巻二

貞鶏

房�r希白が盧氏の知事であった時、客が来たので、一羽の鶏を料理したが、その雌は家を巡って悲しみ鳴き、三日飲食しないで死んだ。文士には詩文を作るものが多く、わたしは「貞鶏」と号した。

王家の孝犬

王懐州の家の末子五哥は、一匹の犬を飼っていたがたいへん懐いていた。五哥が十二三で死ぬと、犬は葬った場所についてゆき、徘徊して顧み、見ているものがあるかのようであった。その後、日に一回墓の側にゆき、暮れると帰った。このようにすること百日近く、人びとは「孝犬」と目した。

狐が樹を鋸でひくこと

陽曲[1]の北鄭村の社鉄李は、狐をとらえることを生業としていた。大定末年のある日、溝の北の古墓に網をはり、一羽の鴿をしばって餌とし、みずからは大樹の上でうかがっていた。二更すぎ、狐たちがき、人の言葉でいった。「鉄李よ、鉄李よ、鴿でわたしをだますのか。おまえの家の父子は、驢馬の群れににて、農業をしようとせず、ただ殺生をまなんでいる。わたしの父方母方の親戚は、すべてこいつ[2]にころされた。今日このような巡りあわせになったのだから、おとなしく樹からおりてこい。さもなければ、鋸でひいてたおすが、文句を言うなよ。」すぐに鋸をひく音が聞こえ、大声で、大鍋を持ってこい[3]、油を沸かせ、こいつを料理しよう、火ももう起こったと叫んだ。鉄李は恐れ、なす術がなかった。顧みれば腰には大きな斧があるだけであったので、樹が倒れたらきりまくろうと考えた。まもなく夜が明け、狐は去った。樹には鋸の痕がなく、傍らに牛の肋骨数本があるばかりであった。鉄李はかれらが騙していたことを悟り、その夜ふたたびいった。二更前、狐が来、次々に鳴き罵った。李が腰に火罐[4]を掛け、巻爆[5]を取ってひそかに火をつけ、樹下に抛つと、薬が火を発して、にわかに大きな音をだした。狐たちは乱れて逃げ、網に絆されると、眼を閉ざして死を待ち、一言も発しなかったので、斧で殺した。

済水で魚がとぶこと

壬寅の歳、済源の水中から魚がとびあがり、鳥鵲が啄ばんで落としたものを、人が取って食らったが、特に異常はなかった。甲辰の冬、安賢鎮[6]西南の馬陵で、早朝、風雲がないのに、突然空中から魚が七、八尾おちてきたが、どこからきたかわからず、済源のものとくらべてもややちいさかった。陶朱の養魚法では[7]、池に鼈を住まわせるが、そうしなければとびさるのである[8]。

石仏がうごくこと

正大八年、滕州の東三里に石仏一躰があったが、突然ひとりでにうごき、ゆれること数ヶ月であった。州知事がしにそうになると、しずかになった。禹冀之が張仲安のかたるのをきいた。

鬼が樹をぬくこと

興定末年、曹州の農民が、ある日、道を歩いていると、驟雨があり、空中で人の言葉が聞こえた。「できるか。」さらに大声で笑う声が聞こえた。この人が半里進むと、路傍の大きな柳の樹が抜かれ、根が出ており、十歩外に抛たれ、泥の中には大きな臀と髀の痕が残されており、麦の籠ほどあった。そもそも神が樹を抜き、泥の中に仰向けに坐って笑っていたのであった。

高尉の陰徳

高工部有隣は、字を徳卿といった。父の飛狐令集は、かつて南和[9]の尉[10]であったが、事件で千余人をいかしていた。徳卿はこの県でうまれ、四十年後、安国軍節度使を拝した。父老および当時のことを見たものがおり、杖に縋りながら迎え、労い、馬前で歓呼した。徳卿も尉の庁舎に碑を立て、陰徳陽報のことを述べた。一月足らずで、子の嵩、猶子の鋳は、同じ試験に合格し、時人はそれを誉れとした。

胡公が狐を除くこと

胡彦高は、明昌二年に廉能であることによって推挙され[11]即墨[12]の知事となった。県庁は古城の隅にあり、妖狐に占拠され、昼に寝、夜に出、変化(へんげ)して狡猾であった。獄卒になって囚人を釈放したり、官妓になって駅伝[13]の被襆[14]を盗んだり、男女を惑わし、惑乱して死に至らせたりするものがいた。県の人はどうしようもなく、かえって香火を奉り、五十年あまりたっていた。彦高は任地にゆき、そのありさまをしると、同僚をかえりみていった。「官舎は賢者をすまわせるためのものだが、今の知事はいられないから、幽鬼が占拠しているのか。」時に部屋は人が住まなくなってすでにひさしく、ひどく崩れていたので、すぐ修繕させた。翌日、広間で執務した。晩になると、燭を点けて坐した。夜半、狐が裏庭で鳴き、一匹が呼べば百匹が和し、まもなく集まり、庭内にいっぱいになった。その中で、大きな白い狐が、地を踏んまえて吠え、うちかかり、咬みつこうとしているかのようであった。兵士たちは逃げようとしたが、避ける場所がなかった。彦高が端坐して動かないでいると、狐も進まず、しばらくすると退いた。このようにして三日たつと、二度と来なくなった。さらに十日ばかりすると、一人の下女が、跳びはねて歌い、笑い、寝言をいっているかのように狂っていることが伝えられた。彦高が朱書を下女の釵に置き、お祓いすると、下女はその日のうちに正気づいた。翌朝、尉は巡邏して帰り、数百の狐たちに会ったが、県の東南から去っていった。狐はさらに登州の吏目[15]江崇の家の婦人を惑わしたので、崇は海島[16]から道士を招いて方術をおこなわせた。婦人が狂乱しているのに乗じ、車輪に縛り、軸を地中に埋め、人に転がさせ、しばらくすると、婦人はすみやかに生臭い涎を吐き、即墨の狐で、胡公に追われてこちらに来たといった。即墨の父老は彦高のために石碑を刻し、「胡公去狐碑」と名づけた、屏山の李之純の書であった。彦高は、武安の人で、仕えて鳳翔[17]の同知[18]にいたった。

呂守の詩讖

呂卿は、字は祥卿といい、大興[19]の人であった。汝州[20]の刺史となり、一月でやめたが、詩を望�ｯ楼[21]に題していった。「いざさらば楼中の旧山[22]の色、よく眉黛をもつて新官につかへよ。」まもなく物故した。人は詩讖だと思った。

孟内翰の夢

孟内翰友之[23]は、大定三年、郷、府、省、御の四つの試験ですべて第一位であったので、翰林院に奉職した。曹王府文学[24]を経、病のために医者を探した。しばらくすると、同知[25]単州[26]軍州事を授かったが、妻に死なれ、ひどく悲しんで死んだ。友之は合格前、夢の中で将来をあらかじめ知っていたが、その後すべて験があった。隣人の李生がいった。「友之が死んだ年、六月に、連夜星が人のいない軒先におちた[27]。」汴の人高公振特夫は挽歌をつくった。「平素夢にて告げられたれば、前途[28]はすべて目前にあり[29]。」さらにいった。「人は玉樹[30]を埋むることを嘆けども、天ために文星[31]を啓きたり[32]。」詩はあまり巧みでなかったが、友之の出処の時機、死生の変化を、造物がすべて予知させていたことがこれによってわかる。造物が海内における大きな名声をかれにあたえたのは、偶然ではない。

麻神童

麻九疇[33]は、字は知幾といい、献州[34]の人であった。三歳で字をしり、七歳で草書がかけ、大きな字をかけば数尺におよぶものがあり、いたるところで「神童」と目せられていた。章宗はかれをめしてあうと、たずねた。「おまえも宮中にはいれば、恐れおびえるか。」するとこたえた。「君臣は父子のようなものでございますから、子がどうして父を恐れましょう。」上はおどろいた。明昌以来、神童と称せられたものは五人いる。太原の常添寿は、四歳で詩を作った。「われに一巻の経あり、筆をもて書きあぐる必要はなし[35]。」合河[36]の劉文栄は、六歳で詩をつくった。「鴬花[37]景物新しく、日月天公[38]老ゆ。」劉微は七歳で、聖旨を受けて『鳳皇来儀』を賦した。新恩[39]の張世傑は、五、六歳で、やはり召されて宮中に入り、『元妃[40]素羅扇に梅をえがく』を賦した。「前村は楽しめざれば[41]、月中に移して栽ゑつ。」その後、常は隠居して外出しなかった。ほかの三人にはいずれもほめたたえるべきところはないが、知幾だけは一家を立てることができた[42]。一旦名が天下にあらわれると、閑閑公[43]のような耆旧まで、「徴君[44]」と目して諱を呼ばなかった[45]。

陳守誠感

陳大年は、字は世徳といい、吉州[46]の人であった。泰和年間、わが州の刺史となった。時に秋の旱魃で、蝗が南から北にきたが、世徳が石嶺関で祭祀したので、蝗は入境しなかった。死刑囚の馬柏児は、数州を移送され、尋問を受け[47]、すでに十三年になっていた、陳はすでに死刑にしようと決めており、あとは署名をまつばかりであった。陳は夜に星の下で祈った。「死刑の判決を遅延させるわけにはまいりませんが、やはり冤罪であることが心配でございます。今、旱魃はすでに最悪の状態ですが、囚人が冤罪でなければ、明日大雨をふらせてください。冤罪ならば、雨をふらせないでください。このことで占いをいたします。」翌日は大雨だったので、この囚人を処刑した。その年はおおいに豊作であった。

虞令公が幼くして聡明であったこと

虞令公仲文質夫[48]は、四歳で『雪花』詩を賦していった。「瓊英[49]と玉蕊[50]、片片として階墀におつ。花の来りし処をとへば、東君[51]も知ることぞなき。」つかえて遼の相になり、帰朝すると、平章政事[52]、濮国公を授かった。

陳希夷[53]の霊骨

華山の張超谷には、陳希夷の霊骨があった。山道はきわめてけわしく、下をのぞめば地はみえなかった。河中[54]の李欽叔はそこにいったことがあった。陳の骨は長大で、今の人とことなっており、堅くて重く、光沢があり、青玉のようであった。道力[55]の成果が、すべてそこに現れていた。弟子某の遺骸もその傍らにあったが、陳とくらべると、仙凡ひとしくなかった。

馬光塵の絵

馬資深の子光塵は、十歳ばかりで、山水を描いて高遠な趣きがあったが、成童[56]になったばかりで死んだ。王子端[57]内翰[58]はその絵に題した。「珠璧[59]佳城(おくつき)の下、丹青敗稿[60]の間。残年[61]両行の涙、絶筆[62]数重の山。」人々は、幼年で絵を讃えられ、名士に嘆き惜しまれたものは、古にも多くは見られないと言った。

馬が定襄の簿[63]をかじること

泰和年間、ある国姓の人が定襄の簿となった。ある日、河西の程氏の馬がのがれ、まっすぐ庁にのぼって主簿をかんでたおした。傍らに数十人がたっており、叫んで鞭うったがすくえなかった。半時たらずで、簿をかんでしなせたが、傷ついた処はみるにしのびなかった。馬ははしって城をでたので、網でとらえた。三日して簿をほうむるとき、馬をしばって火中に投じた。人はこの馬は物(もののけ)につかれたのでなければ、他世の怨みに報いたのだといった。

鬼市

裴翰林択之は、陽武[64]の人であった。六、七歳の時、大父[65]に馬上でだかれて県の東北の荘園にいった。外壕にゆくと、門の南北に市があり、人はいずれも二尺ばかり、老若男女、吏卒[66]僧道[67]が、穰穰[68]と往来し、商人の売買している荷物、驢馬、駱駝、車輌が、すべてあった。大父につげると、大父は嘘だとおもい、信じなかった。そもそも三四たびそこにいったが、やはりかならずみた。『呂氏碣石録』には、武平[69]の周鼎が、子供の時に村にいたが、ある日、県城の人が交易するとき、驢馬に騎り、父に従って市に入った、時に地の色はかすかに見えたが、路傍の二列はすべて仏像であったので、目をとざして見ようとせず、目を開けると見えなくなっていたとあるが、二つのことはたいへん似ている。ただ、仏像が多かったのは、どうしてだろうか。

原武閻氏の犬

原武[70]の附城の堤の下にある閻老の家は[71]、その舅と姑が辛卯冬の兵乱[72]にあって死んだ。その家の若者は捕らえられたので[73]、埋葬することができなかった。この時、屍は野に満ち、すべて狐や犬に食らわれ、誰であるか見わけがつかなかった。閻氏の犬も人をくらったが、舅姑だけはまもり、日々犬たちとたたかったので、他の犬たちは近づこうとしなかった。一月あまりして、閻氏の子や甥ににげかえるものがおり、結局、無傷の骸をうめることができたが、ほんとうに孝犬であった。

歴年の讖

古人は長寿を祈る時はみな「千万歳寿」と言っていた。国初、種人[74]は純朴で、杯をあげるときは、百二十歳をいのるだけであった。そもそも武元[75]は政和五年、遼の天慶五年乙未を収国元年にしたが、哀宗の天興三年に蔡州[76]が陥ったときは、ちょうど二つの甲子がめぐっていた。歴年の讖がその通りになったのである。

巽斎の讖

天会八年、劉豫[77]を冊封して大斉の皇帝にし、大名[78]に都させた。諸門にはもともと巽斉、安流、順豫などの呼称があり[79]、門の名が縁起がよいので、三市の門で阜昌[80]というものを選んで年号とした。こじつけとはいえ、因縁がある。

桃杯

鞏下[81]の韓道人は、もともと衣冠[82]の家の出で、蔭によって官に任ぜられたことがあった。中年で方士にあい、得るものがあり、すぐに官位を棄てて道をまなんだ。わたしはかつて秦州の隴城[83]でかれに会った。かれが言うには、泰和初年、秋雨の後に山にゆくと、突然一枚の大きな葉が流れに従って下ってくるのがみえた。韓ははじめ意に介さなかったが、数枚の葉の間に桃があり、大きさは杯か碗のよう、石に妨げられて停まったので、それをとった。桃は紅くて香りがあり、俗眼でつねに見られるものではなかったので、珍しいものであると思い、三峰[84]を望んで再拝し、食らいつくした。枝と葉を懐にして帰り、洞穴のきわめて高い処で、桃の核を破り、仁をとって飲むと、酥蜜[85]のように甘かった。そこで核で二つの酒杯を作り、それぞれ一勺あまりを受けた。韓はそれからくらったり辟穀[86]したりした。時に年はすでに六十であったが、容貌は四十ばかりの人のようであった。ある日、わたしに酒をこい、この杯でくんだが、核は酒をえると、あかくひかり、新鮮であるかのようであった。わたしに『桃杯詩』を賦することを約したが、ぐずぐずして暇がなかった。北に渡った後、長春尹師[87]も桃杯をもっており、宣和、政和の内府の物だといった。

溺死鬼

沢州[88]に鍼工[89]がいた。ある日、人が寝静まったあと、鍼をけみしていると、人が濠にそってのぼってくるのが聞こえ、よろこび、わらっていった。「明日、身代わりをえられるぞ。」人がかわるのは誰かとたずねると、いった。「下役が、真定[90]から、傘を肩にし、書夾[91]をはさんできて、濠で水浴びするから、身代わりをえられるのだ。」鍼工は門を出てながめたが、みえなかったので、幽鬼であったことをしった。翌日、入り口でまっていた。昼食の後、一人の下役が傘と書夾を鍼工の家におき、濠に水浴びしにゆくといった。鍼工がたずねると、真定からきたというので、下役にいった。「城内に風呂屋があるから、風呂代[92]を援助させてくれ。」。下役がそのわけをたずねると、工はくわしく昨日きいたことをつげたので、再三辞謝してさった。その晩の二更すぎ、瓦礫が門に抛たれ、大声でののしる声がした。「苦労して代わりをえたのに、こいつに邪魔された。ちかっておまえを水中に引きこんでやる。」翌朝みると瓦礫がつもっており、数晩やまなかった。この人は引越してさけた。秘水焦符村がかたった。

棣州学の幽霊女

王右司仲沢は、若い時に棣州学にすんでいた。料理人がつげた。「女の幽霊が、毎晩きてさわぐので、ねむれません。」沢はいった。「今晩またきたら、その衣をつかんで大声でさけべば、わたしたちがみにゆこう。」その夜、ほんとうにきたので、その人はその腕をとってはなさず、大声で叫んだ。諸生が燈をもってみにゆくと、古い棺板で、やくと怪異はたえた。仲沢がかたった。

湯盤周鼎

秀岩[93]の安常は、字を順之といい、つねに党承旨から大篆[94]をまなび、古文奇字をたくさんしっていた。泰和末年、かつて内府所蔵の湯盤[95]をみたが、白玉の四角い斗(とます)で、四寸弱近く[96]、底の銘の九字は、「徳日新、又日新、日日新」であった[97]。章宗は命令を発して判読させた。さらに方鼎[98]があり、耳は二つで足は四つ、饕餮[99]の象が雷文の中にあった、銘には「魯公[100]が文王尊彝[101]を作る」とあった。銅はすでに古く、光沢があって碧玉のよう、銅の臭み[102]もなかった。

蓮十三花

同年の康良輔がかたった。磁州[103]観台[104]の劉軌の家では、承安年間、池の蓮の一つの茎に十三花が開いた。その年、軌は合格したが京兆按察判官でおわった。

瑞禾

鳳翔虢県[105]の太子荘でのこと、庚子の歳、郝氏の八十畝の穀田[106]で、茎ごとに一枚の葉、一つの小さな穂ができ、十二にいたり、大きな穂とあわせて十三になった。こころみに一叢を切って収穫すると、穀十升を得た。翌年、郝は統軍[107]万人に命じて、金の虎符[108]をおびた。副将の李慥はかつてそれを見た。昔、一つの茎に九つの穂ができたことがあったが、このようにおおくはなかった。

黄真人

修武[109]の張袞は、字を君冕といった。その父仲和は、わかい時に府史[110]で、神にいのることをこのんでいた。ある日、黄繙綽[111]が下ったので、とどめて祭り、「黄真人」といい、筆を画像の前に掛け[112]、つねに祈っていた。君冕は崇慶二年に簾試[113]に赴いた。仲和は尋ねた。「息子が受験いたしますが、御題をおききすることはできましょうか。」批にいった。「天機を漏らすことはゆるされない。」試験日がすぎ、尋ねると、すぐに批があった。「『臣は股肱となり予の違(あやま)ちを弼(たす)けよの賦[114]』、『成績紀太常詩[115]』。」さらにたずねた。「倅は合格しましょうか。」批にいった。「黄裳は頭、緑衣は尾。」張は理解できず、解説をこうた。するとさらに批があった。「天機を漏らすことはゆるされない。」四月になると、唱名[116]のとき、張はさらにたずねた。「まもなく合格発表ですが、どうか先におつげください。」すぐ批があった。「緑衣とは、六衣のことで、君冕の名ではないか[117]。」榜がくると、黄吉甫はほんとうに第一位で、君冕の名はもっとも下であった。この類はたいへん多く、俳諧詩[118]もあるのは、おかしなことである。

摩利支天呪

忻州[119]の劉軍判は、貞祐初年、朔方の人馬がうごいたことをきき[120]、家で摩利支天呪をとなえた。州がおちいると、二十五人はともに兵禍をまぬかれた。一人の奴隷だけは信じず、城を囲まれてからはじめてとなえ、四、五日とらえられたが、やはりにげかえった。南に渡った後、永寧[121]にすみ、すぐこの呪をほどこした。文士薛曼卿はそのことをしるした。

王叟の陰徳

穰県[122]宋荘の王叟を、人々は「王評事[123]」と目していた。みずからは八十一歳、妻は八十歳、子四人、孫二十余人がおり、曽孫も妻を娶っていた。叟からその曽孫まで、およそ三十六家族、夫婦はすべて結髪[124]で、県内第一の家と重んじられていた。第四子の栄は、軍功によって官位は宣武軍[125]魯山[126]の尉となり、長孫は武挙に合格し、某州の巡検であった。宋荘の四つの邸宅の前の大きな槐は、数百年の物で、老いた幹はすでにかれ、五本の枝は内にむかい、それぞれ大樹になり、木陰は数十歩であった。わたしは鎮平[127]にいた日、かつてかれの家をたずねたが、健康で六十ばかりの人のようであった。きっと陰徳によってこうなったのだとおもい、たずねたがこたえなかった。傍らの一人の叟がいった。「王評事は高齢だが、診療を生業としています。病人の家がきてまねくと、馬にのってゆき、童僕をみずからしたがわせることはありません。人のために処方するとき、一つでも薬がそろわなければ、調剤しません。貧家が病を治療するときは、夏、日に二三回ゆくこともいといません。病が平復しても、一銭ももとめませんが、これは陰徳ではございませんか。」叟はそこでみずからいった。「今の商人は臨洮山の外れから、驢馬に甘草を負わせてきますが、塵や糞にまみれています。薬屋におろせば、すぐにきって人々にあたえています。わたしはこの草を用いるときは、かならず水であらい、適宜さらし、その後で調剤しています。他の薬もすべてそうしています。みずからの陰徳をつもうとしているわけではございませんが、心がおちつきますので、こうしないわけにゆかないのです。」わたしは酒をくんであたえていった。「このかたは陰徳がおおきい。」

馮婦の詩

武安県新安の農民馮氏は、病後、突然一詩を語った。「城南の池館蒲津を挟み、野色林光物色真なり。満目の煙霞蓬島遠く、一溪の花木武陵の春。」泰和末年に病死した。胡国瑞が語った。

石の中の亀

金門[128]の羽客[129]李煉師は、和順[130]の人で、章廟[131]に詔せられ、天長観[132]を提点[133]していた。平生の霊術には、「金盂水を出づ[134]」の類がたいへん多く、八十一種に達しており、邢州の神霄宮の壁に描かれていた。門人の王守中は、さらに碑を刻して伝えようとし、匠を召して石に刻せしめたところ、石の中から亀を得た。日々几案の間にいて懐いていたが、そのようにして百日がたつと、風が過ぎるようにいなくなった[135]。武安[136]の王安卿が語った。

石の中の蟆(がま)

長葛[137]の禹冀之が、華山の隠者薛自然[138]に聞いたところでは、泰和年間、華山の石工が石を割ると、石の中から一蟆(がま)が跳び出、水中に入ったということである。

高監が借金を返すこと

遂平[139]闘城鎮の高監は、闘城にきた当初、金持ちの高氏に融資[140]をもとめた。高氏は農民で純朴であったので、その術中に陥り、貸した金銭や麦は数百緡に達したが[141]、高監はその後あれこれ悪く言い、一銭も償わなかった。まもなく、高監が死ぬと、一匹の赤毛の犢(こうし)がうまれたが、腹に白い毛で字が書かれており「債務返済者高都監」とあった。時に武州[142]の人呉成可は鄜畤[143]の丞をやめ、この鎮に閑居したが、『牛報文』を作った。

范元質が牛の訴訟をさばくこと

范元質は平輿[144]の知事になった。函頭村の彭家李家では[145]、兄弟はいずれも財に富んでいた。彭家李家の三男[146]の水牯[147]は一匹の犢(こうし)をうんだが、数日でしんだので、水中にすてた。隣の張氏の水牯も一匹の犢(こうし)をうんでいた。李三は牧童にさそわれ、張の犢(こうし)をぬすんでさり、その家の水牯に哺育させた。張家は鞭うったので、張につげた。「李家の犢(こうし)は死に、水中にすてられました。今、哺育しているのは、あなたの家の犢(こうし)です。あなたがお上につげれば、わたしはいって証人になりましょう。」張は官にうったえた。元質はいった。「それはむずかしくない。」新鮮な水二盆をくみ、二頭の牛の耳の先をさすように命じた、血が水中にしたたると、二つの血は別々になり、まじらなかった。さらに犢(こうし)をとらえてやはりさすと、犢(こうし)の血は水上にしたたり、張の牛の血とまじりあい、かたまったので、すぐに犢(こうし)を張家にかえした。県では神と称した。元質は名は天保といい、磁州[148]の人であった。進士趙公祥はみずからそれをみた。

賈叟が木を彫刻すること

平陽[149]の賈叟は、眼はなかったが神像は彫れたので、人々は待詔[150]と目していた。交城[151]県中寺の仏はかれが彫ったもので、容貌は荘厳であった。僧は語った。「賈ははじめに木の骨組みを立て、まず手さぐりし、得心すれば、斧を動かすさまは風のようです。」わたしはそこで趙州の没眼僧が、墨汁を吹いて描くことができ、五彩をも吹いたことを思いだした[152]。毛提挙の家の虎は[153]、大樹の下に蹲り、傍らに一頭の青い彪が臥し、虎の眼は爍爍として金のよう、眺めると毛髪は森立し、趙邈齪[154]にも劣らなかった。仏氏は六根たがいに用いるというが[155]、それによって進境があるのだろうか[156]。

閻大が婦人についてかたること

穰県孫荘の農民閻大は、正大年間、同郷の劉進と商洛[157]にいって牛を買ったが、閻は病死した。劉は手紙でその家にしらせた。閻母と妻が家の前で望祭[158]すると、旋風が紙銭の灰を西南の村に吹いていった。この村には閻の妾[159]がおり、五、六里離れていた。まもなく、人が知らせにきたが、閻大が女に憑いて語っている、母や妻と会おうとしているということであった。母と妻は走ってゆき、抱きあって泣くと、尋ねた。「どうして死んだ。」「わたしが死んだのは天命です。ただ、劉進に欺かれていますので、さきにお告げしておきましょう。○○の牛は値が××で、絹△△を費やし、○○の牛は値が××で、銀△△を費やしました。あのものはわたしが死んで証拠がないのに乗じ、欺こうとしています。」布や銀の価値を、すべて筆で記させた。さらにいった。「あのものは人情道理に照らしてたえられないものです。わたしはすでに死にましたが、あのものは布や絹を持っているのに、行纏[160]でわたしの顔を掩っています。」傍の肉屋が言った。「おまえはわたしに肉代××を借りているが、おまえの家はおまえが死んだので、返さない。今わたしにとりかえらさせてくれ。」閻は俯いてしばらくすると、肉屋を仰ぎ見て言った。「わたしはすでに死んだから、もう構うことはできない。」見ていたものは大声で笑った。後日、劉進が家に着いた。人々は、先だって閻大の霊が、先に値をその家に告げたと言った。進はその母に会うと、一銭も欺こうとしなかった。致遠[161]は閻と同じ村落で、このようにいった。これは正大年間の黥卒[162]石貴のことと同じである[163]。貴は死んだ後、一人の男につき、舞陽県の吏から債務を取り立て、司農卿[164]張公に訴えた。公はそのことに驚き、輔佐官[165]の王仲�ｪに命じて処置させたが、貴にはよりどころとするべき証文があったので、すぐ返すように命じた。

延寿丹

神仙辟穀延寿丹は、一粒あれば、終生飢えない。光明朱砂[166]一両を、不純物を取りさって[167]用い、定粉[168]一両、焼いて黄色にしたもの、白茯苓[169]の雪のようなもの一両あるいは半両を加え、黄丹[170]は、軽紅[171]のものを一両、不純物を取りさり、乳香七銭半、水銀三銭、大金箔三十片、白沙蜜一両、浄蝋二両を量りとる。右はそれぞれ細かなものを選ぶ。まず定粉を乳鉢に入れて研ぎ、次に水銀を下してふたたび研ぎ、水銀の粒がなくなるのを限度とする。次に黄丹、硃砂、金箔を下し、ふたたび研ぎ、次に茯苓、乳香などの細末を下して均等に研ぐ。薬を硬い土の碗に入れ、熱湯に置き、湯を冷まさないようにする。ほかに蜜蝋を溶かし、薬を中に入れ、木の匙でかきまぜ、大勢の手で丸める[172]。一両ごとに十二の丸薬を作り、剤に隙間がないようにする。あるいは硃砂あるいは水銀を衣にするが、衣がなくてもよい。水銀を衣にしたいなら、水銀三、二粒をとり、手のひらで、唾を用いて擦り、青色にし、薬三、五粒を取って捏ねる。捏ねる時は鶏犬、婦人を憚る。薬ができると、硬い土の器の中に入れて貯える。食を絶とうとするなら[173]、まず油三両、蝋一両、白麺一斤を用い、蜜一両と焼餅[174]あるいは煎餅[175]を入れる。なければ、不托麺[176]あるいは糯米粥を食らってもよい。きわめて満腹した後、薬を服さなければならない。乳香湯[177]で一丸を飲み、さらに一時ばかりしたら、ふたたび白麺をじっくり炒り、蜜蝋で丸薬にする、桐の実ほどの大きさにし、温白湯[178]あるいは乳香湯に百丸を飲み、「後薬」という。満腹してから後薬を服するので、二、三日疲れず、疲れても害はない[179]。薬を服した後は、あらゆる縁を絶つべきである[180]。そもそも心が動けば気が散じ、言葉が多ければ気が傷われるので、辟穀するものは心を安らかにし、気を養うことを本務とする。事が来れば応じ、事が去れば心に残さない。しばしば日に向かって気を呑み、補助とする。茶と湯は思いのままに摂り、滓のある物を食らわない。怒りを忌み、疲れを忌む。十日後、飢えて肉は痩せているが、筋骨は軽く健やかで、精神は澄んでいる。食事を始めようとするなら、二七日以後、薬が丹田にある時を待って、食事を始めることができる。二七日に及ばないで食らうと、薬が臓腑とともに下る[181]。食事を始めた後、ふたたび食を絶とうとするなら、薬を服する必要はないが、乳香湯でゆきわたらせる[182]。凶年、父子夫婦が相食むにいたるときには[183]、搗いて泥状にし、丸めて弾丸[184]の大きさにし、黄丹を衣にし、紙の腰帯[185]にこの薬一丸を入れ、縫合して臍のところにつけ、上は裹肚(はらがけ)を用いて縛る[186]。鏃が出ない時は、まず上のようにしっかり縛り、象牙の粉末を用いて瘡口を擦るべきである[187]。矢に中たってしばらくたっているなら、刃物の切先あるいは鍼を用いてすこし破って取り、象牙の粉末を塗れば、鏃が自然に出てくる。魚の骨が喉につかえるようなことから、鍼、銭、麦芒にいたるまで、時を経ていようといまいと、すべて験がある。

燻されて死んだものを救うこと

辛未の冬、徳興の西南に磨石[188]の窯があったが、住民はその中で兵を避けた。兵士が攻めてくると、窯の中の五百人は、すべて煙火に燻されて死んだ。その中で李帥は、ぼんやりしながら手でさぐりし、凍った大根を得、齧ると、汁をわずかに飲んだだけで蘇った。そこでその兄に与えると、兄も生きた。五百人は、そのためにみな助かった。大根はつまらぬ物だが、人を生かす功能はこのようなものである。「流れで船を失えば、一壷も千金」とは[189]、ほんとうに嘘でない。河中[190]の人趙甫卿はさらにいった。「炭煙で人をいぶせば、往々にして死ぬ。寝るに臨んで大根一片を削って火中に入れると、煙気が人を害することはできない。大根がない時は、あらかじめさらして粉末にし、急場の用にそなえることもできる。」

神人方

阿魏散は、骨蒸[191]、伝屍労[192]、寒熱[193]、困羸[194]、咳を治す。その処方は、阿魏[195]三銭、青蒿[196]一握りをこまかく切る。東北の桃[197]の枝一握りをこまかく切る。甘草は病人の中指ほどの大きさにする。男は左、女は右である。童子の小便は二升半である。まず小便を一晩薬に浸し、翌朝煎じて一升あまりを採り、空腹の時に温めて服する、三服に分けて飲む。次に檳榔の粉末三銭を調合して服する。人が十里をゆくなら、さらに一服する。夫が病めば、婦人は薬を煎じ、婦人が病めば、夫が薬を煎じる。調合する時に喪服、人夫、病人および汚物、鶏犬を見ることを忌む。薬を服した後は油っこい物、湿った物[198]、冷たく硬い物を忌む。服して一二剤に到り、虫を吐きだすか下すかすれば、さらに残りの薬を服する必要はない、もし吐いたり下したりしなければ、すぐにすべて服するべきである。病が上にあれば吐き、下にあれば下すが、みな馬の尾、人の髪のような虫を出し、その日のうちにすぐ癒える。世間で病を治すときは、月を重ねるかあるいは歳を経るかしなければならないが、この処方は神から授かったものなので、すぐに効果がある。陵川[199]の進士劉兪は、字は彬叔といい、都運司幕官に任ぜられていた時、閻郎陟からこれを得たが、古崔家の処方だということであった。閻はまずこの病を患い、死にそうになったが、処方を得て癒えた。劉はそれで寧州[200]の官妓を治し、寸白虫[201]三四升を下させたが、形は葱の根のようで、すぐに平復した。薬を服した後は、諸病を去った。五臓は虚弱、魂魄は不安で、すぐ白茯苓湯で補った。白茯苓湯は、白茯苓一銭、茯神[202]一銭、人参三銭、遠志[203]三銭、芯を除く。龍骨[204]二銭、防風[205]二銭、甘草[206]三銭、麦門冬[207]の芯を除いたもの四銭、犀角[208]五銭を、混ぜて粉末にし、生と乾燥させた地黄[209]四銭、肥えた大棗[210]七つ、水二升あまりで、煎じて八分作る。三服に分け、温くして飲む。人が五里ばかりゆくなら、さらに一服を飲むと、風寒を避ける。不安を覚えれば、一日後さらに一剤を作る。以上の二つの薬は、つづけて服するべきである。好問(わたし)が案ずるに、この処方はもともと普済加減方[211]から出たものだが、その言葉は簡略で、さらに由来が明らかでなく、世人はあまり重んじていないので、くわしく論じたのである。

背疽方二つ

発背[212]、脳疽[213]、一切の悪瘡を治すには、気がついたら[214]、独科[215]の蒼耳[216]一本を採り、葉と種をこまかく切り、鉄器に触れないようにする。砂鍋を用いて二つの大きな碗で水を煮、半分にする。瘡が上にある時は、食後徐々に服すると、吐きだすが、吐くのが収まるのを待ち、ふたたび服し、尽きるのを限度とする。瘡が下にある時は、空腹で服すると、瘡がひとりでに破れて膿が出るが、さらに潰爛することはない。瘡には、別に膏薬を塗る。この処方は京兆の張伯玉家が人に告示して伝えたものだが、後に兄弟がすべて合格したので、人々は善報だと言った。一切の悪瘡を治すには、瓜蔞[217]方を服する。懸蔞[218]一つ、皮を去り、茎および種を用いる、生姜四両、甘草二両は、横紋のものがよく、こまかく切って生で用いる、無灰酒[219]一碗を、煎じて半ばに及んだ時に、濃いまま服する、煎じる時は銅鉄に触れないようにする。病が上にあれば、食後、下にあれば、空腹の時に飲む。洪氏方[220]、陳日華方[221]に見える、中州[222]ははじめ張戸部林卿[223]から得た。その処方は、大黄[224]、あるいは木香[225]、あるいは乳香[226]、没薬[227]を加えるものがあるが、おおむね瓜蔞、生姜、甘草を主としている。瘡を病んだときはまず下痢させ、次に瓜蔞の薬を用いる、日々乳香、緑豆粉三、五銭を温かくして飲み、毒気が腹に入るのを防ぐ。外は膏薬を塗れば、病人も心配がない。好問(わたし)は年が二十一のとき、隴城で役人をしていた亡父に侍していた。泰安庚午の春、亡父は疽を鬢に発した。好問(わたし)は愚かで幼く、平素受験勉強をしており、医薬に関しては懵然として知らなかった。藪医者は前に満ち、その処置に任せたところ、亡父はすべて用いて亡くなった。その後、帰郷し、この処方を家塾で知り、他人を治すと、百験[228]の効果があった。昔を思えば、恥ずかしく怨めしく地に入りたくなる。人の子として医術を知らないと、禍を受けることかくのごとくである。ゆえにあわせて記して戒めとする。

内蔵庫[229]の龍

遼祖[230]の神冊五年三月、黒い龍が拽剌山の南の川に現れた[231]。遼祖ははしってゆき、三日でゆくことができたが、龍はまだ去っていなかったので、射てたおした。龍は一角で、尾はながく、足はみじかく、身長は五尺で、舌の長さは二寸半であった。内庫に所蔵するように命じ、貞祐の南渡[232]の時にもあり、人がみたところ、舌は蒲の穂の形であった。

都城の夜怪

従舅[233]の張伯達知徴、飛卿翱は、崇慶二年正月、ともに省試[234]におもむいた。連れてきたしもべには、たわむれて王興[235]と目するものがいた。迎鑾坊[236]に宿っていたが、夜起きて小便しようとし、門を出ると、通りの向かいに幽鬼がおり、青面赤髪で、眼光は松明のよう、腕に剣をかけて坐していた。傍らには一卒が侍立し、獰猛でもっともおそろしかった。興は大声で叫んで倒れ、三、四時ばかりしてよみがえり、たずねると、このようなものをみたといった。

都城の大火

大安末年、都城で頻りに大火があった。焼けた家は、塀に、まず朱の文字が記され、ついで火が起こるのであった。おたがいにたずねると、そうでないものはなかった。およそ三四万の家に延焼した。市中の仏閣は、唐代からあり、遼人も「護国仁王の仏壇、千手眼大悲閣」といっていた、字は虞世南が書いたものであった。閣が焼かれると、衛紹王は命を発して世南の扁額を救わせようとしたが、たちまちまにあわなくなってしまった。識者は護国壇が焼かれたのは、たいへん不吉であるといった。一年たらずで、虎賊の弑逆の変[237]があった。

双子

興定、元光の間、陽翟[238]の小学[239]の王奉先の妻は、まず四つ子をうみ、さらに三つ子をうんだ。辛未十一月、秀容[240]福田寺[241]の農民范班の妻は、三年連続で三男三女をあげ、ことごとくしなれていたが、この歳さらに一男一女をうんだ。その母は傍らでおどろいていった。「おまえたちはきっといきられまいから、はやくさってもよいよ[242]。」すると子は突然はなせるようになり、何度も「さりません。さりません。」といった。母はおどろき、その父にかたったが、はなしている間も、子はあいかわらず「さりません」といっていた。まもなく、子供たちはすべてしんだ。南斉の褚侍中澄の『医説』は受形[243]について論じている。「陰陽がともにいたり、男でも女でもない身は、精血[244]が分散し、双子三つ子の兆しとなる。化生[245]についていえば、もとよりこうした理があるので、おどろくにたりない。」わたしはおもう。褚の論はもとより廃することはできないが、双子、三つ子の二つは[246]、やはり世に多くは見られないものである。

童哥

南渡[247]の後、京師の満師というものは、一人の神童[248]につかえていたが、神童がみずからいうには、貴い家の出で、姓は阿不罕氏、八歳で平章進忠[249]にあって都城をすて、人に背おわれ、門を破って出たが、人馬に踏まれて死んだ、前世では満師に数えきれない借金があったので、今償いにきたということであった。京師の貴顕の家はすべて迎え、宮禁に伝え、尋ねるものは香を焚き、酒を注いだ。満がその傍らで手を拱いていると、童はみずから人と語ったが、はっきり聞きとれた。ついでその声は空中から聞こえたが、地に酒を注ぐと、颼然として下り、近づいて飲んでいるかのようであった。逃亡者や遺失物についてたずねると、争訟、利害にかかわらなければ語った[250]。千里外のことを尋ねると、「尋ねにゆきましょう。」といった。しばらくすると来、かならず窮乏していると言った。尋ねた家は、後日満がいなくても、自分から語りにきたので、満は富を致した。汴京がやぶれた後、きけば、さらに北上し、貴い近臣[251]の家に出入りしたということであった。

両頭の子をうむこと

正大辛卯[252]十二月、陽翟の士人王子思の家の下女は、一身両頭の子をうんだ。乳母は怪物だとおもい、一方をえぐりとったが、息は二またにわかれてでていた。翌年の正月、西行[253]の諸軍で三峰[254]の敗戦があった。

生死の数

王右司仲沢は、帰徳の武弁奥里光禄[255]というものをしっていたが、そのものは清州[256]の人で、その子、孫、曽孫男女がすべて九月にうまれ、およそ十六人であった。李昂霄の同学劉遠之は、燕の人で、兄弟五人がすべて七月に生まれた。高唐の閻内翰子秀の子で、その父および母は、後にともに六月二十九日に物故し、子秀もそうであった。これはどうして偶然であろうか。

党承旨の生死の異変

承旨[257]の党公が、はじめて孕まれたとき、その母は唐の道士呉筠[258]がきてとまるのを夢みた。容貌はととのっており、ながめると神仙のようであった。党公は西掖[259]にいること三十年、承旨で致仕し、泰安三年九月十八、家でなくなった。その晩、大きな星が家におちた。公は篆文と籀文[260]が神品で、李陽氷[261]以後では、第一人者であった。かつていうには、唐人の韓、蔡[262]は文字学に通じていない、八分[263]は篆籀からきているということであった。だから公の書は上は鍾、蔡に比肩しており[264]、それより下は問題ではなかった。小楷は虞、褚[265]のようだが、やはり当朝第一とするべきである。書道は魯公[266]を旨とし、柳誠懸[267]以下は論じなかった。古人は一芸で名をなしたが、公だけは兼ねており、全能であるといわないことができようか。かれが当世におもんじられるありさまはこのようであった。東坡がいうに韓退之は、うまれたときは使命があり、しんだときは業績があったということだが[268]、公の生死の際をみるに、やはりこの言葉にはじない。

天賜夫人

広寧[269]の閭山公廟[270]は、霊験がたいへんあらたかであったが、神像は恐ろしげであった。廟は林木におおわれており、人が白昼その中に入ると、みな恐れて毛がたった。近在のものは、静かな夜に拷問する声がするので、通るものは遠回りして避けることがあるといった。参知政事[271]梁公肅は、この郷の撁馬嶺にすんでいた。挙子であった時、諸生と夏に勉強をし、鬼神のことに言及し、時人の豪胆なものをかぞえあげたが、梁公はすべてみとめなかった。そしてみずからいった。「わたしは夕方あるいは闇夜に、閭山廟に入り、廊廡[272]を一周巡ろう。」諸生は阿諛していった。「ゆけたら、どのようにして証明するのだ。」梁公はいった。「わたしは巡った処に物を描き、それを証しにしよう。」翌日の晩、誘いあわせてともに行き、諸生は廟の外でまち、梁公は袖を揮ってすぐ去った。描いて廟の東隅にゆき、手さぐりすると人が、壁にもたれてたっていたので、梁公は幽鬼であるとおもい、背負ってでた。諸生が迎えて何をみたかとたずねると、梁公は笑っていった。「わたしは幽鬼を背負ってきた。火をとっててらせ。」火がくると、美人であったが、衣装はまったく世間とことなっていた。たずねようとすると、気息奄奄として、状態は酒に酔っているかのようであった。諸生はほんとうに幽鬼だといい、囲んで立ってみまもった。しばらくすると目をあけ、人がとりかこんでいるのをみると、驚きと恐れにたえられず、ここはどこかとたずねた。諸生はその場所、および廟で美人をとらえたことを話してやった、そして、人か、幽鬼か、どこからきたかとただした。女はいった。「わたしは揚州の大族某氏の娘で、吉日に迎えられて婿の家にゆこうとしていました。輿の中にいた時、突然はげしい風にひるがえされ、気をうしないましたので、どうしてここにきたものかわかりません。」諸生はよろこんでいった。「梁生が結婚していないので、神仙が揚州から妻をおくってきたのだ。ほんとうにそこには天の定めがあって、成就したのだ。」梁公はそこで女をつれかえり、ついで合格した。数十年たらずで、身は顕達した。女は数人の子をあげたので、時人は「天賜夫人」と目し、宮禁につたえた。梁公は大定二十年に彰徳の節度使となったので、治下の耆旧にはなおみたものがいた[273]。兵乱の後も、梁氏は多く、その家世を尋ねると、多くは「天賜」の孫の世代だと言った。

北面大王

参政[274]の梁公肅[275]は、挙子の時、神に祈って将来を尋ねた。仙批にはこうあった。「六十で宰相になろう。」後に彰徳節度使となったが、年はちょうど六十で、宰相になっていなかった。たまたま世宗は宋人が駅で国書を奪ったことを怒り[276]、朝廷で、誰が詳問使になれ、君命を辱めないかを選び、宰相は公を選んで詔を受けさせた。使いして帰ると、上意にかない、参政を拝した。宰相になるという験はここに現実となった。閻内翰子秀の『筆録』は、公が臨終の二日前「上帝がわたしを召して北面大王にしようとしている。」といい、死んだことを記している。

劉政純孝

洺州[277]の人劉政は、はじめ、幼くして至性[278]があった。母は老いて失明していたが、政が舌でなめると、十日をへてふたたびみえるようになった。やむと、昼夜医薬をたてまつり、衣帯をとかず、股をきり、肉をくらわせることが、再三にいたった。母がしぬと、土を背負って塚を作り、隣人たちがたすけることをねがっても、うけいれなかった。禽鳥はかなしんでなき、墓の樹にあつまった。墓の側に小屋を建てて喪に服した[279]。守臣[280]がそのことを奏聞すると、世宗は嘉し、太子掌飲丞を授け、その事を史院『本紀』にくわえた[281]。

最終更新日:2010年6月8日

続夷堅志

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