第七巻     

　　乩仙

　　乾隆丙午[1]の春、樵川[2]の楊荷鋤と金陵の徐滄潯が扶乩した。女仙が壇に下り、詩に言った。「何処にか重ねて尋ぬる旧翠鈿[3]、涛声夢のごとく怨みは煙のごとし。泉台[4]一たび去りて千余載、ただ抵(あた)る相思ひて半日眠るに。わたしは王氏の小筠で、ちょうど縁がある人に遇い、ともに語ろうとしておりますから、皆さまは恐れないでください。」扶乩仲間で孟姓のものは[5]、言辞が艶麗に渉っているのを見、邪祟[6]を致したかと恐れ、退符[7]を焼こうとした。すると乩は書いて言った。「招いてこさせた以上、どうしてすぐに去るように指示できましょう。昔、わたしは美しい姿で、あなたは才華が豊かで、大堤[8]の下で会い、ともに細柳の陰に遊びました。鴛侶[9]が結ばれますと、鸞儔[10]はすぐに裂かれました[11]。珠は沈み、玉は毀たれ[12]、�宸ﾍ折れ、蘭は砕かれました[13]。あなたはしばしば人の世に身を寄せていられますが、わたしはなお魂を水府にとどめております。今はまさに涛神[14]の侍従に充てられていますが、たまたま符使[15]に招かれてともに来ました。世を隔てて水魚の交わりに逢い、素心は一点も疚しいことはございません。面と向かっていながら山河の隔てがあり[16]、千筋の紅涙は知る人もありません。顕晦[17]の違いを怨み、精誠の会いやすいことを願います。窓は明るく風露は寒く、斗が巡り参が横ざまになった[18]後にあなたを訪ね、幃(とばり)は静かに雨雲は来、その夢が美しく魂が楽しい時にわたしを求めました。氏名を称さなければ、疑いと恐れがにわかに生じる恐れがございましょう。情縁をつなぐことを願っており、どうして祟りをなそうとしましょう。」その夜、滄潯はほんとうに夢みたが、娘は手に団扇を持ち、異常に艶麗で、ともに綢繆とし、雲雨の楽しみを極めた。翌日さらに来、朝まで逗留した。

　　翌日さらに降乩[19]詩に言った。「赤甲峰[20]頭雨塵に似、天風吹きて送る歩虚の人[21]。請ふ君試みに梅花を採りて嗅げ、老却して瓊香[22]樹樹春なり。」さらに詩に言った。「露裡の夭桃風外の柳、昨宵幾たびか執る纖纖たる手。千秋尽くるなしこの相思、緑卿[23]またいたる君知るや否や。」末尾に「お大事に」と書いて去った。その後まったく夢に入らず、乩にも下らなかった。

　　絞めろ絞めろ

　　淄川[24]の高念東[25]侍郎の玄孫の明経[26]某が、みずから言うには、若い時、合卺[27]の後に頭がくらくらする[28]病を得、かならず地に倒れて人事不省となった。数日後、耳元がだんだん音をたてて「絞めろ。絞めろ。」と言っているかのようであった。さらに数日して、ふたたび姿が見えたが、ぼんやりとして一尺ばかりで子供のようであった。その日から痩せ、牀から起きられなくなった。家人は妖(あやかし)と思い、術士を招かせたが、効果がなかったので、ひそかに牀頭に剣を隠していた。病から醒めた時、いつも子供が榻の前から木の几の下に疾走してすぐ消えるのが見えたので、銅盤に水をはって几の下に置いておいた。

　　ある日、昼寝から醒めるとすぐ、童子が来たので、剣を揮うと、剨然[29]と水に落ちた。家人が銅盤の中で木偶の子供を見つけたが、紅衣を着、頚に紅い絲を絡めており、両手でそれを引いてみずからしめる動作をしたので、毀ったところ、妖(あやあし)はこなくなった。後に、言い伝えでは村の大工某がまさにその日に死んだが、そもそも明経が入り婿する時、その舅の家が部屋を修理し、大工は要求があって遂げなかったので、この魘魅[30]術をなし、術が破れて、大工はすぐ死んだということであった。しかしそれから明経は病骨が憔悴し、歩くに勝えなくなった。

　　明経の家にはもともと園亭[31]があったが、ある日、月が昇ると、小者に助けられて亭にゆき、ゆくとすぐしもべを奥の間に帰らせて茶器をとらせた。隣にむかし女がおり、年頃で美しく、明経はもとよりかれを知っていた。この時になると、女はしもべが去るのを伺い、すぐ塀に登って眺め、手に茶碗を持ち、冉冉と塀から下りてきた。亭の中にゆき、茶を机上に置き、明経に言った。「あなたが渇いているのを知り、あなたに奉ることを願います。」明経はかれが怪であることを疑っていたし、もとの病が回復していなかったので、つとめて去るように促した。女は言った。「これをお受けになれば、わたしは去りましょう。」まもなく、小者が来たことを聞くと、女はたちまち見えなくなったが、戻って机上の茶を見ると、一枚の桑の葉と一撮みの土を貯えているだけであった。

　　その後、簾波[32]が昼に静まる時や、清夜で月が明るい時になるたびに、女はかならず来、談論するとたいへん聡い心を持っていた。明経は新しい病が起きたとひそかに思い、きびしくみずからを抑え、女もあまり無礼なことはしなかった。その容姿意態は、長短肥痩、一日の間に思いのままに変化することができ、明経ははじめは疑ったが、しばらくすると気に入り、談話の友とし、さらにその出自を尋ねなかった。女が往来する踪跡を、他人は見られず、来る時に座中で寒気が人に迫るのを覚えるばかりであった。

　　明経はある日夢み、夫人と楽しんだが、目ざめると、まさに女で、明経はかれが術で変わったものであることを知った[33]。しかしむりに留めようとすると、女はすぐに衣を取って牀を下り、大笑いして去った。その衣を取ると、紙のように瑟瑟[34]と音がした。後に明経が導引の法を会得すると、女は来なくなった。

　　雷が二人の女を撃ち一人の子を活かすこと

　　安東県の村のある婦人が子を産み、産婆を呼んで取りあげさせ、一晩宿って去った。その夫某は外から帰ると、子を抱いてたいへん喜び、神を祭ってお礼参りしようとしたが、突然その枕を摩ると、驚いて言った。「わたしは銀四錠を中に蔵し、一人も知っているものがいなかったのに、なぜなくなった。」妻は怪しんで探したところ、昨夜産婆がこの枕で眠っていたので、疑わしいと思った。某はすぐ尋ねていって銀を求め、半分は謝礼とし、半分は償還して神へのお礼とすることを約束した。産婆は勃然として激怒し、罵ったり呪ったりして言った。「わたしがあなたの家のためにとり挙げをしましたのに、わたしを盗人となさるとは。この子はかならず死にましょう。あなたの銀を盗んでいれば、天雷が撃ち殺しましょう。」罵ってやまなかった。某はかえってその妻に別の事情があることを疑い、銀を求めようとしなかった。

　　三朝[35]にさらに産婆を招いて洗児[36]させようとしたが、その日、産婆はゆかず、その娘を来させた。夜になると、子はほんとうににわかに死んだ。夫婦は泣き、木匣に入れ、空き地に埋めた。みな言った。「産婆の言葉は験があった。」すると突然雷電がはげしく起こり、遠近(おちこち)に霹靂の異常な響きが聞こえ、村中に硫黄の臭いがしたので、みなそれを辿った[37]。見ると空き地に二人の婦人が跪き、ともに雷の炎で焼け焦げており、それぞれ銀二錠を手に捧げて出、埋められた子は、すでに地から出て呱呱と泣いていた。隣人たちが走って子を埋めた家に告げて確認しに来させたが、子の臍に針が一本露わになっていたので、すぐに針を抜いて血を出したところ、子はなお恙なかった。雷撃で死んだのは、一人は銀を盗んだ産婆、一人は産婆の娘で、洗児の時にひそかに針で子の臍を刺して殺し、その呪詛の言葉を真実にしようとしたのであった。見るものはみなぞっと恐れた。乾隆五十七年[38]六月の事であった。

　　火神が打千すること[39]

　　呉暘は、字を南谷といい、毗陵[40]の馬跡山[41]の人であった。微賎であった時、某宅で教師をしていたが、その家は新居を構えたばかりで、大工は盆に木屑を貯え、火を埋めて飯を炊いていた[42]。ある日の夜半、南谷は家の角で音を聞いたので、起きて見ると、一人の紅い顔の人が火に向かって吹いていた。南谷が怒鳴ると、その人は打千して答えた。「わたしは祝融氏に使われております。今日、この家は焼けましょう。」南谷は言った。「わたしがこちらにいるのだから、それはまずいぞ。」その人は唯唯として退いた。数日後、南谷は休暇を取ろうとし、主人に用心するように戒めたが、その日、南谷が帰ると家はなんと焼けてしまった。南谷は後に万暦丁未[43]の進士に登り、仕えて方伯[44]となった。

　　一人の義妹を殺して四人の命で償うこと

　　建平の知事周君には族姪がおり、みずから言った。兄弟二人は、妻を娶り、それぞれ一子があった。父母の歿後、一人の幼い妹が残されたが、養育できず、二人の妻はもっともかれを虐待した。妹はすでに某広文の子と婚約していたが、貧しくて娶れなかったので、入り婿した。二人の妻はつねに語った。「一人の義妹でも煩わしいのに、今もう一人の穀潰しが増えた。どうしようか。計略によって追い払うしかない。」たまたま兄弟は城外の僧舎で読書し、妹の婿もかれの親を訪ねにゆくと、二人の妻はともに口実を設けて帰寧し、薪米食物にすべて鍵を掛けていった。翌日、姑は厨に入ったが、炊ぐものがなかった。飢えを忍ぶこと二日、恥ずかしくてだれにも告げず、行きつ戻りつしてどうすることもできず、自経した。

　　二人の妻は帰ると、その夫を招き、隠して病死したと言い[45]、草草に納棺し、その夫の家に手紙を寄せて柩を持って去らせ、心は喜んでさっぱりしたと思っていた。しかし、部屋の中ではつねに幽鬼が啾啾と哭く声が聞こえ、数ヶ月で長男の妻母子はにわかに病んでともに死んだ。まもなく、次男の妻母子も病んだので、たいへん恐れ、夫に頼んで囲んで守らせた。夜の二鼓、たちまち陰風が人を襲い、門簾は豁然と開いたが、見ると一卒がおり、紅髪藍面、歯は長さが数寸、手に鋼叉を持ち、まっすぐに牀の前に入ってその子を攫って去った。いそいで追いかけると、その子はまだ裸体で動いていたが、まもなく見えなくなり、帰って榻の上を見ると、子はすでに絶命していた。妻はなお呻いていたが、夜明けになると妻も歿した。

　　某はその妻子の死を目撃しておおいに悔恨し、つねに人に告げて戒めを示した。そもそも一人の義妹を殺して四人が償ったのは、ひどいことであるが、陰謀して死を致した罪は、いたって大きいのである。

　　あやまって金童を殺すこと

　　阿雲岩[46]相公は武林に派遣されていたが、暇な日に一つの小像[47]を描こうとした。鄞県の知事銭君が曁陽[48]の繆炳泰[49]を迎えてともに会い、公のために絵を描かせたが、たいへん似ていた。公は喜び、銭君に図を補うように頼んだ。銭君は公がつねに仏法を語っているたので、公が紅い袈裟を着て山洞に趺坐しているさまを描いた。公はそれを見てたいへん喜び、言った。「これはわたしの前生です。」銭がわけを尋ねると、公は言った。「以前わたしは滇中で督戦しましたが、たまたま額駙[50]の色布騰珠爾布納[51]は病が激しく、絶命して蘇り、左右を促し、わたしを迎えて榻の前にゆかせ、言いました。『さきほどある山にゆくと、長い松は天を挿し、蒼翠[52]は四方を巡り、中に石洞があり、年老いた羅漢数人が列なり、傍らに蒲団を設け、その席を空けていた。一人の羅漢が指し示して言った。『こちらは阿某の旧居ですが、あやまって一人の金童[53]を殺したので人の世に流されたのです。みだりに殺さない願いを立て、人を救うことがあれば、元に戻れましょう。どうかお伝えください。』そこで蒲団を掲げて見れば、赫然として一人の童子[54]の骸があった。公はよく自愛なされよ。』額駙はそう言うと死んだ。今あなたが描いたものは、たまたま前兆に合っている。どうして天命でなかろうか。」この図は公が京邸に持ち帰り、名公巨卿はほとんどすべて題詠し、繆生はそれから日下(みやこ)で神との名声を伝えられた。

　　銭尚書

　　毗陵の銭梅谷先生名は春[55]は、明の崇禎年間、官は南京戸部尚書であった。幼くして痘瘡を患い、たいへん危うく、死に瀕していた。かれの父啓新先生[56]は一人っ子であったので寵愛しており、懐に抱いて棄てるに忍びず、階を巡って歩いていると、突然空中で大声で怒鳴って言った。「誰が銭尚書をあやまって痘瘡にさせたのだ。二十回鞭うて。はやくほかによい痘瘡を下せ。」すると屋根瓦に音がしたが、豆を撒いているかのようであった。懐中を見ると、すでに蘇っていた。成童[57]となった後は、つねに楼上に臥していた。夏にたまたまよそに寓居した時、傭工がひそかにかれの榻に臥したところ、恍惚として叱咤する声がして言った。「憎らしい。憎らしい。おまえは何さまでこの榻に臥そうとするのだ。」揺揺[58]として不安を感じた。いそいで起きて見れば、牀はすでに部屋の角の暗いところに置かれており、もはや臥すところでなかった[59]。その後、傭工は梅谷先生に会うとたいへん恐れ、かならず長跪して事実を告げたという。

　　墨を夢みること

　　武進の銭文敏公[60]は戊午[61]の順天試に応じ、試験の前、夢みて正陽門外にゆき、見ると容貌が岸然[62]としたものが、布の帳を支えて墨若干をその下に並べていた[63]。先に髯を生やしたものが墨を買っていたので、公もいっしょに買った。墨を売るものがよく公を見、墨二つを渡し、ついで髯のものに一つを渡したところで、目がさめた。後に座主[64]の孫文定公[65]に会うと、墨を売るものさながらであった。次にある同年が会いに来たが、それは髯のもので、無錫の李君時乗[66]であった。そもそも墨二つは両榜[67]であり、李は一榜[68]だったので昌平州[69]の知事で終わった。

　　銭状元の幼名

　　乙丑[70]の会試[71]の後、都門の某が夢みて天榜を閲したところ、四十一名だけが泥金で「集貴」の二字を書き、上に一つの小さい黄傘を挿して掩っていた。目ざめた時は、かれが集姓であることを記憶しているだけで、その名を忘れていたが、きっと満州籍で、その人は優れているに違いなかろうと思っていた[72]。合格発表となると、四十一名は銭文敏で[73]、すぐに殿撰[74]を授けられたので、某は訝しく思った。ある日、宴席で会って言及すると、たまたま湯太史大紳[75]が座におり、笑って言った。「銭殿元は幼名を集貴といったから、訝ることはない。」人々はそこで恍然とした。

　　帰寧した女があやかしに遭うこと

　　陝西清澗県某村の妻が帰寧し、かれの父は娘を送って帰った。途中、山路を通ると、風がにわかに起き、女の衣褲はすべて失われ、裸で立っていた。父はどうしようもなく、衣を脱いで包み、扶けて進んだ。昏暮に婿の家につくと、婿は怪しんで尋ねたので、翁は理由を告げた。婿は訝り、さらに怒って言った。「どんな邪魅[76]か。明日銃を持って撃とう。」それぞれ就寝した。夜明け、娘が驚いて、婿は突然頭がなくなったと叫んだので、その家はお上に訴えた。

　　県令の戴君は捕らえて質し、女が密通してその夫を殺したと疑い、拷問したが、かたく罪を認めなかった。翁は匍匐して泣いてその事を訴え、みずから丁役[77]を率いさせ、導いて女が衣を失った所にゆきせ、あまねく捜索を加えた。見ると山の側面に一つの穴があってたいへん深かったので、降りて探せるものを、賞金若干で募らせたところ、一人の健卒[78]が応募し、炬火を束ねて入った。ゆくこと数十歩、突然天の光が見え、一人の僧、容貌は獰猛なものが、瞑目して土榻[79]に臥していたので、卒は恐れて帰り、知事に告げた。知事はさらに壮役数人に命じて縄索と武器を持っていっしょに入らせると、僧はすでに目ざめていた。人々は進み出てすぐにかれを縛り、囲んで出して会わせた[80]。再三訊問させたが、答えなかった。その頬を打っても、やはり一言も発しなかった。どうしようもなかったので、鎖を何重にも加え、下役たちを促して護送して城に入らせ、獄に捕らえようとした。

　　ゆくこと一中、たちまち狂飆がはげしく起こり、人々はみな目が翳み、まもなく、僧は護送官数人とともに杳然とした。そしてその事をやめにした。戴君は名を樹屏といい、荊溪[81]の人で、かれの幕中の親戚友人は帰ってその怪異を述べることこのようであった。

　　龍が龍を誅すること

　　乾隆辛亥[82]八月、鎮海[83]招宝山[84]の側で白昼天が突然暗くなり、二匹の龍がたがいに一匹の龍を捕らえて海浜で引っ張っていたが、大きさは数十囲ほど、人の世で描く龍のありさまのようであったが、角はたいへん短く、鬚はたいへん長かった。地に落ちたばかりの時はなお蠕蠕[85]としてかすかに動いていたが、まもなく死に、臭気は一里に漂い、土地の人々はきそって分けてとった。その一つの脊骨は、臼にすることができた。その頷を得たものがおり、売ると銭二十緡を得た。

　　桑蚕

　　宜興[86]の東滄橋[87]は城から数里であった。某村に婦人がおり、子が痘瘡を患いたが、医者は処方を下し、蚕を用いるべきだとした。夫は外で傭工となっていたので、その姑は嫁に命じて桑虫[88]を探させた。嫁は野にいって探し求め、古い桑一株を見ると、蚕がおり、蠕蠕としてたいへん大きかったので、喜んで捕らえた。ゆくこと数歩で、突然蚕がいなくなったので、嫁はその姑に告げた。姑は言った。「それは活蚕[89]で、翼があって飛べるのではなく、落ちるのも草の中だけだ。探しにいってはどうだ。」婦人はふたたびその地にいって探したところ、木の間に一つの洞窟があった。じっくり見ていると、突然大蛇が頭を擡げて出てきたが、さながら人の頭であり、一本の臂があり、目を睒睒[90]と怒らし、嫁を指して人の言葉を語った。「おまえがまたわたしを煩わせば、すぐにおまえを食らおう。」婦は驚いて倒れた。その姑は嫁がながく帰らないのを訝り、いって見ると、かれは地に伏して沫を噴き、顔に血の気がなかった。扶けて帰るとだんだん蘇ったので、見たことをこのように述べたのであった。子は結局夭折し、嫁もすぐに癲癇を患ったが、何のあやかしか分からなかった。これは乾隆壬子[91]五月の事であった。

　　韓六

　　山陰の庫書[92]馮心法は、辛亥の冬、母が病んだので、馮は夜に帰った。すると提灯を掛けて韓聖華がやってきたので、かれが死んだことを忘れ、ともに平素のことを昔通りに語った。韓は言った。「貴兄の家に派遣される用事があり、わたしが当番なのだ。令状はすでに批准発行され、三日で出発だが、貴兄のためにきちんととりはからってさしあげよう[93]。」馮庫書は法を曲げ[94]、してはならないことをし、告発を恐れていたので、かれに賂することを相談し、銭六千を約束したところ、韓は承諾して辞して去った。馮ははじめて韓がすでに死んだことを怪しみ、母の病はきっと危ういのだろうと思ったが、六千銭を賂することを約束したのだから救われるかもしれないと思った。三日して韓が来たが、まっすぐ中に入ると、馮の母は死んでしまった。もしや冥土の使者も人の世の訴訟の時と同じように、勝訴敗訴に関わりなく、かならず付け届けを求めるのか[95]。それとも役所の人で、生きている時にその親戚友人を顧みないものは、幽鬼になっても異なることがないのか。

　　魍魎

　　山陰の高進士の父某翁は、不遇の時、傭工を生業としていた。日暮れに帰ると、のっぽの幽鬼が路傍に立っているのに出くわしたが、人家に寄り、腰は簷に凭れていたので、翁は立ってじっとしていた。幽鬼は手に一人の子供を捧げ、祈って言った。「わたしはおまえを食らおうとしたが、おまえは九品官となり、田は三千畝、家は九椽[96]、男子は二人得ることになっている。食らおうとしても、心のなかで食らうに忍びない。」そして瓦の上に置き、身を翻して走ろうとすると、翁を見た。翁は酒に酔っていたし、ながく立っていたので、まったく恐れることはなく、心のなかで考えた。「あいつは小金持ちの子供さえ食らわなかった。わたしはすくなくとも飢えて死ぬにいたっていないから、あいつはわたしを食らえまい。あいつを恐れることはない。」そこで言った。「神の長者は魍魎となり、人を富貴にできると聞いております。富を致してくださるようにお願いします。」幽鬼は袖を払って翁を去らせようとしたが、翁はつよく求めた。幽鬼は袖を探して縄を見つけると、竹竿一本を縛ったが、物をはかる道具のようであった。翁がさらに錘(おもり)を求めると、幽鬼は衣を払ってまっすぐ去った。翁は帰って妻に告げ、梯子をとって子を抱えて下ろした。

　　翌日、中に馮村の人で姓を馮というものがその子を失い、あまねく探したが見つからなかった。高翁は子を出して幽鬼の言葉を告げ、馮の父は翁を拝して外父と呼んだ。後に馮はほんとうに山西巡検[97]となり、田宅は魍魎が言っていた通りであった。高もそれから富を致し、子は科挙に合格した。

　　獺の怪異

　　山陰の施漢一秀才がいった。越の水郷には獺の怪が多く、その小さいものは水を掛けて人を侮り、駆るとすぐ隠れるだけだが、その老いたものは人を惑わせてあやかしのようであった。わたしの家には昔獺の怪がおり、科甲や富豪に会うと、かならず親しみ、百年の間におよそ三たび現れ、追えなかったが、禍もなさなかった。

　　わたしが丁亥[98]に帰郷し、夜、就寝すると、螺の殼を撒いているかのような音がし、大小千万の音が、几榻の間に散らばったが、照らすと何もなかった。北の窓を閉ざし忘れたと疑ったので、閉ざしたところ、あやかしもだんだん静まった。

　　さらに二十年して丙午[99]に、わたしが苫塊[100]した際、横になっていると、胸を圧すものがおり、小さい手がわたしの頭頂をしきりに撫でているかのようであった、その身はたいへん滑らかで、耳元で嘖嘖[101]と猥褻な言葉を語っていた。夢みると一人の粉面の女で、年は二十四五ばかり、紫緞の衫、玄緞の半臂[102]、深い藍色の裙が、わたしに近づいて抱くことを求めた。退けると、後ろからわたしを抱え、口は両耳に向かって聒聒[103]としてやまなかった。わたしは夢の中で言った。「世間にはほんとうに淫乱な老婆がいる。わたしは二十年前さえ犯されなかったのに、今日わたしを動かせようか。」目ざめると、耳元で嘖嘖たる声がし、頭上で撫でさする動作は、なお絶えていなかったが、まもなく枕辺から逃れ去り、軽やかで小さい猫のようであった。翌日さらに来ると、ものが右股の上にいることを覚え、夢みると昨日の娘で、衣服は元通りで、立っているところはやや遠く、欄杆を隔てて招いていた。わたしは昨日身が近づいてなお乱れなかったのに、今、欄杆を隔てて心を動かそうとするのかとひそかに思った。そして目ざめると、物は股の上から跳び去り、あやかしも来なくなった。

　　丁未の冬のはじめ、オウ[犬茶]湖口[104]で夜に陳家の新しい楼に宿ったが、湖に臨んでいた。燭を消すとすぐに、物が牀に跳びあがった。わたしはそれが幽鬼でも盗人でもないことを知っており、叫んで、隣人を驚かせば、人に笑われてしまうので、追い払う手立てを考え、杭大宗[105]先生の『穢跡金剛呪』の事を思い出し、誦えてみると、物はすぐに臥して動かなくなった。五更に、牀を飛び下りる音がし、去った。暁に起き、見ると伏していた所の衣の襞は[106]切ったかのように巻き上げられていた[107]。わたしは客であったので、主人に告げにくかった。翌月ふたたびこの宿を訪ね、服を脱いではじめて前のことを思い出し、避けようとしたが間に合わず、衾を擁して坐し、しばらくして疲れて目を閉じると、物はすでに牀の中にいた。『金剛呪』を誦えるのがややゆっくりになると、かならず動いて登ろうとした。誦えるのが遅くなるのを待ち、だんだん迫って胸に近づき、声を出せば高く鋭く、鼠が叫んでいるかのようであった。そしてすぐに人の言葉を語った。「正一真人[108]の符を帯びていれば、わたしは恐れませんが、公の口が一たび動きさえすれば、わたしはたいへん恐れます。」五更になると、足の後ろを巡って出た[109]。その夜、呪を誦えること百余遍であった。翌日、家人はわたしが夜に寝言をながく言っていたことを怪しんだが、それから陳家にはほかの異変はなかった。

　　今年の二月初二日、郷塾[110]の師沈昭遠が来て獺の祟りを語り、衣の上に遺された毛がすこしあったので、わたしに急を告げ、館師を辞めて去ろうとした。『穢跡呪』を誦えることを勧めたが、にわかに暗誦できなかったので、たまたま『本草』の「熊は塩を食らって死に、獺は酒を飲んで死ぬ[111]」という言葉を思い出し、昔丁未の進士徐景芳[112]がこれを用いて館中[113]の獺の妖(あやかし)を除いたことがあるのを聞いていたので、沈にひとまず試させた。その晩、二尾の鯽(ふな)と樽の酒を案頭に置くと、二更に獺が来、沈はすでにぼんやりとして声を出せず、見ると獺が案(つくえ)を越えて酒を飲んでおり、樽が傾くと、案(つくえ)について漏れた酒を嘗めて音をたて、魚も食らい尽くしていた。跳び下りると、沈の牀に登ろうとし、前足を起こすと、後足が続かず、三たび地に落ちたが、そもそも獺は酔っていたのであった。逃れ去り、今は来なくなった。

　　だとすれば、暗誦閲覧する時に雑多であることを嫌わなければ、人を救うこともできるのである。獺が酒を飲むことは、水郷に住む人は知っておくべきだし、熊が塩を好むことも、山に住む人が知らないことはできないことである。

　　柏香[114]の簪は納棺するべきでないこと

　　会稽の土地の人々陳生は、郡の金氏の娘を娶り、夫婦はたいへん睦まじかった。金が死ぬと、陳は像を設けて供物を捧げ、朝晩相対し、かれが生きていた時のようであった。

　　その後、金の妹二姑も病んで死んだが、納棺しようとすると突然蘇った。家人はたいへん喜んだが、その声は金氏の大姑であり、こう言った。「わたしは勾神[115]にあやまって捕らえられて冥土に入りました。きちんと取り調べられますと、魂は許されて帰ろうとしましたが、納棺した時に柏香の簪を用いていましたので、魂はふたたび入れませんでした。今、妹は命が尽きましたので、わたしは冥府に体を借りて蘇ることを求めたのです。わたしは陳家に嫁ぎましょう。」家人はたいへん驚いた。金はかれが生きていた時に遺した箱篋衣服を指し示したが、すべて違わず、さらにかれと陳生との枕席の睦み合いやささめごとについて述べたが、たしかに陳の妻であった。金の兄が遠くから帰ると、女は昔日かれの家を訪ねた時に食事に留めれたこと、酒肴杯盤や、その兄が羊肉を買うと、船上で臭気が人に迫ったことを語ったが、事はすべて昔かれの兄がみずから経験したことで、すこしも間違いなかった。

　　いかんせんかれの妹はすでに某家の倅と婚約していたので、一族は妹が幽鬼の言葉に託けて公開しにくいことをごまかしているのかもしれないと疑い、すぐには陳家に嫁がせなかった。陳生も姉の魂で妹の体では、迎えて帰るに忍びないと言った。某郎の家もどうしても娶ろうとしたので、父母は娘を送っていった。車を降りると、すぐ大声で言った。「わたしは金氏の大姑で、二姑ではございません。わたしは陳家に嫁ぎ、あなたの家に嫁ぎません。あなたの家がどうしてもわたしを留めますなら、おおいに不吉をもたらしましょう。どうか悔いないでください。」その晩、かれの舅姑が女を某郎と同じ部屋に閉じこめたところ、三日で某郎は病むことなくにわかに死んだので、陳はますます女を迎えようとしなかったので、女は某郎の家のために節を守った。およそ郷里の吉凶の事はかならず先に知り、言うことは巫(かんなぎ)のようであったので、土地の人々は驚いた。ある人は言った。「これは妖(あやかし)が憑いたもので、ほんとうに大姑の魂ではない。陳生が迎えなかったのは、見識がなかったのではない。」

　　猟師が虎を語ること

　　言い伝えでは、虎が人を傷つける時、倀鬼が屍のために衣を脱がせて虎に食らわせるという。さらに言うには、虎は禹歩[116]でき、屍がみずから起きて服を脱がせるというが、これらはすべて間違っている。そもそも人は虎を見ないので、こうした推測の言葉を作ったのである。鄭猟戸は言った。「虎は人を捕らえる時、その頭と頚を銜え、人はたいへん痛がり、手足はおのずから支えたり引いたりするので、勢いはすべて下に向かい、衣褲は褪から落ちる。人は何事もなく礼儀に拘っている時は、岸然[117]巍然[118]としているが、危険が迫って訴えるすべがなくなると、すぐに震えて縮むので、衣帯はおのずから緩むのである。」

　　鄭は若い時、仲間と二頭の虎にあったことがあり、その一頭の虎は仲間を咥えて去り、もう一頭の虎は鄭の銃に中たり、死なないで逃れた。鄭はかれがさらに来ることを恐れたので、先に高い樹に登って避けて眺めた。すると虎が銜えた仲間はまず鞋が落ち、さらに襪が落ち、だんだんと褲が落ちた。翌日、仲間を招いて探すと、着物履物はすべて道にあり、その屍は隔たること五里あまり、その左腕を残し、調べると古傷があり、ほんとうにかれの仲間で、内臓も食らいつくされてなくなっていた。さらに二三里のところでは、銃に傷つけられた虎が倒れ伏して死んでいた。

　　言い伝えでは、虎が人を咬む時、初旬は頭、中旬は肩と背、下旬は腰と腿であるというが、これは大いに間違っている。鄭が見たのは、すべて肩と項であった。虎は吼えて進み出、上から下に跳び下りて咬むので[119]、肩や項でなければその体を持つことはできず、上旬下旬の違いはない。虎がさきに食らうところは見られないが、残っているものはたまたま余った手足であり、やはり上旬下旬で手足の違いが生じることはない[120]。

　　虎は大きいものは力が千斤、小さいものも二三百斤、さらに爪牙と跳躍が加わっているので、人力はけっして勝れない。頼りになるものは、人の巧みさであり、これによって虎の貪欲痴愚を制するのである。虎は気が盛んで、銃に中たっても多くはすぐに死なない。鄭はかつて深山に入ったが、路が曲がるところで、大きな牛のような虎が路傍に蹲っていた。鄭はたいへん慌て、銃を用いるのが間にあわなかったので、大声で怒鳴り、ひとまず気勢で脅すと、虎はほんとうに躍って去った。鄭はかれがかならず来ると思ったが、避けられる村落はなかったので、さきにその去るところを見、坡(おか)を探して下に臥した[121]。虎はほんとうに躍って来、鄭の銃に中たったが、さらに躍って去った。鄭はさらにゆけば虎はきっと防ぎ難かろうと思い、いそいで高い樹に登って避けた。まもなく虎が来たが、鄭を見つけられなかった。鄭はたいへん慌てていたので、足がたまたま滑って枝に触れてそれを動かした。虎は仰いで鄭を見つけると、躍りあがって鄭を打とうとし、巨枝にぶつかって落ちること再三、樹は震え、葉ごとに音がした。虎は大いに傷つき、さらに跳ねられなかったので、路傍の石塊を齧ってすべて砕き、石を銜えて死んだ。

　　倀はかならず物に憑いてゆき、猫、兔、鶏、鴨、蛙、雉、すべて汪汪[122]と声を作れる。虎に先んじること二三里で、罠が潜ませてある所を見ると、引いて避け、虎はかならず倀の声に従って移動する。これを制する法は、倀の声がしたらすぐ釘を樹にうちつけるのである。樹は出あった最初の樹である。その後、倀が憑いた動物を撃ち、動物が死ねば倀も声が絶える。ある人はいう。釘は、金であり、樹は、木(もく)である。魂(こん)は木(もく)に属し、魄(はく)は金に属し、魄を魂につける趣意をとっているのである。魄は凶悪で殺すことを好み、倀は、魄である。これを祓って魂につかせると、驚魄[123]は拠りどころができるので、虎に使われないのだと。

　　倀は声が悲しく長く、音が変化する[124]ことはないが、夜が深け、人が静かになると、人の言葉を語れることもある。鄭はかつて仲間とともに猟にゆき、舟を溪に泊めた。ある晩、岸の上で門を叩く音がし、しばらくして門の中の人がそれに応えて起きようとしたが、そのものの妻はつとめて阻んで言った。「夜は深えていますから避けるのがようございます。戸を開けにゆかれてはなりません。」敲くのはますます急になった。かれの妻は臥しながら尋ねた。「お客さまはどちらから来られました。」「隣だ。」「お客さまはどなたでしょう。」するとさらに言った。「隣だ。」夫婦は起きず、明日来るように指示した。敲くのはなお激しかったので、鄭はおかしいと思い、隙間から見ると、数石の穀物袋のようなものがその門を塞ぎ、傾いた月の光の中からじっくり見わけると、それは虎で、頭でその門を撞き、二字[125]を答えているのは倀であった。鄭がひそかにその同舟のものを引き起こしてかれらに告げると、みな恐れて船板の下に隠れた。鄭はそこで銃で後ろから撃つと、虎は痛みに驚き、その門を咬み破り、家の簷を壊して去った。翌日見ると、門下の跪いて頷いていたところは、二つの窪みとなっていた。ゆくこと二里あまり、溪(たにがわ)の水の中で死んだ虎が見つかったが、重さは六百斤であった。ある人はいった。虎は傷を負って水に落ち、起きられなかった。ある人はいった。虎は銃に中たってたいへん熱かったので、水に近づいて涼を採ったが、傷が開いて死んだのであった[126]。

　　虎は兔を食らい、口に入れるとすぐ消化する。虎は鶏と鳩や雉を食らい、口に入れ、上下の腭(あご)[127]を何度も合わせると、すぐ仰ぎみて余分な羽を吹くが、散花の雨ようである、範囲は一丈余りである。雉は五色の文様があるので、散じて飛ぶのはもっとも見ものである。

　　言い伝えでは、虎は人が恐れるのを侮るので、酔った人を傷つけず、子供を食らわないというが、間違っている。酔漢がたいへん酔っており、道をゆく時、よろけて定まることがなければ、虎は食らわないが、それは攻撃しても当たらないからである。子供にいたっては、樗里[128]に隣家の子がおり、兄弟で夜に外へ出て厠にいった。その兄は年が十三四で、厠に蹲っていた。その弟は九歲であったが、軒下に立ち、見ると一団の松の枯葉のようなものが跳ねて進んできたので、弟は恐れてその兄の傍らについて言った。「何でしょう。」兄は言った。「松葉のかたまりだ。」虎は進みでるとその弟を棄ててその兄を攫って去った。翌日、血を辿って探すと、着物履物があちこちに散じて残り、小さい松の根数十株を抜いていたが、そもそもかれの兄が痛みを忍んだ手の跡であった。血痕は広いところにゆくとなくなっていたが、そもそもすでに食らいつくして、草の上の血も啜ってしまっていたのであった。

　　虎は飢えると蔬菜も食らう。樗里に娘がいたが、かれの嫂が楼で芋を焼いて食らい、芋の皮を窓の外に捨てた。姑はたまたま窓につき、見ると虎が芋の皮を啜ってなくなれば仰ぎみた。嫂は恐れ、たくさん芋を焼き、皮を与え、かれが跳びあがってくることを恐れた。姑は窓を閉ざそうとしたが、手を伸ばして出すと虎が起きあがって手を打つ恐れがあった。坐して待つと、嫂の芋が尽きようとしていたので、すべての芋を投じてみると、虎は呑み尽くした。姑は言った。「良いことを思いついた。熱いのを恐れなければ、騙せよう。」そこで鉄の錘を真っ赤に焼いて、芋の皮で包んだところ、芋の皮は熱い鉄につければすぐに貼りついたので、投じてみた。虎は頭を挙げてながいこと見ていたが、物が抛たれるのを見ると、近づいて呑み、呑んだ後に跳ねて去った。二日後、村で死んだ虎が見つかったが、爪でみずからその胸を裂いて骨が見えていた。

　　言い伝えでは、虎は再婚しないというが、やはり間違っている。虎は独居し、かれらが二頭いるのは、かならず牝牡である。それが三四五頭いるのは、かならず虎の母子である。子が大きくなると、牝牡母子はみな闘って、ふたたび独居する。おおむね月がたいへん暈んでいる夜に、虎は交わるが、真夜中の後である。翌日はかならず大風が起きる。鄭は若い時二頭の虎がたがいに鳴くのを聞いたことがあるが、どうしてか分からなかった。ある晩、嶺の上の寺の楼に宿ったところ、二頭の虎がたいへん遠くで鳴いており、声が林の外に聞こえ、窺うと、月は濛濛として暈んでいたが、一つの堆(うずたか)いものがあり、上は白く、下は黒く、小山が揺れ動こうとしていかのようであった。しばらくすると、その下のものがはげしく吼えて谷を震わしていたが、そもそもその穴がはじめて合い、牡[129]が痛くて驚き跳ねていたのであった。朝起きれば二頭の虎が小山の上におり、たがいに跳んでぶつかり合い、しばらくしてはじめて散じた。その日、寺僧は門を開こうとしなかった。翌月のはやく起き、見ると嶺を隔ててこの白黒の二頭の虎が抱きあいながら躍りあがり、地に落ちると、双方が離れた。その翌年になると、四匹の小さい虎がともに歩いていた。ある人は言った。「虎は交わって一躍し、一子を得る。四匹の子はいずれも一度交わって得たものです。」

　　鄭は晩年七十を過ぎるとかならず一本の雨傘を持ってゆき、鉄棒でみずからを守り、つねに言った。「わたしは虎一頭に遇えば、かれが攻撃するのを待って左右に避け、棍棒でその腰を打ち、ふたたび起きて攻撃しないようにさせられる。虎二三頭に遇えば、傘を広げて回し、虎が訝り、わたしを攻撃しようとしないようにさせられる。」さらに数年して、鄭は隣村にいって村芝居を見、傘を肩にして帰ったが、途中で日が暮れると、虎がにわかに路傍から起きあがった。鄭は避けて撃つのが間に合わず、崖の下に落ち、いそいで起きて傘を拡げて虎を窺った。ところが虎も落ち、鄭の身を圧した。傘が輪のように回り、虎は鄭の腰と腿の間に蹲って傘が回るのを凝視していた[130]。鄭はいそいで帯びている鉄刀を執り、右手でその尾閭[131]を斬り、左手でその陰を抜いた。虎はまさに傘を訝り、さらにその陰に触れられたのに驚き、躍りあがり、力は激しかったので、その陰を一寸余り切断した。鄭は地にしがみついて手は傘を放さなかった。さいわい隣人で劇を見たものが大勢で通り過ぎ、助けを呼んで帰ったが、鄭は力が尽きており、二日して死んだ。

　　幽鬼が赴任を願うこと

　　侍御[132]沈立人名は孫漣[133]は、京邸[134]で病に臥すこと十余日、親しくしているものに言った。「朱衣の人が空から中庭に下り、語るには、直隷保定の城隍神の缺(ポスト)は、わたしに取らせるべきだ。わたしは『老父は南におり、妻子は頼るものがなく、孑然として単身で、客死するは憐れである』ことを理由に、朱衣の人に、わたしに代わって断わってほかに人を選んでくれと頼んだ。朱衣の人は去るとまた来て、言った。『ご父君は庶民でありながら侍従[135]の封誥[136]を受け、すでにたいへん栄誉であるし、弟がいるのだから、父母を養えないことにならない。子はすでに学校に入っているから、さらに何を心配しよう。人を招いてもみなが断わっていては、招ける人がいなくなってしまう。』朱衣の人はこのように語ったから、わたしは生きる望みはなかろう。葬儀を調えてくれ。」親しいものは多くは慰め、うわごとにすぎないと思った。しかし沈はそれから二度と声をたてず、薬をすべて遠ざけた。およそ三日して、夜が深けた後、車夫が門下に宿っていると、門を叩く音がたいへん騒がしかったので、尋ねたところ、言った。「旦那さま、赴任なさってください。」車夫はかれがあやまって門を叩いていることを嫌に思い、ほかに門戸を探して去らせた。門を叩く者は言った。「たしかにお宅でございます。」車夫は言った。「うちの旦那さまは京官で、十年城を出ず、現在病に臥しており、どうして赴任できよう。」門を叩く者は言った。「外官ではございません。わたしたちは直隷省城隍衙の使いで、明日、新任官が赴任し、はるばるこちらで迎えるのでございます。あなたの家は事を処理する人がいず、すこしの旅装賞与も準備していないので、あなたに知らせたのです。」車夫はたいへん恐れ、布団の中で頚を縮めて、眠っても夢みなかった。四更すぎに、沈が奥から従者を呼んで外に出るのが聞こえ[137]、肩輿の担ぎ棒が門に触れて音をたてたが、謦欬はまさに沈であった。声はだんだん遠くなり、はじめて沈の病に侍する者の哭く声が聞こえた。翌日、車夫は沈の親しいものに告げ、はじめて前日の話がうわごとでなかったことを知った。

　　通幽法

　　南塘[138]の通判[139]顧梅坡[140]が言った。張天師には通幽法があり、訴えようのない事があれば、陽魂を冥土[141]に遣わし、幽鬼を招いて尋ねさせることができた。幽鬼が語ることは、人の口を借りてそれを出すが、その人は自分では気づかず、愚人であってはじめて使えるのであった。梅坡はみずから五十六代天師を見たことがあった。

　　時に法官[142]某が管理していた俸銀[143]五十両を失い[144]、探したが見つからず、恥じ悔やんで自縊して死んだ。死んでも、失った銀はなお見つからなかったので、主人は通幽法を用いた。そして水夫某を入り口に立たせ、水を吹いて符を百余枚貼り、身に満たさんばかりにした。眼、耳にすべて符を貼り、頭頂と口にだけ貼らなかった。水夫ははじめはまだ身が動いていたが、その後、鋳たかのように動かなくなった。まもなく声を出すと、冥府の門にゆき、見ると某法官が梁を肩にし、縄を帯び、冥府の門の外に立ちながら沙汰を待っていた。水夫が来たのを見ると、言った。「帰って天師さまに告げてください。銀は親しくしている孌童某が床板の下に置いたのですと。」天師が人を遣わして掲げて見させると、ほんとうに錙銖も失われていなかったので、尋ねた。「おまえは何の梁を肩にしている。」すると言った。「縊死した幽鬼はみな梁と縄を負いつづけて、逃れられず、その重さにたいへん苦しんでいるのです。人の世で法事を施してくれればはじめて逃れられ、さもなければ逃れられず、ほかに転生できません。天師さまのご慈悲により、法術を施してくださることを望みます。」天師は承諾した。

　　すると突然、冥王から天師府の法官への命が伝えられた。「通知する。おまえたちはしばしば細かいことで幽冥を煩わしたので、二十板責めさせる。以後、よく改めるべきだ。さもなければまた重罰を得よう。」水夫はまさに直立して、たちまち身を屈める動作をし、叫ぶのが二十回に満ちると起き、ふたたび直立した。冥土の言葉はすべて水夫が口ずから述べ、天師は供述を取っているありさまのようにし、水夫は訊ねられるとすぐに答えた。尋ねおわると、水夫は突然言った。「屋敷[145]の門神が入らせてくれません。」法術を施したものが門神に命令する符を焚くことを忘れたのであった。目ざめると、水夫は足の力がたいへん疲れているのを感じ、冥土のことを尋ねるとたいへん瞢瞢[146]としていたが、去る時に護符がだんだん多く貼られ、身の束縛がだんだんきつくなって苦しくなるのを感じていた。両脇はひどく圧迫され、魂が頭頂から迸って出るのを覚え、痛みは堪えられなかった。帰ってきた時はふたたび頭頂から入ったが、全身が心地よく、重い荷物を卸したかのようで、たいへん疲れて眠られる時のようであった。目ざめると、臀に杖の痕があり、色は青く、しばらくしてはじめて褪せた。それから、法官は軽々に通幽法を使おうとしなかった。

　　喜婆

　　越の郡城に惰民巷[147]という所があり、一里四方に住み、男は楽戸[148]で、女は喜婆であった。民間で結婚式があると、男は歌い、女は新婦の化粧拝謁を助け、閨房に立って侍して婢のようにし、新婦が就寝するとはじめて外に出、喜婆といった。人のご機嫌をとるのがうまく、男女はそれぞれ心を歓ばせることができた。民家に服役して固定した主人がいるのは、田に佃戸がいるかのようで、代役を立てることもでき[149]、売買にはすべて証文があった。結婚のときに祭祀を掌る外、常時口利きして衣錦[150]に売ることを生業とした。

　　某公子というものがおり、若くして狎邪[151]の遊びを好んでいた。ある日、ふだん親しんでいる喜婆が来て告げた。「××日に、わたしの家にいらしてください。宴を設けておもてなししましょう。」公子が期日通りにゆくと、言った。「お待ちください。さらに佳境がございます。」公子は解せず、戯言にすぎないと思った。まもなく、娘が門に輿で来て中に入り、見ると、若くて艶やかで、衣装は麗しく[152]、年は二十三四であった。喜婆は傍らで話を取り持ち、席が定まると茶器を進めた。喜婆は外に出ると、外から戸を閉ざして去った。公子は意向を悟り、若くて艶やかなものに近づくと、峻拒しなかった。楽しみが終わり、姓と住所を尋ねたが、まったく答えなかった。ふたたび会うことを求めると、言った。「ご縁が尽きているか否かによりましょう。[153]」幃を開いて出ると、喜婆は鍵を開けて入っており、服装を整えてやり、擁して輿に乗せて去った。公子が喜婆に若くて艶やかなものの姓氏をつよく尋ねても、かたく漏らさなかった。

　　一年後、公子が水嬉[154]を見ていると、画船の中にその人がおり、珠翠[155]は頭に満ち、婢媼の側に侍しており、目で合図した。まもなく、舷と槳(かじ)が擦れ合い、一見して散じ、ふたたび会えなかった。

　　獺淫

　　獺は性質が淫である。呉越の貧家の娘は多くは水中で下着を洗うが、獺はそれをひさしく食らうと、怪異をなして人を迷わすことができる。

　　雌は異類について交わることが多いが、怪異をなして男子を惑わしても、すぐには取り殺すにいたらない。その雄は若い女の下着の臭いを嗅ぐと、かならず纏いついて去らず、人々が追いかけて撃っても、死ぬまで勢(へのこ)は萎えなかった。

　　辛亥十一月、蔡村[156]の人が妻を娶り、客が散じ、婢僕はそれぞれ就寝した。郎は酔って先に眠り、新婦は戸を閉ざして帯を解くと、両足の間を巡るものがあり、鼻で口の涎を嗅ぐ動作をした。新婦は驚き怪しみ、性はたいへん聡く、音をたてず、ひそかに戸を開いてその姑に告げ、獺の怪であることを知った。新婦が部屋に帰ると、獺は門で跪いて待っており、新婦に従って足を巡ること元の通りであった。しばらくして、舅姑は健やかなもの十余人を集め、それぞれ一つの燭台一つの棍棒を持って部屋に入り、すぐ門を閉ざして待ち、獺を見るとともに打った。獺が牀に上れば上って打ち、地に下りれば下りて打ち、几案に走れば集まって打ち、家に完全な器がなくて、獺はすでに棍棒でいっせいに打たれて地に倒れていた[157]。毛は黒く鑑のようで、身は長さが一尺五寸なのに、勢(へのこ)は長さが七寸で、人と異ならず、肉稜[158]はたいへん大きかった。その皮を剥ぎ、売値は毀った器物を償うに足りたが、その肉は腥くて食らえなかった。

　　ある人は言った。「獺肝髓[159]は医経[160]に入っている。その勢(へのこ)はこのように異常である、媚薬にできるが、惜しむらくは医経は載せておりず、村人がみな知らないことである。」

　　虎が藤斗[161]に苦しむこと

　　樗里の王姓の童子は藤斗を持って米を買い、時に暮雨で、溪の辺の木橋を過ぎ、童子はすぐ斗を頭に加え、手で木欄に縋って橋を過ぎた。虎がおり、橋の下で窺い、進んで童子の頭を咬み、その斗を被って去った。童子は地に倒れ、人に推されて転んだのだ、人はその斗を引いて去ったのだと思った。翌日、山中の人は虎が山じゅうを狂奔するのを見たが、虎は藤斗を銜えて外せなかった。虎が口を閉じれば藤斗はそれにしたがって閉じ、虎が口を開ければ藤斗はそれにしたがって開き、斗は口を塞いでいた。藤はしなやかで、一本一本が虎の牙の隙間に嵌まり込んでいた。虎は焦り、堪えられず、走って三日で山中に臥して死んだ。頭はなお仰ぎみ、その口を開け、なお藤斗を銜んでいた。

　　甘公が夢に入ること

　　甘冢宰汝来[162]は、わたしの己未の座師であった。かれの孫立功は、某科[163]の翰林で、湖北を典試していた時、貢院で亡くなった。後にその季父[164]広が漢興道[165]となり、秋闈を試験監督した。夜に牀に臥し、夢みると、立功が帷を掲げて入ってきたので、驚いて言った。「二叔はこちらにいたのか。」道台も驚いて目ざめた。近くの人に尋ねると、いたところは、まさに昔主考の棺が置かれたところであることを知った。

最終更新日:2012年1月21日

続子不語

中国文学

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