言った。「山中には怪物が多く、虎狼だけではない。」

　　ある晩、月がたいへん明るかったが、茅は寝られなかったので、戸を開いて月見しようと思い、ぐずぐずすること再三、武勇はなお用いられるとみずからを恃んでいたので、閂を外して外に出た。ゆくこと数十歩足らずで、ふと見ると、サルたち数十匹が鳴きながら走って来たが、すべて一本の大樹を選んで登り、茅もほかの樹に登ってはるかに窺っていた。まもなく一匹の蛇が林から出てきたが、身は拱柱(アーチ)のようで、両目は灼灼[120]としていた。体の鱗はすべて魚鱗のようで固く、腰から下には九つの尾が生え、引いてゆくと、鉄甲のような音がしていた。樹の下にゆくと、その尾を逆立て、回す動作をした。それぞれの尾の端に小さい穴があり、穴の中から涎を出すのだが樹上に弾を撃っているかのようであった。サルの中てられたものは、かならず叫んで地に落ち、腹が裂けて死んだ。そこでゆっくり三匹のサルを食らい、尾を曳いて去った。茅は恐れて帰り、それから闇夜に出ようとしなかった。

　　蠍虎(やもり)の遺精

　　蠍虎は守宮で、劉怡軒はいった。その遺精は猛毒で、人があやまって食らうと、水に触れられない。水が一たび体に滴れば、どこであろうと、すぐ人の骨肉を消化して水にすることができる。かつて江南の庶民の二子が塾から帰り、その母は乾冬菜[121]で肉脯[122]を蒸して食らわせた。おりしも暑かったので、子は食らった後に湯浴みしたが、ながいこと出てこなかったので、怪しんで見れば、盆の中に血の水だけがあり、骨肉はすべて消えていた。人々はみな驚き、どうしてか分からなかったので、乾菜をたくわえてある罈を調べると、中に大きな蠍虎二匹がおり、上で交わっており、その精は菜の中に溢れ、あやまってとって子に食らわせたことをはじめて悟った。その毒はこれほどのものである。しかし『遵生書』[123]を調べるとこうある。夏に冷めた茶で宵越しのものは飲めない。守宮は性質が淫であり、水を見るとかならず交わるので、その上に射精することを恐れると。古人もそれが人の筋骨を溶かせることは述べていない。

　　皖城[124]の雷の災

　　乾隆五十六年[125]八月初一日午の刻、黒い雲が東南から江を掩ってき、地面から数丈足らずであった。まもなく、雷電は激しくなり、風雨がついてき、午から戌の刻の末まで、霹靂が数十回轟き、家は揺れ動いた。電光が一閃すると、窓の紙は颯然と音をたて、その時人々はみずからを危ぶみ、その変化を予測できなかった。翌朝はじめて知ったが雷撃はおよそ十数か所で、撫軍[126]の官署の前の左側の旗竿はその半ばが劈かれ、砕け裂けたところは爪の痕が梳(くし)のようで、深さは三四分ばかりであった。火薬局前の池では大蛇一匹が撃ち殺されており、一丈ばかりであった。そのほかの塀は傾き崩れ、棟が折れ、榱(たるき)が崩れていることがたいへん多かった。

　　漁翁[127]で游姓のものが、数日前に夢みると、その家に隠れることを願うものがおり、翁は狭くて収容するところがないとして辞した。はやく起きると、まもなくサルのような姿のものが現れたが、爪は緑色で、長さは二尺ばかり、屋根の上に踞り、時にその前後の家の瓦を移し、ほかに異変はなかった。その日、雷が鳴り、隣人が見ると、電光が金の縄数十本のように游姓の家の上を巡っていた。家の傍らの空き地に古い柳一株があり、中は空で竹のようであったが、雷にその皮を剥がされて尽きそうになっていた。樹の本体は裂け、横ざまに地上に置かれて撃ち砕いたもののようであったが、その中には黒い煤が累累としており、さらに火で焼かれたかのようであった。思うにその物(もののけ)は撃たれた時に逃れて柳の中に隠れたので、雷が柳を撃って取って去ったのだろうが、結局何のあやかしかは分からなかった。

　　数日後、黄湓[128]から来たものがいたが、その日の雷鳴はたいへん小さかったと言った。桐城から来たものがいたが、尋ねると、知らなかった。黄湓は皖から三十里、桐城は百里だが、このように同じでないのである。

最終更新日:2012年2月1日

続子不語

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